第7話 情報開示
「大丈夫ですか! 勇者様!」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと掠っただけだから、ヒール」
──街道の移動中に突然、野盗の集団に襲われた。
商隊の護衛の代わりに、馬車に乗せて貰ってすぐだった。
流石に、連戦続きで集中が欠けていたのも有ったのだろう。前方の集団に気をとられて、後方の木立に紛れた弓兵を見逃してしまっていた。
「オフィリア! 後ろの弓を頼む!」
「はぁい! ロックショット!」
後方は、メンバーに任せておけば大丈夫だろう。俺はすぐさま馬車から飛び降りて、前方に居る野盗を鑑定する。
「えぇと…ありゃ、こいつ等帝国の仕込みじゃんか、教皇国が作らせたのか」
鑑定結果は、全て帝国軍の兵士だった。敗残兵にしては身綺麗すぎる。
「アンタらその恰好じゃ野盗には見えないぞ。狙いは俺達か? 帝国の軍人さん」
「…な!? 何を言うか! 我等は物取り! 荷物を置いて、其処に跪け!」
「…はぁ~。物取りなら、人は見逃すのが普通でしょ? 何で殺すの?」
「ウッ…ヌググ、ぅ、うるさい! 顔を見られているんだ! だからひゃ──」
”ザスッ!!”
そう言いかけて、頭目らしき男の首が飛ぶ。
「あ、セスタぁ…口上まだ終わってないぞ、って生き残りは?」
「む…そこに一人いるぞ」
言われて彼が示した方を見る。
「…は~、ヒール。ダイジョブか? まだ死なないでくれよ」
唯一生き残った男は四肢を切り落とされ、目は既にうつろだった。
◇ ◇ ◇
──…勇者としてこの世界、イリステリアに降りて既に5年が経っていた。
──異世界転移。
物語で聞いていたライトノベルの定番世界。なろうで散々読んでいた。まさか、実際起こるなんてこれっぽっちも考えなかった。別に社会が嫌いだった訳じゃない、彼女だってちゃんと居た。
全てが順風満帆とは言わないが、青春と呼べるくらいはエンジョイしてたのに…。
ある時、彼女が言ったんだ。今度、山に花を見に行こうって。
その為の唯の下調べだった。わざわざ電車で二時間かけて、慣れない山を登ったのに、其処にあった穴を覗いただけだった。そうしたら穴の中が光った。ビックリして滑り落ちた。気づくと目の前に恐ろしい程の美人が居て、俺に言って来た。
「どうか、この世界を救ってください!」
「いや、意味わからんし!」
彼女の話は、結構長かったので要約するとこうだった。
この世界、イリステリアは大神が創った。彼女は只の管理神だと言う。
そして、『世界の素は創ったので、この本参考にしてなんかいい感じにしてね』と言われたらしい。大神、超胡散臭い。因みにその本、思いっきりラノベだったし。
それでも彼女は頑張った。超頑張った。マジ偉い! 足りない部分を補うために他の神やら、精霊なんかも創造して。何とか形になった頃、大神がまたやって来た。
『ごめんだけどさ、チョッとこの神此処に居させてあげて』
そう言われて、受け入れるしかなかった。
そうしたらその神が、勝手に地上に降臨しちゃった。もう訳分らん。
ソイツは地上でヒューム至上主義をほざき出し、ヒューム以外を迫害しだした。どうやら人間種はヒューム以外もいるらしい。獣人とかエルフとか…マジか!
そのせいで色んな迫害や、差別、非道が行われて瘴気? がわんさか溜まり出したらしい。それに侵されると、獣は魔獣化して凶暴になり、果てはモンスターなんかも生まれてしまった。そのせいで、世界が混沌化していった。
しかし、管理神である彼女たちはその地上には降りられない。ただ独りの管理者、生命を司るグスノフが頑張っていたが、彼も地上には直接降りられないので疲弊していった。
そうしてとうとう心が折れた。現在彼は引き篭もって居るらしい。
これでは、世界が崩壊する。考えた末に出した答えがラノベにあった勇者の召喚。地球と言う世界の健全な高校生を呼ぶことだった。
「…大神の与え給うたこの書物。これに縋るしかもう私にはなかったのです。…どうかお願いです! ちーとも勿論お渡しします。この世界、イリステリアをお救い下さい。【ソウマ・ケンジ】さん!」
そうして俺は彼女イリスに絆され、当時考え得るチートを貰ってこの世界に顕現した。降りた世界は、エルス・テルアと言う小国。この国は種族差別もなく、辺境に有った為に被害自体が少なかった。だが、おかげでかなり苦労した。知らなかったよ、この世界の大きさが地球の十倍以上のデカさだなんて!
おかげで魔術の修業に、二年もかかった。
そうして、苦労に苦労を重ねて仲間を集める旅の途中で、今に至る。
「…おい、まだ生きてるか? 話せばもっと治療してやるぞ。だから話せ」
「………」
「…死んでるな」
「じゃねぇよ! セスタ! 何時も言ってるだろ! 全部はダメだって!」
「…悪、即ざ──」
「言わせないから! ぜってぇ言わせねぇよそれ!…もう、ヤダなにこの殺人狂」
「ふん、…またつまらぬものを──」
「あーあーあーあー!! もう聞こえなーい! なーんにも聞こえなーい! ぁぁぁぁわあああ!」
「どうしたんですぅ? 兄さまぁ、お耳聞こえないですかぁ?」
「オフィリア! 聞いてくれよ~セスタのバカがさぁ──」
「む! 我は、バカではないぞ!」
「何がどうしてこうなったぁぁぁぁぁああああ!? 勇者の仲間はバカだった!」
「ゆ、勇者様…だ、大丈夫でしょうか…」
商人たちは、遠巻きに俺の醜態を眺めるだけだった。
「…おいノートよ、異世界の話しまた教えて欲しいのだが」
「…ヤダよ、大体お前の聞きたいことは【刀】の事か、【忍者】の話しばっかじゃないか、……お前、ビーシアンの剣闘士だったよね? なんで、忍者マスターになってんだよ。おかげで、前衛また探してんだぞ。くそぅ、猫はやっぱり気まぐれすぎる!!」
「ノート兄さまぁ、オフィリアはからあげが、食べたいですぅ」
「…いや、今夜は無理だよ。俺達だけじゃないんだから」
「…むぅ、あ、姉様…」
「は?!」
《ノート君、おひさ~》
「何いきなり来てんの、マリネラ!?」
《えへへ。ちょおっと、お願いがあってぇ、来ちゃった》
「…は~。いつになったら、中央に行けるんだよ」
《大丈夫だよ、簡単なお願いだから──》
そんな感じで、仲間探しと神のお使いクエストは続く…。
こちらの世界で、俺の名は『ノート』だ。
…染まるつもりは無かったから。…帰れることだけ考えて。
──この世界では何もない、何も要らない、何者にもならない。
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「勇者様…我が国をお救い頂き、誠に感謝致しております。つきましては、ぜひともこの地に留まり英気を養って頂きます様──」
「誠に有りがたきお言葉、感謝します。ですが私どもはまだ、道半ば。
先ずは神の使命を果たしたいのです。全ては邪神を討って後。全ての人を救ってからと思います」
「ぉぉぉぉぉぉぉおおお!」
「流石は異界の勇者様!」
「世界の救世主!」
城内をどよめきと、称賛の声が響き渡る…とんだ茶番だ。
わざわざ、国王の言葉を遮ってまで…救世の旅なんて、本気でそんなの思ってる訳ないじゃんか。
世界を旅してもう8年目…気づけば、26歳になっていた。
何とか、半分以上は取り戻せた。チートも鬼の様に成長した。
仲間も、大方揃ったはずだ。
後は国家は国家で。俺達は中央へ。邪神と教祖をぶっ倒すだけなのに。
──足枷になるのは、結局人の欲なのか……クソったれ…。
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「勇者様って【ソウマ・ケンジ】って言うんだ。ってか救世の旅って、そんなに時間掛かってたのか…スゲェな、尊敬するよ」
──…何故だかこれが正史と認識して観ていた。
──そう、観ていた。
明晰夢…とは少し違う。気づくとソファとスクリーンが用意されていた。座って手元のタブレットを操作する、アカシックレコードによる情報開示。
何が起きたか理解できない。ただ、これを見ないといけないと思った。
異界の勇者は、地球人。呼ばれた当時は高校生のリア充君。嫌々ながらも、救世主になったんだ。まぁ、当然っちゃ当然だよな。俺みたいに死んだわけでも、人生詰まんなかった訳でもないんだから。
ふと思う。始まりは分かったけど、何故今ここまでなんだ? アカシックレコードは、何を見せたいんだ? 俺はさっきまで何をしていた? 考えていた? 欲? 業? いや…イリス…様達…
”ズキンッ!!”
ぬがっ! 頭が!
《ザザ!…異常検知! シナプス許容量が、限界値を超えています!…マス──》
なんだ?! 今の声?!
”ズキン!”
──…ザ…ザザッ…危険領域のレベルピークです、これいじょ──ザザザ! シャットダ…リブート…ザザザザ!ピ──!
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