表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第1章 落っこちて異世界
33/266

第33話 始まり



 ジグの去った方を眺めた後、ふぅと小さく息を吐いて、ささくれた気持ちを切り替え、声に出して宣言する。


「さて。頑張りますか」

「サラちゃん、皆も、後は()()()()()()()に」

「「「はい。」」」


 そうして俺は部屋へ戻る。



********************************



 ジグは()()()()とした笑顔を張り付けて戻ってきた。


「お疲れ」

「…ど、どうだった?」

 ヘルマンが気にしたように聞く。


「…あぁ。アイツはちょっと()()かもな…でも」


 そう言った後、口角を上げてニヤリと嗤い、一言、俺が触れた…もう終わり。…ゾッとする声と顔で笑いながら二人を通り過ぎ、路地裏へ消えていく。


「あれが千顔…」

「おっそろしい顔で笑いやがる…」


 瞬間、二人は任務を忘れ、消えた男の背を見つめていた。



********************************



「おはよう」

「「「は! おはようございます」」」


「…よし、全員いるな」


 衛兵詰所の会議室に集まった隊員達を見まわしてから、カークマンが話し始める。


「よし、これより、各班に分かれて一斉調査を行う。調査内容は、現在この街に潜入していると思われる闇奴隷商人。その下部組織と目される【攫い屋】。この者達の所在、人数及び、頭目の調査。指揮はコンクラン! お前に任せる。」


「は! 了解いたしました!」

 コンクランは胸を張り、返事をした後、隊員たちを見つめる。


「併せて、貴族街にて大店(おおだな)の商店主への聞き取りを行う。此方(こちら)は主に俺が中心となって行う。今回の調査、捜査には我らの沽券(こけん)が掛かっている。犯罪を犯したとはいえ、ハミルと言うこの街の衛兵も()()()。一連の流れから(かんが)みて、闇奴隷商人は勿論、貴族の関与も()()()ある。心して懸かる様に!」


「「「は!」」」


********************************


「では、本日は夕刻以降、子爵邸に?」


「はい。ですので、以降の予定は()()()()で下さい。…そうですね。早くて明後日以降…()()()()()で」


「え? あ、はぁ。承知いたしました」


 当番秘書は何故、そんなに()()()()()()()? とは思ったが、諾諾(だくだく)と了解し部屋を出る。


「さぁ。気を引き締めないと」

 ハンス・コルゲンは自身の指に嵌めた指輪を無意識に触りながら呟く。


(ノート君)が、どう動いてくれるんでしょうか。()()()でもありますね」


********************************


「……マスター。()()は把握しました。が、()()私なんです?」


 シェリーは困惑していた。


 あの()()()()な新人、ノートはキャロの担当だ。なのに、今日から二,三日の間は私に担当しろと言う。キャロがマスターの()()で今日居ない事は理解した。だから、担当代理も納得いく。でも、それは一日ではないのか? しかも、何故よりによって私なのか?


「ん、詳しくは今は言えない。ただ()()はある。シェリーの()()は私が()()()()()くらいには()()()()()()


「…余計に()()()()()()です」


「…はぁ。いいか、これは()()()()だ。キャロには()()()()使()()()()()()()を私が直接依頼した。ノートも()()に関わっている。今回の事は、ギルドのみならず貴族、国も関係するやも知れん事案なのだ。どこに()()が有るか判らん。そこで、私自身の()()()()()でもあるお前たち二人に頼むんだよ」


 ──…はぁ~。まさか、そんなに深刻だったなんて。


「…分かった。では今は()()()()ではなく仲間として聞く。なにが、動いてるの?」


「…戦場の()()()()

「…え!? ()()()()まだ生きてたの?!」

「あぁ。()()()な。【地獄耳のゼス】【鷹の目デック】【猟犬ヘルマン】」


 ──()()()()()()()の時、散々煮え湯を飲まされた、私達()()()()()()()()()斥候三人組がまだ生きていたなんて。


「…そいつらは今どこーあ! だから()()()!」


「そうだ。よりによって、ノートの監視にその三人の名が挙がった。最初、分からなかったがお前たちの()()()()思い出した」


「え? ノート君一人に?」

「…そうだ」

「ねぇ。彼って()()なの?」

「……。」

「そう。良いわ。今は()()()()だしね」



*******************************



 時刻は朝の十時頃、宿の前の狭い道を、馬車が道幅いっぱいにゆっくりと進んで来た。


「失礼します、フィル・セスタ子爵の使いでございます。店主殿は?」


「はい! お待ちしておりました! この度は私共の料理等をご賞味頂ける機会を──」


「あぁ。私は唯の使()()()()の下男です。お気遣いは無用です。早速では有りますが、お迎えに上がりました。お荷物等ございましたら申しつけてください」


「あ! これは失礼いたしました。…そう、ですね。さほどの荷は無いのですが、どうしても必要な物が何点か有ります」


「はい。では裏に馬車を回しますのでそちらに」

「宜しくお願いします」


 そして慌ただしく、準備が進んでいく。…やがて、荷物の搬入が終わると下男が言う。


「お荷物はこちらで宜しいですか。」

「はい。必要な物はそれで全部です」

「では、どうぞ、お席へ」


 そうして、大将と女将さんが馬車の座席へと向かう。


「屋敷へは()()()と伺っておりますが、相違ありませんか?」

 何故か下男が念を押す様に聞いて来る。


「え? は、はい。()()()などは子爵様の料理人が手伝ってくださると伺っていますので」

「いえ。()()()()です。もし、万が一が有れば、私が叱られてしまいますので」


 そう言いながら爽やかに笑い、下男は頭を下げる。

「どうぞ、こちらへ」


 二人が乗り込んだことを確認し、扉を閉めた下男は御者席へと向かう。


 その顔には先程の笑顔とは意味の違う下卑(げび)()()()()があった。

「では、屋敷までの時間、暫しお付き合いを」


 馬車はその車輪を軋ませながら一路、子爵邸へとその馬首(うまくび)を向けた。


 その様子を部屋の窓からずっと眺めながら、一人で格好つけて独り言を言う。


「…()()()()()()()()()()()()!」


「「「みっそん、すうっちゃーちょ!」」」

「み、みっしょしゅ、するちゃーちょ!」

「サラちゃん()()()()! ちびっ子真似すな!」

 ”うはははは!” ”噛みすぎ” ”ポーズはこう!” ”あう!失敗ですぅ”


《…何だこの締まりのない連中は…》


 あははは! これでいいのだ! ちびっ子達はこれでいい!


「よし! じゃあ、此処からは皆で頼むよ。あくまでも()()()()()にね」

「「はい!」」


 元気よく返事をして、皆は各々仕事へ向かう。

《…なるほど。そういう事か》


 そう。二人は屋敷に向かったので今日の食堂はお休み。だが、少ないとはいえ、此処は宿屋。宿泊客はいるのだ。当然その仕事が有る。二人には勿論、精霊の()()()と、()()()()は全員につけてある、ブローチも渡してある。


 これで何かあっても、時間は稼げる。でもちびっ子達には何が起きるかわからない。肝心のサラもいるし。だから、俺はここに残ることにした。



********************************



()()()()に行ったな」


「あぁ。だが、決行の時間までは少しある。ジードの旦那たちが来るまでは気を抜くなよ」


「…分かってる。ゼスの野郎はまだか?」


 デックとヘルマンは路地の陰で、交代のゼスが来るのを今か今かと待っていた。



********************************



 スラム街と街との丁度()()()()


 路地の交差する場所でゼスは目深に被ったフードの中で悪態を吐く。


「ふぅ。…まさか、俺が追い込まれるとはな」

 既に右足には深い切れ込みが入り、血がその服を()()()()いた。


 対峙する女も同じ様にフードを目深に被っているが、体のラインを強調する様なぴっちりとした黒のボディスーツを着込み、腰の後部に()()()させたナイフ。太腿(ふともも)には仕込み苦無(クナイ)の様な物。そして、特徴的なのは臀部の直上から見えるふわふわとした尻尾。露出こそ無いものの、その出で立ちは蠱惑的(こわくてき)に、(なま)めかしい程に色香を漂わせていた。


「…。」

 言葉は交わさず、しかしその殺気は凄まじく。彼女は目にも止まらぬ動きで相手に肉薄する。


「…シっ!」


 得意の耳を使いゼスは相手の動きと方向を読み躱そうとするが、その如くが、数舜間に合わない。その為、徐々に傷は増えるばかりだ。


「クッ…テメェ、唯の()()()()じゃぁねぇな」


 右! と思えば下から。後ろへ跳べばその斜め上から。蹴りが、払いが、()()()()が嵐の雨粒の(ごと)く叩きこまれる。


「ガッ!…くはっ…なんて膂力(りょりょく)の打撃!…クッ」


 何とか攻撃を(しの)ぎ、反撃しようと踏ん張るが、気付くと先程と変わらぬ間合いで女は立っている。


(…あぁ、こいつぁ駄目だ。…まさかな、この()()()ぁ、()()()()か)


 ゼスは思い出す。

 ()()()()()のしなかった、あの最後の戦闘を。


()()()()()()()か…はは。まさか、あの伝説の()()()()()()の──」


 最後の足搔きと、手にショートソードを握り込み、言葉を掛けての突貫!

 ”ギィィィン!” ”ガン!ドコッ!ガツッガツッ”


 しかし、その無謀(むぼう)は果たされず、女のナイフに(かわ)され、弾かれてしまったゼスは、なす(すべ)もなく襤褸切(ぼろき)れと化す。


「…ぅベア…ご…はっ…ぅ」

 吐血し、その場に(くずお)れる。


(クソ! ドジッタぜ…デックぅ、ヘルマン…済まんがさきにー)

 ”ザシュッ”


 言い切る前にゼスの首は路地に転がる。そして、光を失いつつある二つの瞳にフードの(めく)れた女の顔が見えた。


「貴様が我等の名を口にするな…ゴミが」


 低い声音で、吐き捨てるキャロルが居た。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ