第11話 昔々、あるところに…
「ん? 何? ご主人様って?」
キャロは、よく言ってたけど、シェリーさんまで。
「そのままの意味ですよ。私達二人共、生涯を掛けてノートさんの傍に居ます」
「…そうゆう事。私達は、主従の契りを結んだわ。その手の紋様こそが、主の証」
「え? いやいや、待って。え? なにそれ? 奴隷契約?」
「違うわ。私達が嫌な事はしないもの。そうじゃない方の契約を知らないの?」
「ヒュームでは、結婚でしたっけ?」
「あぁ、それそれ。キャロは、その辺詳しいわね」
「け、けけけ、結婚!? え? いつしたの?」
「「今」」
「ほら、紋、ちゃんとあるでしょ」
「ファ─────!!」
「あぁ、シェリー! お前まで、私より先に行くって! ズルい! うわぁぁぁぁああん!」
あ! セーリスさんが泣き出した!?
『おい! セーリス! 泣くな! あ! じゃ、じゃあ、お前もこの際コイツでどうだ?』
「…イヤダ」
『え? 何聞こえんぞ?』
「い・や・に決まってるでしょうがぁぁぁぁああ!」
キ──ン! うっさ!
「ハアハア、おばあ様、何でよりによってこんな人外と!」
『え? 我は、セレスだが?』
”グッサァア!”
「…アウ」
リアルおうふ! 膝をつき、腕で身体を支え項垂れる。
「な! なんてこと言うんですか、セーリスさん! ご主人様、超カッコいいじゃないですか!!」
「嫌なものは嫌! 大体、そんな事になったら、三人も嫁になってどうするのよ!? よ、夜の事とか! わ、私は、独り寝は嫌だ!」
「…そんなの、皆一緒に寝ればいいじゃないですか。大体、何いきなり、そんな詳しいピンポイントな事、言い出すんですか?」
”ボン!”
爆発したように真っ赤になるセーリス。
「…はうあうわうあはわわ──…キュウ」”パタン”
『わあ! セーリスぅ! いかん! 副長! 悪いが、休む場所はどこだ!?』
「あ、あぁ、はい。おい! 誰か! セーリス殿を休ませてくれ!」
外に居た兵に声を掛け、セリスと兵が、セーリスを抱えて部屋を出て行く。
『セーリス! 傷は浅いぞ! 大丈夫だぁ!』
…何、言ってんだよセレス様は…
《混乱しておるな、相当。》
あ! ハカセ! 何、存在消してやがるんだよ! ずりいぞ!
《俺は、この件に全く関係ないだろう》
いや、ま、まぁそうだけどさぁ。
《それに、二人の事はお前の良く知っている者達だ。ビーシアンは、番を尊ぶ。幸せにしてやれよ》
つ、番って。あ! この世界って、一夫多妻なの?
《ん? あぁ、ビーシアンは、結婚の概念が、ヒュームとは違うな》
え? どう違うの?
《まず、オスを独占しない。強い子孫を残したいから、共有意識がある。まぁ、そのせいで、適うオスが少なくて、ヒュームの様な形態に近づいたのが現状だ》
…要するに、あれか? 元は、ハーレム形成だった集団が、減って行って、夫婦状態になったと?
《簡単に言えばそうなるな》
…それで、シェリーはセーリスに、あんな言い方だったんだ。
「あ、あのぅ…」
気づくと、ハンス・コルゲン男爵が、侍従と共に、カークマンを連れて部屋に入って来た。
「な、何が有ったんだ? コンクランは?」
隊長は、状況が呑み込めずに周りを見まわすが、そこへ侍従が事の経緯を話す。
「は?! 結婚した!? キャロとシェリーがぁ? 二人同時! いやいやいや!? えぇ??」
聞いて、余計に混乱する隊長。見てるとちょっと面白い。そこへ、セレス様とコンクラン登場。
『ふいぃ~参ったぁ~。まさか、あそこまでおぼこいとは』
「セ、セレス様、その様な事はあまり…」
『何を言うか! アレの年齢分かって言ってるのか?!』
「あの! セレス様!」
『うお! 何だ…あ、皆居たのか』
やっと、周りの状況に気づいたセレスが口を噤む。
「え、えぇと。ンンッ! と、とにかく。結婚云々は、一旦置きまして。カークマン隊長、辺境伯様との通信報告をお願いします」
「はぁ。え!? はい!…ええと、報告します──」
代官は、さっさと話を進めるべく、カークマンに辺境伯との通信結果を聞く。カークマンの報告内容は、纏めると関係各位への感謝の意に始まり、避難時に出た、被害の詳細確認。並びに、追加の補給物資の確認など、事務方連絡が大半を占めた。
そうして、今回のスタンピードの、原因究明へと話が進み始める。
「──…では、やはり教皇国で、間違いないと。」
「…はい。彼らが捕縛した、入れ墨だらけの賊は、既に自害しましたが、全員の首にこれが」
そう言って、ネックレスの様な物にぶら下がった禍々しいネックレストップを見せてくる。
「これは?!」
「…今は、もう使われていない異界の神、アナディエルを模ったタリスマンです」
”チリッ!”
「っつ!」
突然、こめかみ辺りに痛みが走る。
《…どうした?!》
「あ、あぁ。いつつ、なんだ? ちょっとこめかみが、もう大丈夫」
「大丈夫かね?」
代官が気づかい、声を掛けてくれる。周りの皆も、此方を心配そうに見ていた。
「…本当ですか? かなり顔色がすぐれませんよ?」
そう言って、キャロルが近づいて来る。
「うん。ごめんね、ホント大丈夫。その、異界の神? ってなんです?」
「え? あ、あぁ。これは──」
──…そう言って語ってくれたのは昔話。
今から約千五百年以上前、この世界が、まだ細かく分かれていなかった時代。神が実在し、降臨するこの世界で、その地に降りたのはアナディエルと言う神だった。
『この世界を統べるはヒュームが相応しい。故に我の降臨したこの地を聖地とする』
こうして、大陸の中心には、強大な宗教国家が、誕生した。
──アナディエル教皇国。
ヒューム至上主義のこの国は、神の名の下に、次々に周りに存在した、小国家群を、呑み込んでいった。ヒューム達が多かった国は、併合されるだけだった。それ以外の種族には地獄でしかなかった。生き残れるのは、奴隷としての道しかない。特に女性は悲惨を極めた。この世界の種族は、女性因子が強い。その為、ハーフと言う子供が産まれない。それを良い事にヒュームは散々、ヒューム以外の婚外子を作り、有ろう事かその子らを、当時存在した、大型モンスターの生贄にした。
勿論、この世界には、その他の神も居た。イリスや、グスノフ、マリネラがそうだ。だが彼らは、人だけではなく世界の神という立場が邪魔をして、当時の生命の神、グスノフに一任してしまった。彼は、一生懸命頑張った。神の権能を使い、ヒューム以外の人種に力を与えたりもした。だが、焼け石に水だった。
やがてグスノフ自身も疲弊し、ますますヒュームは増長した。アナディエル神は、そんなヒュームに提案をした。
『魔術を発展させよ。さすれば、世界はヒュームの物となろう』
果たして、教皇国は、その提案を神託として決行。更に、他種族への迫害と蹂躙は激化した。
全ては、神の名の下に。それだけで、行われる筆舌に尽くしがたい外道の数々。
──そして、イリスは決断する。異界の神を殺す事を。
行ったのは、異界からの勇者の召喚。この世界の者では、異界の神に手が届かなかったから。それは、神も同様だった。地上に顕現している神に、彼らは力が及ばなかったのだ。だから唯一の手段として、その神と同じ世界からの、召喚者にこの世界を託した。
かくして、それは果たされた。激しい激闘の末に捥ぎ取った辛勝。勝者の居ない同士討ち。異界の神は、光の中で細切れにされ。勇者は、それに巻き込まれた。
そして、教皇国は一度滅びた。荒れ果てた中央の地を全ての種族で復興した。
これが勇者の物語。この世界で勇者の物語は実話であり、ハッピーエンドではない。後年、子供に聞かせるために、脚色されて、異界に帰ったとされている。
教皇国にしても。全滅を免れ、北方に逃げ延び、名をヒストリアに変え、細々と生きながらえた。
「…だから、このタリスマンを持つ者は、あの国の狂信者しか居ないんだ」
ふと、周りの視線に気づく。
俺以外の、全員が。憎しみとも、哀れみとも言えない、深い念のこもった目でそれを見ていた。
…ノートよ。これがこの世界の歴史であり、人間の背負っている業だ。神たちも尽くしたのだ。だが、及ばなかった…欲は限りなく度し難い…お前ならこの世界、どうしたい?
唐突に、セレス・フィリアが、念話で聞いて来る。どうしたい? なにを? だから思ったままを、そのまま答えた。
…正直、わかりません。自分の元居た世界でも、似た様な事は散々在りましたから。歴史で知っているのが大半で、実体験はほぼ無いですが。だから、今の俺に言えるのは、部外者のままでは居たくないってのが、今精いっぱいの答えです。
…そうか。それは、この世界を巡って見て、自分で感じて考える。という事でいいんだな?
…ですね。セレス様が、何を意図して今聞くのかが、少し気にはなりますけど、折角来た異世界です。俺は楽しく、スローなライフでキャッキャウフフがしたいです。折角、キャロルとシェリーが、ハーレム要員になってくれたし! ムフフもありって事で!
『ははは、そうか。ムフフか! あははは! あはははは!』
突然声に出して笑いだすセレス様。
「な、どうしたんですか?」
「セ、セレス様?」
《ノート! お前、何を言った?!》
「え?! 何でいきなり、怒るんだよ? ちがうよ。……タブン」
「ん? なんだ、多分って?」
『あははは! や、やっぱり、お前は、あはははは! 駄目だ! つぼった!』
「ふぅ~。先程は取り乱してわるかっ…なんだ?」
『あははは、あ! セーリス、落ち着いたか?』
「は? はぁ。始祖様こそ落ち着いた方が」
『ん? あぁ、いや、ノートがちょっとな、ふっぷはっ! ははは!』
「…おまえ、またなにかしたのか?」
「何でやねぇぇん!」
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