第35話 園は虹の目
少し時間が経った頃、宿に冒険者が集まってきた。
「おぉい! シェリー。入口の穴ぼこはなんだ?」
「あ! アマンダさん」
「お?! ノート! 大丈夫か? マスターに聞いて来たんだが、えらい騒ぎだなぁ」
「えぇ。なんか賊が暴れて…」
「そっかぁ。もう大丈夫だ! アタシらが居るしな」
「はい! じゃあ、シェリーさん後はお願いします!」
「え? おい、ノート?」
アマンダの疑問には答えず、そのまま宿を飛び出す。…キャロルさんは…これか! マーカーの詳細情報で名前サーチで確認後、走り出す。
(…マズイ。ジグが近づいてる)
速度を調整しながら%表示をメニューに追加…マジ、便利。エギルサンキュ!
南の路地から西の宿へ、キャロルは頭の地図を思い出しながら、気配を薄くし、駆ける。
「あ! キャロちゃん!」
──…ノートさん?
路地から出て、幾つかの通りを抜け丁度半分ほど来た所で、ノートが居た。ノートは笑いかけながら、キャロルに近づいて来る。
「こんちわ。今日はどうしたんです? …外で会うなんて」
「あ、あはは、いえ。ちょっと野暮用で」
「へぇ。そうなんだ。あ! 丁度良かったあのねキャロちゃん──」
…違和感はあった。最初に声を掛けてきた時と今。
彼は私をちゃんなんて呼んだことはない。キャロさんと初めて呼んでくれた時はちょっと嬉しかったのを覚えてる。
でも身体がそれに反応できなかった。
眼では追えていたのに。
迫るナイフの切っ先が見えた。
それは確実に正中を狙っていた。
クソ! 何で!? コイツは一体何者だ?
あぁ、シェリー。私駄目だったみたい──。
「こなくそぉ~~!!」
“バキャァアッ!”
「グバァッ…」
──え? 目の前を凄まじい勢いで飛び膝蹴りの姿勢のノートさん。横を見ると錐もみ状態で吹き飛ぶノート。頭がフリーズする…ナニコレ?
間に合ったぁ~~。あ、キャロルさん固まっとる。
「ダイジョブ? キャロさん」
そう言った瞬間、彼女の目からぶわっと涙が溢れる。
「ファ? 何? どっか怪我したの?」
「の、ノートさ~~ん!」
瞬間がばっと抱き着かれる。んっはぁ! なんじゃこれは? 天国か!?
《ノート! 奴が起きた!》
”ビーム!” ”バジュッ”
「ぐがぁっ…あ、足ぃ、俺の足がぁっ」
「三十五セムだ」
「がぁっ…はぁ?…グッ…何を」
「テメェ…食い逃げしやがって」
「…お、お前、何で?」
「はぁ!? もう一本足は有るんだ。そっちも焼くか?」
「ま、待て!キャロちゃんこいつは誰だ? 俺の偽も──」
”ドコッ”
「グベェッ…」
「あんたこそ何者よ。ノートさんはちゃんなんて言い方で私を呼ばないわよ」
「コイツはジグだよ。本名はジェラルド・ホートマンって言う奴」
「な! なんでお前がその名を…」
「ん? あぁ。朝鑑定したから」
「はぁ~~?! ジェラルド・ホートマン!!」
「うはぁ! なに? どしたの」
「こ、こいつ、特級犯罪者ですよ。賞金首!」
「そうなの?」
「貴族専門の詐欺師で、国中から、手配されてます!」
「あぁ、コイツなら出来るな。変化スキル持ちだもんな」
”バシン“
「ったい。何すんの?」
「もう、もう! 聞いてました? 今の話! コイツ賞金首!!」
「あ? あぁはい」
「国中からの懸賞金が出ます」
「…へ?」
「確か…今は…一千万ゼルム…くらい?」
「ファ?!」
…って、え~と一セム十円換算で…い、一億え~ん!
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なんやかんやで、キャロルさんを助ける事が出来た。街の衛兵を野次馬に呼んで貰い、ジグを引き渡して現場での軽い職質を受け、詰所にと言われた所で、キャロルさんが言う。
「すみません。こちらも、依頼遂行中なんです」
カードを衛兵に見せて、後から出頭すると言って現在。絶賛小走り移動中という変な状況。
「…それにしても」
「な、なんですか?…」
「いや、いつも見てるキャロさんはこう、受付嬢の見本? みたいな感じだったから」
「から?」
「うん! エロくて可愛い! エロかわ──」
”バチン!”
「いだい!」
「バカ! 女性にその言い方はダメですよ! 何ですかエロって!」
そんな事を言うが、ずっと尻尾はユラユラしてんだよなぁ…顔もにやけてるし。
「はぁい。でもそれって、キャロさんの戦闘用の着衣なんですよね?」
「…はい。私は魔力適性が身体能力側に極端なんです。まぁ、ビーシアンには結構いるんですけど。なので、最大限に活用する為に特殊加工されてるんですこれ。すっごく伸縮性が有って対刃、耐衝撃等の紋が縫い込まれてます」
「はぇ~。かっけぇ! 俺もなんかそんなの自分で作ってみよう!」
「な? え?! は? つ、作るんですか? 自分で?」
「…あ!…まぁいいか。シェリーさんにもある程度話したし」
「何でシェリーが先なんですか!!」
「みぎゃ! いきなり掴まないでぇ!」
そんな感じで二人で路地を進んでいった。
「この先ですか?」
小声で彼女が聞いて来る。
無言でコクリと頷き、前方の廃墟のような小屋を見る。この場所に来る前に衛兵には話をつけて現在応援待ちだ。
現在二つのマーカーは、この中で数人の人間と一緒に居る。間違いなくデックとヘルマンだろう。
まずは実行部隊の攫い屋たちを潰す。
それが、三人で話し合った打ち合わせの一つ。末端から切り崩す。本丸には隊長やギルマスが動いて行動制限する。そうして、身動きさせずに一気に捕縛と言うのが概要だ。
後方から何人かの気配がしたのでそちらを見やるとデッカイ人が先頭に居た。
「コンクランさん?」
「あぁ。そうだ。此処に攫い屋の実行部隊のアジトが有ると聞いてな」
まさか、副隊長自ら来るとは思って無かったよ。
「えぇ。あの小屋に。今六、七人ってところですかね」
「フム…やけに少ないな」
「多分、何カ所かに分散しているんでしょう。ただ、此処には俺の事を監視していた奴が居るので」
「あぁ。それで逆に尾行して、見つけたわけか」
「えぇ」…まぁ、そういう事にしておこう…。
幾つかの打ち合わせの後、各々持ち場に散っている時だった。
”バタンッ!”
小屋の扉が勢いよく開くと同時に何かがばら撒かれる。
”伏せろ!”
声と同時にそれは炸裂し、発火発煙する。
「クソ! 煙幕か! 気をつけろ! 煙に何か仕込んでいるかもしれん!」
コンクランが叫び、隊員たちが散り散りになった瞬間、一斉に人が飛び出してきた。
「バラけろ!…【園】は【虹】の【目】だ! 行け!」
先頭の男が何やら暗号のような文言を喚き散らして、猛烈なスピードでこちらに向かって来た。
「…ノートぉぉぉぉ!!」
ヘルマンは既に覚悟していた。ジード達とアジトへ向かっている時に一人の男が合流してきた時の事。
「ジードさん!」
その男はゼスと共に俺達と監視を交代するはずだった男。
「…何だ? ゼスは?」
「やべぇ女に捕まった。恐らくゼスはダメだ。足をやられた」
「…女?」
「あぁ、全身黒ずくめの体術使いのビーシアンだ!ありゃ多分内紛の時の…」
…そこまで聞いて思い当たる。奴らだ!…俺達の部隊が壊滅させられた、ビーシアンの戦闘特殊部隊…その生き残りだ。
「そうか。で? お前はどうやってここへ?」
「は? そりゃ、奴が戦闘している間に逃げて──」
其処まで言って、男は喉を切り裂かれて、その場に倒れ込む。
「ゼスに謝りに行け」
「…デック」
デックは大振りのナイフの血を払いながら、事切れた男に吐き捨てる。
ジードは男の喉笛を切り裂いたデックを平然と見ながら言う。
「お前たちは路地の三のアジトへ向かえ。恐らく、何かしらが動いてる。俺は指示を貰いに行ってから合流する。【園】は【虹】、合図は【目】だ。」
ジードと別れ、小屋に入るとすぐさま、デックが反応した。
「クソ!…何でだ? 何でもう見つかるんだ!」
「何だ? おい? 何を言ってる?」
聴いた指示を言う間もなく、ノートが男の言っていた女と共に現れたことを告げて来た。
そのアジトに居たのは五人、皆名も知らない男達。
「クソったれ…おい、いいか、俺が先頭で出る。この煙幕を使ってな。コイツには神経系の麻痺薬が混ざっているから吸うなよ。その煙幕と俺の攪乱の間にばらけて逃げろ」
…せめて! せめてノート! 貴様だけでも!
”キィン!”
「…は?」
確実に機先を制していたはずだ。現に女は対応できずに目を見開いているし、でかい図体の衛兵は固まっている。ノートに至ってはこちらを見ても居ない。
なのに…なのに何で俺の腕が無いんだ? さっきの金属音はなんだ?
あっけに取られて足を止めたヘルマンが、自分のすぐ傍に落ちているナイフを握った腕に気づく。
「落ちた腕のナイフが地面に弾かれた音?」
「何言ってんだ? お前?」
…ビビったぁ~。コイツ、急に飛んできたぞ今! これがホントの一足飛びって奴か?…
《…いや、俺はお前が何したかの方が気になるんだが》
…え? あぁ、遮断だよ、物理遮断。俺の前とコイツの間、空間が無いの。だから、そこの部分が切り取られてコイツの傍に落ちただけだよ。
《……いや、怖いわ! なにそれ!》
…え? 大丈夫。もう無いから。
《違う! そうじゃない!》
「…あ、あのノートさん…今、なにを?」
「へ? あ、あぁぇぇと…ごにょごにょ…」
「…いや、ごにょごにょってはっきり言わないでくださいね」
「がぁあっ!…クソったれぇえ! テメェ! ノートォ!」
腕をなくした男が、目を血走らせながら、喚き散らす。
《おい! 奴の後ろ!》
”ガンっ”
”痛っ” ”なんだ? 壁?” ”おい! 馬鹿喋るな! うぐっ”
「…な、何が?…おい! 皆! デックぅ!…がはっ…」
「だから、喚くなよ。あっちも結界だ。もう奴らは動けない」
《…周りの俺達もだよ》
──…え? 仲間にそんな事しないよ。
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