第24話 お人好し
彼は、途端に叫ぶように大きな声で俺達に言ってくる。
「止めたんだ! アイツらはヤバイって! でも、ハックは聞かずに行っちまった……で、結局このざまだよ」
それだけ言って幾分落ち着いたのか、ハックの傍に歩いていくタイラー。二人もそれに続くように付いて行く。
「俺達、スラムの人間ってのは最後もこんなもんさ。騙し騙され、奪って奪われて。鼻の利かなくなった奴から消えて行く。俺達はここで産まれた。だからこの生き方しか知らない。なぁ、ハック。少しだけ待ってろ。俺達もそんなに長くはここに居られねぇ。それまでに、居場所作って待っててくれな」
ハックという少年の亡骸に、最期の別れの様なモノを呟いてから彼は俺の方に向いて話してくる。
「コイツを埋めさせてくれないか。その後はアンタの好きにしてくれて良いからさ。……殺すならコイツの傍で頼むよ」
「はぁ~~。いやいやあのね。そんな事するわけないじゃん。わざわざ治してから殺すってどんな鬼畜だよ! あ、勿論治療代は払ってもらうよ。か・ら・だ・でね」
務めて明るく言ったはずだが、ものすっごく後退る三人。
「──…お兄さんて、…ソッチなんだ」
──…ん? そっち? は!
「バカぁ! 意味がちっがぁう! と、とにかく、付いて来て!」
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「女将さん! この通りです! お願いします!」
宿の入り口で絶賛土下座中である…。
「ま、まぁとりあえず、顔を上げてくださいよ。話しも出来ませんから」
あれから、彼を埋葬し、4人に清浄を掛けて古着屋へ向かった。小綺麗にして、適当に散髪をして彼らに話をつけた。
「これは先行投資。もちろん回収させてもらう。奴隷契約ではない。雇用契約! ここ間違わない! OK?」
「こよー? ってなに?」
「やっぱ、身体か?」
「ブルブル……」
「ふっ…死ぬより怖いってのはこの事だな」
正直、疲れた。それでも、根気よくOHANASIした結果。
「「はい! リョーカイしました! ノート兄ぃ!」」
なんかこんなんになってた。
《お前、途中から魅了と威圧を交互に使っていたぞ…》
──へ? も、もういいや。
そう。俺はコイツらを何とかしたかった。
目の前で、こんなちびっ子たちが。あんなあんまりな現実…。正直俺は見たくも聞きたくもなかったのだ。せっかく来た異世界。楽しくお気楽ご機嫌に! ウハウハしたいのだ。
当然、誰でも彼でも皆って訳には行かないし、無理だ。そんなのは分かり切っている。でも手の届く範囲くらいは。せめて、最初の切っ掛けくらいはあげてもいいじゃん。
スラム以外の生き方。
働くって事や、自立の意味。それ位は教えてあげたいと考えた。
──だから。
「男の子たちは多少の力仕事や掃除なんかをさせます! ユマは元行商の娘だから、簡単な接客や計算も出来ます! 屋根裏の隅っこに雑魚寝で良いです。給料は賄いだけで良いんで! お願いします女将さん!」
──…超他力本願! である。
「おや? この娘は計算が出来るのかい?」
女将さんが計算に引っ掛かり、ユマに尋ねる。
「はい! 小さなころからパパと行商で育ちましたから。接客も出来ます! よろしくお願いします!」
元気に答えるユマに、焦りを感じた三人組は声を揃えてアピールする。
「「「お、俺達は! 体力には自信あります!」」」
「ふぅ、……分かったよ。男連中は部屋掃除と荷物運び。ユマちゃんはサラと一緒に先ずは食堂の給仕からかね」
「「「「ありがとうございます! 女将さん!」」」」
そう言った後、女将さんはサラを呼び、寝床の指示や四人の仕事の指示振りをテキパキ進めるとこちらに寄ってくる。
「女将さんありが──」
「ノートさんもお人好しだねぇ、私も気にはなってたんですよ。…まさかスラムの子達をあそこまでキチンとさせてくるなんてねぇ。後はこっちでちゃんと自立させるから。…ありがとね」
──あはは。流石は女将さん…バレテラ。
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翌日、俺は早速冒険者ギルドに向かい、ギルドマスターの執務室で男の話をする。
「中心街か」
「ええ、恐らくその辺りの宿かと。ただ、もうその男の反応は無いですが。」
「ふんっ。もうソイツはこの世に居ないって事か。判断も早いな」
そう、マーカーは中心街で一度動きを止めた後、不自然にぷっつり消えたのだ。
「それにしてもマーカー?とやらは、すごいな。魔道具も関係無しとはな。」
「固有ですからね」
俺が認識したモノならば、人でもモノでもピン留め出来る、ミニマップとの併用で何時でも何処でも時間、距離関係なく所在の確認が出来るのだ。
「中心街に泊まれる闇奴隷商人か…ならば、貴族関係の伝手持ちが濃厚になって来るな」
うはぁ。やっぱ絡むか貴族、メンドクセェ……。
「分かった。こちらもそこを考慮して動く準備をしておこう。ところで、話は変わるがお前。スラムの子供達の面倒を見たそうじゃないか」
──ハカセぇ。
《別に言ってはならんことではないだろう》
「はぁ…まぁ、ああいうのって見たくないですからね」
「ふんっ、そう言う事はなかなか出来るものでは無い。普通は見て見ぬ振りをするモノだ」
「そんなもんすか」
「そんなもんだ」
ニヤニヤしながらこちらを見るセーリスさん。むぅ、なんかこっぱずかしい。
「なんすか? エロイご褒美でもくれるんですか?」
「はぁ~。それが無ければ、イイ男だと褒めてやったのに」
「別にいらないっす。ギルドマスターはエロイけど身持ち堅いし、ミスリルの現役冒険者で、何しろセレス・フィリア様ってこぶつき──」
”バカン!”
「んぎゃっ!」
いきなり立ち上がり、俺の頭を思い切り叩くと彼女は激高する。
「そ、それを言うなあああああ!」
次いでこれまた突然に泣き叫ぶ。し、しまったぁ!
《うわぁ、どうするんだ? やばいぞ! やばい!》
「お、落ち着いて! ここ部屋ですって! セーリスさ──」
「****!」
”ゴウ!”
風が渦巻き、俺に向かって氷の槍が殺到する!
「うっひゃあぁ!」
◇ ◇ ◇
「ふぅ。マジやばかった」
流石は精霊使い、部屋に傷一つなく俺だけを的確に殺傷しようとする魔法の連打。何度、応戦しかけたか。
《そんな事してみろ、死ぬ気で掛かって来られるぞ》
だよねぇ。まぁ、言い過ぎたのは俺だし、最後のマジ泣きは勘弁だったよ。
そんなこんなで早々に部屋を追い出された俺は、受付に戻って来たんだが。当然受付で捕まる訳で。
「な、何があったんです?! あんなにすごい音! なのに全く何ともない部屋。すっっごく気になるんですけど!」
「い、いや。あ、あのですね。…ち、近いですキャロルさん!」
思わずクンカクンカしそうになったじゃん。
「そんなことはどうでもいいです! さぁ! なにがどうしてどうなっ──」
”ベシン!”
「ふぎゃぁ!」
あ、お尻良い音!
「キャロ、貴女の方が今煩い」
ナイスです! シェリーさん!
「ノートさんも、マスターを困らせない様にお願いします」
「はぁい」
ナイスツンです! シェリーさん! …はぁ。バカ言ってないで行こう。
《とりあえず、なにをするんだ?》
ん~、思いつく皆にはマーカー付けたしなぁ、マスターに精霊の方は任せて大丈夫だろ?
《あぁ。連絡は俺に来るからな》
なら、常時依頼の残りでも熟そうかな。そう、まずは素材を集めに行かないと。俺は、足を街の外へ向けて歩き始めた。
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「隊長。今日の張り番交代してきました」
「おう、ご苦労さん」
「こちらが、午前の出入街報告です」
「そこへ置いておいてくれ」
詰所に交代の連絡に来た部下を見送り、机の上の書類と睨めっこを再開する。
「くそっ。何で、闇奴隷商が街に入ってんだ?」
この国エルデン・フリージアの奴隷制度は基本的に一般奴隷と犯罪奴隷しか存在しない。これは二代前の国王がお決めになられた事だ。一般奴隷は基本的に金銭などの借金が返せなくなった者が金銭の代わりに自身を労働力として差し出す契約奴隷。働く対価を債務者に渡すだけなので身体の拘束などは無い。
犯罪奴隷は国が一括管理し、主に重労働や、労務兵として使われる。
国王が広めた人権主義。これのおかげで、人身売買や、人攫い等と言う非道はほぼ無くなった。ほぼだ。総てでは無い。
重税に喘ぐ、寒村や僻地に居る村民などにその恩恵はなかった。皆、生きるために必死なのだ。だから需要があって供給が有れば、それは成り立ってしまう。
──闇奴隷商人と攫い屋。
こいつらは何時しか膨れ上がり、貴族の後ろ盾を持ってしまった。
──奴隷復権派。
国が認めないのに貴族が欲しがるなんて、腐ってやがる。歪な世界だ。そんな、腐敗貴族がこの街にも居るなんて思うと、反吐が出る思いだ。
「──…いちょ……た…ちょ…隊長!」
「は! なんだ?! どうした?」
「いえ、かなり、深く深刻なお顔でしたので」
「あ、あぁすまん、ちょっとな。」
副隊長のコンクランが傍に来るまで気づかないなんて、考え込みすぎたな。
「で? 何用だ?」
「は! これを──」
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