第36話 やちまたを探して
結界に阻まれ、煙を吸った男達は麻痺の薬に痺れ、バタバタと倒れていく。
「へ、ヘルマ…ン…」
デックは痺れた口から相棒の名を漏らし、女を睨みながら蹲る。浄化を掛けて煙を飛ばしてから、俺は男達に近づいて行く。
「あんたがデック?」
聴かれたデックは痺れたまま顔を向ける。
「その痺れた手で何するの?」
握った手の中には先程の魔道具。内容は発火爆裂の刻印。
「痛いの嫌だろ」
言われたデックは意味が分からなかった。だがチャンスだと思った。
「シィ・・にぇえ!」
そう言って魔道具に魔力を注ぐ…。
「…ぅあ?」
痺れていたせいで自身の身体に気づかなかった。
「あぅ…おりぇにょ…ぅえぇ」
両手が魔道具を握ったまま足元を転がっていく。
「…ノートさん…貴方は…」
「…あれは、何だ…何者だ?」
まるで、散歩のような足取りで賊に近づき、無表情で何の呵責もなく腕を切り落とす。そんな人間をコンクランとキャロルはただ、遠巻きに見ていた。
「これは没収…はい、こっちに腕出して…ハイ・ヒール」
「「治したぁぁ!」」
「うひゃぁ!? なに? なに?」
吃驚して周りを見ると皆が目を見開いて固まっている。
「なになに?…皆、怖いよ…」
言いながらヘルマンにも同じ事をする。
「「またぁ!」」
「ノートさん!」
そこで、キャロルが駆け寄ってくる。
「ん? どしたの?」
「どしたも、こしたも無いですよ! あ、貴方! 光属性の高等魔術まで使えるんですか!?」
「あ! あぁ…それは‥ごにょごーー」
「ごにょごにょ言わない!」
「むごっ!」
口をむぎゅってされる。
「…まぁ、魔術なら一通り扱えますよ。それに俺、こいつ等を殺す気は無いですから。其処までの事されてないし。ただ、痛い思いはしてもらいましたけど。そのくらいは怒ってますからね」
「…貴方って人は」
「あ。デックとヘルマンはシェリーさんとキャロさんが用事あるんでしょ?」
「へ?…何でそれを…誰に聞いたんです?」
「シェリーさんです」
「…そうですか…はい、私達はこの二人に用が有ります」
「…はい。じゃあ、コンクランさん! 他の兵の皆さん! 残りを捕縛しましょう!」
「おい、ノート。あの二人は…」
残って痺れて動けない賊を兵達が捕縛する中、コンクランがキャロルとデック達の事を聞いて来る。
「あぁ。アイツらに関しては冒険者ギルド経由で。身柄は必ずお渡ししますので」
生かしてとは言えないけど…
「……そうか。話も通っているんだな?」
「…多分?」
「……ふぅ。わかった」
コンクランは仕方ないといった表情で、残りの賊を拘束して兵達と一緒に戻っていった。
「キャロさん」
「…はい?」
「そいつら、一度ギルドの牢に連れて行きましょう。セーリスさんとも話したいし」
「そう…ですね。分かりました」
二人を拘束しギルドへ向かった。
*******************************
「…そうですか。宿の方は失敗と…」
「は!‥‥申し訳ございません」
無表情のまま、マキャベリは報告を聞く。
(…フム。ジードの感知スキルを上回る…皇室魔術師並みか)
「…少し、彼に興味が出ましたねぇ。まぁ、今は人手が足りません…ジード、合図はどの様に?」
「…は! 園は虹の目です」
「クッ…ハハハハ!そうですか。ワードは仕込んで来たのですね」
(フフッ…虹の目。鑑定の時に起こる魔力の虹彩反応。そして、園。彼等の右手に施した契約紋の自壊による自我崩壊。我等へ辿り着く事はない…まぁ、手数は減りますが今回は仕方なしですか…)
「さて。我等も動きましょうか…子爵の方が上手く行って頂けると、有難いですね」
「…は! 娘に関しては…」
「…今は、引きましょう…いずれ、また機会は巡ってきます。それまでは、大切に育てて頂きましょう」
「…御意…」
恭しく頭を下げながらジードは臍を噛んでいた。
*******************************
その頃、子爵邸の厨房では、大将が声を出し、女将が忙しなく動き回っていた。
「──そうです。まず、下処理にこの香草を…」
「…はい、此方の鍋を、お願いします──」
子爵邸のシェフは、黙ってその様子を離れた所で見ていた。
(フム…手際が良い…女将との連携も、問題ない。家の者達に物怖じせずキチンと話せている…はぁ~。其れだけに惜しい)
シェフは自身のポケットに忍ばせた小瓶を掴む。
(俺も…昔は…料理の事だけを考えて…)
そんな忸怩たる思いをしながら、小瓶の液体を少量、鍋に入れる。
(…済まん…俺の家族の為だ…すまん)
「…この鍋を」
「…あ、有難うございます」
女将はシェフからその鍋を受け取り大将の元へ。
──その様子を、厨房の入り口からヘンドリクセンが見ていた。
「それでよいのです」
*******************************
『…で? お前幾つ、造った?』
ギルドマスターの部屋で、仁王立ちのセレス様。俺は、絶賛ちびっ子精霊にもみくちゃにされながら、詰問中。
「…あ、いひゃ、あにょれ‥」
…なんでセレス様なんだよ! ハカセ! これってドユ事?
『…セーリスが泣きついて来たのだ!』
「…ファッツ? ホワァイ? ナゼニ?」
『我も聞いて呆れたわ! 貴様! 結界と次元を一緒くたにして弄っただと! この世界の人間にそんな理、通用せんわ!』
ンキャァー! 何で怒るんですかぁ。
『あのなぁ…そんな事、出来るのは、か・み・さ・ま・だけだ!』
………エギルぅ!!
「セレス様! 違うんすよ! 絶対エギル様のせいですぅ!」
『………ふぅ。兎に角。そんな神級スキル、幾つ造った?』
「…え? あ、あのスキルって等級有るんですか?」
『そこからか…いいか、スキルにはベース、ユニーク、個有。三種、在るのは知っているな?』
…はい。
『で、ベースは基本スキルに分類されているから等級などは無い。固有は逆に数が無いから等級の付けようがない。だが、ユニークは違う。ベースの上位互換足り得る。それは個々によって、現象の力で世界に与える影響に多寡が生じるからだ』
『低級、中級、上級、超級、伝説級、神級まで分類が有る。因みに魔術にも同様な等級があるぞ、低級、中級、上級、上級高等、超級、ロスト・マジック、神級。これらが、魔力保有力や適性等によって変わる』
…はぇ~こまけぇ~。
『当然だ! 低級であっても一般人の力とは異なるんだぞ。そこは厳密、厳格に管理しないと世界の秩序が崩壊する』
…あれ? でもちょっと内容が違うんですね。
『ん? あぁ。ユニークは過去に存在したスキルが現存できたりするからな。ただ、魔術については、その規模や、術式自体が分からない物や扱えなくなった物が有る。それらは総じてロスト・マジックになるのだ。あぁ、後、上級高等と言うのは治癒術だけにある区分だ』
…なるほど~~。セレス様! すっごい判り易いです!
『…煽てられても嬉しくない。さっさと教えろ!』
◇ ◇ ◇
キャロルはギルドの拘束牢の前で、二人の男を睨んでいた。
「ふぅ…やっと痺れがましになって来やがった」
「…。」
ヘルマンはそう言って首を回しながら愚痴るが、デックは黙ったまま。
「…で? テメェはやっぱ、あの部隊の生き残りなんだよな?」
ヘルマンが思い出したように話し始める。
「…あれは戦争だ…個人的に攻められる所以は無いと思うんだが…」
そう言って、デックが静かに抗議する。
「フッ…戦争…か。…お前達にはそう見えたんだろう。シンデリスは元々小国家の集まり。国としての纏りは無かった。種族による集落程度だったからな。…だから、お互いの生活圏のぶつかり合いによる小競り合いはあった。長い間な。……でもそれが、貴様達、ヒュームの国に何か不都合があったか?」
「「…」」
言われて二人は黙る。
「そうだ。そんなものはない。無かったんだ。お前たちが奴隷狩り等とふざけた事をしなければな! お前たちが侵略したんだ! 最初に! 勝手に! お前たちの理由で! お前たちのエゴで!!」
”ガン!ガン!”
喚き、怒鳴りつけるようにしながら、キャロルは檻の鉄格子を蹴る。
「ハンっ! 何が地獄耳だ! 鷹の目! 猟犬だ! 貴様らはハイエナだ! 死肉を漁り、周りをいつもびくびくと怯えながら逃げ回る! だが、もう逃がさない! さっさと全てを吐くんだな。そうすれば慈悲で地獄耳の所へ送ってやる」
「貴様らのせいで…どれだけの同胞が…幼い子供が…意味も解らず、声も出せず…唯、唯、死んでいったと…」
そう言いながら、涙と共に抑え込んでいた感情が溢れ出す。
「我等、解放部隊は永遠を誓った。故に貴様らの罪も永遠だ。直にもう一人が戻る。覚悟しておけ」
*******************************
カークマンは一度、衛兵詰所へと戻って来ていた。
「状況は?」
「は! 現在、スラムに於いて発見した賊は捕縛し、地下牢へ収監しております。各手続きの為、現在鑑定人、及び、審議官を招集中です」
「そうか、で、何人捕縛できた?」
「現在、攫い屋実行犯と思しき賊は十二名。潜伏場所は総てスラムにて発見。ただ…」
「ン? なんだ?」
「は! 潜伏場所に指示書や紙類と言ったものは発見できず、実行犯もスラム住人で構成されていまして」
「主要メンバーがまだと言う訳か」
「は! それと、二つ名持ちの【鷹の目】【猟犬】【地獄耳】ですが」
「奴らがどうした?」
そこで応答していた兵は、コンクランを見る。
「なんだ?」
カークマンがコンクランに聞く。
「は! 地獄耳については先程、惨殺体で発見されました。鷹の目、猟犬は現在、冒険者ギルドで預かりとなっています」
(…惨殺体…キャロル達か…ふぅ。どうした物か)
「あの、隊長…」
「ん? なんだ」
「この事は話し済だと受付嬢達から言われました。そして、身柄は必ずこちらに引き渡すとも」
「ふぅ…。そうか。その件については了解した。以降、確認は要らない」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。