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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
240/266

** 帰結点



 ――は?!


 目の前の光景を見て俺は思考が止まる……。俺はハカセのところへ飛んだ筈だよね。いやいや、うん。そう、ハカセの元へと考えて魔力を目一杯送って転移した。……ハズなのに。



「……よう、やっと来たか」


 そう言って、大きなモニター画面の前にあるソファに座った男が声と手を挙げる。その隣には慇懃にお辞儀をするメイド服の彼女。そう、ここはアカシックルームだ。


「何で!? 何で今ここに来るんだ? シス! すぐに戻してく――」

「まぁまぁ、落ち着けって。ほらこっちに来てまずは座れよ太田サン」


 その言葉を聞いた瞬間、強烈な違和感で目の前がぐにゃりと歪んだ気がする。……そうだ、コイツは誰だ? 黒髪黒目、身長は百七十程度。中肉中背でパーカーにジーンズ……!地球の服! そう思った時、直ぐに頭に思い浮かんだのはリュックを背負った男の子。そうだ、王国の庭園で見た情景に居た! って事は。


「け、ケンジ君、なのか?」

「お? 懐かしい名前だな。まぁ、とりあえずこっちに来て座ってくれよ。話はそれからだ」


 そう言って朗らかに笑った顔は屈託なく、どう見ても日本人の高校生のような出で立ちで、隣のソファを勧めてくる。「いや、今サラを助けないと」と言っても「大丈夫だから」座ってくれと聞かない。渋々促されたソファに座ると、すぐさまメイドシスが茶器を前のテーブルに並べ始め、淹れたての珈琲とクッキーのようなものが添えられた。


「んんっ。まずはこうやって面と向かって会うのは「初めまして」だな。太田零士サン」

「あ、あぁ。そうだな、相馬健二君」

「……クフ! アハハハハ! なんか変な感じだな。年齢も見た目もちぐはぐな俺達がサンと君で呼び合うなんてさ。お互い知らない仲じゃないんだし、呼び捨てでいいか?」

「……まぁ、言われてみればそうだよな。精神年齢は五十のオジサンでも、君はそれで行くと千年以上になってしまうし……下手すれば俺がさん付けしないとだしな」

「な! 見た目はどっちも変わらねぇってのにな」

「――? そう言えばそうだ。君はこっちで生きたはずだろ? 何で見た目が高校生のままなんだ?」


 そこまで言って初めて、違和感の正体に気が付いた。彼はこっちの世界で救国の旅をしたはずで、確か数年は色んな国を廻っていたはずだ。ならばその分の年を取っているはずだし、記憶のフラッシュバックで見た彼も相応に年を経ていた。にも関わらず目の前に居るのはどこから見ても若いままの彼。一体どう言う事なんだ?


「……そっちの話の前に、今現在のことを話しておこう。……ここはアンタの知るアカシックルームじゃない」

「――へ? いやいやいや。どう見たってここは」



 ――俺がそう言う風に見えるよう創った空間だ。



 ――おうふ。


「……あぁ、まぁ考えてみれば君は勇者でチート持ちだもんねぇ。空間創造位できて当然かァ……って、なんの意味があるんだよ」

「大有りだよ、アカシックルームはアンタの領域だ。だがここは違う……ここはそんな『場所』ですら無い」


 彼がそう言った瞬間だった。二人が座ったソファ以外の場所が消えていく。テーブルはもちろん、大型モニターも何もかもが、一瞬にして風化し、朽ちてボロボロと崩れ落ちていく。目の前で綺麗にお辞儀しているメイドシスすら、その笑顔のまま腐食し、白化してボコボコ塗装が捲れるような感じで崩れる。音もなくただ静かに……。


 残ったのは、俺と彼と二人が座るソファだけ。そのソファすらまるで映像がちらつくように何故かギザが入り、たまに薄くなったりしている。既に見渡す限り真っ白になった空間。まるで、初めて落ちた、あの場所のような。



 見渡す限りの白い世界……。上下も左右もわからない。


「――え? こ、ここって」

「あぁ。所謂アストラルフィールドってやつだな。だが、ここは神の御座所じゃないから安心しろ」


 ……は? あ、アストなに? ってか、神様の居ない場所だから安心ってどう言う……。


 


 ――ここは、言ってみれば帰結点。……俺、相馬健二の終結した場所だ。異世界に飛ばされ、綾華と引き離された結果、何度も何度も歴史を繰り返し、時を遡って事象改変を行った末の最終到達点だよ。



「……この何も無い空間が? って、帰結点?! それに『綾華』って……」


 庭園で見た、一緒に見えた女の子? とは聞けなかった。


 当然だ。


 だって、そうなって来ると増々もって意味がわからなくなってくる。


 あの記憶は……相馬健二? ……あれ? 俺の高校時代に居た彼女は、華ちゃんで……え? 


「あぁ、何だその事か」


 そう言って彼は立ち上がり、右手を空に翳すと巨大な画面が目の前に広がった。




「綾華は、どんな花が、好きなの?」

「私が好きなのは、フリージア、健二君は?」

「う~ん、ヒマワリとか?」

「へぇ。……一途、なんだね」

「え? なにそれ」

「フフフ、花言葉だよ。ヒマワリの花言葉は、「あなただけをみつめます」や、「憧れ」なんかもあったかな」

「ふ~ん、詳しいんだなぁ。じゃぁ、フリージアは?」

「……それは、健二君に調べて欲しいかな」

「うぅ……わかった、じゃぁ今度、調べる」

「えぇ~、出来れば、言葉と一緒に贈って欲しいなぁ」

「うわ、やっぱり、そっちが目的だったのかよ~」

「ウフフ。欲しいなぁ……ダメ?」

「うぐぅ……わかった、わかったよ、今度、今度な。今日は無理!」

「やった~! あ! ちゃんと花言葉も調べてね?」

「うへぇ~、ハードルたけぇ~」

「フフフ! 約束だよ! 今度一緒に山に見に行こうね」




「……これは俺の記憶。そしてアンタの中に眠っている欠けた記憶の補完版だ。俺達が同一人物だって事、忘れてたのか?」

「いや! そこはわかっているさ。でも……名前は『華』ちゃんじゃなかったっけ?」

「……あぁ、多分魂の()()の際に、その辺が少し曖昧になってしまったのかもな。名前は『綾華』が正解だ」

「そう、なんだ……え? 魂の分化?」

「……ふぅ、そうだな。ここを出ればアンタはここの事をまた忘れる……。でも、今回はきちんと話してやるよ。これからアンタは『選択』しなきゃならないんだからな」


 大きな画面に写った彼と彼女の映像が消えると、画面そのものが無くなってしまう。何時しか俺もその場で立ち上がっていた為気が付かなかったが、足元のソファすら今はもうそこにない。二人、向き合ったままで真っ白な世界。気を抜くと全てが消え入ってしまいそうになるその場所で、俺である彼、相馬健二は語り始めた。



 ――俺にとってはついこの前の出来事のように感じる。彼女と登った山のハイキングコース。その登山道脇に生えていた花を二人で見ていた時だった。


「……ねぇ、あそこ、何か光っていない?」

「え? ってかそんなに乗り出すと危ないって!」

「ほら、あそこ……って、きゃあ!」


 野花を見ていた彼女が斜面に見つけた何か。それを確認しようと覗き込んだ時、濡れた下草に足を取られた彼女はそのまま滑るように落下した。慌てて俺は手を伸ばしたが、寸でのところで間に合わず、後追いのような形で俺もそのまま落下する。その時見えたのは光。斜面の途中に穴が見え、その中心部が光っていたんだ。俺と彼女は滑り落ちながらも、なぜかまっすぐその穴へ吸い寄せられ、気がつくと穴は大きく、二人を飲み込むような形で広がっていた。


「健二君!!」

「綾華っ!」


 直下に光るそれは大きな魔法陣。俺と彼女の間は二メートルもない。ならばどうにか捕まえようと手を伸ばすがどうしてもスピードが違い、追いつかなかった。最初に陣に着いたのは彼女。着地した足元から分解されるように消えていく……。


「綾華ァァァァ!」


 直後に到着した俺は、残った彼女の手だけを掴んだが、握る間もなく砂粒のようにサラサラと分解されて消失してしまう、そして同じように始まる俺の身体の消失。……こうなったら、俺も同じ場所に行くんだと思い、目を瞑ったんだ。


 その時は死ぬと考えていたからな……。


 いつまでもやって来ない痛みにふと目を空けると、えらく萎びた爺さんがニコニコとした顔で俺を見上げていた。何だと思って周りを見回すと、そこは六畳程の和室。ちゃぶ台が有り、その上には湯呑とせんべいまで置いてある。ぽかんとした表情で呆けていると、その爺さんが俺の手を取り、「まぁ座って、茶でも」と言う。


「いやいやいや! ここドコだよ!? 綾華は? 綾華はどこに行ったんだ?!」

「はて? 此処にはお主だけしか来ておらんぞ?」


 ならばここに用は無いと、この部屋を出ようと振り返って襖を開けると、真っ白な世界がそこには広がっていた――。



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