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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第2章 王都への道は遠く
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第18話 向日葵



 やはりコイツの説明には時間がかかった。音声については先の物で納得したが、この世界には、写真技術がそもそも無かった。だから映像なんて以ての外だった。


 何とか、納得させるために、何度も説明、実証させられた。正直辛かったが、最終的にはちびっ子達が笑顔で喜んでくれた。あと、()()はまだ、公開しない物なので、他言無用にしておいた。


「どうして、こっちはダメなんじゃ?」

「さっきの状態を考えたら、わかるじゃん。トランシーバーで十分だろ?」


「確かにそうですね。あの大きさに出来るってだけで、驚愕ですもの」

「まぁ、確かにそうじゃが。アレは、距離的にも短いんじゃろ?」


「そうだね。一キロ程度が限界かな。魔石に寄るけど」

「…ん? では魔石で距離が変わるのか? アレは」

「う~ん。厳密には無理だね。細かくは省くけど、距離をあれで稼ごうとすれば、結局、大きくなる。だから丁度()()()()にしたのが()()だよ」


 そう。厳密に言えば、()()()()がボトルネックになる。この世界は元々【電気】を【電力】として使う概念がない。その替わりが【魔石】や【魔力】なのだ。それに俺にはそこまでの、電気工学知識は無かった。なので、公開を目的とした、【トランシーバー】は、この世界の()()()()()()だけで、作成した物なんだ。


 実は到達距離も()()した。普通に作れば多分百キロは届く。だがそうはならない様に術式に直接混ぜ込んだ。その理由は軍事転用出来るから。


 確かに一キロでも使えるだろう。でも使用範囲は一気に狭まる。この世界にはスキルが有るんだから。一キロならば範疇だろう。


 だがこの【スマホ】は違う。そもそも部品は()()()には、ほぼ使っていない。


 ガワを鉱石でそれっぽく、()()()だけだ。中には、魔術の術式しかない。なのでコイツは分解すらできない、()()()()()()()()()()()()()()でしかないのだ。


 ──これはもう、アーティファクト(遺失文明品)なのだ。

 

「まぁ、()()()()()()()だけでも、錬金ギルドはひっくり返るほどの騒ぎじゃろ」

「確実にそうなりますね。」

「でも、部品は既存の物しか使ってないんだけどな」

「でも術式は違うんでしょ? 見た事ないわよ、あんな複雑な物」

「あぁ、でもそれも登録公開するから」

「…ふぅ、間違いなくとんでもない()()になるわね」



*******************************



 翌日、俺はセリスと二人で、セーリスのいるギルド・マスターの部屋に来ていた。


「…で? 何故この部屋に、お前が来るんだノート?」

「…うん。昨日はごめんなさい。」

「な!…何のつもりだ?」

「セーリスにだけ、()()()()があるんだ」

「にゃ! にゃにぅを?!」

「いや、実はさ──」


◇  ◇  ◇


「何故、本人が来ないんだ?」

「…どうしても()()()()用があるとの事でして」

「ふむ…しかしだな──」

「難しいようでしたら、提出は()()で本人がしますので──」

「いやいやいや! わかった! 受ける! 受けるから!」


 錬金ギルドのマスターは、慌てて申請用紙を受け取る。


 何しろあのノートからの魔道具申請である。聞けばそれは新製品だと言う。本来なら本人が来て現物を検分してから、申請の可否を決めるのが普通だ。だが奴の場合は違う。今まで持ってきたものは全て驚愕に値する物ばかり。従来品であっても効率、品質は全てがトップクラスの物だった。そのノートが新しい魔道具を作ったと言う。どうやら通信機らしい。


 魔導通信は現存している。だが聞けばその物は持ち歩けるという事らしい。流石にそんな物は聞いた事が無い。あの大きな魔道具をどうやって運ぶんだ? 疑問が次々湧いて来る。


「それで? 現物は何処に持ってきているのだ? 外か?」

「いえ、()()です」


  ()()()とカウンターに置かれたのは、小さな小箱の様な物が二つ。


「ん? 何だこれは?」

「これが通信装置、【()()()()()】です。現状はこの二つで送受信します」


 …は? これが通信装置だと?! そこで、初めて申請書をよく見る。


「い、い、移動型魔導通信機…手持ちタイプ!!!」

「持ち歩くって、荷車とかに積むんじゃなくて??」

「はい。()()()()()、運べます」


 ──…錬金ギルドで絶叫が響いていた。


「ん? 何か叫び声が聞こえた様な…」

「そんな事は良い!! それよりも! お前、本気で言ってるのか?」


 セーリスは真剣な表情でこちらを睨むように見つめてくる。


「う、うん。無理強いはしない。でも出来れば、了承してほしいんだ」


「……。」

 無言で、長考するセーリス。


『セーリスよ。出来れば、受け入れてやって欲しい』


 ずっと黙っていたセリスが、セレスと入れ替わって話し始める。

「始祖様…。それは()()ととっても?」

『いや…これは願いだよ。我とこのセリスの…な』


「…ふぅ、願い。ですか…それは()()()()と、いけませんね」

「…じゃぁ?」

「あぁ、分かった。了承しよう。お前()()()()()()の設置を」

「ありがとう!! 大好き! セーリス!」


「ファ!? にゃ! にゃにぃぅを言うか! このバカぁ!」


 なぜか怒られたが、なんとか部屋の隅にドアを設置し、次元スキルで

ドアの向こうに空間設置、小部屋を生成する。


「この()()は、魔紋登録者しか使えない。この先の転移陣は、俺の認知起動が必要。だからもちろん悪用は出来ない。陣の発動時は事前に、セーリスに伝える」


 そう説明して作業を進める。作業中彼女とセレスは何故だか、口をパクパクさせていた。


 作業を終えて、一息ついた頃、キャロとシェリーが部屋に来た。


「お疲れ様、どうだった?」

「…大変でしたぁ~」

 ()()()

 ふぉぉぉお! いい匂い~!


「ホント…ギルドマスター、最後には泣き出すんですもの」


「あぁ…()()のか、わかる。分かるなぁ、その気持ち…私も今、()()()()()もの」


 そう言って、後ろのドアと手元の石板を見て震える。


「やっとサラの事に専念できると思ったのに! 気になって仕方ない!」


「大丈夫だよ。ドアは隠蔽してあるし、スマホは分解できない。滅多に使わないから気にしないで良いよ。それにこれで俺も()()できるから」


 そう。これで何か緊急事態が起きても対処できる。図らずも出来た大事な場所。サラやちびっ子達、セーリスやアマンダさん達、カークマンに代官さんなど、ちょっと考えるだけで浮かぶ顔。出来る助けはしたいから。



*******************************



 そして、その日はやって来た。朝から皆で準備した。食堂内では収まらず、廊下や外にまでテーブルや椅子を置いた。


「お~い、そっちにエール行き渡ったかぁ?」

「あるぞぅ!」 

「こっちにくれぇ!」


「よし! じゃぁお願いします、隊長」

「あ、あぁ。え~。ンンッ! 今夜はノート達のパーティ送別会にお集まり頂き、有難うございます」


「おお! 良いぞ隊長!」

「頑張ってぇ!」

「カンパイはまだかぁ!」


「ンンッ!! 初めて私が、彼と出会ったのは──!」


「なげぇ!」

「ングング、プハァ、うめぇ!」

「アハハハもう飲んでやがる」


「……テメエらぁぁあ! 人が挨拶してる時くらい待てねぇのかぁ!」


「長いんだよ~!」

「料理が冷める」

「もういいじゃんか!」


「「「カンパ───イ!」」」

「あ! ゴラァァあ! 何言って」


 ──…カンパ──イ!


「あ~あ、なし崩しになっちゃった」

「まぁ、いいんじゃない?」

「飲めれば何でもいいわい!」


 そうして始まった、送別会と言う名の宴会は、深夜まで続いたのだった。



◇  ◇  ◇



 西側入門口。時間は朝の九時ぐらい。門を出てすぐの街道横には、人だかりが出来ていた。


「あちゃぁ~、集まっちゃったねぇ」


「たりまえだぁ!」

「お前の為じゃねぇ! キャロさんの為だぁ!」

「アハハハ!」


「ノート兄ぃ!」

「ノートしゃぁん!」

「ノートお兄ちゃん!」


「あ! 孤児院の皆まで! ありがとう!」


 わちゃわちゃと、身体をよじ登ってくるちび達、お尻を()()()っと掴まれる。


「うひゃひゃひゃひゃ! くすぐってぇ!」


「はいハ~イ、皆~それは、男ですよ~。勘違いして掴まな~い」

「ひゃひゃ、あ! カサンドラさん!」

「は~い、お見送りに来ましたよ~」


「ふぅ、焦ったぁ、変なところに指入ってきた時は、どうなるかと思った」

「ブハっ! ヤバいのが居るのぉ」


 それを聞いたキャロルとシェリーが、尻尾をシュッと下げる。


「皆さん! 短い間でしたが、お世話になりました。今生の別れをするつもりは無いです。また来ます。なのでしんみりは不要です!」


「おう! 待ってるぜ」

「分かってるよ!」

「お前が死ぬとは思えんしな!」


「ノート兄ぃ! 絶対また来てね!」

「ノート!」

「またな! また、飲もうぜ!」


「ノートしゃん! 絶対! じぇったい、またあいましゅ!」

「サラちゃん…うん。修行、頑張ってね。また逢おうね」

「はいでしゅぅぅぅぅううわぁぁああん!」

「「「ノート兄ぃぃぃぃぃいい!わぁああ!」」」


 ……あ~あ、ちびっ子達は結局泣いちゃったか。あ! そうだ!


「皆! 面白い物を見せましょう! 上を見上げてください!」


 そう言って注目を集めて、上空を見上げさせる。


 打ち上げたのは一見ただの火球だった。それはひゅう~と大きな音を出しながら、空高くに上がっていく。


 

 ──…ドォォォォォォンンンンン!!!


 はるか上空で、その火球は色とりどりの光を放ちながら放射状に広がっていく。それは色んな色をした花びらのようで、咲いた瞬間に散り広がった。



「うぉぉおお!」

「凄~い!」

「きれ~い」


 この世界に有るのかどうかは知らないが、大きく開いたその花の名は()()()()


 ──俺の好きな花だ。


「ギャハハハハハハ! ノート! 何じゃこの魔術は! きれーじゃ!」

「すっご…」

「ヒマワリって花をかたどってみました。どうです? 綺麗でしょ?」


「「ヒマワリ…」」


「…の、ノートぉぉぉぉおお! このばかぁぁぁぁぁあああ! 街中騒ぎになるだろうがぁああ!」


「アハハハ! 隊長! 油断しましたね! じゃぁ皆さん! 行ってきます!」


 魔導車に乗り込み、アクセルを踏み込む。


”ヒュゥゥゥゥゥウウウン!!” ”ザザザザァァァアア!”


 タイヤが、街道の土を噛み締め、土埃をあげて車は進み始める。


「最後の最後まで、お騒がせ、しちゃいましたね」


 助手席に座ったキャロが、しみじみ言う。


「あの花火、皆は嫌い?」




 ───最高!!







これで2章は完結です。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


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