第1話 新たな道(未知)を
第3章開始です
街を出てから既に数時間、街道沿いを走っているが、賊の襲撃が有るわけでもなく、魔獣が襲いかかってくるといったイベントも起こらずに、唯魔導車は何事もなく走り続けていた。
「なぁノートよ、次の休憩の後代わって欲しいんじゃが」
「えぇ、セリス、大丈夫なの?」
「運転したい! したい!」
「セリスさん、スピード出しません?」
途中でセリスと席を代わったキャロルが心配そうに、後部座席から言ってくる。
「大丈夫じゃ! それにもう中継の村は近いんじゃろ? そんな無茶はしない…なぁノートォ、お願いじゃぁ。じっと座ってるのもう飽きたぁ。なぁ、なぁ!」
「分かった、分かったから。腕にしがみつかないで! 危ないから」
そんなこんなで、走る事数キロ。現在街道沿いにある休憩所に、車を停める。見回したが他に休憩者は居ない様子だった。
「ここで、休憩したら村まで運転していいよ」
「良し! では休憩じゃ!」
機嫌よさそうに、彼女は車を降りて伸びをする。俺はそれを見ながら後部座席の奥に行く。そこは本来荷物置き場のスペースなのだが。
「ねぇ、ノート君。此処にどうして扉が有るの? 外の扉と違うわよね」
シェリーが一緒に付いて来て聞く。キャロはセリスと一緒に、休憩所の
テーブルスペースで、お茶の準備を始めていた。
「うん? あぁ…これはね、こうなってるんだよ」
そう言って、俺は扉を奥に向かって開く。しかし見えてきたのは外じゃなかった。代わりにそこに見えたのは、広いリビングスペースがそこにあった。その先にはまた怪しげに扉が五つ。
「は?…え? 部屋? な、なにこれ?」
「此処の先には皆の個室が有るんだよ。で、ここはリビングルーム。言ってみればこの車は、走る家だね」
「はぁぁぁぁああ?!」
シェリーの絶叫に、皆が集まってきて同様に部屋を見て固まった後。
「「なんだこれぇぇぇええ!!」」
やっぱり、絶叫されました。
部屋は、入って直ぐがリビングスペース。右にはキッチンスペースがある。左を見れば、トイレや洗面、風呂完備。そう! 風呂が有るのだ!
この世界で言う風呂は蒸し風呂タイプしか無い、要するにサウナしかなかった。後は、湯で濡らした手ぬぐいで身体を拭くだけ。ずっと我慢してたけど、此処では好きにさせてもらった。勿論走行中でも入浴可能。扉の部分で次元が違うからだ。要するにここは異空間。
モチロン扉の部分で仕切っているだけだから、空気の出入りは普通に出来るので窒息もしない。水は浄化できるし、魔道具も設置済み。最終処理はトイレに流して排水。
まさに自己完結型の、キャンピングハウス! 魔素は魔石と、大気自動集収の、ハイブリッドタイプ。魔石と食料さえあれば、夢の引き籠りも出来るのだ。
「で、あの並んだドアは個人部屋。一応今の全員分有るよ。部屋の大きさは一緒だから好きに使って。それと、ここは」
1つのドアを開ける。中は狭く、下には陣が書いてある。
「緊急転移陣。今は、エクスのセーリスさんの所だけだけど、拠点さえ作れば移動可能箇所は、増やせる仕様。今は、俺だけしか登録していないけど、随時追加するね」
ガバァッ! とキャロが抱きついてくる。…うん、これってもうテンプレになってきたな。
「ノートさんは、凄すぎですう!」
「…いや、そう言う問題かな?」
「さすがに…これはちょっと儂も引く」
「なんでだよ。空間魔術を使えたら、これに近い物は出来るよ」
「異界鞄の事じゃろ? でもそれが精々じゃ。こんな部屋なんて先ず想像すらせん」
「いや、その前にこれだけの物を作る、魔力が足りません」
「あ、そこかぁ。それは盲点だったよ」
「「「普通はまずそこだよ!」」」
「…テヘ…」
外に用意していたお茶をリビングに持ち込み、皆で休憩する。
「…なぁノート。そう言えば契約精霊はどうしたんじゃ?」
「ん? あぁ。ハカセなら、今はサラと居るよ。契約精霊だから、いつでも呼び寄せられるけど、向こうでサラ達と居る方が、俺も安心だしね」
「そうか…儂ゃ、てっきり愛想尽かされて、破棄されたかと思うたわ」
「あぁ、その事なんだけど俺がしないと無理みたいだよ。魔力量が違い過ぎて」
「…はぁ~。何じゃそれ。精霊は言わば自然そのものだぞ。魔力その物とも言えるのに、お前と来たら…ある意味、大魔王じゃな」
「バカな事言うなよ。なんか悪者みたいじゃんか!」
「あら、別に大魔王は悪者じゃないわよ。只の魔力が桁違いに多い化け物って意味よ」
「シェリーさん…フォローになってないよ、それ」
「あら、そう? ウフフフ。」
「…なぁ、ノート。所でこの窓…なぜ、外が見えるんじゃ?」
セリスが不思議そうに、窓を眺めて言う。
「あぁ。魔導車の窓に連結してるんだよ。そこはフロントの面だね。各部屋も付いてるよ。だからちゃんと昼夜がわかる」
「…なんちゅう、魔術の無駄使いじゃ…」
いや、其処は大事だと思うんだがなぁ。…まぁ、いいか。
「さぁ、それじゃボチボチ行きますか」
「を!? よし! 運転、運転!!」
皆で、茶器を片付け部屋を後にする。
「では! 出発じゃぁぁあ!」
”ヒュゥゥゥゥゥウウウン!”
魔導車は唸りを上げて出発した。
*******************************
「はぁ、楽しかったわい…また、運転させておくれな」
「「「絶対、やだ!!」」」
「む~けちんぼ」
何度、止めたか分からなかった。走り出した最初はまだ良かった。しかし、慣れて来るとアクセル全開、ハンドルグルグル。生きた心地がしなかった。いくら魔術補正が効いてても跳ねるし、飛ぶし、シェイクされる。後ろの二人は早々に意識を手放した。
セリスは終始爆笑してた。セレスを何度も呼んだのに、出てくる気配は全くみせなかった。
「は~よかったよう、私達、生きてるよう」
「…そうね、い、生きててよかった」
後部座席で二人は抱き合って、震えて涙を流していた。
目の前には、あまり高くない石造りの塀が左右に広がり、門には軽装の衛兵が一人。この村の名はエリシア。エクスからおよそ、250キロほどの最初の宿泊地だ。車のスピードを落とし、ゆっくりと近づく。
「な! なんだ! 鉄の塊! お~い! 誰か!」
俺達の魔導車を見た衛兵が、慌てて振り返って応援を呼ぼうとしていた。
「ちょっと待った! これは魔導車! 魔導車ですぅ!!」
慌てた衛兵に声を掛け、危険がない事を知らせると、俺はすぐに車を降りて衛兵に駆け寄っていく。
「あぁ、すみません! アレは新型の魔導車です! 王都まで試験走行中です」
「ほ、ほんとか?! って、お前は?」
「え? あ! ノートです。エクスから来た冒険者です。コレ、カード」
そう言って、カードを衛兵に見せる。
「…おお、本当だ…ファ! プ、プラチナ! ゴールドも三つ! スゲェ!」
「あぁ、はは。どうも…それで、入っても良いですか?」
「え!? あ、はい! では、皆さんのカードを」
そう言って近づいて来た車に、話す。
「はぁい」
「どうぞ」
「これじゃ」
「あ、は、え、み、ミスリルぅぅぅうう!」
「ハハハ…やっぱりな、そうなるよな」
あまりに驚いて、彼はその場に座り込んでいた。
◇ ◇ ◇
村の中に入った所で、共同駐車場に車を停めると当然の様に、説明を求められる。
「ふぅ、なんだか面倒だなぁ。次からは何か考えよう」
「ですね。一々驚かれるのも、嫌ですねぇ」
「…ならいっそ、手前で止めて異界庫にでも入れて行けばいいんじゃない?」
「おお! シェリーナイスじゃ! それで行こう!」
「…だな。歩きで近づけば、怪しまれることもないし」
改めて村を見回す。エリシア村。……人口は二千人ちょい。
周辺の集落を纏めて出来た村で現在も拡大中らしい。村の中心部に最初の村があってそれを囲むように、集まっていったそうだ。役場やギルド関連は全て中心部にある。門や石壁は東西の出入り口周りだけで南北は木材の塀になっている。
「とりあえず、ギルドに行って情報収集しておこう」
「「「はぁい」」」
エリシア村のギルドも総合ギルドだ。まぁ、此処は規模が小さい為に
纏っているだけだが。扉を開けて中に入ると、まずカウンターが有り受付嬢が笑顔で挨拶してくれる。
「ようこそエリシア総合ギルドへ。本日はどのギルドへ御用でしょうか?」
「あら、久しぶりね。セシル」
「…え!? シェリーさん?! あ! じゃあ、此方の皆さんがそうなんですか?」
「ええ。彼がリーダーで私の伴侶、ノート君よ」
セシルと呼ばれたヒュームの彼女は、俺の方を向いて、一瞬で全身を確認したと思ったら、スンッとなる。
「はぁ、そうですか。初めまして。ようこそエリシアへ」
「セシルさん…ノートさんは私の伴侶でもあるんですが」
シェリーとセリスの影から、すうっと音もなくキャロが現れる。
「…ヒィ! きゃ、キャロル姉様…え?! 姉様も? は?! ちょっとアナタ! どうゆう事ですかぁぁぁぁああ!!」
──何故だろう。いきなり、胸ぐらをつかまれてガクガクされていた。
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