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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
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第8話 目覚めと当惑



「ぐわぁぁぁあああ!!」


 頭の激痛と、何かに腕が引っ張られている感覚で、目が覚める。


 何だ? 何だったんだ? 夢? いいや違う。そうじゃない。…声、そう! 声が聞こえたんだ! システムメッセージの様な何かが。…何が、許容量を超えたんだ? シナプスって確か…脳の…伝達なんちゃらだったような…。


 …あぁ! もう! シャットダウンって──。


「…さん!………トさん! ノートさん!!」

 腕に有った力が強く引かれて、ハッとする。


「え?! あ! あれ? ここは…」

「ノートさん! 大丈夫ですか? ノートさん! ノートさん!」


 キャロルが、涙を流しながら、ずっと腕を揺すっていた。


 そうして初めて自分の居る場所に気付いた。宿のベッド…そうか、俺は現場で気を失って…そのままここに…運ばれてきたのか。


「…あぁ、キャロ…ゴメンね、まだ少し混乱しているけど、身体は大丈夫だから。皆も心配かけて…シェリー?」


 周りにはセリスとシェリーも居たんだが、シェリーが何故か、俺を訝しそうに見詰めていた。


「…ノート君…貴方…」


『待てシェリー。キャロル…そろそろ、離してやれ。少し落ち着こう』


 セレス様の言葉に、皆は俺の傍からいったん離れ、個別に座る。


 ──まだセレス様のままだったんだ。そう思って彼女を見る。


『ん? 入れ替わってないのが気になるか?』

「いえ、まぁ…はい」

『…ところで、聞きたいのだが。…お前はノート…でいいのか?』

「…は?! 何を言ってるんですか? どうゆう事なんです?」

 

 俺の反応を見て、分かっていないと気づいたセレスは、起きた事を説明しだした。


 瘴気溜りから皆それぞれに調査を始めて少し経った時、俺の喚き声が聞こえた。その声に、皆でその場に駆け付けた。すると、俺はただその場に、佇んでいたらしい。


◇  ◇  ◇


『どうした!? 何かあったのかノート?!』

「ノートさん! どうしたんです?」

「ノート君!何かあった──」


 ”バチンっ!!” 

「きゃあ!」


 駆け寄り、肩に手を置こうとしたシェリーが、何かに弾き飛ばされる。次いで、ノートの身の回りに、結界と地面がひび割れるほどの荷重がかかる。


 ”ビシッ!” ”キィィィィィイイイン!” ”ズズゥゥン!!”


『な! 何だあれは?!』

「…ノート君…どうして…」

「いや! どうしたんですか! ノートさん! ノートさん!」


 俺は皆の声に全くの無反応で、虚ろな目をしたまま微動だにせず、結界がどんどん濃くなっていく。それはやがて圧力にかわり、外側へ向かって風が舞いはじめる。


『い、いかん! 皆、ここを離れるぞ!』


 気付いたセレスが、自身に結界を張りながら、二人を引き摺って行く。


「嫌です! ノートさん! ノートさん! どうしたんですかぁぁぁあ!?」


 シェリーはその光景に茫然としたまま、キャロルは泣き喚いたが、構わずにセレスはその場を離れる。


 ”ブゥゥゥゥゥウウウンン!” ”キィィィィィイイイン!” ”ピピピ!ピ!ピピ!”


 風が渦となって結界を取り巻き、様子が窺えない中妙な声が聞こえて来た。


《ナンバーツーナイン、コード確認。マスターの身体保護を優先…セーフモードへ移行…成功》


『…何が…喋っている? マスター? 誰の事だ?』


 セレスは何とか声を聞き取るが、意味は分からない。


《ピピ。マスターの身体情報更新を確認…生体情報を更新…成功…魂魄との接触開始…ビビ!接触失敗…リロードします…ビビ!失敗…魂魄情報開示失敗…リブートします…ピ!成功》


 ──風が収まり結界が解けると、その中心部に倒れた俺が居た。意識は無く呼吸は正常だったので、宿に連れて来たらしい。



◇  ◇  ◇



『だから、今お前自身はノートかと聞いているんだ、それにあの妙な声やマスターとは?』


「妙な声…って? マスター?…いや、俺自身にそんな覚えは…いや、夢で聞いた?」

『ム?! 夢で何を聞いたんだ?』


 そこまで話して、逡巡する。さっきの光景が何なのか? 自身でも説明できないから。


 ──…勇者の記憶を何故見た? 記憶? 何故分かるんだそんな事…全てが全く意味不明。


「…ごめん、ちょっと待って。俺は森で気を失ったんだよね?」


 皆が頷く。そして次を話せと目で訴えて来る。


「順に話す…でもその前にちょっと待ってね」


 そう言って俺はすぐさま、メニューのチャット機能を呼び出す


 エギル! ヘルプ! 誰か!


                        どうした?

 誰?

                        エギルだ。

 さっきまでの状況、わかる?


                      どういう事だ?


 森で気を失った。

 勇者の記憶を見た。

 その時変な声が聞こえた。

 マスターってなに?

                        暫し待て。



 待つことしばし、突然メールが届いた。すぐに開封する。



 エギルだ。教会に移動し、祈りを捧げに来られよ。召喚し、詳しい話がしたい。


 簡潔にそれだけが書かれていた。


「…教会に行きたいんだけど、いいかな」

『お前、まさか…神と交信しているのか?』

「「え?!」」


 セレスの言葉にキャロとシェリーは絶句し、セレスはじっとこちらを見る。


「…うん、俺も聞きたい事が有って…相談したら、教会に来いって」


 そして、皆で連れ立って教会へと向かう事になった。





*******************************





「管理者イリスよ、火急の用件が発生した。ノートからのチャットだ。

内容を確認してほしい」


 エギルに言われ、イリスがチャット画面を眺めると、弾かれたように顔を上げ叫ぶ。


履歴(ログ)を!」


 イリスは慌てて、エギルに彼の記憶装置を持ってこさせる。


 確かに、先程の異常事態はこちらでも観測していた、だが彼の記憶までは見られない。


 彼が、森で瘴気にあてられたのは知っている。が、その後普通に皆と行動していた。


 おかしくなったのは、単独行動してから。何かを考えているようだった。そして突如大声を出し昏倒した。そこから立ち上がった彼に意識はなかった。にもかかわらず、結界を張り恣意的(しいてき)な行動まで行った。再び昏倒して、宿に戻った彼がチャットをしたのは知っていたが、一体何が起きたのか、調べようと思った処にこの内容か。


「…これは!?」

 思考を中断させられたのは、エギルが急に声を張ったからだった。


「どうしたのです…か…」


 それは、彼の記憶装置。装置と言っても見た目は、手鏡の様な物だが。しかしそこに映った物を見て、イリスも言葉を失った。そこには断片的では有るが、勇者時代のノートの記憶が綴られていたのだ。



 ──…全ての神が、装置を見て各々表情が変わって行く。



「…ノート君、記憶が…戻って──」

「いや、違うようじゃ、全てではないが()()()()()()()おるんじゃろう」


 マリネラの呟きに、苦い表情のグスノフが即座に否定する。


「…なぜ? ()()見せられているんです?」

 マリネラが驚き、問いかけると。


「…おそらく…【彼女】でしょうね」

 イリスが引き取って、ため息交じりに正当を告げる。


「…並列思考システム…【シス】か」


 装置を流し見ていたエリオスが吐き捨てる。


「エリオス…その、シスとはなんだ?」


「ノード…彼の来歴は理解していますよね。彼は元々私が呼んだ【相馬健二】その人だと」


「は、ハイ。ですが時空の只中(ただなか)に飛ばされ、無理やり送還されたため、全ての記憶と能力を失ったのではなかったのですか?」


「…そうです。()()()は失ってしまいました。ですが彼は、我らが召喚した勇者。能力の補正は()()()()()を授けました。それを彼は十二年かけて成長させ、邪神そのものを滅ぼせる力を有したのです。当然、彼自身で()()もかけていました」


「…保険とは?」


「並列思考と()()()()()…それらを彼の言う所の()()()()()()()()()に保存したのです」


「アカシックレコード?」


「はい。我等には理解できませんが、万物の補完書籍とも、データバンク、とも言うべき()()だそうです」


「…か、神すら()()()()()()モノとは…」

「解りません。元の彼はそこまで()()、もしくは()()したのでしょう。とにかくそうしてそのデータを整理、総括するための思考を分離、別人格化の為に性別付与まで行ったのが彼の並列思考システム。()()()()()()()()()()()です。シスは分離後、成長を続け、()()()したのです。彼が全てを失った時、()()()()()()()()()し、()()()()()()()()のです」


「…そんな事が、あり得る…のか」


「…実際、彼はそうして、自身の元居た地球へ帰還を果たしました。……歯痒い思いでした。私が無理やり喚び、嫌な仕事を押し付けたのに、礼の一つも言えず、記憶まで無くさせてしまって。…戻った所で、彼はもう三十歳。かなり苦労した様でした。申し訳ない気持ちと裏腹に、安堵もしました。こちらの世界では復興と言う巨大プロジェクトを、発動しなければいけませんでしたから。もう彼に、そんな負担まで負わせたくは無かった。せめて、戻った地球で健やかに過ごして欲しかった…ですが、そうはならなかった。彼自身が蓄積した力、能力は失われてなどなかった。それは彼自身の中でずっと巡り続けた結果、特異点と言う力の塊を産んでしまった」


「…しかし、管理者イリスよ、なぜ今なのだ? 先程までの行動や言動から、シスが発現するに足るモノが、有ったようには思えないんだが」


「…なにやら、そこに彼の記憶の封印に関わるモノがあったのか、それともシス自身が、行動を起こしたのか。今はまだ分かりません。とにかく彼の精神を今一度ここへ」



「了解した。教会へ向かうようメールで指示する」









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