第34話 何をか言わんや
「ジードさん、あ、あのゼスは?」
「ん? 先に出たが? 居ないのか?」
「は、はい、まだ来ていません」
おかしい…奴は時間通りに出発させた…何かあったか?
「…おい、お前とお前、ゼスを探せ」
「「…。」」コク。
言われた二人は無言で来た道を戻っていく。
「…ゼスはアイツらに任せる。で、こっちは?」
「問題ありません。」
「手筈通りに」
「そうか。ではノートも」
「はい。動きは有りません」
「ではお前たちは裏口へ。俺達は入口を潰す」
そう言って、ジードは堂々と宿に向かって歩き出す。
「良し…俺達も行こうぜデック」
ヘルマンはそう言って、歩き出そうとしたが、デックは動かずそこにいる。
「…どうした?」
「変だ。ゼスが時間を間違えるはずが無い」
「おい! 今は裏口に行かないと!」
「そうじゃない! なんでノートは動かない? 俺達が襲う事に気づいて──」
”ドカァァン!”
突然の爆発音に吃驚して振り向くと、ジード以外の連中が吹き飛ばされていた。
”何だぁ!?” ”クソ! いってぇ” ”うぅ…”
「…何だ?!」
「爆発?!」
突然の爆発に、周りの人も出て来て、何事かと騒ぎになり始める。
”なんだ?” ”おい!何が有った?!” ”きゃ!人が倒れてる!”
”大丈夫か?” ”おい!衛兵を呼べ!”
「…おいおい、こりゃ何だ? やべぇんじゃないか?」
「見つけた! やっぱり! …アイツだ! アイツがやったんだ!」
そう言いながら、デックが声を張り上げて、宿を見上げる。
「な、何が? 誰の事を……」
ヘルマンがデックの視線を追うと、三階の窓に人影を見つける。
「──…ノート!」
…おをふ。
サン・レイって、地面に撃つと高温すぎて爆発しちゃうのね…。
《…お、お前、そのスキルは封印じゃとか言ってなかったか?》
…てへ。ドッキリ作戦だ~いせ~いこう! みたいな?
《……いや、なんの事か判らんぞ》
──もう! 異世界ギャップがおじさん辛い!
なんだ? 何が起きた? デックがなにやら、ノートがやったと喚いているが…まさかアイツのスキルか? 何のスキルだ? 前触れも、兆候も感じなかったぞ。クソ! 厄介だ。そう考えたジードは、一瞬で考えを改めて行動する。
「おい、変更だ! 一旦、引き上げるぞ!」
路地の二人に声を掛け、自身もその陰へと逃げ込んで来る。ヘルマンが、逃げ遅れた連中の事を聞くが、ジードは振り向きもせずに言う。
「捨ておけ!」
一言でそう切り捨てて、ジードはそのまま姿を消す。
《アイツが頭の様だな》
ノートの横で冷静に戦況を見ていたハカセが呟く。
…みたいだな。上司にあんなの良く居たよ。成功は自分に、失敗は部下に。…あれはその典型だな。胸糞だ、呆れて物が言えない。怪我した奴らを放っていきやがった。
《……すまん。例えが分かりにくい》
──宿の前には人垣と怒号が集まり始めていた。
「「兄ぃ…」」
あ! 皆居たんだった…
「あの──」
「「スゲェ!」」
…ファ?!
”なんだ今の?!” “手出しただけだった” ”ドカァン!”って。
”み~んな逃げてった”
「皆! 落ち着いて! 騒がない!」
ワイのワイのと騒ぐ子供たちを落ち着かせ、今一度言い聞かせる。
「良いか? あんな事は何時でもできる事じゃない。言わば奇襲だ。だから、逃げた奴も居る。頭のいい奴も居る。全部終わるまで気を抜くんじゃない」
そう言うと、さすがはスラム育ち。一瞬で切り替える。
「「分かった」」
…よし。ハカセ。セーリスさんとこの精霊に話し通してる?
《あぁ。逐一報告している。現在シェリーって受付嬢がこっちに向かってるそうだ》
…へ? シェリーさんが、何故?
《さぁ? 俺には役職の事は分からん。だが、かなりの速度でこちらに向かってーー》
「ノート君!」
「うひゃぁ!」
ハカセの念話をぶった切って窓の縁に突然シェリーさんが現れた。
「「うわあぁ!!」」
ちびっ子パニック!
「こ、ここ二階ですよ!」
何とか声を出してシェリーに話す。
「ん? あ、そうだった。」
いやいや、え? 今気づいたの? アンタ何者だよ。…再度ちび達を落ち着かせ、階下の食堂でシェリーと話をする。
「いきなりで、ごめんなさい」
「い、いえ、それはもういいです。でもなぜシェリーさんが?」
「…詳しくは後で。私とキャロルはセーリスの元パーティメンバー。だから、ランクは彼女と同じミスリル。」
「ファ──? え? そんなに強いって事?」
コクリと頷くシェリー。
「とにかく今は状況整理が先、表の惨状は君?」
「え? あ、はい」
「…そう。賊はあれだけ?」
「いえ、デックとヘルマン、それとジードって奴と何人かは逃げました」
「デックとヘルマン!」
「え? 知ってるんですかあの二人」
「…不俱戴天の仇。…まぁ、今は置いておく。ジードって言うのは?」
「恐らく攫い屋の頭かと」
「そう。じゃあ、表のは雑魚だけね」
そう言って、彼女は少し間を開けてから聞いてくる。
「貴方はマジック・キャスターで良いのよね?」
「い、一応は」
「それじゃダメ。戦力把握はきちんとしたい。他には何が出来るの?」
どう言えばいいんだ…
《セーリス様は信用していいと言ってる》
そうか。…ならいいか。
「あ、あの戦闘系ならほぼ出来ます」
「……。」
そう聞いた瞬間、パチクリと目を瞬かせ、シェリーはきょとんとする。
「…ほんとに?」
「ま、まぁ今嘘言うところじゃないし」
「…そうよね。セーリスの懐刀だし」
え? そんな立ち位置なの俺?
「ねぇ。聞いたんだけど、貴方、連中の位置が正確にわかるってほんと?」
「はい。スキルが有るんで」
「聞いた事ないわ、そんなスキル。まぁ良い、此処は私が守るから、貴方は連中を追って」
「え? 一人で大丈夫なんですか?」
「もうすぐ、他の冒険者も来る。私が先行しただけ。それに…」
「…?」
「キャロルが心配」
「どういう事だ!?」
──思わず怒鳴ってしまっていた。
*******************************
「副隊長! 西街の外れの宿付近で爆発騒ぎが起こったと」
「何?! どの場所だ?」
コンクランは詰所で各隊の指揮連絡を受けていた。壁にある地図に目をやり隊員の話を聞く。
「…サラの宿か!?」
「何人向かった?」
「は! 一班です」
「…六人か」
「予備でもう二班廻せ! 連絡を密に! 攫い屋関連なら最優先だ!」
「は!」
…奴ら、ここに来て大きく出たか? それとも何かの陽動か? サラの宿での爆破…サラ自体は宿に居ると聞いている。冒険者ギルドがバックアップに入っているはずだが…。
「報告します!」
「何だ!?」
「は! 南街スラム付近にて、撲殺斬首遺体を発見との報です。」
「…撲殺斬首?!」
「は! 目撃者が居た模様でして、現在詳細確認中です」
えぇい、こんな時に次から次へと…。
「分かり次第こちらに回せ! 捜索には何人出た?」
「は! 確認併せて三班です」
「…よし。そちらも、攫い屋関連なら最優先で連絡を!」
「報告します!」
「これはこれは。カークマン隊長。本日はどの様なご用向きで」
中心街の富裕層向けの宿の一軒に、カークマンは三人の隊員を連れて、訪問していた。
「あぁ。少し、話がしたくてな。支配人を呼んで欲しい」
フロントの男は慇懃に頭を下げてから答える。
「…少々お待ちを」
暫く後、宿の支配人が現れる。
「これはカークマン隊長殿。何やら話と聞きましたが」
「あぁ。ここでも良いが、そちらは構わないか」
そう言って、懐からちらと筒状の手紙の一部を見せる。
「…!! これは失礼。すぐに部屋を用意します。こちらへ」
支配人は冷や汗を見せぬようにこやかに頭を下げ、フロントマンたちに指示を出す。
「…して、その書状は?」
奥の防音魔術のかかった部屋で支配人は小声で話し始める。
「辺境伯様の勅令だ。貴様の情報は伏せる故、全て話せ」
「…すべて…ですか」
「そうだ。ここには無いはずの部屋も存在している。宿泊名簿を見せてもらおう」
支配人は逡巡する。
あの書状の印は正に辺境伯の物。だが、この街で長年富裕層向けの宿として、やってきたプライドもある。
此処にはやんごとなき御方も宿泊される。その宿が宿泊名簿を外部に見せたと知られればどうなるか。
解っている。
断ればこの街どころか、辺境にある全ての街で仕事は無くなる。だが、それは見せても結局同じ事。そういう輩は耳が早い。
背中をじっとりした汗が伝う。
「どうした? 出せぬか? では、代わりに口頭で聞こう。正直に答えるならばよし。違えば。分かるな」
──其処で支配人の頭は思考停止してしまった。損切りはここだと、思ってしまった。
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