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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
242/266

** 継承





「……綾華ん所にその「永久の長久」ってのが逃げ込んだんだろ?」

「いや、そうじゃない……とも言い切れん……じゃが、お主が向かった所でどうするつもりじゃ? お主の記憶は残っていても、彼女の記憶は整理されておるんじゃぞ?」


 既にイリステリアの文明は三度潰えて再編されていた。イリス達、神の記憶編纂も五巡目を過ぎた頃だろう。……綾華が神となって六千年以上が経っていた。何度歴史を繰り返そうと、地球の神と悪魔の概念が持ち込まれ、邪神が世界に産まれてしまう。行き詰まったイリステリアの神達は「大神」に縋り、知恵を貰っていた。



「……どっちだって良い。とにかく俺自身はもう精神体だから直接行けない「(肉体)」が無いからな。代わりにこの「シス」を内包した俺の魂の欠片を分化して別の人間に――」

「……じゃからと言って、お主がわざわざ、魂を分割してまでイリステリアに降りずとも」

「良いんだよ……もう、こうする事でしか彼女と接点が持てないのなら、そこから探し出してやる……。俺達を()()した奴をな」



「……そうか。お主はもう、()()()()()()()()んじゃな」




 ――爺さん、いや『時の神アイオン』よ、俺も既に()()したのだ。彼女と同じ(管理者)として、永劫の時を見守ろう。彼女の安寧の為に――。






********************************




「……つまり、健二君は既に神様って事?」

「あぁ。「イリステリア」とは()()のな」

「――んで、あの世界は何度も同じことを繰り返してるって事?」

「……ん~、厳密には違う。「神魔大戦」は最初期の頃の歴史にしか無い。だから既に向こうの神の記憶には残っていない。だが、どうしても「地球の悪」の概念が途中から産まれてしまう」

「……オーケー、一旦それはここに置こうね。次の質問いい?」

「……どうぞ」



 ――俺って、誰?



「……まぁ、当然それを聞きたくなるわな」


 長い彼の独り語りが一段落した瞬間、どうしても聞きたいことはそれだった。いや、色々突っ込みたい事は有る。が! そんな事は些細な事だ。まずは聞かないといけない! 「俺」が本当は誰なのか? 魂の分化と聞いた時、分裂と同義ではないと言われた。であるなら、人格が似ていないのには同意できた。が、しかし、もう一つ別の疑念が湧き出した。



 ――全部、造られた記憶なんじゃね? シスが適当に創った記憶を元に分化させた魂を補完して出来た虚像……。



「いや、違うよ、ちゃんと肉体が有っただろ? ……アンタは実在した太田さんだよ。ただ……俺が見つけた時点で既に魂は擦り切れていたけどな……」

「……え、え? ちょ、ちょっと待って。「実在した太田」って何? ど、どういう事?」


 彼の言葉で、思考が止まる。太田零士が実在した? え、じゃあ、俺って本当に太田零士って言う、人間だったっていうこと? んん? でも記憶にそんな部分は……。



 ――おい太田ぁ! この見積もり出したのお前かぁ――。


 途端、息が詰まるほど心拍が跳ね、ズキリと頭の一箇所に硬い何かで叩かれた感覚が蘇る。……あぁ、ブラック社畜だった頃の記憶、これが、これこそが俺が「太田零士」だった時代の本当の記憶だったんだ。小さい頃、田舎で過ごした事や中高生の部分が曖昧になっているのは、そこで健二くんの記憶と混ざっているからなのか……。はは、そんなに擦り切れていたと言う事か。過去を無かった事にしてしまいたい程に、俺は人生を諦めちまって居たってことか。


 ……結局、最後のトラウマになった、会社の部分だけがはっきり残っちまったのか。と言うより、その部分だけが唯一残った俺の魂の記憶ということか……。頬を伝う涙を止められず、ただ薄笑いのまま俯くと、落ちた水滴が白い床に吸い込まれ、滲むことなく消えていく。


 そうして、真っ白になった頭で記憶の齟齬を思い返すと、色々な事がまるでパズルのピースのように嵌っていく。


 神魔大戦は数千年前に起きた史実……。悪魔族や悪魔種、グスノフの話の齟齬……。セレス・フィリアの記憶違い……。俺の頭にはそれら神がインストールした情報とは別に、時を司る神になった健二君からの情報も、シス経由で同時にインプットされてたってわけだ。



 ――真実を信じるな、事実を見極めろ。か、確かに記憶や史実は繰り返していたら真実であっても一つじゃないわな……。



「ってか、分かりづらいわ! いや、分かるわけ無いじゃん! 何だよそれ! もう頭パンクしてるよ、ねぇ、煙でてない? 俺の頭から……」

 

 突然大きな声で喚き出した俺に、健二君はぽかんと口を開けて目が点になっている。……その顔を見た瞬間、神様がどうとか、記憶の齟齬が何だとか……。どうでも良くなってきた。ただ馬鹿みたいに口を開けたその顔がおかしくて、まんま、子供がビックリしたような顔をして居て……。


「……口開けすぎてるよ……ブフッ!」

「……いや、急に大声出すから……って、笑うかそこで」

「……ブハッ! なんかさ、もう色んな事が想像のとんでも向こう側過ぎて、意味判らんし。俺はやっぱりオジサンだったんだって思い出せたし……。アハハ! なんか、なんかもう一気に気が抜けたっていうか、そこにその顔だもん。笑うっしょ」

「……いや、それ悪口じゃん」


 向き合い、互いの顔を見て間が空いた後、二人で、吹き出すように大きな声で笑い合う。今の今までとんでもない告白をされていたにも関わらず、何も無い真っ白な空間で。



 ひとしきり、二人転げ回って笑った後、殺風景は嫌だというと、どこか、懐かしい感じがするリビングルームが現れた。


「……ですよねぇ。どうして日本人ってこう言う規格化されたこじんまりした「ザ・戸建住宅!」のリビングルームが落ち着くんだろう」

「宮殿みたいな部屋で大きな円卓にでもするか? 俺達みたいな庶民にはこっちのほうが断然落ち着くだろ」

「たしかに確かに。コの字のソファが布張りってのが良い! テレビが正面にあって、テラスが見えて……真っ白だけど」

「めんどくさいんだよ。座れりゃいいじゃんか! これは俺が地球に居た頃の家のリビングなんだよ。……シス、お茶を頼む」

《……了解しました》

「うひゃぁ! い、いつから居たの?!」

《視覚化していないだけで最初からずっといましたが》


 何を当たり前のことをと言わんばかりの仕草で、先程崩れて消えたメイド姿のシスが、テーブルにお茶の準備を始める。……考えてみれば、シスはスキルと言う概念だ。元々は健二くんが創り出したスキル。彼が考えれば自由に出入りできて当然か……。


「――ん? ちょっと聞きたいんだけど、「俺の領域」がマズいとか、「神様の御座所」じゃないから安心しろって言ってたけど、どういう事?」


 シスがお茶を淹れるのを眺めていると、不意にそう言われたことを思い出す。……まるで誰にも知られちゃいけないような、変な感じがする。俺の言葉に彼も一瞬動きを止めると、お茶に伸ばした手を戻し、ふぅと一息漏らしてソファにもたれ込む。


「……今までの話を聞いてだいたい予測はついていると思うけど、俺が「イリステリア」に自分の魂を送ったのは何度だと思う?」

「……え? 前の健二君自身と今回の俺の二回じゃぁ……ないの?」

「……」

 そう聞いた俺の質問に彼は黙って首を振る。そうして少し間を開けた後、身体を前屈みにしてテーブルに置かれたカップを睨むように答えてくれた。


「――数千回、万には届いては居ないと思う……。何度も、何度も歴史を繰り返した……。アナディエル教団だけじゃなく、信徒やその国ごと潰したことだって一度や二度じゃない。先に繋がりそうな未知を虱潰しに潰して回ったことも……シスを使い、データを分析して、何度も何度も繰り返し……。もうまるで作業の如く殺しまくったさ……。それでもやはり駄目だった……。邪神崇拝は生き残り、結果あの世界はディストピアになってしまう。綾華、いやイリスはそれで悲観し……星のマナを止め、「輪廻(ガフ)の扉」を開けてしまう……。そうしてまた一からやり直しだ。魂を回収しすべてを浄化した後、地上に精霊を降ろし、生命の息吹を吹かせていくんだ。「創世記」の始まりだよ……。何百回も見たけどな」


 何時しか眉間には皺を刻み、目を閉じ、両の手を握りしめて吐き捨てるように彼は言う。……数千回? 万には届かないって、なんだ? そんなに、そんなにもあの世界は繰り返しているのか? ……じゃぁ、今回の俺が失敗したらまた――。


「……だから、今回は最後の手段に出たんだよ」

「え?」


 俺の考えを見越すかのように、彼は閉じていた目を開くと、真っ直ぐこちらを見据えてそう言ってくる。




 ――残りの魂の欠片と、全ての能力を「シス」も含めてアンタに託した。






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