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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第2章 王都への道は遠く
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第8話 隣は何を、するひとぞ



 ヒストリア教皇国、特殊戦闘部隊。異形戦術部隊、通称【青の蹂躙者】部隊名より、色で呼ばれるのは、彼らの()()()()によるものだった。その体中に入れ墨を施し、差し色は必ず青。顔中に燃え盛る炎の様な、トライバル柄は、奇麗な青色に、染め上げられていた。


 彼らの最も得意とする、戦術。それは瘴気石による、スタンピード。これに乗じた、略奪や殺戮に破壊工作。モンスター主体で行われるそれは、まさに、蹂躙だった。


 同時多発的に起きる、スタンピード。兵の準備はおろか、避難すら、間に合わせない。阿鼻叫喚の中、幼子を攫い、瘴気石の補充に充てる。そんな狂気の沙汰を繰り返し、彼らは任務を遂行する。正に狂信者。


 しかし、その部隊長であるカインは、報告を聞いて、困惑していた。


「開拓村の、モンスターが殲滅された?」

「は! モンスターのみならず、瘴気石も粉々に破壊されていました」

 

 コイツは、何を言っている? モンスターの殲滅は、まだ分かる。あそこに出現させたのは、ゴブリン達だ。数で押せばすり潰せる。だが、瘴気石は別だ。一度発動した()()に、人間は近づけない。瘴気に、取り込まれてしまうからだ。万が一近づけば、発狂死するだけだ。それをどうやって? いや、それ以前に、何故石の事を知っている?


「それをやった連中は? 確認したのか?」

「は!…それが」

「それがなんだ?!」

「は! ゴブリンを殲滅した者は一人。石はどうやら、狙撃された模様」

「…は?」


「え? 一人? 一部隊?」

「いえ、個人一人です」


 な、そうか! あの帝国の殺人狂を、殺したあの男か!


「ノートとか言う奴が、もう出て──」

「いえ、ゴブリンを殲滅したのは、たった一人の魔導師です」

「ファ?」

「瘴気石を破壊したのも、その者の仲間の様です」


 ──…石一つあれば村の一つや二つ、簡単に蹂躙して来たのに。


 それがなんだ? モンスターは、一人の魔導師に殲滅され、石も一度の狙撃で、粉々? あり得ない。そんな事、有って言い訳がない。


「な、何なんだ? 化け物か? オリハルコン級の冒険者でも、居たのか?」

 オリハルコン級冒険者。国に認定され、各国で保有制限される、超級冒険者。そんな存在が、この辺境に?


「い、いえ。その…ノートのパーティです」

「…は?」


 思考が、停止しそうになった時、また、報告が入ってくる。

「報告します! トロルが、トロルの部隊が、瞬殺されました」


 集まった青の蹂躙者の顔は正に、真っ青になった。



*******************************



 二人の部隊と別れてから、小一時間が経った頃、渓谷の橋が見えて来た。俺はミニマップを展開し、トロルを指定して、探査を開始する。


「皆さんは、このまま橋へ! 俺はトロルに向かいます!」


「え?! あの、大丈夫なんですか?」


 並走していた兵が声を掛けてきたが、そのまま俺は渓谷めがけて、ダイブする。


「うわ! とんだぞ!」

「マジか!」

「とにかく今は村だ! 急げ!」


 深さにして、およそ三百メートル程。放物線を描きながら、自由落下を始めた体に、身体強化と姿勢制御の風魔術をかけ、速度調整をしながら、マップを見る。


「…いた。()()()()()んだな、トロルって」


 渓谷の底に、体長約三メートル程の、()()の様なモンスターが四体見えた。耳に風切り音を聴きながら、正確に場所を特定し、足に強化を掛ける。


「どうぉぉりぃいやぁぁぁぁああ!」


 俺は体制を制御しながら、トロルの頭めがけて、ライダーキックを敢行する。


 ”グモア?!”


 振り向いたトロルの鼻の辺りを中心に、汚い花が咲く。


 ”グバァアガァア!” ”バシャァアア!”


 顔の中心部を貫通され、頭部を失ったトロルは吹き飛び、他のトロルに、その体を押し付ける。


 ”グアァ?” ”ボマァア”


 体中に付いた体液や血を、クリーンで飛ばしながら、着地と同時に次のトロルへ肉薄する。


「フッ!…はっ!」

 トロルの体表は堅く、切りつけても()()()()()ですぐに、塞がる。しかし、切断すれば別だ。再生に時間がかかる。ククリナイフに、風魔術で切断距離の延長を意識。そのまま振り抜く。


 ”バザンッ!” ”グガヤガギャァァア!”

 両の足を腿で切断されて、前のめりに突っ伏する。

 ”ザンッ!”

 頭部を胴から切り離す。

「…よし、後、二体」


◇  ◇  ◇


「あ、アイツが、ノートかよ。…化け物だ」


 渓谷の手前で用意した、コボルトの斥候が戻らず、見に行った時には、戦闘跡しかなかった。その為、用心して渓谷の底に来て、トロルを産んだのに。

 

 瘴気石はそれで枯れてしまった。使い切った。そうしてまさに、村に向かおうと思った瞬間に。


 空から、人が降って来た。


 降って来て、そのままトロルに直撃した。しかし潰れたのは、トロルの方だった。そんな馬鹿な話、ある訳ない。実際、目の前で見るまでは。


 次の瞬間には、別のトロルの足が()()()。倒れた途端に、斬首される。あまりにも、理不尽な光景。次のトロルは、腹に穴が開いた後、首が飛ぶ。


 最後のトロルは、その有様に何もできないまま、縦に割れて死んだ。


 震える足を、叱咤して、その場から逃げる。隊長に連絡を! その一心で唯、走って逃げた。


 ──こちらを見上げる()()には、気が付かなかった。



*******************************



 ”グガァァァァア!” ”ゲギャァアア!”

「フンッ!」

「はぁあ!」

「うりゃ!」

 ”バザン!” ”ザスッ!” ”ビジャァ!”


「ふぅ…」

「オークも、これで終わりじゃ」

「ですねぇ。さっき、ノートさんも、トロルの討伐、完了したって」

「ふむ、儂にも聞こえたよ…それに…」

「えぇ。()()()()でしょう」

「…また、()()しなければよいが」


「ぁ、あのぅ。も、もう大丈夫でしょうかぁ?」

「あ! はぁい。もう終わりましたよ!」

「…なぁ、キャロよ」

「え? どうしました?」

「…このオーク共もそうじゃが、さっきのゴブリンも、魔石が()()()()()()

「え? そうなんですか?」

「ほれ」


 周りには、惨殺されたオークが転がり、衛兵たちが、集め始めている。そんな中、彼女たちはオークから抜き出した魔石を、先程殲滅した、ゴブリンのものと、併せて確認する。


「…本当ですね。個体差にしては、あまりに()()()です」

 キャロルは、仕事上、魔石を見慣れているので、直ぐに気付く。

「ふむ、兎に角いくつか確保してくれ。調べるでの」

「はい。衛兵さんに、伝えておきます」



*******************************



「クソ! なんだ、アイツら? オークも全滅した!」

「どうする?」

「これじゃ、石に()()()()()()。一度、隊長の所に──」

「はい。そこから、動かないでね」


 いつの間に? いや、隠蔽の魔道具は?…え? 壊れてる?

「あぁ、動くなと言った」


 ”ピシリ”と、地面から棘が立ち上がると瞬時にソレが、男達を取り囲む。


「…クッ」


「…これが、【石】か。」


 そう言って、徐に一つを掴む。握りこぶし大のそれは、禍々しく黒光り、石の周りが歪むほど、異質な感じがした。途端に石が反応する。 魔素を、吸っているのか?


「バカが! 掴んだぞ! 魔素を吸われ、ろ…? なんだ?」

 勿論、結界で包んでいるから、そんな事は起きない。


 …やっば、マジやばかった。ハカセ、サンキュウです!

《…何をやってるんだ、お前は》


「そうか、無差別に吸うんだこれ。でも、お前達には効かないな、何故だ?」


 残りの石を纏めて、結界で包んで異界庫に入れてから、男達に近づく。


「ん? あぁ、その入れ墨、魔紋か。それでこれが、()()()()()んだ」


 な、何なんだ? 喋っていないのに、何故次々に分かる? 大体、ここにしたってそうだ。魔道具で、()()()()()()()のに。普通、モンスターが集まる傍に人が居るなんて、考えないのに。


 ミニマップで、マーキングした後、男達を尾行していた。トロルの所に居た奴は、ここではない。その集団は、ずっと森の奥に居る。人も魔獣も見当たらない、東端の未開の森。


 前人未踏の深い森で突然、()()は大きな咆哮をあげる。


 ──ギャァァァァアオオオン!


 そして天に向かって、上がる炎の柱。


 ──火龍(ファイア・ドラゴン)が、産声を上げていた。 

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