第3話 些細な違和感
「そ、それで、どんな事を教えればいいんでしょう?」
リーダーの、ドントが恐る恐る話を切り出してきたので、瘴気溜まりだった場所や、会敵したオークの数や強さなどを、細かく聞いて行く。そうして、探索範囲を決めるためだ。
「じゃぁ、北の森の深層と言うより、中層辺りって事?」
「あぁ。魔素はそこまで濃くなかった、植生も浅層のが混ざっていたから、中層のごく浅いエリアだ。オークだから、そんな事もあるかと思ったんだが。まさか、変異種が出るとは思わなかったぜ。おかげでこのざまだ」
「フム。…確かにそんなに浅いエリアで、強力なモンスターが出るとは、普通は考えんな…出てもホブゴブリンか、シャーマン程度じゃな」
セリスが、魔素の濃度から、モンスターの発生率を分析する。
「じゃぁ今回のモンスターって、何か違うって事?」
「何とも言えんな。…まずは、現地に行かんとな」
「今から、行くのか?」
ドントが、聞いて来る。
「…時間的には、少し厳しいですね。とりあえず森を確認するぐらいでしょうか」
「だね。本格的に動くのは、明日の朝からかな。」
その後、幾らか質疑応答をして治癒院を出る事にした。
「有益な情報をありがとう。ゆっくり養生してくれ。それじゃこれで」
「あぁ。頼む」
「よろしくな」
「お願いします」
「お話は出来ましたか?」
治癒院の出口には、最初に出会ったシスターが居た。
「え? あ、はい。出来ました。どうもありがとうございました」
「そうですか。それは良かったです。噂では北の森でモンスターが出たとか。…彼らは村一番の冒険者なので、皆不安がっています。」
「…そうですか。私達は今日此処に来たばかりなので。ギルドの親書を持って来ただけです。何かあれば村長からお話があるでしょう」
シェリーが機転を利かせて誤魔化す。
「そうですよね。あ、申し遅れました。私はこの教会でシスターをしております。エリーと申します」
「シェリーです。…こちらがキャロルに、ノート。セリスの冒険者パーティです」
シェリーが率先して紹介してくれたので、皆は会釈する。顔を上げた瞬間に彼女と目が合った。
「では、ギルドに戻りますので」
「はい。失礼いたします」
道すがら、セリスとシェリーが首を傾げる。
「…おかしなシスターじゃな」
「はい、なにかこちらを窺う様な。変な感じがしました」
「音がしませんでした」
急にキャロルが話し出す。
「え? 何の音?」
「足音です。歩法が独特です。恐らくスキルでしょうが理由が不明です。何か有るのかもしれません。彼女には近づかない方が良いと思います」
全く何にも、解らなかった…。
「あ、あのぉ…何にも解んなかったんだけど…どうしよう」
「はぁ~。お主はそう言う所、危機感なしじゃのぉ」
「…危機感なしと言うより、危機にならないんじゃない?」
「ですね。ノートさんなら、脅威にならないでしょうね」
「いやいや、それじゃダメじゃん。とりま…ヨシッと」
「ん? 何をしたんじゃ?」
「…マーカーを付けておいたよ」
「「「…………。」」」
「なに?」
「…脅威以前でしたね」
◇ ◇ ◇
北側にある塀は木製で、領地拡大の際に簡単に動かせるようになっている。その為外堀もなく、進入は容易にできそうな感じがする。
「これじゃぁ、オークなら簡単に壊せるよなぁ…」
俺はそう言いながら、塀に近づこうとする。
「おい! 近づくな! 魔弾攻撃が来るぞ!」
突然言われて、塀に触れてしまう。
”ババババッバババババン!!!”
触れた部分に術式が展開。そこから無数の礫が飛んでくる。
「うをぉぉぉぉおおお!!」
咄嗟の出来事に仰け反ってしまい、思わずマトリック〇避けを披露してしまった。
「おおぉぉぉぉおおお!」
「パチパチパチ」
「なんだなんだ今の」
「すっげぇぇぇええ」
「だ、大丈夫ですか?!」
キャロが慌てて走ってくるが、途中で止まる。
「…そりゃそうですよねぇ」
「やっぱり、コイツは変態じゃな」
「…無傷よね」
「あ、は、アハハハ…」
「あ、あんたら何者だ? 村の者は皆、魔術障壁の事を知ってるはずだぞ」
駆け寄って来た、村の衛兵に今日来たばかりの冒険者である事と、依頼を受けて森の様子確認に来た事を告げた。
「そうか。アンタらが…俺はこの村の衛兵隊の隊長ヘイゲルだ。木壁には、総て術式が組まれている。安易には近づかないでくれ。案内するんでこっちへ」
言われて、彼について行くと櫓の傍にある小屋へ案内される。
「現在こちら側の出入りは制限されているから、必ずこの小屋に来てくれ。出入口は、小屋からしか出来ないんだ。ここ以外はさっきの様になる」
話を聞くと、冒険者が負傷した後、急遽錬金ギルドが魔道具で術式を施したらしい。本来の範囲より拡充したため、この様な形にしたそうだ。元々、北の森には出入りが少なかったので、問題はないとの事。南側も同じ状況だと言う。
「じゃぁ、現在森への出入りはないんですか?」
「いや、ここで記帳して出入りは管理しているが、人数は確かに制限はしている。モンスターの確認も有ったからな。あんた達みたいな調査や、許可を持っている人は、問題なく出入りできる。だが今から出るのか?」
「いえ。今日は様子を見に来ただけです。此処には昼夜なく監視が?」
「あぁ。もちろん交代制でな。何とかギリギリで廻している」
「ご苦労様です。明日一番で森に入ります。その時は宜しくお願いします」
「あぁ、こちらこそ頼むよ。ミスリル級ってのは聞いてる。頑張ってくれ」
「はい。じゃぁ、今日はこの辺で」
ヘイゲルや小屋に居た他の兵士に挨拶をしてギルドに戻る事にした。
ギルドに戻り、マスターに報告した後セシルに宿を紹介してもらったギルド会館傍の宿に着く。
「すいません。今晩の宿をお願いします」
「はぁい。どのような部屋割りで?」
「三人部屋と一人部屋って、有りますか?」
「はい。三人部屋は一泊、千ゼムです。一人部屋は四百ゼムですね、夕食は食堂で別料金です。朝食は付きます。お湯は一桶四十セムです」
「はい。じゃぁ、それでお願いします」
「はい。ではカードを──」
手続きを終えて鍵を貰い、一度全員で三人部屋に入る。
「…ふぅ、なんか面倒になったねぇ」
”ボフッ”っと、ベッドに倒れ込みながら言う。
「ですねぇ…セリスさんは、どう思います?」
キャロルは、モンスターの件を話し出す。
「ウム…シェリーはどう考える?」
「…瘴気石…関係ないとは、言い切れませんよね…中層のしかも浅層に近い場所での、変異種モンスターの発現なんて聞いた事が有りません」
「じゃなぁ…始祖様、どう考えます」
そう言って、目を閉じるセリス。
『ンンッ、そうだな。現場を見んとまだ確証は持てんが恐らくはそうだろう。ただ、目的が不明瞭だ。お前たちの移動経路はギルドでも限られた者しか知らんはずだ。余りにも不自然な符合だとは思わないか?』
「だよなぁ…間諜が入ってるのは間違いないけど、特定は無理っぽいしな。魔導通信って傍受できるの?」
「神殿遺跡からの、模造品ですからね。魔力波さえ掴む事が出来れば、容易でしょう」
「そっかぁ。レシーバーが普及すれば、信用出来る所のは入れ替え必須だな」
「え? 策が有るんですか」
「勿論。魔紋で暗号化できるから。このスマホなんかは、処理済みだし」
わっさわっさ! しゅるり。あぁ、今夜はダメですよ…。
「さすがは、ノートさんです!」
「そうね、個人特定なら完璧ね」
『ンンッ! ンンッ! まだ我居るんだがな…』
「いや、待って。セレス様! まだいてくださぁぁぁああい」
懇願むなしく、セレスは部屋を出て行く。
『安心しろ、湯桶は頼んでおいてやる。食事は屋台物で良いな』
「「はい! ありがとうございます! セレス様!」」
「いやいやいや! 待って! まだ早いって。せめてご飯は食べてからぁぁぁぁぁあああ」
「「後で、一緒に食べましょう!」」
”パタン”
『ふぅ。あの二人、発情期にでも入ったのか?』
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