第9話 豈図らんや
《…気絶した?》
「はい…瘴気溜りを確認した後、個別行動中に突然昏倒した様です。その後何やらスキルを使用した模様でして、そこは確認できませんでした」
《………。》
魔導通信機の向こうで、何人かの溜息の様な落胆の様な、声なき声が届く。
「…申し訳ございません。こちらも、彼の者のスキルを警戒しておりました故、あの様なスキルには対応できませんでした」
《それはどういった、スキルなのだ?》
「はい、結界が張られたのは確認できました。その後、竜巻の様な物がそれを取り囲み、周囲に荷重を拡散、誰も近寄れなくなった模様」
《竜巻を伴う結界? という事か?》
「…一概には…どちらかと言えば、竜巻と荷重拡散が攻防一体しているような」
《…そうか、で、災厄達はどの様に?》
「彼女たちは距離を取ってただ見ているだけでした」
《分かった。今後も気取られぬ様、監視を続けてくれ、定期連絡も忘れぬ様》
「はい、仰せのままに」
魔導通信機に嵌め込まれた、魔石の輝きが消え通信の完了を確認する。
「…ふぅ~。お偉方との通信は、肩が凝りますねぇ…あ、すいませぇん、終わりましたぁ」
「…終わったなら、早く出てってくれ」
「はいはい。あ、お代はいつも通りにしておきましたので、ご心配なく。では」
ギルド会館を出ると日は既に落ち、食堂や飲み屋からの喧騒が聞こえて来た。
「さて、戻ってお仕事しましょうね」
──…影はそのまま、通りの闇に紛れて行った。
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「…やはり、未知のスキルを使うか」
「フム…だが聞けば、全ては既存の組み合わせであろう? ならば対処も容易では?」
「…問題は威力だ。災厄の魔女が見守っていたという事は、抑えられなかったとも言える」
「……。」
「とにかく、監視は続行させる。努々短慮は起こさぬ様に。」
「「「御意…」」」
切れた通信機の魔石を外しながら、ルクス・ハイデマンは釘を刺し、部屋を後にする。
部屋に残ったのは、三名の男達。
「…迷い人と勇者は違うのか」
「おい、その事はどちらも口にするな。他言無用を忘れたのか」
「しかし、何故皆東端の辺境なんだ…しかも、変事の際に必ずとは」
「…卿もそう思うか、私もそこは思う所だ。まるで悪はこちらと言わんばかりに」
「然り。この世界の神は、何を基準にその様な者を遣わせるのだ? この世界はこの世界の者で、取りしきれば良いのに。まるで我らが、なにも出来ぬ赤子のような扱い…度し難い」
「マキャベルリ公には悪いが、あれもアレだ。結局かき回して逃げ戻っただけ。シンデリスで、獣でも集めておけばよい物を。余計な物を見つけよって」
「まぁまぁ。身内で揉める必要はあるまい。宰相殿はお考えがあるのでしょう。故に、間諜をわざわざ動かしてまで、ヒストレスの【石】まで、使わせたのです。…時間は稼げたでしょう。次の事も動いています。そちらに期待しましょう」
そう言って三人の男達も部屋を出て行く。扉が閉まる瞬間、影が揺らいだが、気付く者は居なかった。
「…好き勝手、言ってくれる。所詮は烏合、囀るだけの能無しが」
影は、小馬鹿にしたように言い、闇に飲まれていった。
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《………!》
「…どうしたのですぅ? ハカセちゃん」
「ん? なんだ、何かあったのか?」
エクスの冒険者ギルドのマスターの部屋で、サラはセーリスと精霊術の修業中だった。
《あ、いや。何でもない》
ハカセはノートに頼まれ、サラの傍に付くことになった。セレスとは、距離に関係なく話せるし、ノートとも通じている。何か起こった際には、すぐ連絡が付くのだ。それは契約によって出来た絆のおかげ。魂で二人は繋がっている。
──…ハカセは違和感を感じていた。
契約者であるノートの魂。それに何か揺らぎ? の様なモノが起きている。微弱では有るが、定期的にそれが起きる。昨日まではそんな事なかったのに。気にはなる、だが向こうにはセレス様が居る。何かあれば、連絡があると思い、気にしない様に意識を切り替える。
《大丈夫だ。ほら、制御に集中しないと》
「ふぇ?」
”ポン!!”
「わきゃぁぁあ!」
制御が不安定になった術が暴発し、サラはその場にコロンと転がる。
「痛いですぅ」
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「おや、こんばんわ。どうされました?」
教会の入り口で、エリーと出会う。
時間はもう食事時、街灯の無いこの村で、周りは店の灯り以外は真っ暗だ。当然、教会に灯りはない。そんな闇の中、俺達四人は教会の入り口に来た。
「夜分にすみません。どうしても今お祈りをしたくて。入っても構わないでしょうか?」
一瞬きょとんとした表情を見せたが、エリーは快く中へ入れてくれる。
「…光を」
魔術を行使し、部屋を照らして歩を進める。
「有難うございます。ろうそくを持ち合わせていませんでしたから、助かります」
「…いえ、こちらが押しかけていますから、気にしないで下さい」
そんな話をしながら、礼拝堂へ到着する。
「…では、私は部屋へ戻ります。出る際はまたお声がけください」
そう言って会釈を一つしてから、慣れた足取りで廊下を戻っていった。
「…灯りが急に無くなっても問題ないんですね」
キャロルが、ポツリと呟いた。
『ノートよ、我等はどうして居ればよいのだ?』
「…その椅子にでも座ってて。すぐ済むから」
俺は一人、祭壇に近づき、跪いて手を合わせる。そうして、目を瞑った瞬間だった。
「あ!」
「え?!」
「なんだ」
──…後ろで三人の驚く声が聞こえた…。
◇ ◇ ◇
「…困りました」
ふと気づき、目を開けると眼前には六柱の神が整列してこちらを見ている。だが視線は何故か俺の後方…さっきの声といい、まさかと思って振り返ると。
──…四人がそこに立っていた──。
「あ、あ、あぁ、あの、こ、こ、ここははは…」
「ま、まさか、わたしたちまで」
「ふぉぉぉぉおお! 全ての神がおられるじゃないか!」
「…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ! マリネラ姉様ぁぁぁああああ!!」
キャロとシェリーは慄いて、セリスはすっげぇ喜んでいる。
……が、あのちびっ子エルフはなんだ? マリネラに突撃してしがみ付いてるが。
「あ、あぁ済まない。慌てて呼んでしまった。いまもど──」
「いいえ、構いません。彼女達にはこの際きちんと話しておきましょう」
エギルが召喚失敗を謝り、戻そうとしたのをイリス様が制した。
「姉様姉様! セレスは頑張ってますよ! 一杯一杯頑張ってます!」
「はいはい。分かっていますよ。いい子いい子です」なでなで…
「「「セレス様!!!?」」」
──三人同時に声が出た。
「…ぶぅ、なによ。私のホントの姿はこれよ。精霊に年齢なんかある訳ないじゃない」
言われて納得するが、いつもの言動と余りに離れたその行為。
「…い、いや姿ではなく、なに甘えん坊さんになってんだ?」
「ムカ! 誰のせいでこうなったと思ってんのよ! このエロバカ!エロガキ! エロ魔王!」
”プチン!”
「何だと、このちびっ子精霊!! エロエロ言いやがって! 俺はエロだが、ノーマルだ! 悪いが、つるペタ幼女にゃ、興味がない! だから、そこは安心しろ!精神だけだと、お前は頭も幼女みたいだな! あははははははは!」
「な! な! ヌグググギギ…ムキャァァアア────!」
切れたセレスがこちらに向かって飛びかかってくるが、途中でエリオスが立ちはだかる。
「ぬははは! 元気な事は良い事だ! だが今は暫し待て。管理者の話を聴け」
そこで、ここが何処だか思い出す。
「あ、そうだった。ここには、話を聞きに来たんだ…キャロ、シェリー大丈夫?」
気付くと二人はずっと伏せたまま。震えて固まり動かない。
「「お、お、恐れおおおおおくくてててて、見れままましぇん!」」
おうふ…そりゃそうか。って、セリスは?
「なぁなぁ、いいじゃろ? チョットだけ。チョットだけじゃから。大丈夫だって、な、な。すぐじゃ。すぐ終わるから」
「お前は何を言ってるんだぁぁぁぁああ!? 相手はグスノフ爺さんだろうがぁぁああ!」
「わ、儂、そんなの初めてじゃから…ポッ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああ! そこで赤くなんじゃねぇぇええ!」
「…困りました…ふぅ~」
イリス様ぁぁぁあああ?!
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