第4話 初めての武器屋
エブリスタ様版とは展開が異なります
ギルドマスターの部屋で、思わぬダメージを受けていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「ん?」
「セーリス! ノートは来とるか?」
返事も聞かずに、ドアを開けて入って来たのは、セリスさん。
「…おばあ様、いきなりは、止めてくださいとあれほど…」
「おお、居たか。…セーリスは細かいのぉ。それよりノート、ほれ」
セリスはセーリスの小言を、聞き流して、俺に袋を渡してくる。
「これは?」
「ん? あぁ、店の荷物じゃ。それには、素材やら鉱石類が入っとる。お主、武具も防具も持っておらんだろ? せっかく技能が有るんだから作ればよいと思ってな」
「おお! マジでか! キャロさんの着てる、スーツとか作りたかったんだぁ! 武器、武器かぁ…確かに今、素手だしなぁ、手甲? ガントレット? あぁ。悩むなぁ」
「ぬフフフ。安心せい、大概の入手可能な物は、入れておいた。先ずはお手本でも見てこい」
「どこに?」
「武具、防具店じゃろうに」
「あ! あはは、そうね、当たり前だった。キャロさん、良い所知って…ん?」
キャロさんを見ると、プーとほっぺを膨らませて、尻尾だけ少し揺れている。
「…キャロです…キャロ!」
「あ!…そか…ンンッお願いしていいかな、キャロ?」
「はい!! 行きましょう!!」わっさわっさ!
…ふへぇ、こっぱずかしいぞ!
「…何じゃ? 何、真っ赤になっとるんじゃ、アイツ」
キャロに腕を掴まれ、出て行く俺を、変な顔でセリスは見送っていた。
*******************************
東工房街の、更に奥に鍛冶工房が、集まっていた。
「この先に武具専門の鍛冶屋さんが有ります」
「へぇ、武具専門…」
「はい。ガントさんと同じドワーフの方なんですけど、そちらは女性なんです。なので、裁縫も得意で、武器に合わせた防具を作っているんです」
「そうなんだ。それで専門なんだ」
「らしいです。彼女自身も冒険者ですから、そう言った事に精通しているんだと思います」
話を聞きながら、鍛冶工房街に入ると、何処からともなく響く、槌の音。
”カーン、カーン” ”カン! カン!”甲高い音が響き、見ると煙を吐く、煙突付きの工房が見えて来る。
「あぁ。やっぱり、鍛冶工房は、独特の雰囲気だねぇ」
「ですね、鉄を打つ音や匂い。炉を使っているから温度も心なし高いような」
「…キャロって、もしかして武器マニアなの?」
「いえ、そう言う訳ではないです。まぁ、仕事柄、こう言う所の出入りが、多かったのも有りますけど、やっぱり、こう、仕事に打ち込んでる時の顔とか、真剣な感じ、ああ言うの、憧れますね」
「へぇ…そうなんだ」
「あ! ここです!」
言われてそちらに向くと、間口は1間程の、小さな店があった。
「ずいぶん、こぢんまりしてんだね」
「フフ、入口はね、中へどうぞ」
なにやら、変な笑顔のキャロに言われるまま、扉を引き、中へ足を踏み入れる。
「これは…拡張空間か!」
「あははは! やったぁ! やっぱりノートさん、凄いです!」
「…は? え、なにが?」
キャロが騒ぎ、俺が、ぽかんとしていると、後ろから声が掛かる。
「…へぇ、ソイツがキャロのご主人様か。こりゃまいったね」
「はへ? 何が?」
「…アンタの魔力量さ、ほれ、そこに魔道具が有るだろ。それで選別してるんだよ。うちは、特殊な魔剣や防具も扱うからね。キャロに言われてたんだよ、すげー奴が居るって」
「はぁ…。」
「だから! 目一杯強力な隠蔽魔術を掛けてたんです! このお店の中。私には、今も間口通りの大きさの店にしか、見えません」
「済まないね、試す様な事しちまってさ。アタシはヘイス、アンタがノートで良いのかい?」
そう言って、ヘイスはにこやかに、挨拶をしてきた。一見すると、ちょっと背の低い、ヒュームの女性に見えるが、髪の毛が多いのか、きつくお団子状にしてある、二つの毛玉は硬そうで、頭の動きについて行かず、一瞬ずれる。特徴的な、違いは、其の位だった。
「いえ、別に良いですけど、何か理由が?」
「あぁ。さっきも言ったように、ここは特殊な武具、防具を扱う店だ。だから勿論、それを扱えるだけの、力量が要るって事で、あの魔道具で選別するのさ。中には分不相応なバカも居るからね。特に貴族様には、良い予防策になってるよ」
「あぁ。すっごく納得しました!」
「はは、アンタも貴族様と何かあった口だね。しっかし、凄いね。この魔道具が、全く意味をなしていないよ。あんた、ホントにヒュームかい?」
「あ、あはははは! 当たり前っすよ。ねぇキャロ?!」
「はい! 私のご主人様です!」わっさわっさわっさ!!
「あはははは! キャロには違う意味で聞こえたみたいだね。しかし、男っ気ゼロだった、あの鉄壁のキャロがねぇ」
「そうなんです! もう、ノートさんは別格です! 魔術もすごいけど、あの、スピードと腕力! 千顔を、一蹴りで吹き飛ばしたんです。後は、なんか、ピカーってなって、足、消し炭でした」
「あ、あぁ…そうなんだ。…なぁ、ノート。キャロ、アホになってない?」
「ハハハ…。何かねぇ。最近語彙が、なくなっちゃうみたいです」
「ふうん。まぁ、いいや。それで? 何が見たいんだい?」
そう言って彼女は、両手を広げて店の商品を、紹介してくれた。
「…フムフム、それじゃぁ、メインはショートソードか、ククリナイフ系がお勧めだよ。体術主体でも、刃物は有って邪魔にはならないからね、こう言う小振りなら、携帯も簡単だ。キャロも元々はククリナイフだったんだけど、魔力量の配分をもっとスピードにってんで、ダガーナイフに換えて振込みを最小限に、殺傷力を最大にするために、替えたんだ」
「なるほど~。ククリ刀か、投擲にも使えるなぁ。」
「お! ソッチに考えるのかい? じゃあ、コイツが良いよ」
そう言ってヘイスが出してきたのはククリ刀より小さく薄い、持ち手の部分も、剥き出しになった、スローイングナイフ。
「コイツは唯の投げナイフじゃない。この持ち手に穴が有るだろ? ここに、持ち主の魔紋を込めた魔石を嵌めるのさ。すると…フッ」
彼女は魔石を嵌めたそのナイフを壁に向かって投げると、カツッと小気味よく壁に刺さったナイフは、次の瞬間、消える。
「ほい! こんな具合に手元に戻ってくる。便利だろ?」
…スゲエ! グングニルだ! ククリのグングニル!
「はは、まぁ、コイツはあくまでサブだよ。これ以上デカいと、魔力消費もだけど、手元に戻った時の反動も、大きくなるからね。アンタならイケるかもだけどさ」
そんな感じで武器を物色した後、防具の話をする。
「あぁ、キャロのスーツはアタシの作ったモンさ。気に入ったのかい? 嬉しいねぇ。アンタになら、オプション付けられそうだから、もっと面白く出来そうだけど」
それを聴いた瞬間に即答でお願いする。すぐに採寸、手持ちの素材で、使えそうなものを次々渡す。
「お、おいおい、マジか。こんな素材、アタシでもめったに見ないよ。ホントに使っていいのかい?」
「モチロンすよ! さっき言ってた、オプションのガントレットと収納暗器、オネシャス!」
「あいよ! ブーツは、鉄鋼入りになるから重いけど、大丈夫だね?」
「OK!」
「おーけ? まぁ、よく解んないけど良いて事だね。じゃぁ、五日頂戴。魔紋は自分で出来るんだろ?」
「はい。術式だけ縫い込んでくれればいいです」
「あいよ。」
「じゃぁ、お願いします! 五日後に!」
「あいよ~」
そう言って店を後にした。
「良かったですね! スーツ、作ってもらえる事になって」
「あぁ! 後は外套ぐらいだな。手持ち武器も良い感じだし」
「ですね! 外套は余程でなければ、裁縫職人さんに頼めば素材持ち込みで安いですよ」
「おお! じゃあ、それで!」
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「こりゃあ…やべぇ。」
ガントは独り、ほぼ完成した魔導車の前で呟く。ノートと言う、迷い人の知識で、作り上げた設計図を見た時は、正直、意味が半分も理解できなかった。軸重配分に衝突時衝撃軽減システム。果ては、スプリング機構に、エアショックダンパー。
何より、奇怪だったのは、動力部を、前部に配置しておきながら、駆動部は後方から。何故、そんな力を分散させるのか、と思った。
だが。その全てとは、まだ言えないが、片鱗は理解できた。
持続性と耐久度の両立。全ての力を一部でなく、全部に余すことなく、伝える。そうする事で、馬力を上げても、壊れにくくなり、部品の軽量化も出来る。
また、パーツを区分化、ユニット化する事によって、メンテナンスの簡略化。こんなのが世に出れば、誰でも、部品を集めるだけで、一台組めてしまう。
「…これが、アイツの居た世界の技術か…」
ガントは寝食も忘れて、設計図を見ては唸っていた。
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