第27話 ハミル
「ま、迷い人?!」
目が点になり、固まることしばし…。
「え? 迷い人??」
2回目…。
「それって、お伽噺の、異界の勇者様の?」
出た。やっぱり、それになるのか。そこで俺は気になって、他には居ないんですか? と聞いてみる。
「ん~。確か、名前は残っていないが、この世界に魔術を広めた者とか、魔導空船の設計者なんかがそうらしいとか、何とか…」
セーリスさんがうろ覚えを引っ張り出すように話してくれる。…はぇ~そうなんだ。今度エギルに聞いてみよ。等とぼんやり考えていると、俺の事を知ったカークマンが血相を変えて喚きだした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! へ? ま、マジかよ!? 信じらんねぇ! こ、こんな事、俺の一存では──」
『知らなかった事にすればイイではないか』
うげっ! セレス様! 急に出てきちゃったよ。
「あ、貴女様は!?」
セーリスの変った雰囲気にまた固まるカークマン。
『なんだ?初対面では無かろうが』
え? 知り合いなの?
「いやいや。急すぎますって。それにあの時は国王様や辺境伯様がいらっしゃったじゃないですか」
『フム。セリスの件では世話になったの』
「いや。その事は全然いいんですよ。セリス様のお蔭でこの街も潤っていますし」
「あ、あの、セリスさん何かしたんですか?」
『ん? あぁ。お前はあの娘の魔導オタクっぷりは知っておろう?』
「あ、はい」
『あ奴はあれでもエルダーエルフ。本来、ユーグドラシルの森で生活するのが普通だ。にもかかわらず、あのバカ娘、ここじゃ魔道具研究できない! と言って家出したんだよ。しかも、世界樹の種を盗んでな』
ファ───!? 一体何やってんのあのビバエルフ…。そんな事を思っていると、カークマン隊長が遠い目をしているのに気が付いた。
「大変だったっすねぇ………。」
『…ま、まぁ色々あってな。それは今は良い。こ奴のことだ』
その言葉にカークマンが気を取りなおしてどういうことですか? と聞き直す。
『フム。我も主神様からの信託を聞いたのはついこの間だ。考える間も無かった。コイツと出会ったのもな』
「はぁ」
『その際看破もした。』
「え? そ、それで」
『こ奴にも言ったが、地上の総ての戦力でもこいつには勝てん』
「ファ?!」
『だが、安心しろ、こいつは基本平和主義だ。敵対せねば唯のエロガキに過ぎん』
評価がひどい!
《妥当だ》
…クッ、ハカセまで……ちくせう! 言い返せない自分が憎い!
『だが子爵はこいつにケンカを売った。だから代官に先に手を打った、お主を飛び越えたのはすまんが、事が事だけにな。お主にも届けたであろう。闇奴隷商人の手紙を…辺境伯にも同じ物を送ってある。我の名でな』
「そ、それでは王も?!」
『恐らくな。だが先ずは三日後だ』
ファ──!? なんそれ!? 俺がビックリですがな!
《ははは! 面白い事になってきたな》
「え? 俺が何かしなくちゃいけないの?」
『はぁ~~。まぁそこに座れ。お前達に言って無かった事を今から話す』
そう言って隊長と俺をソファに座らせるとセレス様は悪い顔をしてこれからの事を話し始めた。
◇ ◇ ◇
「マジでそんな事するの?!」
「だ、大丈夫なんですか?」
『うむ。もう密使も送った。大丈夫だ』
いや、精霊王って怖いよ。考えてみたら、神様の同類だもんな。伊達に数千年? 数万年? 知らないけど、生きてないわな等と、スケールの違いにボヤいているとドアがノックされる。
「失礼します! 副隊長がお戻りになられました!」
「入れ!」
隊長の許可を得てドアが開く。
「コンクラン以下、二個中隊、只今戻りました」
「ご苦労!…成果はダメだったようだな」
「は! 申し訳ございません。実は…」
「ヘンドリクセンの幽霊でも居たか」
「な!? なぜそれを?」
隊長は詰所の遺体を検分した事を話す。
「そ、そうでありましたか…」
「まぁ、其処はもう気にしなくていい。それよりもまだ終わってはいないのだ。確認ミスの件然り、まだやる事はある。」
「は! 了解です。…では早速動きます。失礼いたします」
そう言って一礼し出ていく副隊長の背中をカークマンは黙って見送る。
『その件も残っていたな…』
「…えぇ。全く、嫌な話ですよ。自分の部下を疑わなきゃいけないなんて…」
「…貴族絡みの話しとなると、脅されるか、金に目が眩むか。どちらも嫌な話です。人の弱みにつけ込むなんて」
『…そうだな。ここらで膿を出し切るいい機会かもしれんな』
◇ ◇ ◇
「ん? どうした? お前、今日は張り番じゃないのか?」
「あぁ。副隊長がお前を呼んで来いってさ。襲撃の件で聞きたい事が有るそうだ」
「え? でもここはどうするんだ?」
「俺が見ておくよ。どうせ、今はあの商人だけだろ?」
衛兵隊中央詰所の地下牢。その牢番にハミルは声を掛ける。
「分かった。じゃあ行ってくる」
「あぁ」
牢番はハミルに言われ、急いで階段を上っていく。
「あ! 旦那! やっと来てくれたんすね。荷は、どうなりました? と言うか、此処から早いとこ出して下さいよ!」
ハミルは祖の商人に答える事無く、牢に近づくと鍵を開け中に入っていく。
「は? ど、どうしたんです? 何で入って…え? ぐあっ!」
”ドサッ”
「俺のせいじゃない。俺は悪くない」
事切れ、牢の床に倒れ伏す商人を見下ろしながら呟き、彼はそのまま姿を消した。
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「な?! 商人が殺されているだと?」
「は! 地下牢にて先程確認されました」
「牢番は何と言って居る!」
「…そ、それが…」
「なんだ!? はっきり言え!」
苛ついたコンクランが机を強く叩く。
「は、ハミル隊員と交代したと言っております」
「…ハミルが?」
「は! 副隊長が今日の襲撃の件で呼んでいると言ってきたので代わったと」
「俺が、牢番を呼んだ?」
「は!」
隊員は震えながら、先程の経緯を話す
(…今日の張り番、確か…ハミルだったな…まさか?!)
「で? ハミルは今どこだ!?」
「それが…」
「はっきり言え!」
「見当たりません!」
「クソが!」
”バキャッ!”
何度も叩いていたせいか、とうとう、机の天板が割れる。
「ハミルを探せ! 緊急だ! 奴の家、行きそうな場所、店、入門口! すぐに行け! 隊長に報告して俺も行く!」
「は!」
隊員が飛び出すと同時にコンクランも隊長室へ向かう。
(クソ! なんてことだ! まさか、あのハミルが…)
”コンコンコン”
「なんだ?」
「コンクランです! 至急お話が」
「入れ!」
「どうした?」
「は! 先程、地下牢にて殺人事件が発生。同時刻にハミルが失踪致しました」
「何!?」
「現在、緊急配備にて、ハミルを捜索開始いたしました」
「それについては了承した。順序だてて話してくれ」
そこから、コンクランは経緯を話す。
「では、ハミルが張り番の際に商人を通していたと?」
「可能性が高いと思います。現に奴は牢番を騙し、現在失踪中。そして、今日の張り番も奴でした」
「今日の張り番? アイツ今日、張り番していたか?」
「いえ。奴は今日も遅刻したために、詰所内の掃除を懲罰としてやらせておりましたので、私が張り番を」
「ハミルの普段の生活態度は?」
「は?」
「普段の生活だよ。金に困っていたとか、よからぬ噂とか。何か聞いたことは?」
「…特には…ただ」
「なんだ?」
「奴は、酒好きでしたので。二日酔いでよく遅刻していました」
──酒か…。
「行きつけの酒場は分かるか?」
「隊員に聞けば恐らくは」
「よし! その酒場を見つけて報告してくれ」
「了解です」
◇ ◇ ◇
「ここか」
暫くして、その酒場は見つかった。所謂大衆酒場だ、昼は食堂、夜は飲み屋に代わるといったありふれた店だった。そんな店にカークマンとコンクラン二人で入る。
「いらっしゃい!…あら、隊長さんと副長さんじゃない?」
店の女主人は二人を見て言う。
入って四人席が幾つか。そしてカウンター席が六席ほどのこぢんまりとした店だった。
「すまんな。少し話が聞きたいんだがいいか?」
「──…? はい、構いませんよ」
「この店にうちの隊員が通って居たらしいんだが」
「あぁ。ハミルさんかい?」
「あぁ。そうだ。アイツはこの店に誰かと来ていたか?」
「…偶に、同僚さん? とかね。まぁ。一人が多かったけど…あ! でも前に一度──」
店を出て詰所に向かう二人の顔は苦虫を嚙み潰したようだった。
「風体不明の気味悪い奴…」
「間違いない…攫い屋が接触したんだろう」
カークマンは渋面のまま、見えない何かを睨んで言う。
「…あのバカ者。小銭で目が眩んだか」
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