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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
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「……いや、先ずは私だけで挨拶に向かおう。巫女様はここで皆と陣を張ってお待ちを」

「――マイク殿、私は構いません。自分の身程度は自分で守りますゆえ」

「し、しかし――」

「問題ありません。……ワシリー様、よろしくお願いいたします」

「……ではこちらへ」


 ワシリーの発言に先ずは自分だけでと言ったマイクに対し、ビーシアンの聖女である巫女のフォクシー種であるミュゼリスは、自分も問題ないと言って齧歯族の方へと一人、その大きな二房もある尾を揺らしながら歩み寄っていく。慌てて侍従の一人が付き添うように近付くが、「貴女は皆とお待ちなさい」と断って、マイクの方を、早く着いてこいと言わんばかりに振り返る。


「……ふぅ。種族特性が強い御方だ」


 小さく愚痴をこぼしながら、肩を落とすと副団長に「後は頼む、巫女様は我が身を以てしてもお守りする。それと最重要事項として――」と言伝ると、彼女に付き従うよう足早に駆け寄っていく。


「……巫女様、「好奇心は身を滅ぼす」と言いますぞ。余りな事は慎まれるよう、お願いします」

「――フフ。マイク殿、忠言、しかと賜わりました。……全ては聖イリス様のお導きのままに」



◇  ◇  ◇



「……そこでは魔獣よけの魔導具範囲外です、こちらに張られるが良いでしょう」


 マイク達がワシリーに連れられて城の方へと向かった後、残った齧歯族の一人が副団長であるタイガー種のロッドに話しかけてくる。てっきり敷地内には入れてもらえないと考えていたロッドは思わず「良いのか?」と聞き返すと、「逆に範囲外で襲われると、こちらが面倒だ」と言われて腑に落ちた。


(……ここで下手にいざこざが起こると、面倒になるのはお互い様という事か。知能進化が凄まじいな……。本当に齧歯族が一代でここまで進化できるものなのか?)


 ロッドは、彼らの言動に些か疑念を抱えたが、安全に過ごせるならばそれに越したことはないと考え、彼らの言う通りに陣を敷地内へと張る指示を出す。その際、斥候部隊の数人を呼び、現状を知らせよと密書を持たせる事も忘れない。マイクが最重要事項として先程巫女様の件とともに話してきた言伝だ。


「……良いか。必ずこの密書を氏族会に渡せ。マイク団長すらこの様な事態は知らなかったのだ。すぐに行動せよ」

「「は!」」


 密書は三通、斥候は五人が選ばれた。二人は囮で空の密書を持つ。それぞれが別ルートを走り、戻るのだ。何もなければそれで良し。だがここは魔獣の森であり、存在希薄と言う未知のスキルを持った種族の居る場所。警戒するに越したことはない。そう考えた副団長は、最も足の早い五人を選び出した。


「……聖女隊の方はどうですか?」

「……こちらでも手は打っておきました。報せ鳥を二羽、放っております。テイマーの鳥故、何かあればすぐに分かるでしょう」

「それは僥倖、まさか聖女隊にテイマーが居るとは」


 急拵えの指揮所で話す陣幕の裏手、魔導具が唸りを上げるその木の裏に、長い尾が少し見えていた。





*****************************




「お、オフィリア?!」

『はい! オフィリアです! あぁ、やっとお話ができました』


 頭の中には、マリアーベルの深層意識に入った時と同じ、聖女と呼ばれたオフィリアの声が響いている。……何故かその瞬間に胸が苦しく、そして熱いものがこみ上げてくる。どうしようも無いほどに切なく、待ちに待った声がようやく聞けたとでも言うような、そんな感覚が心の深い場所で湧き上がり、ドンドンそれが溢れて止まらなくなっていく。その感覚に違和感を覚えていると、不意にその違和感の答えに至る。


 ……相馬健二。そうか、彼は今俺と同一の存在になったことで、意識自体は存在していない。でも心の片隅にその欠片は在り、その部分が感情として発露したのだろう。現に俺の意識とは関係なく、頬には涙が流れ、言葉にならない声を漏らしながら泣いているのだから。


「……ど、どうしたのじゃ?! どこか怪我でもしたのか?」

《セリス様、マスターは今、聖女様と念話をしています》


 俺が唐突に泣いたのを見たセリスが慌ててこちらに駆け寄ろうとするが、俺の念話を聞いているシスが間に入って止めてくれる。アンデッドのモンスターは既に細切れになっており、その部分は赤熱化して大変なことになっているが、ミネルバ以外は見慣れているのか、大穴を避けるように俺を見守っていた。


『……あぁ、久し振りだな。ただ、俺は君の知るケンジ・ソウマではないけ――』

『分かっております……。魂は回帰し、ケンジ兄様は貴方の中に眠っていると』

『そうか。確かにケンジ君は俺の中に存在しているよ……懐かしくて、胸が苦しくなっているからね』


 俺の言葉に、オフィリアも言葉に詰まり、グスグスと鼻を啜る声が小さく聞こえる。だがそれよりもまずは伝えないことを思い出したのか、すぅと息を吐いて毅然とした声で話し始めた。


『ノート様、先ずは報告を致します。現在、我らはエルデン・フリージア王城にて大罪の悪魔、ゲールとイリス教教皇の臣下である、賊と交戦中です。彼奴らの目的はノート様の庇護下に居られるサラさん。彼女を攫う為に策を弄したと考えられます、もし叶うのならば、王城へ転移でお戻り出来ますか?』


「なんだって!?」


 その言葉に思わず大きな声で反応してしまう。一体どうやってその情報を知ったんだとか、なぜその現場に居るんだとかの疑問はさておき、頭には王城の印象に残った場所を思い浮かべる。転移陣も置かず、特定の場所に転移などやったこともないので甚だ無茶だと思うが、何かないかと考えていると、不意に体を揺さぶられた。


「ノート君! 落ち着いて! 何が起きたの?! シスがずっと呼んでいるわよ!」

「……あ! え? 何?」

「えぇい、しっかりせんか! まずは落ち着け」


 直ぐ側には大穴が開き、燻っているのかブスブスと煙を上げている。見える範囲には既に肉塊となったモンスターの亡骸も転がっており、肉の焦げる異臭すら漂っている。ふと前を見るとシェリーが俺をまっすぐに見詰め、セリスがその横でぎゃいぎゃい騒いでいた。何故かミネルバさんが「怖い怖い怖いですぅ!」と小声で震えながらもシェリーにしがみつき、周りを見ながら付いてきていた。


《マスター! 状況は皆様に説明しました。ハカセさんを仲介に、陣を構築してもらいましょう。そうすれば転移可能です!》


 シスの説明によると、現状俺とハカセは主従契約を結んで魔力を供給している。それはどんなに距離が離れていても行われている。つまり彼のいる場所には俺の魔力が存在していることになるのだ。ならば、彼に俺の転移陣のイメージを複製してもらい、魔力を供給すれば、簡易的にでは有るが緊急的な陣が構築できるとの事だった。


『ハカセ! 俺のイメージ伝わるか?』

『……ぬぐぉぉ! いきなりとんでもない魔力がァァァァ! アァァああ! しゅごいいぃぃぃい!』

『んぎゃぁぁぁ! ハカセがキモい! なにこれどうなってるのぉぉぉ?』


 俺の側に皆が集まっていたので、シスに言われた通り、ハカセへの供給魔力を転移する際のイメージで送る。途端、大量の魔力が流されたハカセは凄い声を上げてあひゃあひゃし始める。それを横で見ていたデイジーが突然実況しながら割り込んできたが、構わず魔力を送り続け、同時に意識を城へ向けて俺達は転移した。


 ――待ってろサラ! 今助けるから!




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