第42話 一幕の終わり
セーリスさんがソファの一人席に腰掛け、左右に分かれて俺達が座る、対面にシェリーさんが一人、俺の横にぴったりくっつくキャロル。…うん、なんだこれ。
「あ、あのぅ、キャロルさんど──」
「キャロです! どうしました? ノートさん!」
「ぃぇ、特に何も…」
目でシェリーさんに訴えるが、全くこちらを見るそぶりも、気配もない。
「あ、あのぅ、マスター、この状──」
『お前の昨日の行いの結果だ』
「ファー?! いきなりなんですのん?! セレス様!?」
《成る程!種族特性ですか!》
…ハカセ! 説明! プリーズナウ! へるぷみぃ! ナウ!
《…意味が解らんことを喚くな。お前、昨日キャロルの前で、大立ち回りして彼女を助けただろう》
それがなに?
《この娘の種族は強いオスに惹かれる。しかも、お前は元々、彼女のお気に入りだった》
…で? それがなに?
《はぁ~~~。肝心なところは鈍感なんだな。お前に惚れてるんだよ》
…え? マジで…ちらりとキャロルを見る。
「…フンフンフン…ニッコリ!」尻尾わっさわっさ!
シェリーさんを見る。
「…私にも無理」
イヤイヤいや…嫌いじゃないよ。むしろ大好きですよ。でもね。そのね。……あのね。なんちゅうか、あ~~~! 中間が無い!
「きゃ、キャロさん」
「はい! ノートさん!」
顔! ちっか! ちゅうできそうじゃんか!
『おい、今は待て。先に話しだ』
…何を待つんだよ! ちゅうか? ちゅうの事か?!
”パカン!”
「痛いですぅ!」
『落ち着けという事だバカ!』
そうして無理くり落ち着かされて、セレス様が話し始める。
『まず、辺境伯が言ったことからだが、攫い屋については、二人だけ生き残った奴らを国で徹底的に調べるそうだ。ハカセの言う通り、調べた所、右手に契約紋があった。其れも細工されたものがな。それを外すのに国に連れて行くそうだ。…次に闇奴隷商人についてだが、どうやら、昨夜のうちに国を出たと報告があったそうだ。攫い屋の首魁は、こいつが始末したがな』
目を見張って固まり俺を見るシェリーとキャロル。
『…まだ、話は終わっていない。彼女、サラについてだ。彼女については現在、非常に危うい立場にある。』
「…何故だ? 何故、危うい等と言う事になる」
瞬間的に低い声で、力が入って喋ってしまった。
『…ック…待て! 落ち着け! 気を抑えろ!』
言われて、は! っと気づく。
「…の、ノートさ、ん」
「…それが、あ、な、たの本来の…」
二人はギリギリで耐えているようで、息を殺してこちらを見ていた。
「は~。巻き込んでゴメンね。セレス様、二人には話すんでしょ、俺の事」
『…お前次第のつもりだったがな。今の事をされるとな』
「ふぅ…そっすね。今のは迂闊でした。でもサラの事だったから」
そう言ってから、俺は二人に向かって話しかける。
──…あのね。俺ってさ、迷い人なんだよ。
結界の中、でっかい声で二人の
「「ファ────!!」」
がよく響いていた。
「あ、あの勇者様の!?」
「だから、そんなにスキルが…」
いかん! キャロさんの目が完全にハートマークになっとる!
「フンフンフンフンフン! ノートしゃ~ん!!」
”てい!” ”ベシン!” ”ふぎゃ!”
シェリーが止めてくれた。
「お、おう、ありがとシェリーさん」
「キャロ! あんた、まだ発情期じゃないでしょう! 落ち着きなさいよ! みっともない」
…あ、ビーシアンってそういう言い方なんだ…セレス様が苦笑している。
『…あの、クソ真面目だったキャロが此処までになるとはな』
「ゴメンナサイ…でもでも…」
「いいから、今は落ち着きなさい」
「はぃ…キューン」
…あ、耳がペタンてなった。かわええ…
『ンンッ! まぁ、そういう事だ。ただ、こいつに使命や神託が有る訳ではない。どうやら、手違いで魂がこちらの世界に来たらしい、その際、肉体を失って今の訳が解からんほどの、頑丈な肉体を貰ってここへ来たという事だ』
「…釈然としないけど、その通りなんでしゃあない。…後、キャロさん俺は別に気にしないから大丈夫!」
「!!」わっさわっさ!
『…いいか、さっきの続きだが、危ういというのは彼女を、国か聖教会で面倒を見るかで揉めるかもと言う話だ』
「あ! 成る程ぉ…聖教会は聖女として、国は自国の奇跡の使い手としてって事か」
『…理解が早いの』
「だが断る!」
…言うたった。
『何故だ? 理由は?』
「なぜ、どちらかの場所で、彼女の意志に関係なくそんな事させるの?彼女がその事したいと言った? 俺聴いてないよ?」
『…フム…確かにな。では貴様が彼女をずっとサポートするのか?』
「いやいや、そんな話じゃないでしょ。先ずは彼女に聞いたのかって言ってるの」
『…そうだな。ではハカセ。シロかクロに聞いて貰ってくれ』
《は!…シロか…あぁ。実は……》
はぁ~~。決まる訳ねぇじゃん…何で聞いてんだよ!…いかん。苛ついて来る。
『………。』
《…う、うむ、…わかった…》
「──…? で、どうだった?」
《…う、あぁ。そんな事は考えたこともないし、考えられない…と》
『し、しかしな、それでは、又同じ事が繰り返されるかもしれないんだぞ?』
「なに寝ぼけた事言ってんすか? アンタが公言して、このギルドで治癒師の勉強させてやれば済むじゃんか!」
『…へ?』
「へ? じゃねぇよ。精霊使いのアンタが居るここで。精霊王が居ると国に黙認されてるここで。出来るでしょ。彼女も、それなら納得しますよ」
『…お前、判ってて…』
「あのね。嫌なんですよ。誰かの思惑で何も言えない、子供が良いように使われるの」
『いや、しかし』
「…ふぅ。やってみます? 全力全開のスキル使用で大ゲンカ…なんなら、今ここに国王でもさっきの辺境伯でも連れてきてください」
『待て! 解った。但し、お前の事は話さねばならなくなるがそれでもいいか?』
「…は~~。お気楽生活するはずだったのに、なぁんかどんどん流れが出来てくなぁ」
そうして俺がギルドで大見え切ってから二日後、総合ギルド会館に呼び出された。
「えらく、早い呼び出しですね。もっと揉めるかと思ったのに」
「始祖様が直々に辺境伯と話したからな。部屋に着いたら私も替わる」
…ふぅ。メンドくさぁ~…
《…お前、開き直ったな》
…ぶっちゃけちゃったしね…皆には悪い事したなとは思うけど、サラの事くらいは守ってあげないとさ。それは大人の仕事じゃね?
”コンコンコン”
「はい」
「冒険者ギルド、マスターとお連れの方がお越しになりました」
「…どうぞ」
ドアを開き二人一礼をして中へ入る。
ドアが閉まると同時にセレス様が結界を張る。
『***』
「…いつもながら、見事ですな。セレス様」
そう言って辺境伯が近づいて礼をする。
『…早速だが、話を』
「…そうですか。では、そちらにお掛け下さい」
勧められたソファにセレス様は腰掛けるが俺は横に黙って立ったまま。
「…ん? どうしたのかね? 君もどうぞ」
「いえ、先ずは結果をお知らせください」
「…ほう、この間とは全くの別人の様だね」
後ろに控えていた私兵が俺の前に出て来る。
「…貴様。此処がどこなのか理解しているのか?」
「セレスさん…俺の事ちゃんと話しました?」
私兵と辺境伯をガン無視でセレスに問う。
『勿論だ。その上でこの方達の態度ならば、そなたの好きにせよ。私はこの地を捨て、セリスと森に帰る』
「…ははは。ご冗談はおよし下さいセレス様。ゲイル、下がれ」
「…しかし、辺境伯様」
「下がれ!」
「は!」
「まぁ、君も。取り合えず話をしたいのだよ。座ってもらえないかね」
渋々、セレスの横に座る。
「ふぅ、ありがとう。では、結論から話そう。我が国の王と謁見して頂きたい」
「…理由をお伺いしても?」
「…聖女を発見保護した件は、既に国は把握している。それを連れて行けないなら、その理由を説明するのが道理だ。」
「それが、迷い人の俺を連れて行く理由だと?」
辺境伯は俺の返答に一拍置いてから、探るような眼で俺に聞いて来た。
「…フム。先にお互いの勘違いを解いておこう。この国は王制貴族制度なのは、分かっているね。…哀しいかな、永い時を経ると、この制度によって益を得る者、そうでない者が出て来る。そうなると、益に在り付けない者は何をするか。聡明な君なら、判るはずだ。国を裏切る馬鹿者、自身の利益のみを追求する愚か者が現れる。フィル・セスタ子爵など、判り易い愚か者の典型だ。有ろう事か、あ奴は帝国の間者と繋がり、自身の欲で奴隷制度の復権を求めた屑だ。君はそんな人間を許せない側に居る。それは、我等も同じなんだ。信じて欲しい。故に君の言う通り、サラ嬢に関しては不問にする。セリス様同様、黙認する。唯、君には我が王にお会いしてもらいたいのだ。この通り伏してお願い申し上げる」
そう言うと辺境伯は座ったままながらも、俺に頭を下げて来た。
『…ノートよ。こ奴はこの国では上から数えられる地位に居る者だ。それが頭を下げたのだ。一考の価値はあると思うぞ』
…ふぅ。
「その件につきましては理解しました。只、少し猶予を頂きたいです」
「…ふむ。それは、どれ程かね? 一月ほどなら構わぬが…」
「あぁ。そこまでは掛からないと思います。この街に来てまだ数日ですが、知り合いが出来たので、別れや準備の時間が欲しいだけです」
「そうか。それは、構わない。むしろ当然の事だ。王都には我が領都、エリクスより、魔導船にて向かう故、我が屋敷を訪ねてくれれば良い」
「分かりました。その際は宜しくお願いします」
こうして、始まりの街エクスを早々に旅立つことになった。
これにて、第1章は終わりです
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