第25話 そして幕が上がる
街から離れて小一時間程進んだ森の中。今日もせっせと薬草を集めながら、魔獣を探すが、ブッシュ・ウルフは見つからなかった。
「なんで、あの犬っころ見当たらないんだ? サーチ範囲も五十メートルまで拡大してるのに」
《恐らく、その程度では見つかるまい》
「え? 何で?」
《魔獣といっても所詮は獣、その上、ブッシュ・ウルフはそこまでの脅威ではない。ならば、お前の様な者が来れば本能的に逃げる》
「──は? でもこの前は襲ってきたじゃん」
《はぁ。この間は初対面だろうが。獣にだって、バカは居る。だがさすがに、この間の様に出合い頭に羽虫を払うようにサクサク狩られればどんな馬鹿でも気づく。範囲を広げてみろ》
言われてミニマップを、ピンチアウトの感覚で意識すると、スルスルとマップ範囲が拡大されていく。
「あ! ホントだ。居た」
見ると等間隔に百五十メートル程離れたところに何頭かのウルフが確認できた。
《もうブッシュ・ウルフ以下の小物は諦めるんだな。モンスターならば関係なしに襲ってくると思うぞ》
「おう! ナイス! それこそファンタジーライフ! てか、この辺にも居るの? 俺まだ何にも見てないよ?」
《さあな。この辺りなら居てもゴブリンやコボルトあたりじゃないか?》
「イエス! モンスターのど定番! 良いねゴブゴブ! コボちゃん!」
《ふぅ~。俺はお前の心理が全く分からん》
そりゃぁハカセにゃ解んないよ。
未知で既知、そして雑魚。序盤の敵であったり、偶に違って、強キャラだったり。異世界あるある鉄板キャラ。
「よし! サーチ! 対象ゴブリン!」
百五十・二百・二百五十と探査範囲を拡げている時だった。
「…あれ? これって人間? だよな」
森よりも街側、街道近くの林にその反応を見つけた。
「…二人か? あ! 真っ赤じゃんか」
俺の言葉に反応して、ハカセが風に何か呟くとフワと靡く
《…フム。どうやら、お前の事を監視しているようだ。斥候ってところか。此処まで離れて監視しているという事は、スキル持ちだな》
「くはぁ~、なんだよそれって! メンドくさぁ! ったく何の目的だよ。とにかく、マーカーっと…」
意識した途端、マップにピコっとピンが二つ立つ。
◇ ◇ ◇
「…アイツ、薬草集めはもう終わりか?」
「変化か?」
「いや、動きが止まっただけだ」
「そうか、変化があったらーー」
「ん? なんだ? クソ! まじか!」
「おい! なんだ? どうした?!」
「マズイ! 引上げだ!」
「は?」
「アイツ、気づいてやがった!」
「な! なんだと?! この距離でか!?」
「なんでもいい! 行くぞ!」
「あ、あぁ分かった(遠見スキルをもってるってのか?)」
二人はそそくさとその場を去っていく。
《──…お前は何をしている?》
「お~い!見えてるぞ~」
わざとらしく二人に向けて手を振っていると、奴らはそそくさ逃げる様に戻って行った。
「はぁ。…なんか、狩りって雰囲気でもなくなったな。帰ってポーションでも作ろっと」
そう独り、言ちて、街へ足を向けた。
日が傾き始めた頃、街の門に並んでいると入口の方が賑やかになる。
”おい!” ”ふざけんな!”
「なんだ? 揉め事か?」
”なんだなんだ?” ”早くしてくれよ”
釣られて、すぐ前も騒ぎ出す。
「何かあったんですか?」
「ん? あぁ、よくわかんねぇけど、荷物検査で引っかかったみたいだな」
前に並んだ荷馬車のおじさんが教えてくれた。
ハカセ、時間かかりそう?
《ん? 少し待て……どうやら、商人の荷物に貴族の荷が混じってたみたいだ。荷馬車ごと避けられたから、もう進む》
ハカセからの念話を聞いているとやがて列が動き始め、自身の番になろうかと言う時に、避けられた荷馬車の主と衛兵の言い争う声が聞こえてきた。
「だから! これは違うんですって! 子爵様の荷だから中身は開けられないんですよ!」
「それでは、通す事は出来ないと言っているだろう! 少し待て。今、屋敷に確認しに行って居る」
「それじゃ間に合わないんですよ! お願いしますよ旦那ぁ!」
「駄目だ! それに子爵の荷ならなぜその旨を書いた書状がない?」
「え?…そ、それは」
「可笑しいではないか? なぜ言い淀む?」
「だ、だって何時もそんなこと聞かれませんでしたよ!」
「なに?! どういう事だ!?」
うはぁ、怒ってる、怒ってる! それにしても何の荷物なんだろ? そう思って荷物を見やると、その箱には魔封が施され、鑑定が出来ない様にされていた。
ありゃ。…ではでは、看破、鑑定っと。
【魔香】
鉱毒と薬草を混ぜて精製後に麝香をつけた香水の一種。
鉱毒には中毒性があり、嗅ぐと一次的に麻痺、酩酊状態になる。
薬草にて中和させてあるため、死には至らない。
主に、自白、拷問などに使用される。
故に一般には普及していない。
製造、所持、購入には王国の許認可が必須。
王国法により、一般所持禁止薬物指定。
「うひゃぁ。魔香って。そんなもの有るんだ!」
《おい! ばか!》
「へ? あ!」
気付くと、静まり返る行列と衛兵と荷物を持った商人さん…。
──…はい、現在詰所にいます。
「……。」
対面には隊長とデッカイ人が、俺を思いっきり睨み付けている。
「あ、あのそちらは?」
「コンクラン副隊長だ。」
デッカイ人がドスの利いた声で答える。カークマン隊長が呆れた様な顔で話し出す。
「はぁ~~~。なんなんだお前は?」
「なんなんでしょう? あはは。」
「…おい」
「はぃ。ごめんなさい」
「ふぅ。で? コンクラン。確認は取れたのか?」
「今、看破の使える者として精霊使いと代官を呼んでいます。商人については一応拘束しております。ただ」
「ただ。なんだ?」
「は。子爵の方ですが使いの者がここに来るまでは、荷は間違いなく子爵の物だと公言していたのですが。こちらで事情を聴いた途端に、一度、屋敷に戻ると言い出しまして。荷に関しても、分からないと」
「…そうか。それと、書状の確認ミスに関しては?」
「は。そちらに関しては今だ、確認中です」
「分かった」
「と、言った状況だ。禁制品を見つけてくれたことに関しては感謝するが、話は其れだけでは済まなくなった。理由は今聞いた通りだ」
「はぁ」
答えようがない質問しないでよぅ。
《自業自得だろう》
「お前。何者だ?」
「田舎者です」
「通用すると思うか?」
「しないと思います」
「失礼します! 冒険者ギルドマスター、並びにエクス代官。両名ご到着されました」
扉の前で大きな声でそう言った兵が横にずれて、どうぞと声を掛けて、部屋に入ってくる二人。
見知らぬてっぺんバーコードのいかにも中間管理職っぽいおじさんがありがとうと言って入って来る。その後ろからは、ニヒルな笑顔を兵に見せ、堂々と部屋にエロ成分を振りまく様に入ってくるセーリスさん。
──…ギロリ。
うは。目で射殺すつもりだ!
《しょうもない事を考えるからだ。》
あ! チクったなハカセ!
《……。》
「わざわざ、ご足労を掛けて申し訳ない。何分、事が事だけに我々だけでは判断、処理できかねる問題故、お二人に来ていただいた」
「致し方あるまい。看破はユニークだからな」
用意された椅子に腰掛け、目線を俺にロックオンしたままセーリスは言う。
「ですな。そんな貴重なスキルをこの青年が。あ、失礼。私はこの街の代官を辺境伯よりお預かりして居りますハンス・コルゲンと申します」
そう告げてセーリスの横の席に腰掛ける。
《フム。此の男。やり手だな》
え? 良く分かるね、そんな事。
《はぁ。氏を持っているという事はこの男も貴族だ》
ゲ! マジかよ。
《当然だろう。街の代官が務まるのだから。村の村長ではないんだぞ》
「で? 問題の荷はどこに?」
セーリスが俺達の念話をぶった切って隊長に話す。
「あぁ。コンクラン」
「は。今、お持ちします」
机の上に置かれた一辺が三十センチ四方ほどの箱。厳封された上に魔封が施されている。
ハンスさんがその箱を凝視する。
「ほぉ。確かに鑑定は弾かれますね。魔封で間違いない」
そう言った後、書類を懐から出し、何やら書き始める。
「……。ではこれを。」
「確かに。では、お願いします」
「了解した」
カークマン隊長が、書類を確認してセーリスに、お願いすると、彼女はその箱の前に立つ。いざ看破を掛けようとした瞬間に、声が掛かった。
「失礼します! フィル・セスタ子爵家、家令ヘンドリクセン殿が到着されました」
その言葉に皆がそちらに目線を向けると、彼を押しのける様に入ってくる執事服の男がいた。
「失礼致します。おや? これはこれはお歴々がた。無礼、誠にご容赦を。フィル・セスタ子爵家が家令ヘンドリクセンでございます。何やら荷物に関して行き違いがあったと聞き及び、馳せ参じました」
「あぁ。何やら禁制品だと聞いてな。現在、確認中だ」
「おや? それはいかがなものでしょう? 仮にもこの荷は我が主人が必要と判断され入手したものに御座いますれば」
「フム。言質は頂いた。隊長、看破は完了したぞ」
その声を聴いた瞬間、彼は片眉を持ち上げ、セーリスを見る。
「これは精霊使い殿いらっしゃって居たのですか」
「間違いなく魔香だ。解呪開梱する」
「なりません!」
「ヘンドリクセン殿、申し訳ないがそれはダメだ。」
家令の大声に冷静に代官が口を挟む。
「な? だ、代官様。いくら、代官様とて貴族の封付き荷物の開梱には手続きが」
「もう提出してある」
「は?」
「これがその書類だ」
隊長がさっきの書類を家令に見せると、それを見た家令の顔色がさっと変わる。
「くっ、し、失礼…至急主にご報告します故これにて失礼を」
「言質は頂いたが?」
その時だった、急にハカセが叫ぶ。
《ノート! セーリス様! 伏せて!》
”ドカァァァン!!”
部屋の中で起こる爆発と爆風に何も見えなくなった。
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