第18話 向日葵
やはりコイツの説明には時間がかかった。音声については先の物で納得したが、この世界には、写真技術がそもそも無かった。だから映像なんて以ての外だった。
何とか、納得させるために、何度も説明、実証させられた。正直辛かったが、最終的にはちびっ子達が笑顔で喜んでくれた。あと、コレはまだ、公開しない物なので、他言無用にしておいた。
「どうして、こっちはダメなんじゃ?」
「さっきの状態を考えたら、わかるじゃん。トランシーバーで十分だろ?」
「確かにそうですね。あの大きさに出来るってだけで、驚愕ですもの」
「まぁ、確かにそうじゃが。アレは、距離的にも短いんじゃろ?」
「そうだね。一キロ程度が限界かな。魔石に寄るけど」
「…ん? では魔石で距離が変わるのか? アレは」
「う~ん。厳密には無理だね。細かくは省くけど、距離をあれで稼ごうとすれば、結局、大きくなる。だから丁度いい感じにしたのがあれだよ」
そう。厳密に言えば、増派装置がボトルネックになる。この世界は元々【電気】を【電力】として使う概念がない。その替わりが【魔石】や【魔力】なのだ。それに俺にはそこまでの、電気工学知識は無かった。なので、公開を目的とした、【トランシーバー】は、この世界の既にある部品だけで、作成した物なんだ。
実は到達距離も細工した。普通に作れば多分百キロは届く。だがそうはならない様に術式に直接混ぜ込んだ。その理由は軍事転用出来るから。
確かに一キロでも使えるだろう。でも使用範囲は一気に狭まる。この世界にはスキルが有るんだから。一キロならば範疇だろう。
だがこの【スマホ】は違う。そもそも部品はこの中には、ほぼ使っていない。
ガワを鉱石でそれっぽく、造っただけだ。中には、魔術の術式しかない。なのでコイツは分解すらできない、手のひらサイズの石板の様な物でしかないのだ。
──これはもう、アーティファクトなのだ。
「まぁ、トランシーバーだけでも、錬金ギルドはひっくり返るほどの騒ぎじゃろ」
「確実にそうなりますね。」
「でも、部品は既存の物しか使ってないんだけどな」
「でも術式は違うんでしょ? 見た事ないわよ、あんな複雑な物」
「あぁ、でもそれも登録公開するから」
「…ふぅ、間違いなくとんでもない金額になるわね」
*******************************
翌日、俺はセリスと二人で、セーリスのいるギルド・マスターの部屋に来ていた。
「…で? 何故この部屋に、お前が来るんだノート?」
「…うん。昨日はごめんなさい。」
「な!…何のつもりだ?」
「セーリスにだけ、大切な話があるんだ」
「にゃ! にゃにぅを?!」
「いや、実はさ──」
◇ ◇ ◇
「何故、本人が来ないんだ?」
「…どうしても外せない用があるとの事でして」
「ふむ…しかしだな──」
「難しいようでしたら、提出は王都で本人がしますので──」
「いやいやいや! わかった! 受ける! 受けるから!」
錬金ギルドのマスターは、慌てて申請用紙を受け取る。
何しろあのノートからの魔道具申請である。聞けばそれは新製品だと言う。本来なら本人が来て現物を検分してから、申請の可否を決めるのが普通だ。だが奴の場合は違う。今まで持ってきたものは全て驚愕に値する物ばかり。従来品であっても効率、品質は全てがトップクラスの物だった。そのノートが新しい魔道具を作ったと言う。どうやら通信機らしい。
魔導通信は現存している。だが聞けばその物は持ち歩けるという事らしい。流石にそんな物は聞いた事が無い。あの大きな魔道具をどうやって運ぶんだ? 疑問が次々湧いて来る。
「それで? 現物は何処に持ってきているのだ? 外か?」
「いえ、これです」
コトンとカウンターに置かれたのは、小さな小箱の様な物が二つ。
「ん? 何だこれは?」
「これが通信装置、【レシーバー】です。現状はこの二つで送受信します」
…は? これが通信装置だと?! そこで、初めて申請書をよく見る。
「い、い、移動型魔導通信機…手持ちタイプ!!!」
「持ち歩くって、荷車とかに積むんじゃなくて??」
「はい。手に持って、運べます」
──…錬金ギルドで絶叫が響いていた。
「ん? 何か叫び声が聞こえた様な…」
「そんな事は良い!! それよりも! お前、本気で言ってるのか?」
セーリスは真剣な表情でこちらを睨むように見つめてくる。
「う、うん。無理強いはしない。でも出来れば、了承してほしいんだ」
「……。」
無言で、長考するセーリス。
『セーリスよ。出来れば、受け入れてやって欲しい』
ずっと黙っていたセリスが、セレスと入れ替わって話し始める。
「始祖様…。それは神託ととっても?」
『いや…これは願いだよ。我とこのセリスの…な』
「…ふぅ、願い。ですか…それは叶えないと、いけませんね」
「…じゃぁ?」
「あぁ、分かった。了承しよう。お前個人の転移陣の設置を」
「ありがとう!! 大好き! セーリス!」
「ファ!? にゃ! にゃにぃぅを言うか! このバカぁ!」
なぜか怒られたが、なんとか部屋の隅にドアを設置し、次元スキルで
ドアの向こうに空間設置、小部屋を生成する。
「このドアは、魔紋登録者しか使えない。この先の転移陣は、俺の認知起動が必要。だからもちろん悪用は出来ない。陣の発動時は事前に、セーリスに伝える」
そう説明して作業を進める。作業中彼女とセレスは何故だか、口をパクパクさせていた。
作業を終えて、一息ついた頃、キャロとシェリーが部屋に来た。
「お疲れ様、どうだった?」
「…大変でしたぁ~」
ガバァ!
ふぉぉぉお! いい匂い~!
「ホント…ギルドマスター、最後には泣き出すんですもの」
「あぁ…錬金のか、わかる。分かるなぁ、その気持ち…私も今、絶叫したいもの」
そう言って、後ろのドアと手元の石板を見て震える。
「やっとサラの事に専念できると思ったのに! 気になって仕方ない!」
「大丈夫だよ。ドアは隠蔽してあるし、スマホは分解できない。滅多に使わないから気にしないで良いよ。それにこれで俺も安心できるから」
そう。これで何か緊急事態が起きても対処できる。図らずも出来た大事な場所。サラやちびっ子達、セーリスやアマンダさん達、カークマンに代官さんなど、ちょっと考えるだけで浮かぶ顔。出来る助けはしたいから。
*******************************
そして、その日はやって来た。朝から皆で準備した。食堂内では収まらず、廊下や外にまでテーブルや椅子を置いた。
「お~い、そっちにエール行き渡ったかぁ?」
「あるぞぅ!」
「こっちにくれぇ!」
「よし! じゃぁお願いします、隊長」
「あ、あぁ。え~。ンンッ! 今夜はノート達のパーティ送別会にお集まり頂き、有難うございます」
「おお! 良いぞ隊長!」
「頑張ってぇ!」
「カンパイはまだかぁ!」
「ンンッ!! 初めて私が、彼と出会ったのは──!」
「なげぇ!」
「ングング、プハァ、うめぇ!」
「アハハハもう飲んでやがる」
「……テメエらぁぁあ! 人が挨拶してる時くらい待てねぇのかぁ!」
「長いんだよ~!」
「料理が冷める」
「もういいじゃんか!」
「「「カンパ───イ!」」」
「あ! ゴラァァあ! 何言って」
──…カンパ──イ!
「あ~あ、なし崩しになっちゃった」
「まぁ、いいんじゃない?」
「飲めれば何でもいいわい!」
そうして始まった、送別会と言う名の宴会は、深夜まで続いたのだった。
◇ ◇ ◇
西側入門口。時間は朝の九時ぐらい。門を出てすぐの街道横には、人だかりが出来ていた。
「あちゃぁ~、集まっちゃったねぇ」
「たりまえだぁ!」
「お前の為じゃねぇ! キャロさんの為だぁ!」
「アハハハ!」
「ノート兄ぃ!」
「ノートしゃぁん!」
「ノートお兄ちゃん!」
「あ! 孤児院の皆まで! ありがとう!」
わちゃわちゃと、身体をよじ登ってくるちび達、お尻をぎゅむっと掴まれる。
「うひゃひゃひゃひゃ! くすぐってぇ!」
「はいハ~イ、皆~それは、男ですよ~。勘違いして掴まな~い」
「ひゃひゃ、あ! カサンドラさん!」
「は~い、お見送りに来ましたよ~」
「ふぅ、焦ったぁ、変なところに指入ってきた時は、どうなるかと思った」
「ブハっ! ヤバいのが居るのぉ」
それを聞いたキャロルとシェリーが、尻尾をシュッと下げる。
「皆さん! 短い間でしたが、お世話になりました。今生の別れをするつもりは無いです。また来ます。なのでしんみりは不要です!」
「おう! 待ってるぜ」
「分かってるよ!」
「お前が死ぬとは思えんしな!」
「ノート兄ぃ! 絶対また来てね!」
「ノート!」
「またな! また、飲もうぜ!」
「ノートしゃん! 絶対! じぇったい、またあいましゅ!」
「サラちゃん…うん。修行、頑張ってね。また逢おうね」
「はいでしゅぅぅぅぅううわぁぁああん!」
「「「ノート兄ぃぃぃぃぃいい!わぁああ!」」」
……あ~あ、ちびっ子達は結局泣いちゃったか。あ! そうだ!
「皆! 面白い物を見せましょう! 上を見上げてください!」
そう言って注目を集めて、上空を見上げさせる。
打ち上げたのは一見ただの火球だった。それはひゅう~と大きな音を出しながら、空高くに上がっていく。
──…ドォォォォォォンンンンン!!!
はるか上空で、その火球は色とりどりの光を放ちながら放射状に広がっていく。それは色んな色をした花びらのようで、咲いた瞬間に散り広がった。
「うぉぉおお!」
「凄~い!」
「きれ~い」
この世界に有るのかどうかは知らないが、大きく開いたその花の名はヒマワリ。
──俺の好きな花だ。
「ギャハハハハハハ! ノート! 何じゃこの魔術は! きれーじゃ!」
「すっご…」
「ヒマワリって花をかたどってみました。どうです? 綺麗でしょ?」
「「ヒマワリ…」」
「…の、ノートぉぉぉぉおお! このばかぁぁぁぁぁあああ! 街中騒ぎになるだろうがぁああ!」
「アハハハ! 隊長! 油断しましたね! じゃぁ皆さん! 行ってきます!」
魔導車に乗り込み、アクセルを踏み込む。
”ヒュゥゥゥゥゥウウウン!!” ”ザザザザァァァアア!”
タイヤが、街道の土を噛み締め、土埃をあげて車は進み始める。
「最後の最後まで、お騒がせ、しちゃいましたね」
助手席に座ったキャロが、しみじみ言う。
「あの花火、皆は嫌い?」
───最高!!
これで2章は完結です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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