第31話 勘
──そこはギルド会館の最も格式の高い応接間。
所謂、貴族対応の間にて、ハンスは内心憤懣やるかたない思いをしていた。
(ふぅ。…いやはや、参りましたね)
朝一で昨日の事を辺境伯へ魔道具にて連絡を取っている時に舞い込んだ殺人事件。そこへフィル・セスタ子爵の来訪アポ。その上、死んだ一人はドエル騎士と言う聞いた事もない、子爵家の騎士。全てが、彼の家の事なのに、来訪した彼は自身の用件以外は知らぬ存ぜぬ…。
「…では、子爵様のお家の騎士爵様にドエル様は存在しないと?」
「えぇ。申し訳ありませんが当家にその様な名の騎士はおりません。…それに、当家、主がこの街に居留しているのに、他の街から勅使とは、それこそ、おかしな話です」
「…確かに」
(この御仁は…親戚筋は関係ないのか)
「故にその様なお話をされても当家のあずかり知らぬ事になりますれば…」
「…そうですね。いや、これは私めの不手際。平にご容赦を」
家令ヘンドリクセンはふんと咳一咳した後、徐に話し始める。
「それには及びません。聞いた所では、我が家の紋付きの手紙を携えていたとか。…その者も一緒に亡くなっていたと聞いています。早急の解決を望むところです」
「は! 誠にお心遣い感謝いたします」
「いえ、街の安寧と繁栄を望むは貴族として当然。何かあればいつでも手を貸します故」
「有難うございます。その際は何卒よしなに」
そこで、初めて子爵を見ると満足そうに頷く。
(さて…。これからが本題ですか。些か不利な立場になりましたが…)
***************************
「代官さんはなんと?」
気になったので二人に声を掛ける。
「先程、本人がギルド会館に直接出向いて来たそうだ。そして、ドエルと言う騎士は家には居ない。それに冒険者ギルドに勅使なぞ頼んでいないとも」
「ファ~。やっぱ貴族って面の皮分厚いんですねぇ」
「おい! 滅多なことを言うな!」
横に居た、カークマンが慌てて怒鳴る。
「あ、ごめんなさい。…でも、じゃあ何の用事でギルドに?」
「明日の晩餐に招待されたそうだ」
「…え? 其れだけの為にわざわざ?」
「そうだ。絶対断れん」
そこで二人はしかめっ面で吐き捨てる様に言う。
「うはぁ。嵌めに来たぁ~」
「確実にな…」
「それで、その大きな方の奴はなんです?」
俺が聞くとカークマンはその筒状になった書類の紐を解き引き延ばすようにして広げた。
「辺境伯様からの書簡だ。これは魔道具からの発信だな」
ほう…。ファックスみたいな物か?
エクス街代官 ハンス・コルゲン
冒険者ギルドマスター セーリス
エクス衛兵部隊隊長 カークマン
以上3名に以下の密命を下す
*精霊と契約せし者の保護及び警護
*現在調査中の闇奴隷商人の素性確認出来れば確保
*奴隷復権派の素性調査
最優先は精霊と契約せし者の安全確保とする。
その際の、戦闘行為は辺境伯の名の下に許可する。
また、信の置ける者の協力を許可する。
以上、密命完遂せしめよ
フィヨルド・フォン・エリクス辺境伯
「はぁ~~。スゲェ。頑張ってくださ──」
呑気に俺がそう言うと、セーリスさんに頭を叩かれる。
「あいたっ!」
「…わざとか? お前もやるに決まっているだろう」
…セーリスさん、わざとじゃないです。
──お・や・く・そ・く・です。
《……》
突っ込みまでがお約束!
その後、隊長室で話を詰めて詰所を後にする。二人でギルドへ戻る道すがら、俺は彼女に念話を飛ばす。
…セーリスさん、表情変えないで聞いていてください…
…なんだ?…
…さっき、言おうか迷ってたんですけど、朝からずっと、ってかこの二~三日? 俺、監視されてます…
念話でここ最近の話をする。
…でね、人物鑑定してみたんです…
…で? 何が分かった?…
…え~とね。一人はデック【遠見】ってスキル持ちです。もう一人はヘルマン。こっちは【俊足】のスキル持ち。……こいつ等は二人一組でって感じです。今も後ろに付いて居ます。…あと最後にゼスってのが居て、こいつのスキルは【聞き耳】で、こいつだけは見た目で分かります。耳が異常にでかい。この3人が昼と夜、交代で付いてます…
…目と耳と足…デック、ヘルマン、ゼス…ん~。どこかで聞いたような…
…まぁ、素性は今いいです。ただ、そう言う事で俺には紐が付いてるんで、大っぴらに動けません…
…了解だ。じゃぁ、明日までは宿か?…
…えぇ。ついでに、アクセを追加で作っておきたいのと、やべぇスキルが出来たのでかくに…
「ぐえっ…く、苦し…」
いきなり、俺の奥襟を掴むセーリス。
「なんだ? お前、今何と言った?」
「ちょ…はなし…て…って…手!」
「あ?!…あぁすまん。で? 何を造ったって?」
…念話!…念話して!…
…これで良いか?! 早く教えろ!…
…ふぅ。スキルですよスキル。創造で透明化作れって言ったでしょ…
…ファ? も、もう出来たのか?…
…え? 昨日作りましたよ? だから、サラちゃん達のアクセサリーに付与したんじゃないすか…
目と口をこれでもかって位、開けたセーリスが、口をパクパクしながらこっちを見る。
「…クールにね。そう、ビークール! 先ずは戻りましょ、ね、せーーいぎゃ! あ、あたまぁ~」
ヘッドロックをかまされ、そのまま引き摺る様にセーリスは走り出した。ほんのりといい匂いと、堅い上腕二頭筋に挟まれ、俺の意識はハカセの様にフヨフヨしだしていた。
ギルドマスターの部屋でセーリスは困惑していた。
「ほ、本当に消えた…」
精霊たちも騒いでいる…彼らでさえも見えないのか…
「お、おいノート。居るのか?」
「はい。動かず居ますよ」
そう言われ、さっきまでノートが立っていた場所を意識すると何となく違和感を感じる。
「まさか…ここまで、存在を消せるのか…」
怖気が背中を走る…。
初めはそこまで考えてなかった。単なる思い付きだ。攫いに来たら目晦まし程度になるんじゃないかと。所謂、認識阻害や、存在希薄化といった感じになればいいと思ったのに。
──…精霊でさえ存在を認知しきれないなんて…。
「ど、どうやって造ったんだ?」
果たして聞いた所で分かるのか…。ノートがすっと姿を見せると経緯を話し始める。
「いやぁ。最初は全く出来ませんでした。んで、夜になっちゃって。ふとね、外の景色を見たんです。暗くて何も見えないなって。そう! これ、結界なんです。ただ、表裏面で次元変換してて──」
…あぁ。神よ。魔の神よ。なんて化け物を…。結界の面に干渉している?! 次元を変換、反転?! …あぁぁぁぁがyギア疑義うっふんふ円h…は! 私の頭が…マズイ! これは聞いちゃダメなやつだ!
「わかった!! もういい! っと言うかもう聞きたくない!」
「は? なんで?」
「なんでも!…なんか頭に変な電波が聞こえたから!」
「ファ?! なにそれ! こわ! 怖いよ!」
「怖いのはお前! 良いか! これから、この街に居る間は何か作ったら教えろ! 内容は要らん! 概要だけで良い」
「…ナニソレ」
何故か理不尽な怒られ方をして、【ビーム】や、【サン・レイ】の事を話したら、おお! 魔の神よ! 私をどうしたいのですか!? 始祖様! 替わってコイツをペイッてしてください!
ペイッて何だよ? 教えろって言ったから教えたのに…。
《お前の規格外さに付いていきたくなかったんだろう》
言い方! いけなくなったんじゃなくて? 行きたくないって…。まぁ、確かにサン・レイはやべぇよな。手を翳した瞬間に対象に穴開くんだもんな…。
ビームのような予備動作や白光線が出るわけじゃないし…。
《うむ。人間に向けたらそれこそ、瞬殺だな》
…うぅわ。ブルっときたぁ。怖い事言うなよ…
周りの人たちには見えないハカセと二人ボヤキあいながら、宿へと戻っていった。
「野郎、今日も依頼はしないみたいだな」
「……」
「どうした?」
「…なぁ、ヘルマン。気づいてるか?」
「なにが?」
「アイツ、俺達の事、とうに気づいてやがるよな」
「…だろうな」
「なのに、何にもしてこねぇ。どころか、居ない者扱いだ」
「…どうしたんだ? お前、何言ってやがる」
「ゼスが言ってたんだ。野郎、もしかしたら囮なんじゃねぇかって」
「なんの?」
「ギルドのだよ…知ってるか? ここのギルド、俺達攫い屋が動いてるのはもう分ってるはずだ。なのに、全く気にしてる様子がねぇ。ギルドで聞き込みした奴らに聞いたら、その関係の依頼は皆無だったそうだ。マスターからの達しも無かった。でも、確実に奴とマスターだけは動いてる。俺らが監視してるのがその証拠だ。…しかも、聴いたか? あの、ノートって野郎の素性、いまだ不明なんだぜ?」
「…まだ、判らねぇのか?」
「そうだよ。マキャベリの旦那も、お貴族様の伝手を使ってもだ。おかしくねぇか? この街の魔導器にちゃんと名簿は載ってるってのによ。ここ以外の痕跡は見当たらない。まるで…」
「いや、唯の田舎モンなんだろ。ここは辺境最東端だ。この先は村か集落しかねぇ」
「…じゃあよ。俺たちゃ、その唯の田舎モンにここまで振り回されてるのか?」
「…何が言いたいんだ? 奴が囮だとして、ソイツの素性が何だってんだ?」
「…俺とお前、ゼスの3人は傭兵時代からずっと一緒だ。勘が言ってるんだよアイツはやべぇって」
「それは、傭兵時代のか?」
「両方だ。今の稼業も併せての。」
「……とにかく、今は監視だ。話はヤサに戻ってからしよう」
「わかった」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。