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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第2章 王都への道は遠く
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第9話 災い転じてフラグ増す



「──…は、ははは! おい、見ろ! やった! やったぞ!!」


 カインは歓喜の声を上げて、()()()を見上げて居た。そんな彼とは逆に、周りの部下はその威容に慄き、後退っていく。


「隊長! ま、()()()()()ですか? こ、こんな()()()()、ホントに言う事、聴くんですか?!」


 部下たちは、その巨大さもさる事ながら、何と言っても火龍(ファイア・ドラゴン)と言うバケモノを産み出してしまった事に、戦慄していた。


「あははは! 何を言う! ()()()には、そんな必要などない! ただ、暴れればいい! 村を焼き、街を壊し、人を蹂躙すれば良いのだ! 我らの役目は、()()()()! モンスターを(さしむ)け、異端者を()()()()こそが我らの本懐! さあ行け! そして暴れ、焼き、蹂躙せよ!」


 ──カインには、もう何も、聞こえていなかった。


 ドラゴン。その存在はモンスターの頂点の一角。更に、その上を行く蹂躙せし者で有る火龍。それを瘴気石によって産み出した。報告のあった、ノート達の力。中途半端なモンスターでは、それこそ鎧袖一触と感じた。故に、渾身の思いで、()()()()を使って、唯一体のモンスターを産んだ。


「あはははは! ノートよ! 火龍の吐息(ブレス)で、消し炭となるがいい! 我ら、ヒストリアに光あれ!」


 部下たちは何も言えず、ただ、その威容を見上げていた。


 体長は恐らく三十メートルは下らない。首を持ち上げた高さは、二十メートルは有るだろう。彼らは身を寄せ合い、震え、怯えるしかなかった。


 ()()()()は、誰もが知っている。だが実際目にした者は誰もいない。奴らは(いにしえ)に、()()()()()へ去ったのだから。


 だから、人間が()()()()()のだから。彼らは、自然災害と同じ。()()()など、出来ようはずがないのだから。


 ──そして巨躯(きょく)は、動き出す。その瞳は(にご)り、ただ怒りに突き動かされ、想う願いは唯一つ、【総ての破壊】。


 ──瘴気の石より産まれた、異形のドラゴン。それは、人の知りえる者とは違った。一歩を踏み出そうとして、()()は気付く。足元に居る羽虫たち。…煩わしい。足元に、羽虫などと。


 次の瞬間、彼はふぅと吐息を吐いて、綺麗にならした剥き出しの地を見る。そうして、首を持ち上げると、眼前の景色に去来する想い。


『燃やし尽くし、蹴散らし尽くす』


 あらゆる怨念と、魔素を取り込んだ、異形のドラゴン。それは、復讐の()()()。やがて背にある翼を広げ、魔力の風に乗って、その巨体を、空へ押し上げる。


『グアギャァァァァアア!!』


 向かうは、ただ復讐の為。人を蹂躙せんが為。その羽ばたき一つで、森など超える。そう考えて、翼に魔力を流した時だった。


「サン・レイ!」


 最初に感じたのは、熱だった。火の化身の様な、自身が熱を感じる? 次に違和感。羽ばたいたはずなのに、()()()()()し始めている。


 そうして初めて感じる、背の激痛。


『ガギャァアア!?』 なんだ? 何故痛い? 気付くと光が見えた。

 

 ”バジュン!” また来る激痛!


 そうだ! 光だ! ()()が来ると、自身の身に()()()()


 ”ドッズゥゥウン!”

 四つ足を使って、着地して光った方を見る。


 ──…羽虫?! こちらに向かって手を翳し、何やら口を動かしているが、解らない。焼けばいいのだ。それだけで事は足りる。そう考えて、息を吸い込み、魔素を練る。


 口腔内で魔力を変換、口を開くと外気に触れたそれは、瞬時に発火し、吐き出す()()()に合わせて炎上、()()()を創り出す。


 これだけで、我の前の敵は消し炭となる。そう思っていた。


 炎が、一瞬で掻き消える。


 え? 何が起きた?! 次に感じたのは()()()()()(したた)かに顔を殴られた。…何に? 


 ()()は左の眼球に、映る男の姿。右の拳を目一杯引き絞り、目は真っすぐにこちらを見据えている。


 ”ドゴォォォォォオオオン!”

 硬質な打撃音が響き渡る。巨大な、鐘楼をハンマーでぶっ叩いた様な轟音がした直後に聞こえるは、咆哮のような叫び声。


 ”ギャガァァァァァアアア!!”


「硬ったぁぁぁぁあああい!」


 ブレスが来たときは焦った。さすがは()()()()。一瞬で、周りの木々が炭化した。おかげで道が開けたんで、地を踏み、全力で飛び掛かって、ぶん殴ったのに。


 岩? コンクリの壁? だった。おかげで、ガントレットは粉々。その代わりに奴は、首を思いっきり()じって、()()()()()()()けど。


 これがドラゴンか。確かに強いなぁ、というか硬い。そんな感想を思っていると、念話が飛んできた。


 …だ、だいじょうぶですかぁぁぁぁああ?!


 あ、キャロ。うん、大丈夫! ガントレットが壊れただけだよ。


 …あはははは! 何じゃそれ!? お前はやっぱり、おかしいわ!


 セリスにだけは、言われたくねぇ!


 二人とも無事だったんだな。…よかった。


 さてと…ボチボチ、起き上がって来たなぁ。それにしても()()()ねコイツ。



 ──…気づくと、彼は一瞬でドラゴンに向かっていった。


 やっと、スタンピードに、ひと段落付いたと思ったのに。彼からの念話で、裏で()()()()()()()()人間を見つけたとの連絡が来た。モンスターの片づけをお願いして、駆け付けた時にあの咆哮。


 正直、(すく)む思いだった。無意識下の()()()()()


 ──ドラゴン。存在しか知らない、生物としての強者。巨大にして、強大。足元に向けたブレス一つで、森の半分ほどが、一瞬で消えた。


 人類が敵う事の無い存在、そう思ったのに。あっという間に、空から()()を撃ち落としたと思ったら、一足飛びで、一撃で。彼は、ドラゴンの顔をぶん殴っていた。


 ──…心の中の何かが、あっけに取られ、一瞬で気が晴れる。


 周りに居た誰もが、声を出せず、固唾をのんで見守る中、彼の気の抜けた声が聞こえた。


 ”硬ッたぁぁぁぁああ!” 

 何を、当たり前の事をと思うと、笑いがこみあげた。


 もう! もうもう! 何なの何なの! カッコよすぎでしょう! 私の! 私だけのご主人様!! 絶対帰ってきてくださいね! 子作りしましょう! シェリーが発情期がどうのと言ってたけど、関係ないです!! ぁあああああ! もうもう! 尻尾が千切れそうですよ! 早く戻ってきてください!


「…の、のぉ、キャロルぅ、せめて、念話は()()()()()()な、ノートの奴、こっち見て、()()()()るんじゃないか、あれ」


「……ファ────!!」


 …うぉっほん…あ、愛が激しいなぁ…て、照れるぅ。


《おい! 来るぞ!》


 起き上がるついでとばかりに、前脚? のスタンプ攻撃。


 ”ズドォン!” 

 横に飛んだ瞬間、其処めがけて、尾が迫る!

 

 ”ゴォォォォオオ”

 尻尾の音じゃないね、()()()()()じゃん。すかさずククリナイフに魔力を通すが、気づかれたのか、先端だけを捩じって、鞭の様に弾きに来る。


 ”ズバァァァァアン!”

 慌てて、奴自身の身体の下に潜り込むが、起き上がってすぐさま横に移動する。


「うっはぁ、でっかい癖に素早いとかって、反則じゃねぇ!?」


 恐ろしく硬い鱗の表皮で、地面を削り取りながら、手足、尾まで使っての物理攻撃。此方が、立ち止まった瞬間には、魔弾の飽和攻撃が飛んでくる。


 まるで気分は、弾幕シューティングだ。体力勝負で奴は来る。


 おかげで、森は()()()。木々はなぎ倒され、地面は捲れ上がり、至る所に穴が開く。響く轟音、喚くドラゴン。()()()()極まりない。


 実際の時間では、五分くらいだろう。体感的には半日だけど。ようやく、奴の攻撃に間が開いた。



 ──…なんでこんなに時間をかけるのか。俺自身は、直撃されても傷つかないのに。嫌だったってのもある。()()の大部分は()()()()()。痛くなくても、吹き飛ぶし。


 ……だけど。奴の中にある、何かが。恐らく()()()()()()であろう、()()が聞こえた()()()()


 理不尽に殺され、異形を産みだす(かて)にされる。その気持ち、想いなんか、とてもじゃないが想像できない。そして、それを凝縮され、蓄積されて産まれた自身。


 ──…歪で、異質な存在。


 本来ドラゴンは、モンスターの()()()()()じゃない。知性を有しているのだから。

 

 だからと言う訳でも無かったが、烏滸(おこ)がましいかもだけど、少しだけ同情してしまった。


 だから憂さ晴らし? に付き合った。()()()にとっては、それこそ余計なお世話だろうけど。


 一拍の間の後、直上から火焔ブレスが吐き出される。周りは灼熱化し、地面は一瞬にしてガラス化現象を起こす。一点集中砲火。そこに俺はもう居ないけど。


「…すまんな。俺の身体に傷は付かないんだよ」


 ありったけの魔力をククリナイフに通して硬化すると、鋭利化と伸長を意識して、風魔術に乗せて一瞬で振り抜く。


 突然動きを止めたドラゴンの胴から、首がずれて落ちる。


 ”ドォォォォオオン”

 続く様に、倒れる身体。

 

 有史以来、無かった単独ドラゴンの討伐。そして同時に、ドラゴンスレイヤーが、此処に産まれた瞬間でもあった。





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