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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
258/266

25 ドレファス異誕



「――オアが……」


 全ての剣がその場所を刺し貫き、崩れていく土塊(つちくれ)と一緒にその場に倒れる、オーガとなったオコーネル・パント。ビクビクと痙攣を残して動かなくなった彼を、兵が死亡確認をした途端、ミスリアはその場にぺたんと座り込む。


「……疲れましたぁ~」

「殿下ぁ~!」


 大きな庭園の中中央部で座り込んだミスリアに、屋敷から侍従に抱えられながらメスタ子爵が近づいてくるが、流石に一度に使った魔力量が多すぎたのか、彼女はそれに応えることなくその場で昏倒してしまった。


「――お師様ぁ~、ミスリアは頑張りましたよ~」




*************************




『……魔力切れで昏倒したみたいだな』


 ハカセの言葉に貴賓室に居る王族は一斉に「良かったぁ~」と安堵の声を漏らして席につく。



 ミスリアとの念話が切れてすぐ、ハカセに現場の状況確認を精霊経由で確認してもらった。すると、それまで執務室に居た人間がモンスターに変異し、屋敷内で暴れているという。幸いにも彼女は俺との念話の為に部屋を離れていたので無事だったが、同室に居たメスタ子爵は腕を怪我していると聞く。シスに座標確認してもらって、転移で援護に向かおうとしていた矢先、その異形は屋敷を飛び出し、彼女が魔術を使って撃退したと聞いた。その最中部屋に入って来た近衛の話によると、城の地下牢で賊がモンスターと思しきモノと暴れているとの報が入った。その地下牢には現在騎士団長であるドレファスのみが幽閉されて居る。いつものように尋問団を地下に入れてすぐ、その騒動が起きた。


「……王よ、安堵されるには(いささ)か性急に御座います。未だ地下牢の異形(モンスター)が」

「あ、あぁそうであった。続報は?」


 国王がそう言い、部屋の空気を締め直していると、次の伝令が飛んでくる。


「伝令! 近衛騎士団地下牢にて爆発あり! 目下近衛にて状況に当たっておりますが、尋問団についてお知らせがございます!」

「申せ!」

「は! 本日訪れた審問官に一人、素性の知れぬ者が紛れていたも――」

「何だと! どういう事だ?!」


 伝え聞く言葉に激昂した副団長が、彼の言葉を遮って異を唱えると、伝令はビクリと固まり「は! ……そ、それが」と途端に威勢がなくなってしまう。


「エステバン、貴様の声で萎縮させてどうする。伝令、構わん申せ」


 今にも殴りかかろうと詰め寄る彼を制止し、国王が直接伝令に声をかけると、それにまた驚いて姿勢を正した彼は、半ば声を裏返しながらも何とかその任務を全うする。


「――はぃぃ! ほ、本日訪れた審問官に(うじ)のない者が紛れておりまして、目下それが今回の()()()かと目されております」

「氏がない? 名は?」

「『リビエイラ』と――」

「「リビエラ!?」」


 その名を聞いて、一斉にスレイヤーズとその名を知る者たちが立ち上がる。


「どういう事だ?!」

「何故()()がここに?!」

「……そう言えば、人間がモンスターになったとか何とか」


「「それだ!」」


 伝令の言葉に皆合点がいったのか、一斉に声を合わせると顔を合わせて頷きあう。


「地下牢の場所は?!」


 俺の言葉に副団長が「向こうに見える建物の裏です!」と応える。


「良し! シス! セーリスはこの部屋を頼む! ハカセはシルフ達に現場の中継を! キャロとシェリー、セリス……セレスは俺に掴まって!」


 そう言いながら部屋の窓に向かい、大きな掃き出し窓を開けると皆があちこちに触れてくる。


「なんで掴まるの?」 


 シェリーがそんな言葉を言った瞬間、俺は目標に向かって意識を集中させる。


「跳ぶんだよ――!」


「「ファ?!」」


 その声が聞こえた途端、俺達は光の粒子となってその場から消えていた。




◇  ◇  ◇




「クソッ! 何なんだあのモンスターは?!」


 詰め所の入り口は混乱状態だった。爆発が起こり物が散乱する中、階下から雄叫びのようなものが聴こえ、降りていった騎士団のうち、既に数人は壁の染みになっている。瓦礫となってしまった階段の前で、壁を作るように近衛騎士団が重装備を整え待ち構えていると、煙る埃の中から瓦礫を乗り越え、その異形が姿を現した。


 ――身の丈は三メートルに近く、四肢は張っており、皮膚はどす黒く染まっている。胴は大木の幹のように大きく、一見太鼓腹のように見えるが、パンパンに張っている状態から見て、相当な筋肉の塊だとすぐに分かる。両腕は長く伸びており、その身長であるにも関わらず、掌は地面に付きそうなほど。爪は長く伸びており、その一本一本がまるで刃のように床を削っている。


「ト、トロル?!」


 その威容を見た騎士の一人が思わずそう叫ぶと、重装甲の騎士が一人、大型の盾を構えて突貫する。


 ――ドン! ドカン! ザシャッ!


 最初に聞こえるのは当然だが、盾攻撃による衝突音。しかし次に聞こえたのは大木でその盾を殴りつけたような音がし、最後に聴こえたのは物を切り裂く音だった。


「グハははは! ヤハり、近衛キシだんはアイカワラズ、弱いな」


 重装甲の兵士を盾ごと真っ二つに切り裂いて、その大きなトロルは笑いながらそう話し始める。その言葉を聞いた近衛騎士団は皆一斉に取り乱し始める。


「しゃ、喋った?!」

「も、モンスターが言葉を!?」

「ば、馬鹿な?!」


「ンン? 一体何をオドろいているんだ? ワレが喋るト言うのがソンナに可笑しなコトなのか?」


 重装甲の騎士団員達が、皆驚いて居るのに気がつくと、そのモンスターは何を当たり前の事をと言う様に聞いてくる。


「ダイタイ、さっきからナンダ?! 人をもんすたーダナドと、訳の分からぬコトをイイおって! 私はこの国のキシダンチョウ、どれファス・ふぇるなンデスであるぞ!」


 まるでその場に居る者達を威嚇するかのように前傾姿勢をとり、そのエラの張った大きな顎を開いて咆哮するかのごとく紡がれた言葉。そのあまりに大きな声に皆一瞬耳を塞ぎたくなったが、聞き取れた内容に一堂の混乱は更に増す。


「ど、ドレファス卿?!」

「騎士団長??」

「ど、どう言う事だ? モンスターが何故、ドレファス騎士だ――」


 ――ザシュ!


「アァ! ゴチャゴチャとうるサイ! そこをドケ! 我をこんな場所にオシこんだ奴らに、挨拶に行かねばナラんのだ!」


 混乱し、横にいる同僚に話しかけた男の胴を薙ぎ、鎧ごと上下に分かたれたそれを詰め所の中に弾き飛ばして、ドレファスと名乗ったトロルはズンズンと歩を進める。それを目の前で見ていた兵士は流石に混乱よりも怒りが勝ったのか、即座に盾を前面に構え、脇に持った槍に力を込める。


「貴様ぁ! おい! 惑わされるな! コイツはただの変異種だ! 体勢! 構え!」


 その一喝が皆にも伝わったのか、構えの掛け声が掛かった途端、ドンと地面が響くと綺麗に同じ姿勢を取ると、槍の穂先がトロルに向かう。


「……グハハははは! なんだ? ワレトやり合おうと――ム?!」


 それに最初に気がついたのはドレファスだった。近衛騎士団入り口に空間の揺らめきが見えたと思った瞬間、光が収束を始め、それは徐々に人の形を創っていく。術式陣が形成される事もなく、突如宙に現れたそれは、気づくと人にして四人ほどの形が見えたと思った時、何かがトロルめがけて光った。


「なん……グアァァァァァ!」


 刹那に身を捩ったがそれでも間に合わず、それが通り過ぎた瞬間、トロルの右肩は消失し、ドロドロとした血が噴水のように噴き出した。その衝撃も凄まじく、三メートルもあろう巨軀がくるくると回転し、そのまま地下牢の入り口まで吹き飛んでいく。


「「…………」」


 その光景を目の当たりにした近衛兵は、何が起きたのか理解できずに無言でその状況をぽかんと見ていると、彼らの後ろで声がする。


「痛ぁ!」

「きゃ!」

「うおっとぉ」


 そこで彼らが見たものは、尻餅をついて痛がる髪の長いビーシアンと、躓き慌てるショートボブのビーシアン。それに引っ張られて共倒れし掛かるヒュームの男と宙に浮いたエルフの幼女だった。




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