04
「それで、どうするのじゃ? もうすぐこちらには、ダリア領からの応援も到着する。騎士殿たちはそちらの魔導車で、移動すれば良いじゃろう」
未だ呆けたような顔をしている副団長を横目に、セリスはそう言って、シェリーと陣幕を出て行こうとする。しかし流石に不味いと思ったのか、ミネルバさんが辛うじて声を上げて二人をなんとか制止した。
「お、お待ち下さい! い、今お二人に抜けられては、こちらの収集もつかなくなります。せめて、応援が到着してからではいけませんか?」
彼女の必死な要請に、二人はやれやれと言った表情をし、不承不承に頷くと奥に座っていたリズモンドが、慌ててオコーネルの肩を揺さぶる。
「ふ、副団長! オコーネル様!」
「……は!? な、なんだ? い、今のはどこから出したのだ!?」
オコーネルの見当違いな物言いを、無視してセリスは千人長であるリズモンドに向かって言い放つ。
「……其奴が、儂等をよく思っていないことは分かっておる。じゃが、これは王命であり、勅命だということを肝に銘じておけ。貴様らの言動は全て上に報告が上がる、つまりは貴様らの上司、ドレファスにもな。先に言っておくが、儂と儂の祖であるセレス・フィリアは貴様らの言う「侯爵」階級を持っておる。その儂に対して「騎士爵」が楯突けばどうなるか、覚悟はできておるのか? これ以上物言いを続けるならば、儂はウヌらを処断するぞ。この陣幕内で起こした無礼は聞き流してやる。以降、儂等の邪魔立てをするな。応援に来るダリアの者たちと行動せい」
セリスの言った言葉に、オコーネルは「……な!? こ、侯爵……」と言ったまま固まってしまい、リズモンドに至っては、オコーネルの横であんぐりと大きな口を開けて、腰が抜けたのか、その場にへたり込んだ。流石にミネルバも、セリスが相当怒っていることに気がついたのか、口を噤んで俯いてしまう。
「……お前にはムカついてなど、おらんので気にせんで良い。こ奴らは、あのドレファスとか言う奴の下っ端じゃろう。は、儂を派閥なんぞの厄介事に、巻き込むんじゃないわい。……痴れ者が」
「申し訳ございません、セリス様。ですが――」
「あぁ、分かっておる。外に出るだけじゃ、それにもう応援はそこまで来ておるしな」
そう言いながらセリス達が幕を持ち上げると、村の反対側に、土煙が上がっているのが見えていた。
◇ ◇ ◇
「お久しゅうございます! まさかこんな形で再会する事になるとは」
指揮所を出て暫くすると、魔導車の車列が到着し、最初に降りてこちらに駆け寄ってきたのは、メスタ・オルソン子爵だった。
「なんじゃ? ダリアからわざわざお主が来たのか?」
「……いやはや、魔導通信にてスレイヤーズ一行が、依頼を受けたと聞きまして、一度ならず、二度までも助けられるとなっては、来ぬ訳にはいきませんから」
「何とも義理堅い男じゃ、まぁ良い。王国騎士団の精鋭達は無事このように連れてきた、受け入れの方頼むぞ。儂等は出るでの」
セリスの言葉に、子爵は疑問符を頭に浮かべ、気づいたシェリーが荷車の件を話し、「よろしくお願いします!」と言われ、六輪魔導車を異界庫から出す。運転席には俺、助手席にはシェリーが乗り込み、後部座席にセリスとミネルバさんが座ったのを確認して、発車した。
「――って、なんでミネルバさんまで乗ってんの?!」
「……向こうに残れと仰るのですか」
「え? あ、いや……」
「もういいじゃないか。それより、はよう向かってやらんと、野ざらしは可哀想じゃ」
俺の言葉にあざとい顔をしながら、懇願してくるミネルバさん。それに躊躇していると、彼女の横に座ったセリスが最もなことを言ってきたので、諦めて魔導車のアクセルを踏みこむ。
◇ ◇ ◇
「……酷いな」
魔導車で走ること数分。シェリーのナビで迷うことなく、その現場に到着してみれば、無惨な光景がそこには広がっていた。粉々に砕けた荷馬車の周りには、開けた場所だというのに、血臭が立ち込め、大きな血溜まりを作っている。遺体は既に原型がないほど、潰されたか食い散らかされたように、散らばっており、思わず目を背けたくなるほど。
「……間違いなく誰かが食わせたな。下衆めが」
「とにかく、遺品とカードだけでも持ち帰りましょう。後は」
セリスが苦々しい顔を見せながら吐き捨てるように言うと、ミネルバさんが遺品集めをと話し、血溜まりに躊躇していると、徐にセリスが手を翳し、ワードを発動する。
「清浄の炎」
彼女がそう言うと、青い炎が湧き上がり、その一帯を瞬時に包み込む。熱くないその炎は血溜まりや肉片などを綺麗に燃やし、キラキラと輝く様な塵となって舞い上がっては消えていく。それはまるで天に登る、送り火のようで、精霊たちが祝福しているように。
「――これが「魔法」」
その光景を見ていたミネルバが、思わず声に出して呆けていた。
やがて、全ての血や肉片が燃え尽きると、炎はそのまま何もなかったように消え、ひしゃげた武具や、カードが何枚か落ちていた。それらを皆で無言で集め、纏めて異界庫に仕舞うと、シェリーのゴーレムが上空から舞い降りる。
「やはり、どこにも痕跡は見付けられなかったわ」
彼女はそう言いながら、ゴーレムを自分の異界ポーチに仕舞い、こちらへ向かって歩いてくる。……ん? なんか地面が揺れてね? そう考えた時、離れた場所の地面がにわかに隆起した。
……ズズズズズゴゴゴ!
「なんじゃ!? あれは!」
「……地割れがこっちに向かってくる!?」
「な! なにが、起こってるの?!」
《……マスター! 地面の下に反応! 何かが来ます!》
――ドゴォォォォ! 「ギャシャァァァァアア!」
サンドワームがその大きな口で、硬い地面を突き破って、立ちはだかった。
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「――全く、やはり冒険者という者たちは……」
「ドレファス様はどうして……」
スレイヤーズ一行が村を去った後、子爵が指揮所の陣幕を訪れると、中にいた騎士団副長オコーネルと、千人長のリズモンドが二人、大袈裟な椅子に座ってなにやらブツブツ言い合っていた。それを見た子爵は(やはり、貴族派の騎士団か。これは、面倒極まりない……)と心で愚痴をこぼしながら、作った笑顔で挨拶をする。
「……失礼。現在ダリア領、執政官を拝命しているメスタ・オルソン子爵である。王国より派遣された騎士団副団長、オコーネル殿はこちらか?」
「おぉ! 子爵様! わざわざのお出迎え、痛み入ります。私が、エルデン・フリージア王国騎士団副長、オコーネル・パント。こちらは千人長のリズモンド・ベガス、街の窮地と伺い、精鋭騎士を連れて参りました。各街の治安など、我等騎士団にお任せくだされば、すぐに解決してみせましょう!」
それまで椅子に腰掛け、リズモンドと悪態を吐いていたオコーネルは「子爵」と言う物言いが聴こえた瞬間、俄に顔色と表情を変え、その言葉を発した者へと媚びへつらった文言を言い放つ。メスタはそれを聞いて、良くも今の今まで悪態を吐いていた口が……と思いながらも、表面上はにこやかに笑いかけて返答する。
「おお! 王国騎士団副団長自らとは、心強い。……して、こちらの件はどの様になっておる?」
「は! おい、先程の報告、今一度執政官に――」
陣幕の奥に一人、直立不動で居た兵士は、その言葉にまたかと内心辟易しながらも、三度同じ報告を繰り返すのであった。
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