第17話 Z世代は必須です
試走会からさらに数日。受付の引継ぎが終わったと二人から聞いた。
辺境拍との約束の日時は、結局過ぎてしまったが、代官様から理由を伝えて貰っておいた。なので、今は移動準備中。
エリクスの街までは、二カ所の中継都市を通る。カデクスとセデクス。カデクスまでは、約千キロ、ビックリの距離だ。なのでもちろん、次の街の周辺町に寄りながらの移動となる。全ての移動距離を計算した所、約三千キロだった。ほぼ、日本縦断の距離だ。日数は二十日ほどかかる。
「ふへぇ。改めて、世界の広さに吃驚させられるよなぁ。」
「そうなんですか?」
「あぁ。俺の居た世界は、この世界の十分の一程度だったから」
「ほう。じゃぁ、人も少なくて差別なんかも無かったろう?」
「ん? 人口は七十八億人くらい居たよ」
「はぁ!? そんなんじゃ、人まみれじゃろうが!」
「だったねぇ。住むところは、縦に伸びたもん。四十階とか普通だったし」
「はぁ~。想像もつかんわ。」
「ですよねぇ。人で酔いそうです」
セリスとキャロルは、げんなりとした表情でそんな事を言う。そうだな、都市部では色んな人がいて、満員電車では実際酔ったな。そんな事を頭の隅で考えながら、準備を進めて行った。
「送別会? あぁ、それは構わんが、何故、俺が挨拶を?」
衛兵詰所で、隊長を捕まえて、話をしていた。
「いや、初めは代官かなとか、セーリスさんにと思ったんだけどさ、この街で、一番初めに会ったのって、やっぱ隊長だし。」
「いやいやいや、そこはお前の直属の上司、セーリスだろう?」
「もちろんそっちも頼んでますけど、挨拶だけはお願いしたいなと」
「…なんだよ、挨拶って?」
「乾杯の音頭取り程度です」
その後幾つか、やり取りをして了承を貰った。
「ノート兄ぃ…行っちゃうんだ…」
「…ノートしゃん…グス」
宿のちびっ子達と、サラ達に囲まれる。
「ん、ん~。ずっと行くわけじゃないよ…」
「…でも、遠いよ? 直ぐには戻れないじゃん」
参ったなぁ…帰れるっちゃ帰れるけれど…それはさすがに言えないしなぁ…
「皆さん、大丈夫です。ノートさんはとても強いお方ですから。また会えますよ」
「ノートよ、何かないのか? こういう時に使える魔道具とか。」
「魔道具! 魔道具…う~ん…あ!! 魔導通信!」
「お! 何か思いついたのか?」
「キャロ! ギルドに置いてあったよね、魔導通信機!」
「え? はぁ、でもすごい大きな機械ですよ」
「よし! 皆! ギルドへ行こう! ちびっ子達は待っててね」
「という事でやって来ました、冒険者ギルド・マスターのお部屋!」
「…誰に言ってるんだお前は?」
「アハハ! セーリスさんは今日もエロくて、可愛いです! イエア!」
「誤魔化すな! ってか、褒めてないだろ!」
「そんな事より、セーリスさん!」
「貴様ぁぁああ! そんな事だとぉぉぉお!」
「魔導通信機、見せてください!」
「ふん! イ・ヤ・だ!」
「は? なぜ?」
「そんな事とか、エロイとか、お前は私を何だと思ってるんだ!?」
「そんな風に拗ねるセーリスさんも、可愛いですよ」
「こ、コイツ…急にどうして、そんなに堂々と」
「ふふふ、漢になりましたから」
「どう言う意味だ?」
俺の変貌ぶりを、キャロとシェリーが、セーリスに耳元で話す。
すると真っ赤になって、”不潔! いや、結婚してるのか、ぁぁぁあああ!”
と喚いて、結局”うわああああん!”と泣き出してしまった。
「うわ、どうしよう? ってか、何で泣くの?」
「仕方ないわよ。まだ、彼女は経験がないんだから」
「ファ?! まじで?」
「そうですよ。エルフとしては、ノートさんより年下なんですよ」
「え? そうなの? てか俺セーリスさんの年なんて、知らないし」
「確か今年で六十歳、じゃなかったかしら。エルフとしては、十八? 程度のはず」
「ファ───! マジかよ! 知らなかったよ! ごめんよセーリスぅ」
「うるしゃあい! うぁぁぁああ! バカぁ! ノートキライィ!!」
「セーリスや…お主…」
「ぁぁぁぁああん! おばあ様ぁぁァあ!」
そう言って、二人はなぜか、抱きしめ合う。
「ぉぉぉぉおセーリスぅぅぅぅうう! 不憫じゃぁぁぁあああ!」
「おばあ様ぁぁぁぁああ! 始祖様のせいだぁぁぁぁぁあああ!」
『な、なんだとぉぉぉおおお!』
あ、セーリスさん、本音言っちゃった。
気付くと、二人は取っ組み合ってしっちゃかめっちゃかになっていた。
”わぁあ! この!! この! ムキャ──!”
「わあ! やめてやめてぇ!」
なんとか、キャロとシェリーに止めて貰って収まったよ。
「もう、何やってんすか、大人げない…」
「だってだって! 始祖様がいつも…いつも、居たから…」
『何を言って居る! 大体、お前は乙女すぎる! 今どき、それでは─』
「いやぁぁぁあああ! もう言わないでぇぇええ!」
「…もう、あの二人はここに置いておこう」
「ですね。このままだと、聞きたくないことまで聞こえそうだし」
「ある意味、ちょっとかわいそうね。セーリス」
──そうっと扉を閉めて、通信機のある部屋に向かった。
「これが、魔導通信機です」
キャロが連れて来てくれた部屋は、六畳間ほどの大きさだった。その部屋の、半分以上を占める巨大な機械。
「でっか! これがそうなの?」
「はい、ここが受話部で、声が聞こえます。こっちが、送話部でこのボタンを押している間、話せます。後は、あの部分が書類の転写機になってます」
「元々は約千年以上前の、神殿遺跡からの発掘品なのよ。これはその模造品。だからここまで大きくなったの。本来はこの半分以下よ」
「いや、それでもでかいよ。はぁ…ここが、受信機部分かな? で、スピーカがこれか──」
俺は、基礎になっている部分を確認しながら、構造を見て行く。なるほど、トランジスタラジオの魔力版だな。電波を魔力波に変換か…。
よし! 構造解析完了! これならトランシーバーを作っても大丈夫だな。……そこに、モニター付けて…出来る!
「二人共、ありがとう。これで新しい魔道具作れるよ」
「へ? 見ただけですよ? もう分ったんですか?」
「うん、使われてる技術は俺の世界にも有ったからね。今はもう廃れたけど」
「…これ、一応、最新なんだけど…」
「あはは。…だったね。でも俺が今から作るのは、これの発展形だから、ちゃんと流通させても良いのを作るよ」
そう言って三人で宿に戻りながら、材料を集めて行った。部品は、商店通りの魔道具品店に有ったので、即購入した。宿に着いて、俺だけはキャロ達の倉庫部屋にこもる事にした。
「さてと、先ずは、こっちの世界で通用するトランシーバーからだな」
◇ ◇ ◇
そうしてサラが食事の時間を伝えに来た頃。
「…出来たぁー!」
”わひゃぁぁあ” ”ドテン”
「痛いですぅ!」
サラに文句を言われながら、食堂に行くとセリスが、ぷくーとなっていた。
「ゴメンって。忘れてたわけじゃないから」
「い──や、絶対忘れてた! それか見捨てて行ったんじゃ! この薄情者!」
「セーリスさんをあのままには、出来なかったしセリスの孫じゃん」
「ふん! 確かにそうじゃが、様子くらい見に戻るのが普通じゃろ?!」
「…なんか、顔出しにくくて。でもおかげでほら、出来たよ」
そう言って、手のひらに乗る程の黒い物体を見せる。
「…なんじゃこれ?」
「フフフ…これぞ、世界の革命…移動型魔導通信機! テッテレ~!」
猫型風に掲げて見せるが、反応がない。どうした? と思って見ると全員固まっている。
「「はぁぁぁぁああ!??」」
「え? 通信機? これが? この小さいのが?」
「なんじゃとぉぉぉお!?」
「ノート君…貴方ってホント…やりすぎ」
──い、いや、コレはまだ声だけの奴なんだが。
皆で、ワイワイと説明を聞いた後、二台使ってやり取りの実践をする。
「ホントだ! 聞こえる!」
「もし! あ! 聞こえるよ!」
「凄い凄い!」
う~ん。こっちのスマホタイプはどうしよう。メインはこっちなんだけど。
「ん? その薄っぺらいのはなんじゃ?」
「あ、セリス。いやねあれは、あくまでこっちの世界の発展形だから、公表して、皆に使ってもらいたいんだよ。で、本命はこっちなんだ。これは──」
「ん? えいぞう? って何じゃ?」
──そこからか…。
「じゃぁ、こっちを持って音が鳴ったら、この部分を触ってね」
そう言って、俺は食堂を出て行く。倉庫部屋に着いた所で、タップ。
『…お? なんじゃ? 何か見え…る!…何じゃ!!』
「お~い! こっちも見えるよ。これは声と同時に映像も送れる装置なんだよ」
『な、な、何じゃこれぇぇぇぇぇぇええええええ!!!』
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