第5話 インストール
「……が…ぃのう──ぃじょ…の」
──な、なんだ? 何かが頭の上で……てか、なんだこれ、だるい! 超だるい。目が回るってのはこんな感覚か?! 酷い酩酊感にウンウン唸っていると、誰かに身体を揺すられているのが判った。
「──た……ん! お…た……ん! 太田くん!」
傍で聞こえる声に、は! と目を開いた。
「あ! 皆~、太田くん起きたよ~」
誰かの声が周りに話しかけているのが聞こえてきた。
「ん? どしたの?」
──な!? 何じゃこの愛くるしいちびっこは!! 魔法少女なのか! いや! 間違いない、ぷ○きゅあだ! くっそ可愛いちびっこは、キョトンとクリクリお目々でこちらを見詰め返してる。
「あれ? 思考が来ないねぇ。……ありゃ、このボディ、すっげぇ廃スペじゃね?」
瞬時に理解し、”スン”となる、あぁ、この物言いはマリネラ様だ。そして自分の置かれた状況を理解した。俺、新しい身体に入ったんだ! てか見える!
どの位昏倒していたのかは分からない。でも今までなかった色々な感覚が直ぐに訪れた。最初に訪れたのは悪寒と激痛。
「───!!**ぬ*び**ぎゃni@hwucfqu!!」
寒い! そして、痛い! 中身が痛い! ありとあらゆる器官がいきなり蠢き出した。そんな感覚が暫くすると、突然収まる。次に来た感覚は、熱が来た。体温か?! 心臓が脈打つ。血流が始まる。耳を覆いたくなるほどに煩く体の器官が動いている。早鐘の様になる心音、ぐーぐー騒ぐ腸の蠕動運動。そしてどくどくと言う血流の音。一斉に感じる身体の生の始まりに戸惑う気持ちを抑えきれない。
──ふぅ。少し、落ち着いた。
「……なんて、言ってたの?」
マリネラ様が可愛い真顔で聞いてくる。
「──くゎるあ…づあ、ぎゅぁ」
あ、ダメだ、まだ口がうまく動かない。俺が喋るのに悪戦苦闘していると、何時しか周りに神様たちが集まってきた。
「マリネラ、彼はまだ体に馴染んでいません。恐らく、今すべての臓器や器官が動いたのでしょう。もう少し落ち着くまで待ちましょう」
イリス様がマリネラにそんな事を言うが、まだ上手く顔が動かせず、彼女の顔は見えなかった。
やがて、充分に血流が巡ったのか、身体の自由が効きだした。早速と思い首を巡らせると、そこには、長身痩躯の如何にも学者然とした、ピッチリ7.3分けの【エギル】
背はマリネラより少し高いが、正に樽体型でゴツい腕と、これまた顔中立派な髭面の【ノード】
中肉中背、年齢相応、正に中間管理職のお爺ちゃん【グスノフ】
筋肉の山みたいな触れると熱を発しそうな、ゴリゴリ親父の【エリオス】
言わずもがな、先程見た、ぷ○きゅあ【マリネラ】
そこに、5柱の異世界の神が居た──。
──そして。
「神秘とはこの事かと言う言葉を体現する存在がそこには在った。髪は金とも銀とも言えぬように輝き、頭身は黄金比によって計算され尽くした体型を持ち、その見える肌はどんなシルクやベルベットも木綿生地に感じるような……完全体の身姿」
──イリス様がそこにいた。
「……マジ女神」
幾分まともになった口で、幾分おかしくなった頭が、何も考えずに呟いていた。
「はい、どうかしましたか?」
俺の言葉に気付いた彼女がさも当然のように返事をしてくる。そうだった! マジもんだった。彼女はホントの異界の女神! マジ卍! って何言ってんだ俺!
「あ、いえ。そうではなくて、その……あまりにもお綺麗で、つい」
「そう……ですか」
しどろもどろに返事をするが、イリス様は然程気にせず、そっぽを向いて事務的に答えた。
「おやおやぁ? 太田くん、私はぁ? どう?」
言われてそちらを見やると。ナイスバディが目に飛び込んでくる。お顔も勿論お美しい。……だが。
「マリネラ様、キャバ嬢っぽいです」
「勿論、彼女も絶世と呼べるほどに綺麗だ。そして、ボン・キュッ・ボン! だが、それでは生々しいのだ。そう! 超綺麗な理想と現実みたいな。イリス様は見ることで昇華できる。でもマリネラ様はワンちゃん触れる?みたいな。──あれ? なんかマリネラ様、顔赤いですけど。額に血管浮いてますよ」
「──お主、全部喋っておるぞ」
呆れた顔で、グスノフ様が答えをくれる。
──ふぁ?! し、しまったぁ! さっきまで魂魄? だったから声出ないと思ってた! そのつもりで、全部喋ってたんだ!
「んぎゃ〜! ち、違うんです、マリネラ様ぁ! なんで、なんで拳振り上げてんすかぁ? 俺動けないんすよ。──あ、そこはだめです! だめですってば! ちょ、ちょっと皆さん、黙ってみてないで、なんとかしてくだ……あぁ、マリネラ様ぁ! ごめんなさぁい!」
「自業自得」
「うむ」
「うはは! これは仕方ない、強度実験もついでに出来るの」
こ、こいつらぁ。
「その辺にしておきなさい。マリネラも。もう、あなたの愛し子なのですよ。」
あわや、せっかく貰った男の肉体が、馴染んでそうそうTS仕掛けた所で、イリス様が割って入ってくれた。マジ女神様!助かった……。
「イリス様はいいですよ! そりゃあんな褒められたら……むう!」
あぁ。マリネラ様、また膨れていじけちゃった。って、イリス様の事も喋ってたのか俺?!
「はいはい。それでは、始めますよ」
◇ ◇ ◇
台座の周りに居並ぶ神様、なんだかこう…昔、子供の頃テレビで見たようなシーンが脳裏によみがえる。
「や、やめろ! ショ○○ー!」
そうだ! のりちゃん! チビノリダーは電車に乗っちまったなぁ。……フフ、此処で本家じゃない所が、俺らしいよね。さすがの俺も本家は小学生だったからなぁ……。
「ん! んんっ!」
あ! またやっちまった。思わず、思い出して声に出して演技まで披露していたよ。
「お主はアレか? 何か、トラウマでも持っとるのか?」
「い、いえいえ。あはは、スミマセン。こう、なんと言うか、シチュエーション的に、琴線に触れるものが有りまして」
あぁ! 止めてください! 皆でジト目は。て、オッサンだけかよ。需要ねぇよ!
「い・い・で・す・か?」
「──はぃ」
ふぅ。イリス様、圧スゲェ。綺麗すぎるのもアレだよな。
「では、最初に。この世界の常識や、概念、理等、ベース処理から始めます。太田さんは、ゆっくり深呼吸して心を落ち着けなさい」
そう言って俺の頭をそっと手を添えてくるイリス様。
「では、***** ***! *****@*」
瞬間、頭に何かが浮かんでくる。イメージ? それらは、次から次へと、まるで本のページをパラパラ捲るように浮かんでは切り替わり、自分の記憶へと変換されていく。
それは世界の始まり。主神様の降臨、大地を起し、水を散らすと海が出来、手を広げると風が起こる。主神様は手を翳す。木々が生まれ、緑が広がっていく。
大地に向かって息を吹きかけると、精霊が生まれ歓喜に踊り出す。主神様が影を見詰めると。影から五人の人影が出来、神が生まれる。そして──。
うわぁ~、創世記だぁ。しかも初めて聞くのに覚えてるって、変な感じ~。ををッ! 次々に色んな事やモノが──。
まるで、目の前でずっと大画面テレビを鑑賞している気分だった。創世記に始まり、近代~凡そ現代まで。その歴史を初めて見ながら、覚えている。そして、その中で起きる技術や物の考え方。神が実在し、降臨して与えたスキルの概念や理。それらはスラスラと頭の中で咀嚼され、整理されて行く。
──いつしか、半ばウトウトして居たんだろう。突然の痛みに気付く。
「痛っ!」
物理的痛みではない。何かの映像部分に引っかかった感じ。なんだ?
その映像はまるで、地獄のような場所だった。戦場?そこら中の建物は瓦礫となり、夥しい、血溜まりや肉片がそこかしこに散らばっていた。ふと、血臭に見やれば、そこら中にはなにかの武具の残骸が転がり、倒れ伏した人影が見えた。
不意に感じた視線に振り向いた。
「グクっ……。よもや、此処までのものとは。さすがは神イリスの遣わせた異界の勇者。だが、このままでは終わらんぞ!」
何故か、聖職者のような服を纏った血だらけの爺ぃが此方を睨みつけながら叫ぶ。
「え? なにこれ? いつの間にVR?」
そう。なぜかFPS状態になっていた。右手を見るとゴツい剣を握り、自身も血塗れ、足元も何故か覚束ない。倦怠感と焦燥感が自身を襲い、今にも剣を取りこぼしそうになっている。
「異界の神、アナディエルよ! 異界の狭間へこの者を! 我の命を供物に捧げる!」
──へ? なんだ!? 超絶クライマックスじゃん! え? どうすんの? 何かしなきゃいけないの俺?──。
直後、目の前の電気が消えたように真っ暗になる。恐らく、意識が飛んだんだろう。
俺は、そこで意識を失った──。
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