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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
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第5話 オーク狩り

 


 キャロルと別れたシェリーは、木々を足場に立体的に俯瞰する。この先に、隠れているのは…居た。地形操作…針山隆起!


 シェリーの得意な分野は魔術。身体能力に魔力が寄るビーシアンにあって、彼女は戦闘魔術に長けていた。扱える属性は無を除いて二つ。土を扱い足止めや防御、様々にそして繊細に。相手を追い込んでいく。


 ”フガ?!”

 針山の様に隆起した土によって、動きが止められたオーク。地味に、その分厚い皮膚の足にも刺さり困惑する。そして彼女はオークに近づく。次いで繰り出したそれは()()ただの礫ではない。細く堅く、質量を持って、オークの耳を右から左へ貫通する。一本、二本、三本と。そこでオークは事切れる。


 事切れた巨体が倒れようとする時にはもう彼女は既に居ない。キャロルが丁度跳んだ時、シェリーは二体目のオークの両目に氷礫を都合四本貫通させていた。


「後は、奥のハイオークね」


 木々の間から様子を窺っていたハイオークは、困惑していた。


 さっきまでは数でこちらが圧倒的に有利だった。しかもキングが指示してくれる。ただ蹂躙するだけの存在だった。…はずだった。

なのに気付けば仲間は既に躯に。有ろう事か同士討ちにまでなって居る。


 なぜキングは何も言ってこない? はたと横を見る。相棒が居なくなっていた。今まで隣に居たのに。……ふと自身の胸元を見やる。なんだ? 胸から氷が生えて…。口腔内から、極冷のつららが飛び出す。


 その場で、ハイオークは絶命した。


「…やっぱり、普通より少し弱いわね」


 座り込むように、倒れて行くハイオークを、枝から見下ろすシェリーが呟いた。




◇  ◇  ◇




 何故だ?! アレは()()()()()()だったはずだ。

 

 その為の準備までした。力の劣るモノを囮にし、おびき寄せてから(なぶ)る算段だった。それが囮は有ろう事か瞬く間に(くび)り殺され、同士討ちまでした。囮を囲んでいた者達は、その力を披露する間さえ貰えずに、針の様な物に刺し貫かれて絶命した。


 我自身にしてもそうだ。餌の一人がこちらへ向かって来た。自ら、その身を差し出すとは殊勝だと思った。


 ──だが違った。


 ソイツは身の回りに、何やら動く鉄塊を出したと思ったら、それが光ると同時に自身の足に強烈な熱が掠った。見ると脛を抉られ、血飛沫を飛ばしていた。


 痛みが来たが、我はキング。その程度の傷は、時間が掛かるが治る。故に痛みを無視して、捻り潰してやると考えた。


 接敵した瞬間にソイツは嗤った。


***(さてと)******(狩るとするか)


 何かを話していたのだろう。我に判る訳はないが。しかしその瞬間なぜかは分からんが、侮辱された気がした。怒髪天に昇る。


 餌が! 何を(さえず)るか! 頭には怒りと憎悪しかなかった。怒りで震え、声の限りで叫んだ。



 ”ブゥゥゥゥゴォォォォォオオガギャァァァァァアアアアアア!!!”


 キングオークはあらん限りの絶叫で、()()をセレスに向かって撃った。


『おほぉ! なんだ、意味が通じたのか? いい声で喚くなぁ。さて久方ぶりの戦闘だ。セリスよ、お前の身体怠けてはいないよな』


(ムキャ───! 返せぇ! 儂にやらせろ──!)


『うはははは! いつも見ているだけで詰まらんかっ──!』


 ”ドォォォォオオン!”

 なぎ倒された木が、セレスの居た場所に突き立てられる。


『ほほっ! 元気な奴だ…ゴーレム、種別を火炎に変更。背を焼け』


 ”キュイン…ピピ…コォォォォオオ…ゴオオ!”


 ”ブギャァァァア?!” 

 キングオークは絶叫と共に背後に回ったゴーレムに、剛腕を振るうがそこにもうゴーレムは居ない。


『フム…こ奴は、耐久力はいい感じだな…次、岩塊投射』


 ”キュイ…ピ…ゴッ!!”

 ”ドガァアン!” ”グギャバハァア!?”


 オークの頭上に待機していたゴーレムより、岩塊がその重量と慣性に乗って質量を乗算しながら、彼の頭部を粉砕せんと叩きつけられる。堪らず膝を折るキングオーク。


 何だ? 何なんだ、コイツ以外の場所から次々と。あの鉄塊はなんだ?! 何故我が。


 全く予測が出来ない攻撃が続く。これでは治癒が全く追いつかない。


 我は、キングを冠するオーク。種の頂点。それが今ただの餌と思しきものに成す術なく、嬲られている。頭蓋に傷がついた、思考が薄れる。怒りは増すが膝をついてしまった。


 そこで初めて気づく。脛が治っていない。おかしい、治癒が追い付かないんじゃないのか? この目の前に居るものは一体なんだ? 餌じゃなかったのか?


『ふぅ、折れてしまったようだな。嬲るつもりは無かったのだ、許せよ』


 あぁ、そうか。…我は、狩られる側だったのか。


 キングオークの頭がビームによって、消し飛んだのは、彼が悟った瞬間だった。

 



◇  ◇  ◇



 変異種はキングオークを見ていた。俺の事も気にはしていたが。


「何だ、向こうが気になるのか?」


 突然自分の真横から声が聞こえたので、驚いた変異種はそれでも反応して、手に持った戦斧を横なぎに振るう。それを屈んで躱して拳を脇腹へ叩き込む。


 ”ドズムッ!” ”グゴォォォ!?”

 喰らった変異種は、横に吹き飛ぶ。

 ”ドズザザザッ!!”

 飛んだ先にあった木をなぎ倒して倒れるが、辛うじて戦斧で持ち堪える。


「おお! 堅いわ、強ぇえな」 

 俺は、ガントレットを見ながら言う。


 変異種はそこで初めて俺を敵認定した様に、戦斧を構えなおして相対する。


「…その戦斧、ドントの奴だろ。返して貰うぞ」


 ”破砕の戦斧”リーダーのドントが持っていた戦斧。


 変異種との遭遇戦で、ドントはパーティを守って、負傷した。何とか逃走出来たのは、変異種に投げた戦斧のお蔭だった。


 魔導戦斧と呼ばれるそれは、魔力を掛けた分だけ、重量を増すと言う物。振り下ろしに使うと、効果が出る。使いどころを間違えなければいい武器だ。変異種の足止めにもなった。



 ──その斧を、変異種はまるで自分の獲物の様に使っていた。



 ”グガァァアア!”

 咆哮と共に、一足飛びに戦斧を振りかぶって向かってくる。寸前まで溜め、落ちて来る戦斧の切っ先を見切る。身を捩って躱し、カウンターでガントレットに魔力を載せて肘を打つ。


 ”ベキャァア!” ”ギュギャァァァアアア!!?”


 右の肘が潰れ千切れかける。喚き散らす変異種は、それでも身を引き、こちらを睨む。


 ”グゴォォォォオオ!” 

 苛つく様に吠えると、残った左腕で戦斧を自身の右腕に下ろす。


 ”ギャガァァァァァアアア!!” ”ボドッ”

 落とした右腕を見つめてから、こちらを睥睨し牙を剥きだし涎を流す。瞬間、奴の姿がぶれる。


 ”ドコンッ!”

 右の肩への強烈な衝撃で、俺は受け身もなく吹き飛ばされる。


「ぐあっ!!」

 ”ベキベキィッ!”

 立ち木に叩き付けられて、脳が振れる。意識が一瞬フワリとする。そして気付くと眼前に影が落ちる。咄嗟に腕をクロスする。

 ”ベキィ!!” 

 後ろの木ごとなぎ倒される。

 ”ガァア?!”

 奴にとっては想定外だろう。戦斧で薙いだのだ。上半身など千切れ飛んだはずだ。


「…ったぁ、一瞬意識飛んだじゃん。ってか、動きも早いってどんなチートだ」


 そこには、木くずと埃で汚れた、傷の無い俺が立っていた。


 ”ガァァァアギャァァアアアアアアア!!!”

 猛り狂ったように叫ぶ、変異種。


 当然だ。有らん限りの渾身の横薙ぎだったのだ。自身の腕を失う羽目になった憎し敵。故に、渾身の力で振り切った。現に奴の後ろの木は無残な姿を晒している。


 なのに、奴は傷一つ負わずに何やらぶつぶつ言っている。理解が追い付かないが、本能に刺激された。怒り心頭に発した。目の前が真っ赤になる。戦斧を掲げ己が槍となって、一突きに串刺す!!



「…すまんな。俺の身体に傷は付かないんだよ」



 変異種の耳には、そんな言葉が聞こえた。


 すれ違いざま、ガントレットの仕込みナイフで断ち切られた首が宙を舞う。身体はそのまま木々に突っ込み事切れる。光を失った変異種の瞳は、

その光景をただ映していた。


 戦斧を拾い上げ、異界庫に仕舞う。変異種の胸を開き、魔石を引っ張り出してから、討伐証明の鼻を切り取って亡骸を焼く。

 

 ──…この世界のモンスターは食えない。


 瘴気があるためと言うが、実際人型を食いたいとは、これっぽっちも思わない。粗方処理が終わった所で、サーチを掛ける。種別はモンスター、半径は五百。


「…あれ? オーク、これだけだったの?」




 サーチにモンスターの影はなく、魔獣がちらほら掛かるだけだった。








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