第2話 パーティー結成と魔導車探し
「セレス様、落ち着いて。優先権を意識しないと、そうなりますよ。セーリスさんと違って、直接憑依じゃないんだから」
それを聞いた二人? は、途端に静かになって目を閉じる。
『む、これでいいのか?』
今度はセレス様の声だけが聞こえて来た。
「どうやら、うまくシンクロ出来たみたいですね」
『おを! 中で騒いでおるが、大丈夫みたいだな。よしよし』
がば! といきなり、セーリスさんが詰め寄ってくる。
「なになになにあれ!? ドユ事ドユ事?! どうなってんの?!」
「あの、ちょ、ちか、いですよ…胸が、押されて…」
「もう!! ノートさん! 今はそこじゃないでしょ!」
と言いながらキャロルが俺をセーリスさんから引き離す。…さり気に、腕を胸で挟むところがいじらしいぞ!
《…はぁ~~~。》
何だよハカセ! 良いじゃんか!
《説明…してやれよ》
あ! 忘れてた。
「え~とね、つまり、あのネックレス型の魔道具には、セレス・フィリア様の、精神体を保管? 補完? してるんです。そして、セリスさんの魔紋と波長をシンクロさせると、セリスさんの肉体を強制的に、乗っ取れるんです」
──再びの絶句時間。
『つまり、このネックレスがあれば、我は何時でもセリスの暴走を止められる』
「と、いう事になります。良かったですねセーリスさん。これで、四六時中セレス様の監視から逃れられます」
『誰がかん──』
「ありがとう!!!」
セーリスは、滔々と涙を流し、喜びを顕わにする。皆も薄々は勘付いていたのだろう。温かい目でその姿を見守っていた。
「さぁ。ボチボチ話の続きを始めましょう」
セーリスが落ち着くのを待って、全員で着席し、会話を始める。
「…え~では、私が。というか、セレス様、どうなさるおつもりで?」
代官は、話を始めようとして、いきなり躓いてしまう。
『…そうだな。では、我が進めよう。まずは、この馬鹿孫だが、もう、好き勝手は出来なくなった。しかし、コイツはパーティに加える』
「「え? なんで?」」
『考えてもみよ。もし、連れて行かなんだら、こ奴の事だ、何をしでかすか分からん』
「え? だからその為に、セレス様が憑依できるようにしたんじゃ」
『だとしてもだ。こ奴のしでかした事、お主は忘れたのか?』
その言葉に、ハンス代官やセーリス、キャロルまでもが黙り込む。
『そして、こ奴自身にとっても、いい経験にもなろう。エクス以外のヒュームやビーシアン達の暮らす街、そこで経験を積ませてやりたいとも思うのだ』
…へぇ。なんだかんだ言ってセレス様も優しいんじゃん。
『…こいつ等は纏めておいた方が管理しやすいしな』
一斉にうんうんと頷く一同。…さっきの俺の感想返せ!
「で、では改めて。今回の王都への移動に際しまして、彼、ノート君にはパーティを結成して頂きます。メンバーはリーダーとして、ノート君。サブリーダーはキャロル嬢。追加メンバーとしてセリス様。この三人でよろしいか?」
「え? ちょっと待って下さい。俺よりキャロさんがリーダーでしょ?」
俺は冒険者としてはペーペーも良い所。なのに、俺がいきなりリーダーなんておかしいだろう。
「…ちょっとそれについては、お前に聞かねばならん事がある」
突然、セーリスさんが、マジトーンで詰め寄ってくる。
「な、なんですか?」
「お前、常時クエで何をした?」
「え? 普通に依頼を熟しただけですよ…何か、行くたびに皆の態度変わってたけど」
「「は~~~。」」
「え? なに?」
「…キャロ、渡してやれ」
「…はい。ノートさん。カードの更新をします。お持ちのカードを」
そう言われて彼女に自分のカードを渡す。
「こちらが、ノートさんの新しいランクカードです。魔紋を」
「はぁ。…え? なにこれ? は? 冒険者がプラチナ! 他が…全部ゴールド!!」
「…自重しないお前が悪い。冒険者に関しては、ミスリルでも良いが、
流石に本部の承認や、試験が有るからな。だが、他の物が軒並三ランクアップとは。どれだけ、他のギルマスや、支部長に言われたか…」
「これで分かったか? お前のカードを見せればどこの支部でも納得される。王都に行くまでにどうせ、賊狩りや、魔獣も狩るだろうからな。キャロに頼んで、せいぜい手加減を覚えろ! 分かったな?」
ぐぬぬ、言い返せない。でも%表示できるようにしたのに…
《それを、【適用】してないだろう》
…あ! そうだった。…あれ、項目多いから、途中でやめたんだった。
そうして、メンバーも決まり、日程の話しを、詰めて行った。
*******************************
次の朝、宿の食堂に、パーティメンバーを集めた。
「おはようございます、キャロさん、セリスさん」
「はい! お早う御座いますリーダー!」
「…なぁ、ノートォ、これ、どうにかしてぇ…外してよう」
「サラちゃん! こっちに朝ご飯三つお願い!」
「はぁいですぅ!!」
「いやぁ! 今朝は清々しい朝ですね! キャロさん!」
「はい! とっても気持ちのいい朝です!」
「……。」
「…セレス様呼びますよ」
「ムキャ──! そうですね! あたしゃ、ほとんど寝てないんで!」
「まぁまぁ、前向きに考えましょうよ。一緒に旅は出来るんですから。」
「嫌じゃ嫌じゃ! 儂ゃ、自由が良いんじゃ!」
「セリス様、今も十分自由じゃないですか。」
「何じゃと!? この乳でかワンコ! こーんな首輪が付いとるのにどこが自由じゃ!」
”ぶちぶちっ!!”
「ぬぅあんどぅえすっとぅえぇ~~! 言うに事欠いて乳でかワンコって! アタシは犬じゃない! 最も気高き狼種の原種ワーウルフですよ! この、駄エルフ!」
「ムキャ──! なんじゃその駄! は!?」
「駄目駄目エルダーエルフ! 略して駄エルフです!」
”ぱぁぁん!”
突如、二人の頭の上で破裂術式が発動する。
「「ひぎゃ!!」」
「…大人しく座ってご飯頂きましょうねぇ」
「「…サラちゃん…」」
──彼女の精霊術の習得は凄まじかった。
何しろ、精霊大好きっこである。彼女は全ての精霊と相性が良かった。なので、魔法などは言えば覚えてすぐ出来ると言う、俺よりチートを発揮したのだった。
「もう、ノートさんがしっかりしないとだめですぅ」
そう言って彼女はワゴンで運んできた食事を並べて行く。
「「ごめんなさい」」
『くっはははは。さすがはセーリスの弟子じゃのう』
…セレス様…念話なんですね。
『いちいち、憑依するのも面倒だしな。そうだ、キャロとも話せるように何か作ってやれ』
また無茶ぶりを…ん? セリスさんが静かだな。
「…念話の魔道具、成る程、興味深い…」
あぁ~あ。もう。
「じゃあ、食べましょう、話もありますし──」
「先ずは、移動について、普通はどうしてるんですか?」
俺はまず、其処から聞いて行くことにした。
「う~ん。そうですねぇ。特段、急ぎでなければ徒歩で周辺の村や小さな町を経由したり、あまりに離れている場所移動は、乗り合い魔導車ってところですねぇ」
おお! ここで、出て来た魔導車! ん?乗り合い?
「あのさ、魔導車って個人所有できないの?」
「え?…いえ、そんな事は無いですけど、値段が高いですし…魔力消費も、あ!」
「へへ。こないだの千顔の賞金有るし、魔力関連は俺だよ?」
「おお! ノート! 買うのか!? 儂もあれ興味あったんじゃ」
そんなこんなで、食事後、三人で魔導車を見に行く事になった。
街の東側に工房街がある。その一角に魔導車を作る工房も有った。
「こんちは~」
工房の店先には、何台かの魔導車が並んでいるが、製作途中か、修理中だった。店先で声を掛け、フムフムと魔導車を眺めていると、奥から人が出て来た。
「は~い。なにか御用ですか?」
若い声にそちらを見ると、如何にも見習いと言う感じの青年が、汚れた手を拭きながら出て来た。
「あ、こんにちは。魔導車の購入を考えていまして、幾つか見せて頂いても?」
そう伝えると、彼は胡乱な目でこちらを窺い、斜に構えて話し出す。
「…へぇ。購入ですか。ご予算はいかほどで?」
あぁ、成る程…そういう判断基準なんだ。
「あ、申し訳ないです。辺境伯からのお話で、王都までの旅程に使おうと思っていたんですが、この店ではないようです」
「へ? 辺境…はくさま」
ぽかんとこちらを見た青年は、慌てたように、何やら言い募って来たが、無視して店を出る。
「い、良いんですか?」
「うん。店はまだあるからね」
「…あの店は客を見た目で判断して居る。あれは良い仕事をする店では無いな」
「セリスさんは分かってるね」
「あ! そういう事」
「うん。せいぜい、お高い物を作ればいいんですよ。そんな物は俺たちには、必要ないしね」
──そう言って、三人で引き続き、工房街を見て回る事にした。
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