第2話 深謀
「あ、あ、あの、あの、ののののの…」
「セシル! 何してるの!?」
あぁぁァ…頭がグワングワンするぅ…。
いきなり暴走したセシルをキャロルが羽交い絞めして止めてくれる。シェリーがやれやれと言う表情で、セシルの頭を掴む。え? 掴む?
”ゴンッ!”
「みぎゃっ!!」
すっげぇ音と共に、蹲るセシル。頭突き!? シェリーが? あ、笑顔が、怖い……。
「の、ノート、シェリーが怖いんじゃが…」
「…うん。何故だろう、笑顔なのに…」
シェリーがちらとこちらを見てからセシルを見下ろし、聞いた事の無い声音で話し始める。
「…ねぇ、セシル。私達の旦那様の事、ちゃんとギルマスから聞いていないの?」
「…うぅぅ、ぇえ?…ノート…ノー…は!? ドラゴむぐぅを!!」
言いかけた口を強制的に閉じられたセシルに、すぅっと顔を寄せるシェリー。
「はい。それ以上はダメ。連絡はちゃんと来ていた様で、安心したわ」
コクコクと縦に首を振りながら、涙目でセシルは答える。
「…大変失礼いたしました。ノート様申し訳ございません…グス…」
二人に解放された安堵感なのか何かは分からないが、涙を流しながら彼女は俺に謝罪してきた。
「あ、あぁ良いよ。謝罪は受け入れるから、ね。もう泣かないで…」
「…グス…ぅぅ、はい。ありがとうございますぅぅう」
今度こそ安心したのだろう。マジ泣きモードになっちゃった。どうしようと思っていたら、後ろから声がかけられる。
「うちの受付が、粗相をしたと聞いたんだが? 何故セシルが泣かねばならんのだ?」
幾分怒気をはらませながら、低い声が聞こえて来た。
「…どうしたんだセシル? 何故泣く必要が…あ!」
そこまで言ってこちらを正視した瞬間。彼はそこに立つ、笑顔の二人と目が合った。
”ズザザザァァァアア!!”
「んもおぅしゅいうわくえ、ぐおずあいましゅぇえん!」
…なんだ? なんて言ったんだ? ってか、あれってどう見てもジャンピング土下座だった様な。この世界にもあるのか? DOGEZA文化…。
「ん? あら、ギルドマスター。研修以来ですね、お久しぶりです」
「キャロは、此処のマスターを知って居たんですか?」
「はい。エクスで研修の教員をした際に」
その言葉を聞いた瞬間、ギルマスの肩が跳ねる。
「…ふうん、そうですか。丁度いいですギルドマスター、少しお話が有ります」
そうして、真っ青になったギルマスに連れられて、奥の執務室へ案内される。セシルさんも何故か同席させられ、彼女はお茶の用意をキャロとしていた。
「誠に申し訳ございません。連絡を頂いて居たにもかかわらず、この様な失態。私の管理不足です、申し開きは致しません。如何様な処分でもお受けします」
部屋に入ってすぐ、マスターは再度陳謝してきた。
「いえ。私達はもうギルド職員ではありません。一冒険者に身分を戻しました。其方の事も併せて報告しているはずです。パーティを結成したと」
「勿論伺っております。リーダー以外は全てミスリル。そのリーダーについても、現状は暫定のプラチナ。王都に行けば全てのランクがミスリル確実だろうと。」
…わっちゃ~、めんどくさ~…。
「そうですか。もう其処まで回ってしまっていますか。此処で聞けて良かったです」
俺達の現在置かれている状況を聞き、皆でこれからの身の振り方を相談し合う。まずは目立ちたくない。これが第一条件。セリスはぶつくさ言うが、曲げない。今は領都に行くのが先決なのだから。
「…そう、ですよね。先ずは王都ですね…」
セシルが、皆にお茶を配りながらポツリと呟く。
「ん? 何か、あるんですか?」
「え!? い、いえ、何でもありません。セシル! 皆さんは先を急ぐ御方だ。村の事でお手を煩わせてはいかん」
…ふぅ。判り易い小芝居だなぁ…。
「…ギルマスよ、それは茶番と言うんじゃ。もういい話せ」
さすがにセリスでも分かるか。キャロルとシェリーは呆れ顔だし…あ~あ、二人も真っ赤じゃん。普通に話せばよかったね。
「ん、ンンッ! あ、アハハハ! すいましぇぇえん! 実は──」
ギルマスが話してくれたのは、最近村の北側にある森で瘴気溜まりが発見された。村人からの報告を受け、直ぐに調査に冒険者を派遣したが、既にモンスターが発生、徘徊を始め散った後だったらしい。
即、討伐に切り替えたのだが、どうやら発生したモンスターには、上位種が居るらしく、現在村の戦力では心許ないと分かったらしい。
そこで急遽、応援要請をと思ったところに、俺達が来たと…。
──出来過ぎじゃね? と考えるのは穿ち過ぎか?
「…で? そのモンスターの種類は?」
「現状発見出来たモノはオークと、ハイオークですが、どうやらハイオークに変異種が居たようでして。ならば恐らくジェネラルか、もしくは…」
「…キングオーク、ですか。」
「はい。今この村に居る戦力で最高位は、シルバーのパーティです。彼らは先の変異種ハイオーク戦で、負傷者が一人出ました。変異種はどうやらジェネラルに近い様でして。…このままでは、村ごと避難を考えねばなりません。村長への話はつけています。ミスリルパーティとしてこの依頼、どうか受けて頂きたい」
そこで三人の視線が、同時に俺に向く。
「分かりました。オーク達を殲滅って事で良いんすね」
「え? はい! そうです! では、この依頼受けて頂けるんで?」
「良いですよ。さしあたっては、そのシルバーのパーティに話を聞きたいです」
「分かりました! 多分、今は治癒院だと思いますのですぐに連絡を取りましょう」
そう言ってマスターは、セシルに声を掛け使いを頼んだ。話を詰めているとパーティはやはり治癒院に居るらしく、俺達は治癒院が有る教会へ向かうため、ギルド会館を後にした。
ギルドに聞いて村の北側にある教会へとやって来た。入口側で治癒院を聞き、其方へ足を運ぶ。
「すいません。こちらに破砕の戦斧が居ると聴いたのですが?」
治癒院の入り口に居たシスターに声を掛けると、ギルドからの話しを聞いていた様で、すぐに案内してくれた。
「こちらの部屋にいらっしゃいます」
そう言って彼女は会釈して去って行く。何故か視線はセリスをじっと見ていた。
”コンコンコン”
「はい?」
「すみません。ギルドからの依頼の件で、お話を聞きたいのですが」
「…あぁ。入ってくれ」
少し沈んだ声で返事が来たので、ドアを開けて中に入る。
部屋にはパーティのメンバーと思しき四人の男と、一人の女性が居た。ベッドには、上半身を起こした屈強な体つきのドワーフ。周りに居たのはヒュームの男性が二人、ビーシアンの男女一人ずつのパーティ。
「…どうも初めまして。依頼を受けてきました。リーダーのノートです」
そう言って声を掛けるとベッドのドワーフが、答えてくれる。
「…俺が、このパーティのリーダー、ドントだ。ミスリルのパーティと聞いたんだが?」
「あぁ。俺以外がね。ほら、エクスの元受付嬢の、キャロルとシェリー。それとセリスさん」
「は?! 炎熱のキャロルさん!?」
「冷笑のシェリー!!」
「災厄のセリス!?」
…うっはぁマジかぁ! すんげぇ! 全員二つ名持ちで中二病!
「なんですか。その名前は?」あ、気温が下がった。
「聞いた事ないですよ、そんな変な名前」圧! そして、熱い!
「なんで、儂のは悪口なんじゃ!?」いやほぼ、正確ですが。
……あ、ジト目で睨まないで! 怖いのとゾクゾクで、ぁぁぁあ!
「…あ、アンタ大丈夫か?」
「は! ヤバいヤバイ。一瞬、変な扉が見えました」
気付くと、部屋中の皆が、ドン引きしていた…。
「彼がノートですか。見た目は頼りなさそうですね…餌には掛かってくれましたが」
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