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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
233/266

06



 穴から聞こえる不気味な声が聞こえた途端、セリスの雰囲気が一瞬にしてセレスのそれに変わる。凄まじいほどの怒気をはらみ、彼女の周りが歪んで見えるほどに膨らんだ殺気が、穴の中にいる者に向かって容赦なく降り注がれる。


「――リィビィエェラァ! 貴様かぁぁぁぁ!」


 セレスの激昂とともに、ゴーレムが瞬時に高空へと移動し、収束された光の筋が、穴の中にいるであろう人物に向かって射出された。


 ――ピ! バシュウゥゥゥゥゥ! 



 ――ドコォォォォォォオオン!!!


 狙い違わず土中に収束されたビームは一瞬にして土の中で爆散し、その周りの土砂を一気に持ち上げ、大袈裟にそこら中に撒き散らされる。ノートたちはその所業に慌てながらも、ぽかんとして固まっていたミネルバを荷物のように抱え、シェリーと共にその圏内から逃れると、その場に結界を張って落ちてくる土砂を凌いだ。


「何だよ一体。……いきなりなんでセレス様になってキレてるんだ?」

《……恐らくですが、穴に出現した相手のせいでしょう》


 俺の疑問に即座に反応したシスがそう言って名前を教えてくれた。……『リビエラ』そうか、奴が現れたのか、だからセリスよりも因縁の深いセレスが……。


「リ、リビエラ?! あ、あの「狂人リビエラ」が生きているのですか?」

「……あら、貴女も知っているの?」


 俺の漏らした名前が聞こえたようで、ミネルバさんが再起動して尋ねてくる。


「勿論ですよ、高位魔術や魔導を生業とし、王都で励んだ者ならば誰しもが聞く名です。「狂人リビエラ、天才が故の果に邪神に魂を売った人類の敵対者。精霊王の怒りに触れて光の魔法で滅せられた」と、魔術学院の魔導書に、戒めの文言として一節が載っている程です」


 彼女が聞いた事に反応したシェリーに、ミネルバさんはそう答えると、土砂でもうもうと煙が上がる場所を凝視した。



 拡張され、すり鉢状に広がった穴の中心部。未だ土煙が朦々と立ち込める中、人の形をした影がぼんやり見え始めると、ソイツは声高らかに笑い出す。


「クッ……クハッ! クハハハハハハハハ!! やはり貴女がいましたか、マシタカ。どうです? 深淵はなにか答えを教えてくれましたか? マシタカ」


 舞い上がった煙が晴れていくと、そこには一人の大柄な男が立っている。聞いた情報ではリビエラは木乃伊(ミイラ)の様な風貌だったはずだが、ソイツはそんな姿をしていなかった。背は二メートルを超え、筋骨隆々としている。ただ、顔というか首から上だけはやけに小さく、顔立ちもどちらかと言えば子供のようなそれだ。なにか無理くりパーツを繋いだような、そんな歪な頭がその男には付いていた。よく見ると頭頂部に獣の耳が見え、無理やり開いた口には犬歯のようなものも見える。……その顔はどう見てもビーシアンの子供だった。が、尻尾は見当たらず、首から下はどう見てもヒュームのそれ。ふと頭に浮かんだのは、ツギハギだらけの人造人間だ……。


「……貴様、その肉体はなんだ?!」

「おや、気が付かれました? これは私の「容れ物」ですよ、デスヨ。何しろ今は忙しい身の上ですのでね、デネ。沢山の「カラダ」が欲しかったのです、デス。いやはや、いつの時代も「貧富の差」というものは哀しい現実ですねぇ、デスネェ。この体は半年分の食料で、頭に至っては三日分で喜んで売ってもらえまし――」


 ――ピ! バシュウ! バシュウ! バシュウ!


 言い終わる前に、高空からは幾筋もの光線がリビエラに殺到するが、奴はその悉くを腕に取り付けた盾のような物で全て弾き返す。


「な!? ……貴様! それは何だ? なぜビームがこうも簡単に弾かれる?!」

「……クハハハハ! 対策するのは当然でしょう? まさか、ご自分たちだけが「特別」だとでも思っていましたか、マシタカ?」


 リビエラはその幼い顔を歪に歪ませ、口をこれでもかと開いてセレスを嘲笑う。実際、眼前で起こった現象が信じられずに俺も思わず目を瞬かせてしまう。レーザー光線……名前だけを聞けば光のように考えるかもしれないが、その実、あれは熱の塊のようなものだ。そのあまりに高温、収束率の為に発光化しているだけなのだ。発射点と着点を結んだ間に漏れた熱と光が見えるからビーム光線のように見えているだけで、本来は着点が瞬時に蒸発融解してしまう程の熱エネルギーをぶつけているだけなのだ。


 にも関わらず、その超高温にも達する熱を受けてなんともないなんて……。そんな事を考えていると、不意に地球素材で何かのサイエンス実験を思い出す。それは確か、宇宙から大気圏への再突入時に起こる摩擦熱を吸収させるための素材がどうとか……。


「……何だ貴様? まるでどこぞ別世界の知識でも知っておるような、物言い――っ! 悪魔共か?」


 もう少しでなにかの答えが出そうだと考えていると、セレスが大声を出して「悪魔」の名を出す。釣られてそちらを見てみると、ご明察と言わんばかりに笑顔で拍手する奴が居た。


「如何にも! いやぁ、やはり志を同じにする者はお気づきになりますか、マスカ。やはり異界の知識は素晴らしい! そして興味がつきませんね! あちらの高度な「化学」をこちらの魔導と組み合わせれば……。あぁ! なんと素晴らしきかな!」


 興奮しているのか、饒舌になり、いつもの二重語尾ではなくなってしまっている。……それにはっきり「化学」と奴は言い切った。それはこの世界には存在しない学問だ。魔導や魔術が発展しているこの世界では、物質変化は全て、精霊の仕業と言われているのだから……。


《……マスター》


 俺の動揺を感じたのか、シスが念話で呼びかけてくるが、それに応えている余裕はなかった。


「ノート様! セリス様は一体何の話をされているのですか?! そ、それにリビエラって確か、百年以上前のヒュームのはずですよね?! なのに、あの顔はまるでビーシアンじゃ――」


「ミネルバさん! 落ち着いて! 服をそんなに引っ張らないで!」


 隣にいた彼女は、疑問が恐怖に勝ったようで、興奮気味に俺の服にしがみつき、アレヤコレヤと聞いてくる。シェリーの方はと見てみれば、彼女は二人の周りを怪訝な顔で見つめていた。


《――! マスター、前方二百に反応! モンスターが出現しています。数は……二!》


 シスが俺のマップを利用して周囲警戒していたおかげで、モンスターの出現をミネルバ以外に念話で通達してくれる。目線を移すと、そこには今まで何の予兆もなかったはずなのに、突如として何かがこちらに向かって走ってくる様子が窺えた。


「……クソ! 何だあれ! 四足獣か?! って、でかくね? ……ミネルバさん! 立って! ココはまずい!」


 俺がそう言って彼女を見た時、その獣型モンスターは信じられない程の膂力で跳躍し、俺とシェリーの間に入り込む形で飛び込んできた。


「シェリー!」

「きゃぁ!」

「ちょ! ノート様?!」


 咄嗟に俺はミネルバを小脇に抱え、悲鳴を上げたシェリーを確認しようとモンスターの横に跳ぶ。急に抱え上げられたミネルバは吃驚して抗議の声を上げたが、そんな事はお構いなしに、彼女に結界を張って「ココから離れて!」と告げ、改めてモンスターとシェリーの方に向き直った。



 ――オルトロス。

 その獣には首が二つ生えており、互いの口からは得も言われぬ異臭が漂い、大きな牙が覗いていた。思考も別々に有るのか、一つの首はシェリーを見据え、もう一方は周囲を警戒しているのか耳を左右に揺らし、時折首をそちらに動かしている。体高はちょうど俺と同じくらい、頭は人の上半身は優にあった。


「シェリー、大丈夫か?!」


 コイツが飛び込んだときの衝撃で、地面が捲れ、煙が少し上がっていた。その為俺の位置からでは彼女の詳細が見えない。だから大きな声を上げると同時に、モンスターの意識をこちらに向けさせようとしていたのだが、次の瞬間、烈光が瞬き、モンスターの首が一つ消し飛ぶ。



「……問題ないわ。少し礫が飛んできただけよ」





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