第14話 超展開!
「お前本気か? どう扱えばいいのかも分からん物で、どう作れと」
ヘイスはそう言いながらも、目は爛々と輝き、牙を手にする。
「か、軽い!! え? どうしてこんなに軽いんだ?!」
見た目と従来の牙の感覚との差異に驚いたヘイスは、牙の根元を見る。そして、構造に気づいて更に目を見張る。
「こ、コレ、穴?!」
「そうなんだよ。多分なんだけどさ、ドラゴンってのは、ブレスを吐いたりするだろ? だから口腔内って、常に魔力が循環か、充満してるんじゃないかと思うんだよ。ちょっと貸してみ」
そう言って牙を受け取り、何もしない状態で牙を叩く。
”コン!”と、小気味よい音が鳴る。
「これが、素の状態。で、この穴に向けて魔力を意識すると」
”キ──ン!!”
「こうなる」
「つ、つまりこの牙は、魔力を流すのが前提の、素材なのか?!」
「そう! アンタにぴったりの素材だろ。それにこの牙、魔力が通ってない状態なら、普通の道具で加工できる」
「…フフフ、ハーハハハハハ! すげえ! 良し! 任せろ! やってやる!」
そうして、再度細かい仕様などの打合せをして、店を出る。
ガントレットと、素材を預けて店を後にして通りに出ると、丁度昼頃になっていた。工房からの槌の音は減り、通りに出歩く人が増えていた。
そんな人たちに紛れながら、食料品のある通りへ足を向ける。この世界では、三食の習慣らしく、今の時間帯には飯屋に入る人、屋台で軽食を頼む人などで、結構賑わっていた。
色んな匂いに釣られながら、道を歩いていると、見知った人を見つける。
その人は、屋台の一つで、沢山の串焼きを購入していた。
「アマンダさん! 今からお昼ですか?」
「フオ! びっくりした! なんだ、ノートか。お前も昼か?」
「いえ、たまたまです。工房に行ってたんで。しかし凄い量食べるんすね」
「んな訳ないだろ! 差し入れだよ。暇なら付き合え。荷物持ちでな」
「え~。串焼き奢ってくれたら、いいすけど~」
「…お前は食いしん坊か! まぁいいや。どうせ買うんだから。」
そう言って、何件かの屋台で串焼きや、パンを買い込んでいった。
「…で、どこに差し入れするんです?」
「ん? あぁ。この先にある、教会付属の孤児院さ」
「孤児院…」
「あぁ。アタシはそこの出身なんだよ。アタシは災害孤児って奴だったんだ」
この世界には、いろんな理由で親を亡くす子がいる。地球でもそうだったが、事故や、自然災害に戦争、略奪や誘拐。これは、向こうでもあった。だけどこっちではそれ以外にも、魔獣被害やスタンピードなど。様々な理由で路頭に迷う子供が出来る。
「もう二十年以上昔だ。この街の近くにあった、開拓村の傍で起こったスタンピード。それに巻き込まれて、村は壊滅。アタシは偶々行商に付いて来て居て、難を逃れたんだ。だけど、村がなくなって帰る場所が消えた。途方に暮れた時、教会が拾ってくれたんだ。そのお蔭で生き永らえる事が出来た。スラムに行った奴も居たからな」
「…そうだったんですか」
「あぁ。だから、今は時間が有れば、こうして出来る事をやってるって事さ」
「…アマンダさんって、ショタじゃなくて、ただの子供好きなお姉さんだったんですね」
”ボカっ!”
「痛い!」
「バカぁ!! んな事、こんな道の真ん中で言うんじゃないよ!」
そう言って、アマンダはズンズンと歩いて行く。
商店通りを抜けて幾つかの通りを渡る、住宅街が見える頃、その端辺りに教会が見えた。
まず目に入ったのは尖塔だった。大きさはさほどではない。幼稚園くらい? その、教会を横目に、アマンダは通り過ぎていく。
「あれ? ここじゃないんですか?」
「ん? あぁ、孤児院の入り口は裏側だよ」
そう言って、教会の塀沿いに歩いて行く。教会に併設され、同じ敷地では有るが、教会とは違い、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「お~い! ちび共! 飯持ってきたぞ~!」
門扉のない入口で大きな声を掛けて、中に入っていくアマンダに付いて行く。
門を抜けて敷地内に入ると、剥き出しの地面になり、右手には広場風の土地。左側には洗濯場なのか、物干し竿の様な物が見えた。正面には、箱物の様な真四角の建屋。玄関口の両開きの扉が、ぎいと、軋みながら開く。
「「「アマンダぁぁぁあ! おかえりぃぃぃぃいい!」」」
わちゃわちゃと、一斉に子供たちが飛び出してくる。
「おお! ただいま! 元気そうだな!…あ! こら、ケイン! いきなりしがみつくな!」
一人の、小さな男の子が、アマンダの太腿辺りに齧り付く様に引っ付くと。それを合図にちびっ子軍団がわちゃわちゃ、彼女をもみくちゃにする。
「おい!…こら、あ! おいだめだ、っちゅうに! うきゃぁ! 誰だ!ケツ触ったのは!?」
「はいはい。皆ぁ~。男の欲望剥き出しにしちゃだめですよ~」
…は? だれだ? トンデモ発言してる人が居るぞ!…
「…あら? そちらの方は…アマンダの、コレですか?」
そう言って親指を突き立て、こちらに歩いて来るのは、どう見ても修道服を着た女性。所謂シスターだ。身長は二m程、胸も大きい。だがあれは、大胸筋だろう。しかし女性だ。顔は綺麗寄りに、可愛い。だが何故だ? 足がすくみ、背筋が震えるのだ。
「おや? どうしました? お顔がすぐれませんよ?」
「い、いえ! だ、だだだ、だいじょ~ぶです!」
「おい! カサンドラ! 先にこっちを助けろ!」
「ふぅ。アマンダはやわになりましたねぇ。その程度で、動けなくなるなんて。ゴブリン程度にも負けますよ。…セイッ! ハッ!」
瞬間、突風が舞い、アマンダ達を錐もみにする。
「あ! あぶな…い!?」
風がやむと、綺麗に整列したちびっ子達と、アマンダが居た。
「大丈夫ですよ。傷一つありません。さぁ、中へどうぞ」
…風の○ューイ…頭には、それが浮かんだ。北〇の拳。良く分かんねぇけど。この人極めてる。やべぇ…なんだこの孤児院、大丈夫か? 変な仁王像とか、祭ってないだろうな。そんな、訳の分からん事を考えながら、ついて行った。
中に入って、やっと落ち着く。中には二人別のシスターが居て俺達に、挨拶をしてくれた。どうやら彼女は特別らしく、元冒険者の肩書が有った。アマンダとは、その頃の仲間らしい。
シスター達に、持ってきた食事を渡し、皆で食堂へ移動する。
「は~い皆さん。今日はアマンダさんが、私達に施しをお恵み下さいました。皆で、お礼をしましょう」
「「「アマンダお姉さん、どうもありがとうございます。光の加護の在らん事を」」」
「おう! 皆にも、光の加護の在らん事を」
「では、祈りましょう。神よ、本日も我らに糧をお与え下さり、感謝します。我等は、神と精霊と共に。日々、忘るる事なくここに祈りを捧げます」
「「「神よ、本日も我らに糧をお与え下さり、感謝します。我等は、神と精霊と共に。日々、忘るる事なくここに祈りを捧げます」」」
そして、食事が始まった。シスターはあっちへ行ったり、こっちへ来たり。まぁ、小さい子供の食事はどこも同じだ。取り合いしたり、こぼしたり。その都度、シスターが傍に行き、面倒を見る。ある程度年嵩になると、手伝いをする。
「へぇ、じゃあカサンドラさんは、怪我で、この教会に来たのが縁で?」
「ええ、アマンダとパーティを組んで居た頃にね。背中の筋を痛めて。それをカバーして居たら、他の場所もって感じで。積もり積もった末の傷だったから完治は出来なかったの。でもそのお蔭で吹っ切れたわ。正に神の思し召しって感じでここに」
「そうなんだぁ。とても今怪我で動けないようには見えないけど」
「そりゃもちろん、鍛錬は欠かして無いもの。此処に居る子達も、何人かはギルドに送ったわ」
「あ! アマンダさんによく絡んで、一緒に居るモノノフ!」
「…モノノ? なに?」
「いやいや、何でもないです。気にしないで下さい」
そんな感じで、皆と話していると、メニューがピコピコしている。
…メール?
そっと皆から離れて、開封してみる
やっほ~! ノート君元気してるぅ?
ねぇ、今教会でしょ!
お祈り来て来て!!
今すぐなう!!
…なんじゃ? マリネラ様? まぁそうだな、せっかくだし。
「あのぉ、俺、教会でお祈りしてきても良いですか?」
そう聞くと、シスターの一人が「はい、ご案内します」と言って連れ出してくれた。
孤児院の通路を通り、教会の裏口から直接礼拝堂へ。街の礼拝堂とはいえ、其処はきちんとされていた。長椅子が並び、真ん中を一本の絨毯が敷かれ祭場へ真っすぐ延びている。主祭場は尖塔の手前にあり、奥にご神体が祭られていた。
「こちらで、膝を折り、祈りを捧げてください」
シスターはそう言って、俺に道を開ける。
「ありがとうございます」
一言伝え、跪いて両手を顔の前あたりで組み、目を閉じて祈る。
…イリス様、その他の皆さま、ノートです。ご報告が遅くなり、ごめんなさい。この世界に来て、ちょおっと、面倒に巻き込まれて──。
「ホントだよねぇ~。最初の街でドラゴンと戦うとか、どんだけ~って感じだし」
…えぇと、何故か、嫁さんがいきなりふた──
「そう! それ! やったねぇ~モフモフゲットだぜ! って感じじゃね?」
「…ノートや、もういいじゃろ? 解っとるんじゃろ?」
…あぁ、グスノフ様! 夢と言って欲しいです…。
「ヌハハハハ! 大丈夫じゃ! ここには、精神しか来とらん。下とも時間が違うしの」
「もう! 何で!? 何でこんな超展開にするの!? てか、何でここに呼ばれたの?!」
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