第5話 オーク狩り
キャロルと別れたシェリーは、木々を足場に立体的に俯瞰する。この先に、隠れているのは…居た。地形操作…針山隆起!
シェリーの得意な分野は魔術。身体能力に魔力が寄るビーシアンにあって、彼女は戦闘魔術に長けていた。扱える属性は無を除いて二つ。土を扱い足止めや防御、様々にそして繊細に。相手を追い込んでいく。
”フガ?!”
針山の様に隆起した土によって、動きが止められたオーク。地味に、その分厚い皮膚の足にも刺さり困惑する。そして彼女はオークに近づく。次いで繰り出したそれは氷礫ただの礫ではない。細く堅く、質量を持って、オークの耳を右から左へ貫通する。一本、二本、三本と。そこでオークは事切れる。
事切れた巨体が倒れようとする時にはもう彼女は既に居ない。キャロルが丁度跳んだ時、シェリーは二体目のオークの両目に氷礫を都合四本貫通させていた。
「後は、奥のハイオークね」
木々の間から様子を窺っていたハイオークは、困惑していた。
さっきまでは数でこちらが圧倒的に有利だった。しかもキングが指示してくれる。ただ蹂躙するだけの存在だった。…はずだった。
なのに気付けば仲間は既に躯に。有ろう事か同士討ちにまでなって居る。
なぜキングは何も言ってこない? はたと横を見る。相棒が居なくなっていた。今まで隣に居たのに。……ふと自身の胸元を見やる。なんだ? 胸から氷が生えて…。口腔内から、極冷のつららが飛び出す。
その場で、ハイオークは絶命した。
「…やっぱり、普通より少し弱いわね」
座り込むように、倒れて行くハイオークを、枝から見下ろすシェリーが呟いた。
◇ ◇ ◇
何故だ?! アレは糧になるモノだったはずだ。
その為の準備までした。力の劣るモノを囮にし、おびき寄せてから嬲る算段だった。それが囮は有ろう事か瞬く間に縊り殺され、同士討ちまでした。囮を囲んでいた者達は、その力を披露する間さえ貰えずに、針の様な物に刺し貫かれて絶命した。
我自身にしてもそうだ。餌の一人がこちらへ向かって来た。自ら、その身を差し出すとは殊勝だと思った。
──だが違った。
ソイツは身の回りに、何やら動く鉄塊を出したと思ったら、それが光ると同時に自身の足に強烈な熱が掠った。見ると脛を抉られ、血飛沫を飛ばしていた。
痛みが来たが、我はキング。その程度の傷は、時間が掛かるが治る。故に痛みを無視して、捻り潰してやると考えた。
接敵した瞬間にソイツは嗤った。
「***、******」
何かを話していたのだろう。我に判る訳はないが。しかしその瞬間なぜかは分からんが、侮辱された気がした。怒髪天に昇る。
餌が! 何を囀るか! 頭には怒りと憎悪しかなかった。怒りで震え、声の限りで叫んだ。
”ブゥゥゥゥゴォォォォォオオガギャァァァァァアアアアアア!!!”
キングオークはあらん限りの絶叫で、咆哮をセレスに向かって撃った。
『おほぉ! なんだ、意味が通じたのか? いい声で喚くなぁ。さて久方ぶりの戦闘だ。セリスよ、お前の身体怠けてはいないよな』
(ムキャ───! 返せぇ! 儂にやらせろ──!)
『うはははは! いつも見ているだけで詰まらんかっ──!』
”ドォォォォオオン!”
なぎ倒された木が、セレスの居た場所に突き立てられる。
『ほほっ! 元気な奴だ…ゴーレム、種別を火炎に変更。背を焼け』
”キュイン…ピピ…コォォォォオオ…ゴオオ!”
”ブギャァァァア?!”
キングオークは絶叫と共に背後に回ったゴーレムに、剛腕を振るうがそこにもうゴーレムは居ない。
『フム…こ奴は、耐久力はいい感じだな…次、岩塊投射』
”キュイ…ピ…ゴッ!!”
”ドガァアン!” ”グギャバハァア!?”
オークの頭上に待機していたゴーレムより、岩塊がその重量と慣性に乗って質量を乗算しながら、彼の頭部を粉砕せんと叩きつけられる。堪らず膝を折るキングオーク。
何だ? 何なんだ、コイツ以外の場所から次々と。あの鉄塊はなんだ?! 何故我が。
全く予測が出来ない攻撃が続く。これでは治癒が全く追いつかない。
我は、キングを冠するオーク。種の頂点。それが今ただの餌と思しきものに成す術なく、嬲られている。頭蓋に傷がついた、思考が薄れる。怒りは増すが膝をついてしまった。
そこで初めて気づく。脛が治っていない。おかしい、治癒が追い付かないんじゃないのか? この目の前に居るものは一体なんだ? 餌じゃなかったのか?
『ふぅ、折れてしまったようだな。嬲るつもりは無かったのだ、許せよ』
あぁ、そうか。…我は、狩られる側だったのか。
キングオークの頭がビームによって、消し飛んだのは、彼が悟った瞬間だった。
◇ ◇ ◇
変異種はキングオークを見ていた。俺の事も気にはしていたが。
「何だ、向こうが気になるのか?」
突然自分の真横から声が聞こえたので、驚いた変異種はそれでも反応して、手に持った戦斧を横なぎに振るう。それを屈んで躱して拳を脇腹へ叩き込む。
”ドズムッ!” ”グゴォォォ!?”
喰らった変異種は、横に吹き飛ぶ。
”ドズザザザッ!!”
飛んだ先にあった木をなぎ倒して倒れるが、辛うじて戦斧で持ち堪える。
「おお! 堅いわ、強ぇえな」
俺は、ガントレットを見ながら言う。
変異種はそこで初めて俺を敵認定した様に、戦斧を構えなおして相対する。
「…その戦斧、ドントの奴だろ。返して貰うぞ」
”破砕の戦斧”リーダーのドントが持っていた戦斧。
変異種との遭遇戦で、ドントはパーティを守って、負傷した。何とか逃走出来たのは、変異種に投げた戦斧のお蔭だった。
魔導戦斧と呼ばれるそれは、魔力を掛けた分だけ、重量を増すと言う物。振り下ろしに使うと、効果が出る。使いどころを間違えなければいい武器だ。変異種の足止めにもなった。
──その斧を、変異種はまるで自分の獲物の様に使っていた。
”グガァァアア!”
咆哮と共に、一足飛びに戦斧を振りかぶって向かってくる。寸前まで溜め、落ちて来る戦斧の切っ先を見切る。身を捩って躱し、カウンターでガントレットに魔力を載せて肘を打つ。
”ベキャァア!” ”ギュギャァァァアアア!!?”
右の肘が潰れ千切れかける。喚き散らす変異種は、それでも身を引き、こちらを睨む。
”グゴォォォォオオ!”
苛つく様に吠えると、残った左腕で戦斧を自身の右腕に下ろす。
”ギャガァァァァァアアア!!” ”ボドッ”
落とした右腕を見つめてから、こちらを睥睨し牙を剥きだし涎を流す。瞬間、奴の姿がぶれる。
”ドコンッ!”
右の肩への強烈な衝撃で、俺は受け身もなく吹き飛ばされる。
「ぐあっ!!」
”ベキベキィッ!”
立ち木に叩き付けられて、脳が振れる。意識が一瞬フワリとする。そして気付くと眼前に影が落ちる。咄嗟に腕をクロスする。
”ベキィ!!”
後ろの木ごとなぎ倒される。
”ガァア?!”
奴にとっては想定外だろう。戦斧で薙いだのだ。上半身など千切れ飛んだはずだ。
「…ったぁ、一瞬意識飛んだじゃん。ってか、動きも早いってどんなチートだ」
そこには、木くずと埃で汚れた、傷の無い俺が立っていた。
”ガァァァアギャァァアアアアアアア!!!”
猛り狂ったように叫ぶ、変異種。
当然だ。有らん限りの渾身の横薙ぎだったのだ。自身の腕を失う羽目になった憎し敵。故に、渾身の力で振り切った。現に奴の後ろの木は無残な姿を晒している。
なのに、奴は傷一つ負わずに何やらぶつぶつ言っている。理解が追い付かないが、本能に刺激された。怒り心頭に発した。目の前が真っ赤になる。戦斧を掲げ己が槍となって、一突きに串刺す!!
「…すまんな。俺の身体に傷は付かないんだよ」
変異種の耳には、そんな言葉が聞こえた。
すれ違いざま、ガントレットの仕込みナイフで断ち切られた首が宙を舞う。身体はそのまま木々に突っ込み事切れる。光を失った変異種の瞳は、
その光景をただ映していた。
戦斧を拾い上げ、異界庫に仕舞う。変異種の胸を開き、魔石を引っ張り出してから、討伐証明の鼻を切り取って亡骸を焼く。
──…この世界のモンスターは食えない。
瘴気があるためと言うが、実際人型を食いたいとは、これっぽっちも思わない。粗方処理が終わった所で、サーチを掛ける。種別はモンスター、半径は五百。
「…あれ? オーク、これだけだったの?」
サーチにモンスターの影はなく、魔獣がちらほら掛かるだけだった。
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