第16話 新たに手に入れたモノ
…チュン…チ…チチ…。
「…んっぅ…朝ぁ?」
「ンゥ…ノートさぁん」ムギュウ…。
はうあ! 右半身がやわらけ~!
「ンフフ、おはよう、ノート君…チュッ」
「んむぅ…はぁ。おはよ、シェリーさ──」
「んもう、シェリーで良いわよ」
おうふ! 朝っぱらから濃厚ちっすですぅ!
「あ、ズルい! ンンッ!」
キャロ! 息が! 止ま…ブハッ!
「ムフー! おはようございますぅ」
──…おはよう! ニュー俺! 正に色々剥けた俺! ヒエア!!
はい! 頑張りました! 黄色い朝日が嬉しいです! 腰はガクガクしてるけど。全てがキラキラ光ってます! ああ! 世界ってすんばらすぃ~~!
「さぁ、顔を洗って食事にしましょう。今日もギルドに行かないと」
「はぁい! ノートさん! 行きましょう!」
「はい! 清々しい朝です! 洗顔をして、今日も一日張り切って行きましょう!」
「フフフ、まだまだ、元気残ってるのね」
……ちょっと、悪寒が走りました…。
「昨日は、お楽しめましたか?」
「…くぅぅ! 惜しい! ひっじょうに、惜しいよその言葉」
セリスの嫌味は聞き流しながら、皆でそろって食事をする。
今日の予定を聞くと、キャロとシェリーはギルドへ。セリスは特に用は無いらしい。
「ん~。特に俺もないんだよなぁ。あ! セリス、依頼でも見に行かない?」
「ん? 構わんぞ。素材の追加は有ればあるほどいいからな」
「決まりだな。じゃぁ、皆でギルドに行こう」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの朝は、人でごった返している。依頼票の争奪戦が、もっぱらだ。そんな人混みに混じるのは嫌なので、セリスと二人、休憩所で時間を潰している時だった。
「あ! ノートさんですぅ! まだお仕事、行かないんですかぁ?」
サラが、セーリスと共に、休憩所にやって来た。
「お! サラちゃん、もうこっちに来たんだ。ギルマスもおはようございます」
「あぁ、おはよう。サラ、飲み物を選んで来なさい。」
「はいですぅ! 師匠はどうしますか?」
「ん? 私は自分で行くから、構わない」
「はぁいですぅ」
「セーリス、あの娘どんな感じじゃ?」
「相性は怖い程良いですね。間違いなく【眼】のおかげでしょう。何しろ、直接話せますし。ですから今はもっぱら、魔力量の増加がメインですね」
「なるほどなぁ。補助の魔道具の調子は?」
「助かっていますよ。おかげで、自身の状態把握が、判り易いみたいです」
「それは良かった。魔力草があれば、補充が効くからな。気力切れには注意じゃ」
「はい、ありがとうございます。留意します」
その後、飲み物を持ってきたサラと4人で、雑談の後に依頼票を見に行く。
「フム…めぼしい物は無いのぅ」
「だねぇ。てか、常設でいいんじゃね? 遠出はしないって言ってあるし」
「じゃなぁ…適当にやるかねぇ」
「まぁ、何かあれば連絡来るし、生活に困るほど金欠でもないしね」
「お前の錬金と薬師だけでも、食っていけるしな」
「そこにばっか、頼るなよ」
「へいへい。リーダーの仰せのままに…」
「残念ビバエルフだなぁホント」
「何をお! ビバって何じゃ!? 何か腹立つんじゃが!」
「はいはい。行こうぜ」
「くぅぅぅ! 何とも言えんこの屈辱感! お主をいつか、デストロイじゃ!」
「バカな事言うんじゃねぇ! シャレにならん事言うな!」
ワイワイ言いながら二人で結局、常設依頼をこなしに行くのだった。
そんなこんなで、あっという間に日にちが立ち、今日は工房街に来ていた。
「こんちわ~」
ヘイスの工房は、相変わらずに人がいない。
「おう! 来たね。待ってたよ。昨日完成したぜ」
「お! 丁度良かったって訳だ。どんな感じ?」
「んしょ…ほい、こいつがドラゴン素材のガントレットだ」
「おお! かっけー!」
見た目は紺色、重量感のあるゴツゴツとした拳部分、蛇腹タイプの籠手パーツ。ナックル部には仕込み鋲。
「注文通りに、暗器も仕込める仕様にしておいたよ。後は嵌めてのお楽しみだ」
「ではでは、早速…”カシュン”おおお! 鋲が飛び出るぅ!」
「ハハハ、まだまだ! 次は魔力を通してみ」
「おし!…”ギィイン!”うはぁ!ヤベェ!マジかっけー!!」
「アハハハハ! そうだろう! 形だけじゃねえ、硬度も半端なくなるぜ」
ヘイスと二人キャッキャ、キャッキャと騒ぎながら、ガントレットを受け取った。そうしてその二日後、遂に魔導車完成の連絡が来た。
「どうして、街の外での受け渡しなんじゃ?」
セリスがぶちぶち、文句を言いながらも付いて来た。今日はキャロとシェリーも、一緒に来たので四人全員で居る。
「ん? あぁ。恐らく街中だと、騒ぎになるからだと思う」
「は? 魔導車なんぞ、そこら中に走っているじゃろ?」
「まぁまぁ、待ってれば分るよ」
そうして待っていると、門の向こうからどよめきと共に、それは来た。車体の全ては鋼板で覆われ、前方は下の半分がせり出し。ぐるりと窓が付いている。
タイヤは大きいタイプの物が前に二輪、後ろは二軸の四輪で、その威容は圧倒的で頑強に見える。
「な! 何じゃあれは?」
「すっごい…大きい…」
「強烈ね…」
三者三様の答えが聞こえるが、キャロその言い方、夜にも…やべぇ。まぁ、ぶっちゃけ六輪駆動のハ〇ーだ。所謂、ハン〇ータイプの軍用車の乗用タイプ。
地球人が見れば一発で分かるが、この世界では見た事はない。魔導車と言えば、箱馬車に動力部をくっつけただけの、クラシックカーだった。
──あんなもので、長距離走覇なんてしたくなかった。
だから、ガントに懇切丁寧に教えて、完成させた。内装については、まだだが、プランは既にできている。空間拡張に、時空間固定。これらが有れば、どうとでもなる。キャンピング仕様に仕上げるだけだ。
「おう! 待たせたか?」
「いえ、大丈夫です。どうですか? 試運転した乗り心地は?」
「完璧だな。しかし本当に公開してよかったのか? この技術があれば、独占できるぞ」
「それこそ、ゴメンですよ。絶対面倒事になるから。それより、コイツをはじめに、もっと乗り心地を追及したり、四輪にして豪華にしてみたりと、色んな物が見たいです」
「おう! それは任せろ! 既にドワーフ連中には、声を掛けてある。魔導車協会にもな。お前に貰った設計図面。早速活用してるぜ」
「はい。よろしくおね──」
「やっぱりノートか!」
「へ? どうしたんですか? 隊長」
そこには、何人かの衛兵を連れた、カークマンが立っていた。
「いや、門で、騒ぎが起きてるって言われて来たら、何だこの、鉄の塊は?」
「魔導車です」
「は? これがか? 見た事ねエ…って、あんた、ガントじゃねぇか?!」
「なんじゃ? 鼻たれカークか? お前もちょっと見ない間に偉くなったもんじゃのう」
「おいおい! 何時の話しだよ! 二十年以上前の話しだろ!」
「儂ら長命種にとっては、この間と変わらんわ!」
「ヌググッ…クソったれオヤジが! で!? これはホントに唯の、魔導車なんだな?」
「何を言っとる! またゲンコ食らわせるぞ! そうに決まっとるわ! 協会にもきちんと登録済みじゃ!!」
「乗ればいいじゃん。今から試走するんだし」
「そうじゃの、儂もはよう乗りたい!」
「「はい! 乗りましょう!」」
「え? えぇ? ちょ、ちょっとま、待っておい! ノート! ちょまてって!」
運転席には、ガント。助手席に俺。後部は二列で、セリスとカークマン、最後部にはキャロルとセーリスが、着席する。
「良し! では試走スタート!」
”ヒュゥゥゥゥウウウン!”と魔導モーターが駆動し、滑らかに走り出す魔導車。
「おお! スムーズ! 出だしはいいね!」
思わず声に出してしまう。電動自動車のスタートと同じ感覚! 素晴らしい!騒いでいた後ろもすぐに、静かになる。
「おお、走ってるのか? これ」
「振動が来ないぞ!?」
「凄いねぇ、これもノートの発案かい?」
「…ぉぉお、何だこの車…スゲエ…」
「では、スピードアップじゃ」
”ヒュイィィィィイイ“
「おっほう! 良いね良いね! ショックが良い仕事してるねぇ!」
気づくと景色が後ろに飛んでいく。体感速度は八十キロ程度。
「ひゃぁぁぁああ! は、速い、速すぎぃぃいい!」
「アハハハハは! 凄いのぉ!!」
「「……の、ノートさん(君)大丈夫なの?」」
「問題ないよ。計算上はこの倍近い、スピード出せるから」
「「「それはやめて!!」」」
こうして、試走会は無事? 終了した。
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