第12話 思い、想われ。
「──は、話を進めても宜しいかな?」
代官やカークマンたちが、セレス様と俺を窺うように聞いて来た。
「あ、すいません。セーリスさんも戻った事ですし、お願いします」
『はぁ。ふぅ。うん、悪かった、進めてくれ』
「‥では。えぇ、どこまで話しましたっけ?」
カークマンが、いきなり躓いたが、コンクランが補足する。
「隊長、そのタリスマンです」
「あ! そ、そうでした。このタリスマンの件と、瘴気石の両件については、辺境伯様の預かりとなりました。国家案件として、動き始めます。そして彼らについても、なるべく早く、エリクスに来て欲しいとの事です。どうやらドラゴンの件も、既に国王の耳に入っているそうです」
「…やはり、そうなりますか。いやはや、ノート君。建国史上初の、ドラゴンスレイヤー誕生ですね。」
「え? それはちょっと…何と言いますか、固辞したいです」
──…冗談じゃない。面倒事は御免だぞ。
『面倒では有るが、後々楽になるとも言える。いざとなれば、我も居る』
「…心の文句まで、聞かないで! 俺のプライバシーは、どこ行った!?」
「「「ぷらいば・・・ってなに?」」」
「おうふ」
「とにかく、報告は以上となります。次いで、代官様には連絡事項が──。」
そこからは、街の状況整理や、事務方レベルの連絡事項が続いた。
「はい。了承しました。書類関係は、どのように?」
「は! それにつきましては、冒険者ギルドの物は一旦こちらで預かり、摺合せの後、纏めてお持ち致します。」
「結構。では私達は戻ります。後はお願いしますね」
なんとなく、連れ立って出て行く二人を見送っていると、不意に左右から圧がかかる。
「むふふ、ドラゴンスレイヤー様。ムフー!」わっさわっさ!
「…宜しくね、ご主人様」スルスルっと巻き付く尻尾。
やべぇ! 何がって言えないくらい、やべえ! 理性くん! 居るか!? どこだ!?
「ンンッ!! あ・と・に・しろ!」
「…で、ギルドの件だが。セーリス、どうするんだ? シェリー嬢まで抜けるとなると、受付の方は、どうするんだ?」
「…はぁ~。この二人の事は知っていたからな。手は廻してある。だが、ホントに婚儀までするとは、思わなかった」
『仕方あるまいて。ビーシアンは、結婚そのものに意味は無いからな』
「はぁ。そんな物なんですか。じゃあ、式とかは?」
『ある訳ないだろう、後は床入りだけだ』
「「「は!?」」」
カークマンやセーリスに混じって、俺も同時に叫ぶ。
『ん? 当然だろう。この娘達の目的は、子孫繁栄の為なんだから』
「いやいやいや! え? ちょいちょい待って! 少しはラブラブ期間が欲しいです!」
「「ずっと、らぶらぶしますよ」」
「ぁぁぁぁあ!…はい、ありがとです!」
『まぁ、それもこれも後にしろ。先に話しておくべき事が有る。これの事だ』
そう言うと、セレス様は、幾つかの魔石を出してきた。
──…それは、スタンピードで、出たモンスターたちの魔石だった。
『これは、今日狩った者達の魔石。でこっちが、ギルドに在った、同じ種の魔石だ』
「…大きさが、全然違う」
『そうだ。大物もこいつらが狩ったので、何とも言えないが、恐らく通常よりかなり弱かったと思う。あの瘴気石、一つでは、限界が有るやもな』
「あぁ。そう言えば、そんな事言ってましたよ、補充がどうのこうのって」
「なに? じゃあ、あの石は魔素や瘴気を、追加できるって事か?」
カークマンが、吃驚して聞いて来る。
『…やはりか。……ノート。幾つ確保した?』
「あぁ。えぇっと、六個ですね」
「お、おい、お~い。俺は、初耳なんだが? ねぇ? ドユ事かな?」
こめかみを、ビックビックさせながら、笑顔で迫る隊長。
「あ、あはは、でしたっけ? ま、まぁこれは、セレス様案件という事で」
「ぬぐぐッ…お前…ずっこいぞ!」
『まぁまぁ、カークマン。…確かに我が頼んだのだ。それを確保してくれとな』
「…クッ、ですがセレス様。国家案件になったんですよ、思いっきり、義務違反じゃないですか。上にどう説明すればいいんですか」
『お前はせんでいい。コレは直接、我が話すのでな』
「…え?! ホントですか! じゃあいいです」
はや! 切り替えはっや!
その後、冒険者ギルドと衛兵隊としての、立場同士の連絡や、書類の打合せ後、俺達も解散となり、詰所を後にする。
詰所を出たところで、セーリスさんが引継ぎの事で、キャロルとシェリーを連れて、三人でギルドへ向かうと言ったので、俺とセリスはそこで別れた。
「はぁ。これで、この街ともお別れだなぁ、短期間だったのに、すっごく長い事居た気がするよ」
「まぁ、あれだけ、色んな事が一度に起これば、そうかもしれんな。じゃが逆に、儂はここに来て、長い時間を過ごしたが、今でも当初の事は昨日の事の様に、思い出せるぞ」
「あぁ~、そっちも分かるなぁ。要するに愛着? が湧いたって事なんだろうね」
「…お前、見た目に反して、年寄り臭いのぉ」
「あんたには、絶対言われたくないセリフだな。ってか、俺の精神は五十歳だよ?」
「何じゃと?! オッサンじゃないか!」
「あれ? 言って無かったっけ? 魂は五十歳で、肉体は二十歳! いいでしょ」
「フ、フン! 何を言う! 我等は八十を過ぎてやっと成人じゃ! 儂なんか、ピッチピッチじゃ!」
「えぇ~、二百歳過ぎたピッチピッチって、なんか突っ張って、引き延ばしたみたい」
「な、何をを!! ええ歳こいた、とっちゃん坊やが!」
「なにが!」
「何じゃ!」
「「ムキャー!」」
《はぁ~。どっちもどっちですよ》
「「なに!」」
《はいはい。さっさと、宿に戻りましょう》
その後も、二人でぎゃあぎゃあ騒ぎながら、夜の街を、宿まで歩いた。
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「やはり、あれは封印でしょうか」
「…でしょうね。綻びに、記憶が引っ掛かった様に見えます。」
「管理者イリスよ、あの封印は解けぬのか?」
マリネラの質問に答えたイリスに、エギルがやや不満げに尋ねる。
「今はまだ特異点の方が大き過ぎます。もし現状で封印が解ければ、彼の精神が持たないでしょう」
「儂が、儂がもっと出来ておれば……」
「グスノフ…貴方は大変良くやりました。気負う必要は有りません」
「ですが。結局、全てを背負わせてしもうた……その上この様な事に、また巻き込んで…儂らは、神です。人の子を導くのが、責務のはず! なのに、それを彼一人だけに……」
「…その責は私が受ける事です。貴方が負う事ではありません」
「いや、イリス様…儂はその様なつもりは…」
「いいのです。この世界の管理者は、私。そもそもの間違いは、あのような神を降ろした事に端を発するのです。」
「はぁ、皮肉な物ですな。我ら神であろうとも【時】は、不可逆とは」
「そうですね。ただ事象が増えるだけですからね。【時間操作】は」
「大神は何故、【世界】を始めたのでしょうな」
「さあ? 我らにそれを考える事は出来ませんから。」
「…それが分かれば、我等も人の子らに、産まれた意味を伝える事が出来たでしょう」
マリネラがそう言って締めくくると、神たちは各々黙考に入っていく。それを、二柱の男神は離れた所から見ていた。
「…なぁ、エリオス。あの坊主の経緯は聴いておるし、今の内容も分かる。だが、本当にそれだけか? イリス様は何かもっと、大きな──」
「ノードよ。それは我らが話す事ではないのだ。先の古き神の暴走を止められなかった。そして、人の子に頼った。押し付けてしまったのだ、我らの仕事を。結果、あれには過酷な人生を強いてしまった。管理者イリスは、悔いているのだ。我等もそこは同じだ、故に語る事ではない」
そう言われて、二の句が出ないノード。
(分からんでもないが。……イリス様は何か、別の事も危惧して居るような)
その言葉は声にせず、ただ飲み込むのだった。
(ノート…いえ、建二君…ごめんなさい。いつかその時が来たら沢山、沢山話をしようね。そうして、私を…)
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