第7話 瘴気石と戦闘狂
「セレス様、瘴気石とは?」
シェリーが、当たり前のように聞く。
『言わば、魔石の瘴気版だな。作り方は反吐が出るが』
「…それはどう言う?」
『魔石に吸わせるんだよ。…命を。惨たらしく殺してな』
「…それは、拷問的な、意味でしょうか」
『それもある…あれは、狂人の作るものだ。幼子を殺すのだから』
「「「……な!?」」」
絶句する。幼子を生贄にして作る? モンスターの石を?
《ノート!!抑えろ!》
は! マズイ。どうにも、子供関係が絡むと、抑えきれなくなる。
『それに関しては、我も同意だ。此処にいる皆も同じ気持ちだ』
セレス様にそう言われ、顔をあげると、視線がぶつかった。
「ゴメンね、俺の世界で【子は宝】って言う例えが有ってさ…どうしても、ダメなんだ」
「良いんですよ。ノートさんはそれで」
ふわりと、キャロが背中から抱きしめてくれる。
「良い例えだな。…子は宝か。…確かに未来は子が作るものだしな」
「ノート君にしては上出来」
「しかし、それでは今回の事は、人為的な物という事に…」
「ですね。まさか! 帝国が?!」
「シェリー? なにか──」
『違う…瘴気石などと言う、狂った物を扱う奴らは、一国しかない』
「…それは?」
──…ヒストリア教皇国だ。
「「「そんな?!」」」
「なぜ、あんな鎖国しているような国が?」
「いえ、厳密には鎖国はしていません。ただ、流入も流出も、無いだけです」
カークマンの話しを、シェリーが否定する。
「そ、そうだったか? いや、そんな事より何故、そんな国がこんな、東の果てに?」
『…あの国は、ほぼ全ての国に、間諜が入り込んでいる。恐らくは、サラの件か…』
そう言いながら俺を見る、セレス様。
「…俺ですか」
『その二つ以外、考えられんな』
「…クソったれが。何で直接俺に来ないんだよ! 周りを巻き込みやがって!」
『それこそ奴らが狂って、腐っている証だな』
「何て下種な…」
「と、とにかく、今はスタンピードが先だ。住民の避難準備もある」
カークマンはそう言って優先事項をどうするか、話そうとする。
「失礼します!」
「何だ!?」
「は! 斥候部隊、戻りました!」
「通せ!」
「失礼します。東端、開拓村、西渓谷三カ所の現況を、報告します」
戻った、斥候の人は三人。彼らは次々に、様子を伝えていく。
「…そんな、オークが、五十に、ゴブリンが、リーダーと…」
「えぇ。それに、西の渓谷が一番マズイ。まさか、トロルが居るなんて」
「あそこには、村がある。渓谷の橋が落ちれば孤立してしまう。」
斥候と、シェリー、カークマンたちは皆、苦虫を噛み潰したような顔で地図を睨む。
「じゃぁ、東端と開拓村は、セリスさんとキャロに、お願いしていい?」
「はい! もちろんです」
「ぬフフフ! デストロ~イ!!」
「…お前達、何を言って──」
「俺は、渓谷に向かいますね」
「ちょっと待って! さっきから、貴方達は何を言ってるんですか?」
シェリーが怒気を滲ませて怒鳴る。
「あぁ、怒らないでよ。人選してただけ、この二人なら、数は関係ないから」
「だから! 根拠もなしに、何を…その武器はなに?」
「俺が作った、本気の武器。セリスさんは、対多数。キャロには、近中距離対応武器。」
「それで俺は、オールレンジ対応」
「…やっぱ、こいつ等おかしい」
失礼な事を言うカークマンを無視して、話を進める。
「兎に角、その三カ所のモンスターは、俺達が対処する。皆は、避難指示と、戦闘範囲への進入禁止を徹底してほしい。特にセリスさんの傍は、まずいから」
「…信じていいの?」
「「「もちろん!!」」」
「で、残りの四カ所は?」
「そっちは、緊急ではない。人の居る地域では無いからな」
「了解。順次廻ろう。二人共、念話入れておいてね」
「「はい。」」
こうして、急遽斥候と、衛兵選抜隊に俺達パーティの、ミックス部隊を編成する。各村までは衛兵部隊と共に、村からモンスターまでは、斥候と一緒に。
そこからは各自の持ち場で、と軽く打ち合わせて、出立する。
「三人共、必ず報告に戻ってくださいね」
シェリーが、心配を隠して言う。
「ありがと。シェリーも、こっちで大変だろうけど、頑張ってね」
キャロが微笑みながら、シェリーに抱き着く。
「…お前は、ダメに決まっておろうが。」
クソ! せっかくのチャンスを、セリスさんに邪魔された…ちくせう。
「じゃ、行ってきます」
「宜しく頼む」
仕方ないので、カークマン隊長に声を掛けて、部隊へ向かう。
「…馬は?」
「いや、俺は走った方が、楽なんで」
「は? ま、まぁ、良いが、では出発!」
こうして、スタンピードの討伐が始まった。
◇ ◇ ◇
「…セリスさん。それ、乗ってます?」
「ん? 乗ってるぞ」
二人は馬に乗り、駆けているんだが、セリスは腰が浮いている。
「…浮いてますよね」
「細かい事は、気にするな。年寄りは、腰に来るんじゃ」
そんな魔道具あるなら、私も貸して欲しいです! と思いながら、馬を走らせる。
彼女たちが向かっているのは、街から最も近い開拓村の森。
斥候の話しでは、ゴブリンの集団が、確認されていて、総数は百匹以上。ゴブリンリーダーらしき姿も、確認されているという。
「…キャロル嬢! この先だ! あの、岩の先に森が開けた場所が有る、
其処に、集まっているらしい」
兵の一人が、馬で近づき教えてくれる。
「分かりました! 私達は、其処へ向かいます! 皆さんは、村へ!」
「いいか! こちらには、間違っても近づくな! 怪我では、済まなくなるからな!」
セリスは、そう言うと、即座にゴーレムを展開する。
”ヒューン!” ”カチカチカチャ” ”キュイン” ”ピピピ”
ヒヒーン!!
「あ!こら、大丈夫じゃ!」
「…何やってんですか、もう」
兵達は、展開されたゴーレムを見て、ぎょっとして、離れて行く。
「ご、ご武運を!」
「そちらも気を付けて!」
キャロルは、馬を落ち着かせながら、兵と別れて岩を回り込んでいく。
岩場に到着した二人は、馬を降りて静かに、木々の合間から覗き込む。
「…居ますね。うじゃうじゃ」
「気持ち悪い言い方をするな。…おい! あそこ!」
セリスが、何かを見つけたのか、指さした方向を見る。
「…なにあれ?」
ゴブリンの、集まる中心部辺りに、黒い靄が立ち上り、ブクブクと何かが泡立つ。
”ボコン!”と、泡が潰れると、そこから、一匹のゴブリンが転げ落ちて来る。
”ゲギャ! ギイガ、ギャガ!”
「…あれが、瘴気…ん!?」
丁度、靄の真下、泡の立ち上る根本辺りにソレが在った。
「い、し? から出てるの? あの泡」
「…やはり、あれが、瘴気石らしいぞ」
「え?! じゃぁ、あれを壊さないと」
「…周りの魔素を取り込み続け、モンスターを産み続ける」
「じゃぁ、ノートさんにも!」
「始祖様が、ハカセに伝えた。儂らは、此処をまず潰すぞ!」
「はい!」
「先ずは、儂が攪乱する。キャロは、ここから、石を狙え!」
そう言って、セリスは岩陰から、飛び出す。
「うはははは! ゴブリン共! しぃにさらせぇぇい!!」
飛び出した彼女が、初弾に選んだのは、拡散型ビーム。
ゴーレムから射出されたそれは、瞬時に花が開く様に、拡散され、ゴブリンに殺到する。
”ギャ?!” ”ビシャ!” “ガギャ!” ”バシュン!”
それはあっという間に、阿鼻叫喚の世界が広がる。ある者は、一瞬で首を消し飛ばされ、また別の者は腸を撒き散らしながら、足と言わず、腕であろうが、胴体であっても。全ての、身体が、等しく蹂躙されていく。
セリスは、その様子に可笑しくてたまらず、絶叫するように笑いながら、緑色の肌を見た瞬間に、ビームを打ち出していく。
「あははははは! 何じゃこの快感は! ゴブリンが、紙切れの様じゃあ! あははは!」
「…うわぁ、セリスさんって、マジで戦闘狂だったんだ」
…聞こえとるぞ! キャロ! 石を狙ってるか?!…
念話でシッカリ、文句も言ってくる。ドン引きしながら、キャロは魔銃を構える。
…ちゃんと狙って…ますよ!…
”ビシュン!!” ”バカァアァン!”
彼女の撃ったビームは狙い違わず命中し、大きな音を立てて、石が砕け散る。
「おほお! やるの~! 後は殲滅じゃぁ!!」
そうしてゴブリンたちは、生まれて間もなく、何もすることなく殲滅された。
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