第3話 ガント
エブリスタ様版とは展開が異なっています
そうしてブラブラ、見物しながら歩いていると、なにやら怒鳴り声が聞こえてきた。
「…るせい! んな事出来るかって、言ってんだよ!」
「…そんな事だから、テメェんとこは、客が来ねぇんだろうが!」
「なんだと!? 表ぇでろや!!」
「な、何だよ、ホントの…うわぁ! や、やめろ!」
何やら血相を変えたオジサンが、慌てて店から飛び出してくる。
「何だ?」
「さぁ?」
「…ん? あそこは…」
「も、もう、アンタんとこにゃぁ頼まねぇよ!」
いかにもな捨て台詞を吐きながら、這う這うの体で、逃げていくオジサン。
そんな店からぬぅっと出てきたのは、大きなハンマーを、肩に乗せた、背の低いどっしり体型の髭もじゃ親父。
「ケッ…何が、頼まねぇだ! こっちが願い下げだ…って、オメェ…セリスか!?」
「…げ! 髭だるま!」
「な、誰が、髭だるまだ! 何しに来やがった?! ここはもう、お前の場所じゃねぇぞ!」
ん? おやおやぁ? 何やら怪しい、雲行きですぞ…。
「ち、違わい! 今日は、こいつ等と魔導車を見に来たんじゃ!」
「あぁ?! 魔導車を、見にだぁ?」
そう言った、親父さんは、視線を俺達に向けると、一瞬固まる。
「…ほう、兄ちゃんが、見に来たのか?」
「え? は、はぁ。」
「ふぅん。既存車か? それとも、受注車か?」
「え? 出来るんですか? 受注車!」
「ったりめぇだ。俺んとこは、それが専門だ!」
「スタ───ップ!! おい! ノート! ここはダメじゃ! 他に行こう!」
「なんでよ?」
「何でもじゃ! ここはダメじゃ! 魔力効率ガン無視の、馬力バカの車しか作らん!」
「何だと! テメェ! 魔導車は走ってなんぼだろうが! 馬力の無い車なら、普通の馬車で良いじゃねえか!」
「…もしかして、お知り合いですか?」
──あぁ、こいつは俺の元嫁さんだ。
「ファ────!!」
「あぁ! こんなバカと…気の迷いだったんじゃァ!」
◇ ◇ ◇
店の中は奇麗に片付き、ごみなど全く見当たらない。工具や道具は種類ごとに完璧な形で並び、使い込まれているにも拘らず、新品の様な輝きだった。
「この、工具や道具は、言わば己の手足の代わり。絶対にぞんざいに扱っちゃいけねぇ」
「…ふん。道具は使ってなんぼ。ダメになったら、替えればいいんだよ」
「こ、この馬鹿エルフはぁ!!」
「何だい? 髭だるまのちんちくりんドワーフが!」
「「うがぁ!…ムキャー!」」
…はぁ~。なんちゅう組み合わせだよ。よくこんなんで、子供出来たな。
「あれ? そう言えば、セーリスさんってお孫さんでしたよね。お子さんは?」
そう言った瞬間二人の会話も空気も止まる。
「…の、ノートさんそれは」
…何か、地雷踏んだのか?
《…いや、唯哀しいだけだ》
え? ナニソレ、ハカセ! 何よ?
「…あれはもう居ない。…親不孝者だ」
「…優しかったのさ。優しすぎただけさ」
「…ごめんなさい、知らなかったので」
「いや、構わねぇよ。もう、昔の話だしな」
「そうだね、60年以上になるかね」
しんみりさせちまった…どうしよう?
「あのバカ息子め、エルフのくせに、ユーグドラシルに行くなどと!」
「あの子にとってはそれが一番だったんだよ」
「はぁ? ただの薬草だぞ? それで、向こうのエルダーの娘とくっつきやがって! 挙句、孫娘に、始祖様押し付けて、こっちに寄こすなんて! なんちゅう親不孝者だ!!」
──…なんじゃそれ?…生きとるんかい! 死んだと思ったわ!! アホくさ! こいつ等もこいつ等でめんどくせーな! 見ろ!キャロなんて、泣くの我慢して肩震わせ…て?
「…ブフッ! いつ聞いても面白い!」
…ワロテルで! こいつも知ってたんかい!
「…ん? あぁ。キャロルは、セーリスと長いから知ってたんだね」
「はい、そのノリ突込みは鉄板で聞いてますから」
「どうだ? 兄ちゃん、面白かっただろ?」
「ムキャ──! 面白くないわ!」
「ガハハハ! しんみりさせて、堕とす! 定番だな!」
「年寄りの道楽ネタだよ。事実だしね」
「そう! 俺達ドワーフは、同じ精霊種なのに、ノード様にくっついたもんで、セレス様に嫌われちまったからな」
「あぁ、そう言えばそんな事、ノード、言ってたな」
「…は?…言ってた? なんだ?」
あ!…ま、セリスさんの旦那だし良いか。
「ほう! 迷い人か! 面白れぇ!」
「はぁ。おもしろいか?」
「がははは! 飽きねぇって事だよ。現にセリスがくっついてるじゃねぇか。俺ぁ、ガントって名だ、よろしくな。」
「はぁ、ノートです」
「そうか、これでセレス様でも居りゃ、もっと面白れぇのに」
「ん、セレス様なら、セリスさんの中に居ますからね」
「は? なんだって!? どうゆうこった?」
「ぎゃあははは!! ヒーヒー!! とうとうお前さんも捕まっちまったって事か」
経緯を聞いたガントは腹を抱えて大笑いする。
「うっさい! お前のせいで、さっきから始祖様、機嫌悪いんじゃ! もっと、しおらしくせい!」
「あ、あのう、そろそろ、魔導車の話を」
「ん? おう! そうだったな。どんな仕様が良いんだ? 形は? 人数は?」
「ん~。まずは今の主流を見せてください。そこから、考えてみたいかな」
「お! いいねぇ。こっちだ。一般的な車両が有るぜ」
そう言って彼は車庫へ案内してくれた。
「…これが、一般的」
所謂、箱馬車の馬を繋ぐ場所がない感じの物…車じゃぁないな。そこから、貴族は個々に装飾だとかを付けるとか、乗り合いタイプは乗車部分を長くするなどの説明をしてくれる。どうやら、動力部は車体下部に有るようで、車体の背は高く、安定性が悪い。そのうえ、サスペンションは板バネのみで、タイヤは辛うじてゴムの様な物だが、魔獣の皮膚らしい。
「う~ん。コレジャナイ感が、はんぱねぇ」
「ほう、聞かせて貰おうか」
つい漏らした俺の言葉に、ガントの目の色が変わる。
「先ずは動力部を何故、車体の下に? これじゃ振動はモロだし、何より乗車部が高くなってしまう。これじゃぁ、直進安定性が損なわれる」
「……。」
「次にこのフレーム! 車軸に対して平行なのは解る。だけど、其処に動力部を載せる? ふざけてるのか? 人は荷物じゃないぞ。これじゃ、板バネで、サスペンションをしようにもフレームが共振して、意味をなさない!」
「…スゲェ! 兄ちゃんすげえ! じゃぁどうすればいい?」
「フフフ…良いでしょう。設計理念からお教えしましょう──」
この日から、俺は魔導車の概念を、根本からひっくり返す講義を、ガントにしていった。
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「ノートさんは今日も、ガントさんの所です」
「…で、なぜここへ」
「独りぼっちは寂しいです」
「私は、サラの修行もせねばならんのだが?」
「マスターまで! 私を見捨てるんですか!」
「あ、あの! キャロおねーちゃん! わ、私は大丈夫ですぅ!」
「ちっがぁう! 何を言ってるんだサラ! キャロは遊びに来てるだけで!」
「セーリス師匠! 私には精霊ちゃんがいるですぅ! キャロおねーちゃんにはいないんですぅ! それはダメですぅ!」
「ぬぁぁぁあ! ノートのばかぁぁぁあ!」
「呼びました?」
「「ノート! しゃん! さん!」」
「あれ? セリスさんは? 一緒じゃないんですか?」
「キャロは一人で寂しかったです!」
がばぁ! わっさわっさ!
「はぁ~、天国ぅ! じゃねぇ! はいはい、ゴメンねキャロさん、もう大丈夫!」
「ホントですか?!」
「うん。後は組み立てだから、そこは本職に任せて来たよ」
「良かったですねぇ、キャロお姉ちゃん!」
「はい! サラちゃんもありがとう」
「えへへぇですぅ!」
「…私じゃないの!?」
「…あ、マスターもですよ。」
「ついでみたいに言うな! ほれ、お迎え来たんだから行った行った」
「そんな邪険にしなくても、あ! そうだった。キャロさん、これ」
俺は懐から小さな箱を取り出して、彼女に手渡す。
「なんです?」
「開けてみて」
中には小さな魔石の嵌まったイヤリングがあった。
「……綺麗」
「ほら、俺達のパーティってさ、念話が使えるじゃない。出来ないのはキャロさんだけだから、それ作ったんだ。付けてみて」
「……。どう、ですか?」
「うん! やっぱ可愛い! カフスタイプにしてよかった! 似合ってるよ」
「はぇぇ~。キャロお姉ちゃん羨ましいですぅ。すっごく可愛いですぅ」
「それで、そのカフス部の魔石に触れると…」
…聞こえる? キャロ?
「──…! ノート…さん! 今私のこと…」
…こらこら、キャロも念話!…
…あ! こ、これでどうです?…
…うん、OK!…
…あぁ! ノートさんお姉ちゃんを呼びすてぇ…
…なぁ、コイツはもう、旦那気取りか!…
「しまったぁ! ここ全員、念話使えるやんけ! カッコつける意味ナァッシングゥ!」
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