表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
249/266

16 再会

お待たせしました。



 リットン城内に有る幾つかの応接間の一つにレイシア・ド・ハイドンは(ただ)一人、その大きなソファに座っていた。


 周りには数人の騎士とメイドたちが控え、対面に座る彼の言葉をただ黙って聞いている。連絡を受けて迎えに行かせてみれば、他国の貴族を連れ、同じ馬車で従者も最小しか連れずに御旗も掲げずに居た。それはつまり、忍びではなく隠密行動とも取れる行為。帝国の皇妃でもある彼女が一体どういうつもりでこの様な事態になっているのか、まずは確認がしたいとミハイルは問う。


「……何故、皇妃が帝国の紋が入った御旗も立てず、まして馬車に細工までして他国の人間を同乗させて来た? まずはその理由を聞かせてくれ」


 暗い表情のまま、目の前に座る妹を真っ直ぐ見つめながらそう聞くと、彼女はメイドの淹れたお茶を一口飲んで一度目を伏せた後、ゆっくりと口を開く。


「……私が……私が、離宮に追いやられた事はお聴きですか?」

「……聞いている。皇帝の不敬を買ったと聞いて――」

「私は! 私の娘が! 見つかったかもと聞いたのです! ならばすぐにでも探すのが通りでしょう!? それを何故不敬だなどと!」


 それはまるで爆発したかのような物言いだった。


 遠き昔に聖教会へと引き取られ、数年後には殉教したと聞かされた娘が、異国の教会で見つかったらしいとの話を聞いた。ならばすぐに捜索をと懇願したにも関わらず、「我が娘は遠きあの日に召されたのだ」と眼の前の皇帝は言う、その物言いが信じられなかった。何故?! どうしてそんな言葉を吐けるのか?! たしかに教会に渡った時点で我が娘とは縁を切ることとなった。そうして殉教したと聞かされた時には泣きくれた……。それらは全て聖イリス様の教えに従ったからだ! 本音でそんな事、受け入れられるわけがない。それでも長い時間の中でやっと心の整理がついた所でそんな報せを聞いたのだ。


「……皇帝にとって、娘などはどうでもいい存在なのでしょう。国には今、第一皇子も、皇女も居ますから……。ですが私にとっては等しく愛しい我が子なのです! なのに! なのに――」


 そこまで一気に話したレイシアは、ソファに泣き崩れてしまう。



 リットンは困惑していた。いや、妹の言っている話は理解できる……。だが今そこを聞いてはいないのだ。……百歩譲って、彼女が単身でこの城に来ていたならば、今の話を聞けただろう。だが、彼女はエルデン・フリージア王国の貴族までをも伴って、まるで(はかりごと)でも有るかのようにここへ来ている。


「……レ、レイシア、そなたの気持ちは分かる……が、今はそこではないのだ。なぜ、他国の貴族までを――」

「……! そうです! 兄様! モルデン伯爵様です! 彼が、彼なら――」




*************************



「……なんだ?! 何故ここにまた……はっ!? まさか幻惑」


 鬱蒼とした原生林の中を疾駆していた一人の斥候が足を止めてそんな言葉を発する。その言葉に呼応するかのように、少し離れた茂みの向こうから、もう一人の斥候が木々の枝を足場に飛び降りてきた。


「……報せ鳥が見えるぞ。どうなっている? アレらまでもが幻惑に(かか)っているのか?!」


 枝から降りた者がそう言うと、もう一人の斥候は目配せの後、手で地面を指差し『付かず離れずで気配が二つ』と合図する。


(やはりか。……あの「存在希薄」と言うスキルはかなり厄介だ、しかもこの森自体に幻惑を広範囲になど――!)


 合図をした斥候がそんな事を考えていると、不意に後方でカサリと何かが落ち葉をわざと踏む音が聴こえる。それに釣られた一人がそちらを見やった瞬間、二人の斥候の間に突然人影が現れた。


「……っ!?」

「なっ!?」

「静かに。……お二人は狙われています。幻惑の術式を破壊しますので、今すぐあの木を目指して走ってください!」


 突然眼の前に現れたのは齧歯(げっし)族の男。だが、そいつは何故か二人に対して狙われていると言い、術式を破壊すると言ってきた。そんな言葉がにわかに信用できない二人は咄嗟に戦闘態勢に入った途端、全く見当違いの方角から、氷の礫が飛んできた。


「なんだ!?」

「クソ! 新手か?!」

「彼奴らです! 監獄城を狙って随分前から攻め入ってきている者たち!」


 ――エオスフェル教団の狂信者です!




*************************





「……え~と」


 ……ん~、どう言ったら良いのだろう。ゴチャゴチャ細かく喚いている玉っころをふん捕まえて、脳内でミニマップを展開、ハカセの魔力波長に合わせてそこが王国に有る聖教会だと確認した。なので、そこに行けば皆が居るだろうと考え、転移を発動させたのは良かったんだが……。



「……ハカセ、お前なんでこんな所に居るんだよ」


《……俺に聞くな。デイジーに連れてこられただけだ》



 ここはエルデン・フリージア王国に所在する、聖イリス教会王国本部。……横に併設された寄宿舎に有る大浴場の大きな湯船のど真ん中。


《良かったではないですか、俗に言う裸の付き合いでしたか。地球流に言えば》


「お兄ちゃん! 服着たまんまでお風呂入っちゃだめだよ」

「んきゃ~~! の、ノートしゃん!」

「ノート?!」

「「きゃああ!」」

「あら、大胆ですわね」


「んぎゃぁぁぁぁ! ご、ごめんなさぁい!」



 ◆  ◆  ◆




 俺の帰還を待つことにした皆は、伝令の騎士にそれを伝え、疲れもあったのだろう。隣に併設された寄宿舎で休むことになったらしい。初めは食堂で思い思いに休憩などをして待っていたが、食事を済ませて話をしていると、マリーや外に出ていた組が汚れが不快だと風呂に行きたいとなった。幸い、この寄宿舎には大浴場が有ったため、そこを女性連中が使用していたときに、俺が転移でその中心部に華麗に参上してしまった。


 ……超ヤバかった。魔術や桶やら、マリーやら、何がなんだかシッチャカメッチャカに飛んできて、デイジーの爆笑と、皆の怒号やら悲鳴やらでパニックになっちまった。



 ――で、結局また私、ノートは冷たい石の床に直に正座させられておりますです、ハイ。……ちくせう。


「……お主はいつも何かをやらかさんと気が済まん性格なんじゃの」

「違うよ! ハカセの魔力を追って跳んだだけだからね!? なぁシス?」

《……さぁ、私はマスターに理不尽にモノ扱いされていましたので》

「なんで拗ねてるの?! ってか、シスはスキルじゃん!」

《……っ! ムキャー! 言いましたね!? やはり! やはりマスターは私をそんな――》

「やめい! シスも分かるが、そこは後にしろ、ややこしいのがこんがらがって、収集がつかなくなるわい」


 寄宿舎に有る応接間で、皆がソファで寛ぎながら入口付近の冷たい石の床に正座して、シスとグダグダになりそうな喧嘩が始まった途端、セリスが割って入ってくる。……まぁ、話し始めたのもセリスでは有るのだが。

 

「……まぁ、今その問答は少し横においておけ。それで、あの「ゲール」とやらはどうにか出来たのか?」


 少し間をおいて、シスが黙って浮遊し、俺から離れたのを見計らってセリスが問うてきた。


「あぁ、奴ならもう拘束した。生かさず殺さずで――」


 そこから、やつとの戦闘のやり取りと、元の場所を整地したことなどを順を追って話す。次元拘束魔導を聞いた時にはセリスが「何じゃそれは?! お、教えろ!」と少し騒いだりもしたが、概ね話が終わった所で、奥に座って居た一団がこちらへ歩み出てきた。


「……お初に御目文字(おめもじ)(かな)い、恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。(われ)は始祖を時の勇者ノート様と伴にした「ニンジャマスター」セスタが子孫、アリシエールにございます」


 そう言いながら、彼女は俺の前に座り込むと、俺と同じ様に正座をして両手を揃えて頭を下げる。……なんだ? 日本式の古風な挨拶だなおい、と思っていると、後ろについた二人の男も同時にしゃがみ、こちらは立膝で頭だけを下げて挨拶してきた。


「……初めましてノート殿。俺の名はジェイク。で、コイツはロレンス。いつもはお嬢……いや、アリシエールと三人で冒険者をやっている。……アンタ、と言うか、先代勇者様の話はまぁ、誰でも知っている事だが、アンタの噂も大概だ。まぁ、「転移」なんて遺失魔導(ロスト・マジック)を見せられた時点で疑う余地もないが、よろしく頼む」

「……あ、あぁ、今はこんな情けない状態だけどね」

「そんな事は! (それがし)は! ノート様を!」

「はいはい、お嬢、興奮しすぎ。また「口調」が戻ってるぞ。オフィリア様の邪魔になるから、後でな」


 俺の言葉に、ガバっと顔を上げたアリシエールを羽交い締めるように持ち上げると、ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼女を「わあったわあった」と言いながら、ジェイクが連れて行く。ロレンスと言った男は立ち上がりざまに俺を見て一礼だけし、何もなかったかのようにして二人のあとに付いた。




 ――兄様……。


 彼らが去った後ろから、俯き加減で現れた、真っ白なローブを纏った小さな女性。ゆっくりと歩み寄ってきた彼女は、俺のすぐ前まで来て初めてその声を聞かせてくれた。



「……久しぶりだな、オフィリア」

 




最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ