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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第2章 王都への道は遠く
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第6話 スタンピード



「行きました! 右前方!」


 …ザザザ! 下草を掻き分け、()()()は敵意剥き出しに、向かってくる。


「…()()()が」


 俺は腰を落とし、ミニマップを意識しながら、ククリナイフを握りしめる。…次の瞬間、ソイツは下草の隙間から、跳び上がって来た。


「ギイガァ!」


 開いた口には乱杭歯が並び、目を血走らせて、木切れを手に必死の形相をしている。


 ”ブウン!” ”ギャァ!” ”ブン!”


 木切れを振り回して、必死に立ち向かってくる、()()()()()()()を持つ異形。しかし、その動きはひどく緩慢で、容易く()()の背後を取る。


「フッ!」

 ”ザンッ!”

 一刀で、その首を落とす。

「お見事!」


 首を落とされ、指示の来なくなった身体は、ふらつき、その場に(くずお)れる。頭部を失った首から、脈打つように、濁った血がどくどくと流れる。…身長は、一m程の異形。この世界で初めて出会うモンスター。


「これが、()()()()…」


 ヘイスから、武具を受け取った俺達は、調整や、連携などの諸々の確認も兼ねて、エクスから少し離れた森の奥で、モンスター狩りをしていた。


「…すっごい、切れ味ですね。何を付与してるんですか?」


 キャロが、近づきながら聴いて来る。

「あぁ、属性は風と、防汚でクリーンと、摩擦軽減。だから、()()()()()が、()()()()んだよね」


「はぁ?…怖いですよ、言い方」

「あ! ごめんごめん。でも、キャロのも()()()()したから、切ればわかるよ」

「つくづく実感しますよ、ノートさんの、()()()っぷり」

「ふははは! ホントに、見てて飽きんわい。なんじゃ、あの動き、一瞬で後ろに回り込みよって」


 ──確かに、自身でも薄々気付いている。


 戦闘経験なんてものは、もちろん無い。でも記憶に刷り込まれている。それは神々に聞いた事で、理解はしている。だが、実際、それを行ってみると、違和感も感じる。


 ()()はとても生々しい感覚だ。一瞬で頭に出来上がる、動作の種類。どう動き、どう捌き、躱し、確殺するかを、瞬時に選べる思考。


 今まで生きて来て、考えた事の無い、必要のない思考感覚。


 何よりも、怖いのが、平然と()()()()が、行えている事。どうしてだ? 自分は今まで、こんな世界とは真逆の平和主義者だったのに。


 ──そこまで考えて、ハタと気づく。精神は()()()()()()()()()だ。だが、肉体は違う。…そう。魂だけが、俺なんだと……。


「ノートさん? どうかしました?」

「おい、どこか、痛いのか?」

「…え?! あ、ごめん、何でもないよ」


 ……()()()()()だ。もう、太田零士は居ないのだ。俺は()()()。この世界の()()なんだ。


「さぁ、魔石と耳? だっけ、切り取って次!」

「え、えぇ。解りました」

「…変な奴じゃのぅ」


 心の()()()()()を、無視するように、ナイフを物言わぬ、(むくろ)に向けた。


「これもいつか、日常に…なるさ」


 ──小さく呟いた言葉は、ハカセだけが聴いてくれていた。


「防具の具合はどうです? どこかきついとか、引っ張る感じしません?」

「うん、無いね。すごくいい感じ。特にブーツ。重みが有るけど、逆に、踏み込みが安定する」

「へぇ。それにも何か、()()()()るんですか?」

「うん。…こんな感じ」


 そう言って、踵部分を押し込むように踏むと、爪先から切先が出る。


「わっ、仕込みナイフ!」

「そう。ワンアクションで出せるから、咄嗟にも使える」

「…なんか、暗殺者(アサシン)みたいです」

「あはは、言えてるな。腕の仕込み暗器も、そんな感じだし」


 右の腕にはガントレット。左は盾にもなる手甲。各々に暗器が収まっている。右からは、手の甲部分から魔弾が。左には、手首側に魔道具スロット。全部、俺の()()()によるものだ。


「お主、一体、何と戦うんじゃ?」

 さっきから、批判ばかりしている、セリスだが。

「いや、俺はセリスにそれを聞きたいよ」

「…ですね」


 キャロと二人で、ジト見する。


 彼女の装いは、所謂魔導士だ。フード付きの外套に、魔状を手にした、

オーソドックスな見た目。だが、彼女の周りには都合三台の()()()()()()()が待機している。


 知ってる人間が見れば、一目でわかる。ありゃ、ファン〇ルだ!


 トライアングル状に浮遊し、全方向に対処できる。攻撃武装は、()()()と、各種魔術。魔力供給は、魔紋付与済み魔石の大気吸収。()()()()()()()の、俺謹製品。


「年寄りには何か()()()からでは、遅いからの。お主の、魔道具制作の、()()も兼ねてじゃ」


「はぁ~、まぁ、良いけど。今、オートデストロイ(自動殺戮)は、使っちゃだめだよ。」


「くぅ~~。それが一番使いたいのにぃ~~!」

「駄目! 俺のマップと連動するからすぐ分かるんだからね。即、停止させるよ」

「…ノートさん。あれ、一番持たせちゃ()()()()と、思うんですけど」

「ははは。だよねぇ。…俺もつい、()()()で作っちゃったんだよねぇ」

「…私の()()も…使いどころに悩みますもん」


 そう言ってキャロは、腰にぶら下がる()()()()()に触れる。


 彼女に持たせたのは、所謂【魔銃】だ。()()()()()だが、嵌めた魔石により、(バレット)火球(ファイア・ボール)氷塊(アイス・ロック)、ビームが、それぞれ、無反動で発射される。魔弓が存在すると聞いて、対抗して作った。距離は短いが、二百m程は狙った場所に打てる。


「キャロのは良いんだよ。接近戦タイプのキャロに、中距離攻撃の手段があれば、いざって時に、確実に役立つから。怪我なんてして欲しくないからね」


「ノートさん」わっさわっさわっさ!!


「は~いはい!ここはまだ、宿じゃぁないよ!」


 そんなこんなで、日が傾くまで戦闘と武具の調整を行った。



◇  ◇  ◇



 ──…日も沈もうかという頃、何とか、入門口に辿り着く。


「っぶなかった~。閉門時間忘れてた。」

「何度も言いましたよ、そろそろですよって」

「いやぁ、コボルトだっけ? アイツらが群れで来たから、訳分んなくなっちゃって」

「確かに、あれはビックリしましたねぇ。三十頭ぐらい? でしたね」

「そう、で、セリスが爆笑しながら突っ込んでって」

「あれは、怖かったです。そこら中に肉片が飛び散って…」

「あはははははは! 最高じゃった! スカッとしたわい」


「お~い。それって、マジか?」

「「「え?」」」


 振り向くと、こめかみを、ピクピクさせながら、微笑むカークマン隊長が居た。



◇  ◇  ◇



「どこの森で、それに遭遇したんだ?!」


 衛兵詰所で、カークマンと、コンクランに囲まれて、説明していると。


「失礼します! 冒険者ギルドから、使()()()()が来られました!」

「入れ!」


 扉が開き、中に入ってきた人を見る。

「あ! シェリーさん」


 新しく、受付チーフとなったシェリーが、此方を一瞥して、隊長たちに、一礼する。


「先程の報告を受け、現在斥候を三チーム送りました。解っているだけで、モンスターの群れと、思しき集団は七カ所、確認しています。…貴方達の居た森は、集落のある西渓谷の手前の森の奥よね?」


「あ、はい。え? 何かあったんですか?」

 そう聞いた俺の目を、シェリーさんは真っすぐに見て、こう言った。


スタンピード(モンスター暴走)が、発生したわ」


「へ? スタンピード?」

「…何時!?」


 キャロが血相を変えて叫ぶ様に言うと、セリスも大声で話す。


「では、あのコボルト達もその一部じゃったのか?!」


「いやいや、スタンピードって、モンスターが溢れて起こる奴だろ? なんで、それも複数個所で起こるの? おかしいじゃん」


「…ノート? なんだ、その()()()()()()ってのは? モンスターは()()()()()から産まれるんだぞ? ()()起きてもおかしくはない。唯、最近その瘴気溜まりは、()()()()()()()()んだ」


 …うはぁ! またか。いや、これは()()だ、俺の、記憶違いだ。ラノベや、ゲームの知識だ。そうか、現実はそんな感じで起こるんだ。


「じゃ、じゃあ、その瘴気溜まりが出来たのは、いつなんですか?」


「…解らん。魔素溜まりや、瘴気溜まりは、()()()に調べている。大体、魔素溜まりが見当たらなかったのに、何故いきなり、スタンピード規模の瘴気溜まりが…」


 カークマン隊長はそう言って、地図を睨む。


「…シェリー、さっき言った七カ所は、この地図の何処だ?」

「此処とここ、ここに、さっき、彼等の居た集落の奥、それに、開拓村の辺りにも出たそうです」


「クソ!…なんで、人間の住む近くで発生する? 聞いた事が無いぞ!? 墓地すらない地域じゃないか!」


 そうだ、瘴気溜まりは、魔素溜まりに瘴気が混ざって飽和して出来る物。人間の生活範囲なら、魔素溜まりの時点で、判るはず。


 そんな中、セリスが(おもむろ)に話し始める。


『もしや、瘴気石か?』


 ──…セレス様かよ!




 

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