第4話 新たな身体
気付くと混沌な状態になってしまった。マリネラちゃんは怒って、ホッペぷ〜って膨らまして、そっぽ向いたままになってしまうし、エギルはドグサレ共が〜! って、喚いて地団太踏んじゃってる……。それを見たノードは笑って、そこらを転げまわってるし。ホントにこいつ等神様かよ。
「「ふぅ……」」
グスノフさんと二人、溜息をついて肩を落とす。
「のぉ、太田君、儂の苦労を少しは考えてくれんかの?」
「はい! 申し訳ございません課長!」
なぜだろう。そんな気は全くなかったのに、前世の気分が蘇り、元上司への口調で言ってしまった。一瞬ぽかんとしたグスノフさんだったが、ほんわかとした雰囲気で俺の方を向いて話かけて来た。
「そうかそうか。……おまえさんも苦労したんじゃな。」
ぷ〜と膨れた女神と罵詈雑言を喚き散らす男神。それを見て笑い転げる神とフヨフヨとほんわか…混沌で、幼稚園状態である。どうすんのこれ。
「なんですか? この状態は」
おをっ! 女神様! お救いくだされ! 先程まで、向こうで俺の身体を創っていた二人が戻ってきた。イリス様が、手をパン! と一打ちすると騒音は掻き消える。
「エギル、何を取り乱しているのですか。ノードも。……それとマリネラはなぜ、むくれているのです?」
それぞれ、名を呼ばれた神たちは、しゅんとなって一箇所に集まる。
──優しい声なのに、体の芯から何かが震える。
「グスノフ。どのあたりまで教えることが出来ましたか?」
「は、はい! そのぉ、なんと言いますかぁ、えぇ~」
イリスに聞かれたグスノフが、ぴんと背伸びして固まった。やべぇ!グスノフさんが死んじゃう!
「あ、あの!こ、理、そう! 次元についての理解と、この世界の人類についてご教授賜りました! です!」
彼の前に飛び出して、なんとかその場を取り繕う。うぅ、これが俺の今できる限界だぁ!
「──そうですか、ふむ。限界ですか」
──あ!
「い、いえ!そうではなくてですね! スキル! そう!スキルについてのご説明を頂く所でしたが、俺の頭がついていけなくて、限界だったんです〜」
「成程、たしかにこちらの世界は多次元形成ですから。その理が理解できただけでも良いでしょう。人類について。ですか。そうですね、それを知っているか知らないかでは、降りてからかなり苦労しますからね。隣人とは差別なく対等に。ですよ」
──ふぅ、良かったぁ。あ、グスノフさんがサムズアップしてる。
「ぬははは! まぁ、良いではないかイリス様。前提、理を理解したのであれば、後は実践在るのみよ」
筋肉達磨のエリオスが、豪快な笑い声と共に現れて、如何にも脳筋極まれりなセリフを吐く。
「そうですね。肝心なことは理解したようですし、細々したことは、先にこちらにインストールしておけば良いでしょう」
イリス様はそう言うと先程したように、右手を翳す。
すると今度は何やら、台座? のようなものが床からせり上がってきた。その上にはマッパの身体が!
あぁ、アレが、俺の新しい──てか、さっきなんて言った? インスト─ル? え? その身体ってそんな事できんの? なに? 電脳されてんの? ブイアールがリアルに! 何言ってんだ俺。
イリス様はチラと此方を見たが、──アイツの妄想、もう面倒なんでスルーしよう。って感じで、話を進める。
「こちらが、今回太田さんさんのDNAを元に、この世界で支障なく、生活できる肉体です」
──おををっ!! ピチピチしとる! 肌が! ぬをっ! ナニもちゃんとノーマルだ! 顔は……。
「ぬはははは! 太田よ、喜べ! 見た目は完全に有機体のヒュームだ。しかし! 儂が手伝ったのだ! 中身はすんごいぞ!」
自信満々のエリオスだが、なんだよ中身って。まるで、人工物みたいに言いやがって。って、ある意味人工物だな。
──! ホムンクルス。……嫌な言葉が思い浮かぶ。
「安心なさい。コレはそのような低俗なものでは有りません。私自ら創造しているのですよ。ヒューム種で間違い有りません」
イリス様がきっぱりと言い放つ。そりゃそうか。考えたら、この世界の全てを統べるのが管理者イリス様だもんな。うん、納得だ。イリス様! あざます! じゃなんだ、エリオスの言う、すんごいのは?
「ぬふふ。聞いて驚け。まず骨だが、チタニウム合金を主材に使い、素をハニカム加工し、グラフェンの積層体で構成した。コレにより数百いや、数千倍は耐摩耗、破砕耐性を追求しながらも、粘度、軽さの両立という、金属の矛盾を克服した夢の骨だ!」
──え? ナニソレ。
「続いては筋繊維、並びに筋類! これらは、ケブラー繊維を主原料に使い、筋にはカーボンナノチューブを撚り合わせ、耐刃、切断耐性を極めておる!」
───。
「内臓器官はこれらの機能を内包させた、所謂、ミックスミートを採用。対毒は勿論、あらゆる病原体を即座に撃退する。極めつけが、皮膚!コイツはもう芸術だ。表皮部分には先述のグラフェンを超極細目加工を施した上に、魔術に対する特殊紋が刻印済。真皮にはミックスミートにケブラー繊維を織込み済なので、耐刃、耐熱、耐爆は勿論、耐冷加工も済!」
────。
「ふふふ。言葉もないか。そうであろう、そうだろう。まさに無敵! 無双の肉体! 儂の最高傑──」
”ボカン!!”
「グエッ!」
あ、イリス様に思いっきりどつかれた。イリス様、なんかプルプルしてないか?
「エリオス……私はこの世界で簡単には死なない程度と、話したはずですが」
ですよねぇ。コレじゃぁ、まるで……。
「「何、不死身の究極ロボットみたいの創ってんだよ!」」
あ、俺の気持ちとシンクロした──。
「ぬぐぅ……。しかし、イリス様よ。今更創り直しは、ちと難しいぞ。使える素材は使い切ったからの」
どつかれた頭を擦りながらも、エリオスはブスくれて話す。
「な? DNAもですか?」
爽やかなエリオスのサムズアップ! 瞬間的に吹っ飛んでいくエリオス。ヤベェ、イリス様、プルプルしっぱなしだ。
「の、のぉ。管理者イリスよ。先程、あ奴が言っておった素材? なんじゃが」
「──。」
無言で表情は見えないまま振り向くイリス様。
「アレって、地球由来の合金類、なのではないかの?」
「──えぇ。そうです。此方の世界では未だ未発見や、構成自体が発見されていません」
一歩、二歩後退ったグスノフが、胸を抑えて静かに尋ねる。
「そ、それは良いのか? 神的に」
──何いってんの? グスノフ爺……それってメタ的ですよ?
戻ってこないエリオスを誰も気にせず、皆が台座を囲む。おをを! 顔! いいじゃん! へぇ。こんな感じになったんだぁ。イケメ──。
「フム。肉体はエライ事になっとるようだが、顔は、普通だな」
「じゃのう。まぁ、元を考えれば、良いんじゃないかの?」
────。
「だねぇ。まぁ、イジメられることは無いんじゃないかな」
ねえ? コレが普通なの……。泣くよ。俺泣いちゃうよ。まぁ、確かに。俺は純日本人のしかも普通以下の顔面でしたからね。欧米風になった、俺の新しい顔を見ながら、しみじみと感慨に耽る。
「ん、ンン。さて。太田さん。これより貴方にはこの肉体に宿って頂きます。肉体とのリンクが完成するまで、身体は動かせませんが、精神は起こせますので、肉体に魂魄が馴染む時間を使って、スキルや、事前情報のインストールを同時に行って行きましょう」
イリス様がそう言って俺の側へと近づいてくる。
いよいよか。てかロボット? アンドロイド? みたいにはならないよね。
「大丈夫です。そのための地球産の物質を多用したのです。勿論此方の世界でもそれらは存在しますし、発見できれば再現可能です。なので心配は無用です。それに身体は……頑強ですから」
最後! あぁ、もう諦めたんですね。
「……。」
無言でイリス様は俺にそっと手を翳すと聞き覚えの無い文言を話す。
「*******」
──んぁ、なにこれ──。
イリス様が認識できない文言を話した瞬間。俺の意識は遠のいた──。