第41話 一つの決着とフラグの乱立
エクスの街から既に遠い場所に一台の魔導車が止まっていた。
「…ジードは戻って来ませんか」
「どう致しましょうか?」
運転席に座る侍従が尋ねる。
「フム。今回の視察では手駒を使い過ぎました。補充がてら一度戻って、陛下に報告しましょう。…愉しみも増えましたしね」
「は! では、出発します」
魔導モーターを唸らせ、その魔導車は街道を静かに進んでいった。
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「報告します! 冒険者ギルドより容疑者二名、身柄引き渡しに来られました」
「生死は?!」
カークマンは、真っ先にその事を聞く。
「…は? い、生きておりますが…」
何故そんな事を聞くんだと、兵は訝しがりながらも生存報告をする。
「…隊長、兵が困惑します…分かった! 書類記入はこちらでする故、容疑者は地下牢へ!」
「は! 了解いたしました。」
どさりと音を立てながら隊長はソファに座る。
「ふぅ、すまん。気が急いてしまった」
「…いえ、現状、生きているのは僥倖ですので」
コンクランはちらとハンス代官を見ながら言う。
「そうですね。其れに聞くとその二人は内紛時の生き残りとか。聴きたいことは山積でしょうから、正に僥倖ですね」
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「…良かったの? 生かして引き渡すなんて」
キャロルは幾分、不機嫌に言う。
「…良いのよ、私達の欲しかった情報は手に入ったし。それに向こうの被疑者、全員自我崩壊して、死んだらしいわ。一応の貸しも出来るし、面倒事はあちらに任せられる。どうせ、国が主体になって奴らは調べられる。一石二鳥じゃない。其れに奴らはこれから正に、生き地獄が始まるわ」
シェリーは事も無げにそんな話をする。
「あんた、偶にゾッとすること平気で言うわね」
「実行しているキャロに言われるのは心外」
「な!? ちょっと! そんな言い方しなくても良いじゃない!」
「…そんな事よりも。もっと大事な事が有る」
「何よ! どんな事がアタシの事より大事なの!?」
「…ノート君」
「──…っ!!」
「精霊王の知り合いなんて…セリス様以来、しかもヒューム」
「そう…よね。常識外れのスキルの数にあの強さ…」
「キャロ…顔赤いわよ…」
「フェ?! は? な、何言ってんのよ!」
「…はぁ。まぁ、アンタの種族特性だし、分からなくもないけど…苦労するかもよ」
「だ、だだからぁ! にゃにゃ、にゃにをいってててるのぉぉぉ!」
「受付業務、引継ぎはちゃんとやってね。私も状況次第では…」
「な! シェリーまで彼の事ぉ! 好きになったの?!」
「…違う。私は興味が出たの。ってか自滅してどうすんの」
「…は?! し、しまったぁ! シェリーのバカぁ」
「はぁ~。兎に角、ギルマスにきちんと聞いてからね」
その後もシェリーになんやかんやと、キャロルはからかわれ続けていた。
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「…で。何故ここに戻ってきた?」
セーリスさんは大分飲んだようで、目が座っている。
「何故って…ここ、俺の定宿ですよ」
”ドン!”とエールの入ったコップを、乱暴にテーブルに置き、睨むセーリス。
「…ふん! 私が知らんと思っているのか? 攫い屋の首魁を殴り殺しておいて」
「……あはは。そうですよね。…知ってますよね‥‥」
「プはぁ~~。なんだ? 辛気臭くなりたいのか?」
「いえ、そうじゃないです。ただ…」
「…何だ?! はっきり言え!おねーさんが聞いてやる!」
《…おい、こりゃ多分ダメな感じだ》
だな。自分の事、おねーさんって言っちゃってるし…
「おい、ね・ん・わ・聞こえてるの判ってて言ってるよな」
あ!? やべぇ。
セーリスは振り返り、サラを見つけると声をかける。
「お~~いサラ! こっちにエール二つ!」
「はいですぅ!」
「ぬフフフ! こってりたっぷり、きっちり聞かせてもらおうじゃない…」
「…はぁ~。分かりましたよ。愚痴りますけど、聞いてくださいね」
「やだ!!」
「は?」
「何で愚痴など聞かなきゃならん!? それならアタシが愚痴る! 始祖様のせいで!」
…そんなこんなで、朝まで皆と酒盛りとなり、俺はずうっとセーリスの愚痴を聞かされていた。
「…さん!…ですぅ! 朝ですぅ! ノートしゃぁん!」
ん?! 何やら、揺さぶられて…
「ぐわぁぁぁ! あ、頭がぁ! 痛いぃぃぃ!」
「うひゃぁ!」”ドテン!”
「…はぁはぁ…ん? どこだ此処? いてて」
「…もう! 痛いですぅ!」
「ふぇ? あ、サラちゃん。ん? ここって食堂?」
立ち上がり、服を叩きながら、サラがプリプリしながら言う。
「…もう、ノートさんが一番遅いですぅ。皆さん朝ご飯食べて行きましたよ」
言われて周りを見回すと、昨夜あんなに騒いでいた連中は誰もおらず、静かな朝の風景だった。
「ホントだ、誰も居ねぇ…いつつ」
「頭、痛いんです?」
「ん? あぁ、二日酔いっぽいね…」
「はい、これどうぞです」
そう言ってサラは水を差し出す。
「有難う。…あれ? これ…」
「ギルドマスターさんが、ノートさんが起きたらこれ飲ませてシャキッとさせろって」
ポーションって二日酔いにも効くんだ…。
「朝ご飯どうします?」
「…いや、ゴメン。まだ無理っぽい…」
「そうですか…スープだけでも大丈夫かなと思ったです」
「…じゃぁ、顔洗ってきてからそれだけ、貰うよ」
「はいですぅ!」
そうして、洗顔を済ませ、席に戻ると大将と女将さんに昨日の礼を言われ、仕事だから、問題ないと言って、食事をして宿を出た。
《…で?どこへ向かうんだ?》
…ギルド、行かなきゃね。
俺が起きたのはもう朝も大分経っていたらしく、日は高い位置にあった。
「あ! ノート兄ぃ! やぁっと起きたんだ」
見るとユマが宿の前を掃除していた。
「おう! おそよう! 今日も精が出てるねぇ!」
「…おそようって、ダメな奴じゃん」
「ん~? 別に俺は真面目な人って訳じゃないぞぉ」
「嘘も下手だし」
「…察しのいい子は嫌いだぁ」
「はいはい、マスターがギルドで待ってるって」
──とぼとぼ、歩いてギルドへ向かった。
ふぅ、と一息吐いてから、冒険者ギルドの扉を景気よく開く。
「おそようござぁ~~ス!」
”なんだ?” ”お、やっと来たか” ”おせぇぞ”
「おう! やっと起きたか、マスターが部屋でお待ちかねだってよ」
「…アマンダさん、俺、超ルーキー初心者なんすけど…」
「…は? お前、頭、大丈夫か? まだ酔ってんのか?」
「なんだ、その扱い! 依頼だってお使いすら終わってないのに!」
「あははは! 聴いてるぜ! 千顔潰したんだってな?! そんなルーキー聞いた事ねぇよ」
…なんだって?!
驚愕の表情で固まっているとシェリーさんが歩いて来た。
「…あれだけ、大立ち回りしておいて、バレない方が変。さ、行く」
そして、当たり前の様に襟を掴まれ引き摺られていく…。
ギルドマスターの部屋に入ると、幾人もの人が居た。
「遅かったな。ポーションは効いたか」
「は、はぁ。まぁ。で、この方々は?」
俺の知っている面々は、カークマン隊長とコンクラン副隊長、キャロルとシェリーとセーリス、そしてソファに腰掛けたハンス代官。
代官以外の知り合いは全員立って居る。だが、ソファにはまだ、座っている人がいる。私兵と侍従を従えて。
「…初めまして。私はエルデン・フリージア王国、辺境領を預かるフィヨルド・フォン・エリクス辺境伯だ」
立ち上がり、鷹揚に自己紹介をする。それを聴いた俺はすぐさま、跪き頭を垂れる。
「…これは、大変失礼を致しました。私めは一介の冒険者の粗忽者。辺境伯様への御目通り、誠に恐悦至極、先のご無礼、誠にご容赦、平に伏してお願い申し上げます」
「…はは。君は本当に田舎出身の若者なのかね? そのような言い回し、貴族にもなかなか居ないぞ。良い、楽にしなさい。責めに来たのではないのだから」
「は! 寛容なるお言葉、感謝申し上げます。」
何とか、場を繕い、顔を上げると、辺境伯以外の顔がおかしい。
「あ、あの皆さん?」
「い、いや、すまん。貴様があまりに流暢に話すので頭が追い付かなんだ」
…失礼な! これでも元五十歳のれっきとしたサラリーマン人生だったのですよ!…
「ははは。まぁ良いではないかカークマン隊長。そんな事より、これで全員揃った。セーリス殿、頼む」
「…はい…******」
精霊結界…なんか、嫌な予感…。
「では。…先ずは密命完遂、よくぞ成してくれた。領主として感謝する」
カークマンとコンクランに対して、辺境伯が言う。
「…その際の最も優れた協力と助力、誠に感謝を」
セーリスさんに向けて。
「…最後に。…その全ての作戦に於いての協力、更には仇敵千顔の捕縛、無辜なる市民の救助、辺境伯として、謝意と感謝を」
…へ? 俺?
「…あぁ。ノートで良かったのかな? 君の知らせが発端となって今回の事は成せたのだ、感謝している。千顔の賞金については既に口座に振り込んだ。他の件についても色々決めて行かねばならん。先ずはこの場では此処までとさせて貰うよ」
「は! 有りがたきお言葉。謹んでお受けいたします」
「ウム。…では、再度招集有るまで、この街に滞在する様に。では」
そう言って辺境伯と代官達は部屋を出て行く。その間、俺は頭を下げたまま。
「もういいぞ。」
「よくないです。ひっじょうに良くない流れです、ねぇキャロさ──!」
”ガバッ”
「むはぁ~~! なんですか?! 天国ですか!」
「…すっごいです! ノートさん! もう! もう! すっごいです!」
「キャロ…語彙無さすぎ」
「はぁ~。お前達、まぁ座れ…結界はまだ解いていない」
──…残ったのはギルドの面々…はぁ…
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