表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
259/266

26 新たな邪神の名

大変お待たせいたしました。



「……あ、貴方方(あなたがた)は――」


 振り返った兵士の一人が恐る恐るその声を発しかけた時、崩れた地下室の瓦礫の向こうから、卑しい笑い声と異臭を伴う煙が漂ってくる。


「クックックッ……この(かぐわ)しい香り……いやぁ、良いものですねぇ、デスネ」


「そこな兵士共! 死にたくなくば、そこからすぐに離れろ!」


 未だ呆然とした騎士団達に声を投げ、羽を動かすことなく風を巻き起こすと、漂い始めた煙を霧散させる精霊の女王。その状況に慌てて兵士たちが入り口から立ち退くと、彼女はその兵に目もくれず、聞き覚えのある声の方へ向け、スゥと目を細めて右手を(かざ)す。


『……フッ、性懲りもなく、貴様の方から出向いてくるとはな』


 静かにそう言った途端、彼女の手の先からは飴玉ほどの小さな光の塊が出現、音もなく真っ直ぐに声の方へ飛んでいく。


「――っ! 皆、目を閉じろ!」



 ――カッ!


 俺が声を発したのと、それが起こったのはほぼ同時だった。光球が(くだん)の場所に到達した瞬間、膨大な魔力の収束がその光球を中心に起こった次の瞬間、今度は逆にその魔力を開放するように熱と光を発散させて、建物を呑み込もうと拡散膨張し始める。


「きゃぁ!? せ、セレス様ぁ、何をしたんですかぁ?!」


 キャロはその光景を目を閉じた状態でも(まばゆ)く感じ、セレスに抗議の声を上げるが、熱の拡散による熱風のせいでほぼ誰にも聞こえない。シェリーは「な、な、何なのあの桁外れな魔力! まさか、魔法の暴走!?」と必死に足を踏ん張っている。俺は兵士たちの方と自分たちの前に結界を展開するのが間に合ってホッとしたのも束の間、荒れ狂う熱波の暴風の中で奇声を上げるリビエラと、もう一つの化け物の声に「まさか」とつい(こぼ)してしまう。



「クハハハハハ! 流石は精霊の王! 予備動作もなしですか、デスカ。ですが、それはもう()()()()いただいたモノです、デス。当然対策も出来ていますよ、マスヨ! クフフ」


 熱風と暴風が巻き上がり、粉微塵となった詰め所の瓦礫が舞い散る中、その声は嫌なほどにはっきりと聞こえる。その声とは別の場所からは俄に影がムクリと立ち上がり、雄叫びのような咆哮が聞こえると、見るも無惨な異形がこちらに向かって跳躍してくる。


「グオォォォォォォ! 痛いデハナイか! キサマラ、このワレに刃を向けるノカ!?」


 ブスブスと煙を上げ、体中が焼け爛れて顔の半分は崩れてしまっているにも拘らず、ドレファスだったトロルは痛みを感じていない様子でこちらを睥睨する。すると、落ちかけていた片目がまるで逆再生のように元の眼窩に戻り、ブクブクと泡立つように体中がでこぼこし始め、物凄い速さで再生し始める。


「なんだ、その再生の速さは?!」


 トロルに再生能力のスキルがある事は承知していたが、もはや半死半生の状態にまで陥って居るのも関わらず、まるで指先を少し切った程度の反応で、奴は一瞬の後に元の異形に戻ってしまう。余りに馬鹿げた再生速度に俺が思わず呟くと、その声が聞こえたのか、ドレファスはこちらに視線を固定して、歪に口角を持ち上げる。


「グハははは! コレゾ、えおすフェル様の威光のなせるミワザ! 最早ワレは不死身とイッテモ良いであろう!」

「エオスフェル?」


 ドレファストロルは、聞いた事のない名を高らかに叫びながら自身の体を誇示する様に胸を張るが、その名を聞いてもピンとこない。一体誰のことを言っているんだと、目線を身内に向けてみるが、皆も知らない様子でキョトンとして首を傾げている。念話でシスに確かめてみても《……検索します》と返事が返ってきただけだった。


「エオスフェルとか知らん名をそう叫ばれても、こっちは意味がわかんねぇよ! ただ、お前がバケモンになった事だけは理解したがな!」


 そう言いながら俺は右手を奴に向け、胸の中央あたりに狙いをつけてサン・レイを撃つ。手元が光った瞬間、それは確実に胸の中央部を貫通し、こちらへ向かっていた奴の足を止めるのに成功した。


「……ゴバァァ!」


 流石に胸の心臓を貫かれると、奴の再生もすぐには発動出来なかったのか、口から噴水のように鮮血を吐き、思わず身体を屈ませて胸のあたりに手をやった。


「グガ……ぎ、ぎざま……一体ナニを」


 その言葉を最後まで聞く前に、俺は即座に奴の目の前にまで近づくと、ありったけの力を込めて顔面をガントレットでぶち抜いた。上顎辺りにめり込んだそれは、そこから上を吹き飛ばし、そのまま仰け反るように倒れ込んでいく。流石に頭部を失ってしまったドレファストロルは、そのままビクンビクンと痙攣した後、胸の中央部の再生も止まって、絶命したのを確認した。



「――おやおや、やはり()()()は厄介ですねぇ、デスネ。結構頑強に創ったつもりだったのですが、デスガ。……これだから異界の人間は面倒なんです、ナンデス」

『――厄介とな? ではその力、貴様も受けるが良い』


 俺がドレファストロルを殲滅したのを見ていたリビエラがそう話すと、セレスはふんと鼻を鳴らしながら答える。リビエラが「は?」と思った瞬間、それは頭上から三つの光点が同時に発射される。一つは頭頂部、残った二つは丁度両の肩辺りに直撃し、角度が少しズレたのか頭部のそれは後頭部の首あたりから突き抜けて、両肩に落ちたそれは両腕を消し飛ばして霧散した。


「ヒグッ!」


 喚く暇なく狙撃され、リビエラはその場に卒倒する。両腕を消し飛ばされ、脳を直接焼かれたのだ。当然声を発する暇もなかったろう。……にも関わらず、その窪んだ眼窩から覗く濁った眼球は、何故かギョロリと動いてセレスを見つめた。


「フフフ、流石に物理的な熱線(レーザー)には貴様の()()とやらも効かなんだようだな」


 勝ち誇った様なドヤ顔で、自身の周囲をゆっくりと三機のゴーレムを浮遊させ、未だセレスを睨みつけるリビエラに彼女がそう言い放つと、どう見ても死んでいるはずのリビエラが痛みも感じていないように話し始める。


「クフフフ、まさかまさかの魔導具ですか、デスカ。なるほど確かに、それは盲点でした、デシタ。……まぁ、この身体はもう使えませんが、この国での用はもう済みましたので、良しとしましょうかね、カネ。――エルダーエルフの始祖、いや、精霊を司る王、セレス・フィリア殿。いい加減ニンゲンになど与するのはもうおやめに……なり……ませ……」


 彼の言葉はそこで途切れ、同時にずっと睨みつけていた眼球の光も消える。が、次の瞬間、俄にリビエラの体がブクブクと膨れ始める。


「な!?」


 ”ドゴォォォォォォォォン!”


 それはまるで『イタチの最後っ屁』のような物だった。まぁ、恐らくは奴の『器』を残すことを嫌ったのも有るのだろう。自身の身体機能が停止した瞬間にそれは自爆するようになっていた。あわよくば巻き添えにでもと考えたのも有るのだろうが、膨張が始まった瞬間にシスからの念話で全員が既に結界を張っていたため、人的被害は無かったが、近衛騎士団の詰め所とその周辺は、酷い有様になってしまったのだった。


「……びっくりしたぁ。まさか自爆までするなんて思いもしなかったよ」

「……シスが教えてくれなかったらヤバかったわね」

「ホントです。騎士団の方たちも避難してくれていて……セレス様?」

『――んあ? あぁ、確かにそうだったな』


 皆がセレスの傍に集まって無事を確認しあっている中、セレスだけは何かあったのか、少し考え込むような素振りを見せていた。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ