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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第2章 王都への道は遠く
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第13話 思い出の欠片



「…行って、しまうんだな」


 ギルドマスターの部屋で、セーリスは寂しそうに呟く。


「セーリスはどうして嫌なの? そこまで彼が嫌いなの?」


 キャロルの真摯な問いに、彼女は一呼吸おいてから答える。


「フム…嫌いとは言わない。でも()()()()だ。好意は有っても()()()()()()()。これもある意味、()()()()なんだろう。()()という事だけに、魅力は感じないのだ。もっとゆっくり()()()()と思う」


「…そっか」


「それに今は()()()()()。彼女を育てる事が、何より今は一番なんだ」


 そこには偽りのない、真っすぐな瞳で二人を見るセーリスがいた。その視線を受けた二人は、肩をすくめるしかなかった。


「──…解った。じゃぁ()()()()。貴女は()()()だもの。私達より()()()()()。そして恐らく彼もそうでしょう。彼の見た目はヒュームだけれど、彼にそれは()()()()でしょうから」


「シェリー! それは……」


()()()()わよ。キャロルだって勿論。私達は、強者に()()()に惹かれるわ。でも彼の中身は決して()()()()()()。いえ、()()()()()んだと思う。お伽噺に聞いた勇者様は、全てが()()()()。でもそれが()()()かどうかなんて、分からない。ノート君が、勇者になるかは知らないけれど、私は(かたわ)らで()()()()


「セーリス。私達は、シェリーと()()()()()()の、国を出る時に。生涯二人で、忠誠を尽くすのは、()()()()()()()て、()()()()()()にしようって。彼がどんな時に怒るか、どんな時に笑うか。出会って間もないこの短期間でも、嫌と言うほどわかったわ。彼は常に子供達。それを通して、()()()()()()()()()()。私は、彼の強さと同じくらいの、優しさが好き。だから私は彼を()()()()()


 ──…二人の言葉は、セーリスにとって()()にも聞こえた。


 見続け、支え続ける。それを生涯かけて──。今の私には絶対言えない言葉だ。彼女たちと知り合った時、彼女らの中にあったのは、憎悪と復讐だけだった。今の彼女たちからは、欠片もそれは感じない。


「…わかった。もう泣き言は言わない。私も真摯に考える。先の話になるけれど。…よし! しんみりするのは、此処までにしよう。引継ぎの事だが──」


 そうして三人は、夜明け前まで、()()()()()を続けていた。



*******************************



 自室に戻って、ベッドに転がる。


 両手の甲に見える紋、狼と虎。……結婚か。いざ、ハーレムになると、戸惑いがある。二人の事、為人(ひととなり)や、性格なんかは、なんとなくの()()でしかない。


 ビーシアンとしての()()。頭では理解するけど、気持ち的には追い付かない現状。お見合い結婚とかが、心情的に近いのかなぁ等と、ぼんやり思う。


「駄目だ! それは失礼だ。あの時誓いの言葉を聞いたじゃんか。応えるとか、烏滸(おこ)がましいじゃん! 思いっきり好きになればいい!」


《どうした!? いきなり起き上がってそんな事》


「あ、そか。ハカセが居たんだった。あはは、いやぁ、いきなり()()とか実感なくてさ、モヤッとしてたんだけど彼女たちに失礼だと思って…ねぇハカセ…」


《…なんだ?》

「…へへ。俺、こっち来て色々、巻き込まれたりもしたけどさ。良かったよ」


《なにが?》

「なんだかんだ言って楽しいんだよ。充足感って言うのかな? ずっと、何かが足りて無かったものが、今は足りた感じ?」


《…満足とは違うのか?》

「ん? あぁ、似てるけどね。それとは意味が違うから。それはこれから頑張って、()()()()()()のが良いかな」


《…そうか、今は、揃ったという感じか》

「あ、それが()()()()かも」


《そうか。これからの旅路にもか?》

「ん~。具体的に聞かれると分からないなぁ…あふわぁぁぁあ…眠い…お休みぃ…」


《眠ったか…はい、セレス様…いえ、特には…はい、は──》



◇  ◇  ◇



「***は、どんな花が、好きなの?」

「私が好きなのは、フリージア…***は?」

「う~ん、ヒマワリとか?」

「へぇ。…一途、なんだね」

「え? なにそれ」

「フフフ、花言葉だよ。ヒマワリの花言葉は、()()()()()()()()()()()や、()()なんかもあったかな」


「ふ~ん、詳しいんだなぁ。じゃぁ、フリージアは?」

「…それは、***に調べて欲しいかな」

「うぅ…わかった、じゃぁ今度、調べる」

「えぇ~、出来れば、()()()()()()()()()欲しいなぁ」


「うわ、やっぱり、そっちが目的だったのかよ~」

「ウフフ。欲しいなぁ…ダメ?」

「うぐぅ…わかった、わかったよ、今度、今度な。今日は無理!」

「やった~! あ! ちゃんと花言葉も調べてね?」

「うへぇ~、ハードルたけぇ~」

「フフフ!約束だよ…約そ──…」


 そう。彼女との約束。花が好きで、花言葉を調べて…。


 守れなかった、約束と果たせなかった、願い…。


 消えぬ想いと、消せない傷…押し殺して、彼女の()()()()()()のに…。


 時の流れは残酷で。戻れぬ道と、進んでしまった道の果て。


 ──…俺は、どこへ向かうのか…──。

 

 気づくと夜は、明けていた。


「…何かの夢を見てたような、感じがするんだけどなぁ」


 ぼうっとする感覚の中、そんな事を呟く。


「ノート兄ぃ! もう起きた?! ご飯、出来てるよ!」


 ユマの声に、頭を軽く振ってベッドを出る。


「はいよ~。顔洗ってから行くぅ~」


 返事をして部屋を出て行く。


《……今は、まだ…か》



◇  ◇  ◇



 食堂に顔を出すと、3人はもう席についていた。


「「「おはようございます」」」

「お、おはようございます、早いっすね」


「お前が、遅いんじゃ! ムグ、もちぃとムグ、早くングッ、起きろ」

 セリスがパンをモグモグしながら話す。


「もう、セリスさん。食べるか喋るかどちらかにしてください」

 キャロルが、セリスの飛ばしたパンくずを拾いながら叱る。


「キャロは、朝から細かいのぉ…サラー! パンをもう一つおくれ~」

「はいですぅ!」

「ははは。朝っぱらから、元気ですねぇ」


 席に着くとすぐにサラが、セリスのおかわりのパンと、俺の食事を運んでくる。


「ノートさんも、おはようですぅ」

「おはよう、サラちゃん。修行はどう?」


「はい! 頑張ってますぅ! 師匠と今日も、精霊ちゃん達に会いに行くですぅ!」


 元気に返事をして、戻っていくサラ。そうして、皆で食事をしながら、今日の予定を決めて行く。


「じゃぁ、私は魔導車の進捗を見に行ってから、ギルドに行くわ。引継ぎと残務処理をしないといけないから」


 シェリーが言うと、キャロも一緒に行くと言う。


「私も、シェリーと一緒にギルドに行きます。彼女の書類整理の間に、受付の引継ぎを」

 補佐をすると言い出したので了承する。


「儂は、店の引き渡しに行ってくる」

「あれ? あそこ、賃貸だったの?」


「そうじゃ。で、出発までは此処に泊まるでな。」

「分かった。じゃぁ、今日は皆別行動って事で。」


「何かあったら、念話くださーあ! シェリーの分()()だった」


「期待してますね、ご主人様」

「あは! ハッ! 朝からヤバイ! シェリーはリクエストある? 耳に着けるんだけど」

 そう言ってキャロルのカフスを指さす。


「…同じものでお願い。色だけ変えられる?」

「ん? いいよ。何色がいい?」

「そうね。キャロはシルバーだから、私は白金が良いかな」


「了解。今日中には渡すね。あ、後、その呼び方、やめて欲しいんだけど」

「「??」」

 キャロとシェリーがきょとんとする。


「…なんか嫌なんだ。普通にノートで良い。君達を従えてる訳じゃないんだし」


 二人は顔を見合わせ、笑顔になると、声を合わせて答えてくれる。


「「分かった(分かりました)ノートさん」」

 

「うん! ありがと。じゃ! また後でね」


 そうして各々、宿を出て行く。


 俺は鍛冶工房街に来ていた。


 相変わらず響く槌の音、()()()()()()、カンカン高く伸びる音や短く、響く音。何故か、心地良く響いて来る。そんな音をBGMにしながら、ヘイスの店に辿り着く。間口は狭く、気にしなければ店とは気づかない。ひっそりと言う言葉が似合う、そんな店。


「おはよう~っす!」


 店の扉を潜ると、状況は一変する。空間の拡張された部屋。右手にカウンターがあり、左には様々な武具が並ぶ。カウンターの向こうには立て掛けられ、整頓された剣や槍。ショーケースのような架台には、各種、ナイフや短刀、魔導武具が並ぶ。


「はいよ~。お?! 来たかドラゴンスレイヤー! 待ってたぞ!」

 カウンター横の工房出入口から顔を出したヘイスが言う。


「な、なんでそれを?!」

「アハハ。うちは冒険者ギルド()()()だぞ? セーリスだって来るんだ。他言無用は知ってるさ。でも今は、アタシとお前さんしか居ないんだ。アタシの武具はどうだった?」


「…ふぅ、まぁ、良いか。それなんだけどさ」

 言いながら、壊れたガントレットを見せる。

「ありゃぁ! また、信じられない壊れ方だねぇ。どうやったら、こんなになるんだ?」


「…顔面、ぶん殴った」

「…はぇ? 顔面? なんの?」

「…ドラゴン」


「ブハっ!…アハハハハハ! マジでか?! まぁ、これは、そう言う武具だけど、グクッ…アハハハハ! で、どうだった? 感触は?」

「超~硬かった」


「ダ~ハハハハアハハハハ! ヒーヒー!」


 壊れるんじゃないかと言うほど、カウンターを叩きながら豪快に笑うヘイス。


「アハハ! すげ~な! マジ尊敬だわ! そんな感想初めて聞いたよ。ドラゴン殴った奴も()()()()()し」


「アイツさ。ブレス吐きやがって。村に直撃コースだったんよ。だから、顔の向き変えたくて、飛び掛かってぶん殴ったんだ。でもさすがに硬くてさ、ひっくり返すのが()()()()()だったよ」


「だははははは! 何だその感想!? てか、()()()()()()()の?! アンタ()()()()だな!」


「もういいじゃんか! それよりも! コレ、直る?」

「…無理だな、()()()()()()。作り変えた方がはやい」


「だよなぁ…でさ、物は相談なんだけど()()、使えないかな」


 そう言って、俺は異界庫から五十センチ程のドラゴンの牙を、カウンターに乗せる。


「うっひゃぁああ! なんてもんを出すんだこの野郎!」

 

 何故か理不尽に怒られた。…解せぬ。







 


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