表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
230/266

03



 イリステリア中央大陸東部。

 その土地の半分近くが砂岩地帯となっており、残った半分の土地も地表部分は痩せて、ほぼ砂漠化している。山の(ほとん)どは岩山となっており、草木は育っていない。僅かに残った緑地帯はオアシスと呼ばれ、街が存在しているが、そこに住む彼等は皆、ヒュームではなかった。


砂船(サンド・ボート)を出せ! ヤツが出やがった!」


 オアシスの一つで、その街の衛兵が、高く組まれた櫓の上から、警鐘を鳴らして自慢の銅鑼声(どらごえ)を響かせ、門の傍にいる衛兵達に知らせている。背は百五十センチ程度、しかしその四肢は太く大きい。胸や腹周りはずんぐりとしているが、太っているというより、筋肉が詰まった感じ。


 そう、ここはドワーフ達が暮らす国、ガデス・ドワーフ洞窟帝国である。帝国であるのにかかわらず、何故土地の大きさに対して、オアシスが点在する程度しかないのか。実はそうではない。彼等の生態を考えればその答えは、自ずと知れるというもの。国名の通り、この国は地下に拠点が存在しているのだ。オアシスはその地下へ入るための唯の門に過ぎないのである。その門近くに、地下を移動する砂漠に生息する大型モンスター、サンドワームが、接近していた。


「ゲットー! 王が不在の今、我等がこの門を死守せねば、帝国領内にあのデカブツが入ってくる! 必ず潰せ! ありゃ、中々のデカブツだ! 素材もさぞや取り放題だ!」


 櫓の上から、そうがなり立てて、最後にガハハハと大口で笑っているこの男は、このオアシスの衛兵隊長であり、街の代官を務めるカイト。呼ばれたゲットーはこの街の衛兵副隊長。彼は『砂船(サンド・ボート)』と呼ばれる、特殊な魔導船の船縁に立ち、櫓を見上げて言い返す。


「分かっていますよ! そろそろ鍛冶の素材も、足りなくなってたところです! あいつの表皮はいい硬さと、柔軟性がある! 魔石もでかいでしょうから、必ず仕留めてきますよ!」


 彼の言葉が合図となり、船の後方に設置された大型魔導エンジンが、その能力を発揮すべく、吸気音を唸らせる。直後、砂に埋まった部分から土砂が一気に巻き上げられると、舳先を持ち上げ飛び出すように出船していく。


「っしゃー! 全速前進! 目標! クソデカワーム野郎!」

「「おお!」」


 ゲットーの雄叫びとともに、乗組員達が一斉に声を合わせて返事をする。そうして砂船は目標へ向かい、一直線に砂上を滑るように疾走って行く。


 オアシスから直線にして、約三百メートル以上離れた場所で、それは砂漠をまるで海のように泳いでいた。


 ――サンドワーム。


 砂漠地帯に生息しているモンスター。体長は小さな物で三~五メートル程度だが、その程度のものは幼生体と呼ばれ、滅多に地表には出て来ない。地中で鉱石や地中に居る生物などを食し、やがてその体躯を巨大なものへと変貌させる。表皮部分は捕食した鉱石の成分が含まれるため、岩より固く、標準では鉄程度。コイツらの体長は約十メートルを超えた程度となる。だが今、ゲットー達が目にしている奴はそんな物ではなかった。


 ――グレートワーム。


 サンドワームの亜種とされ、異常種とも呼ばれている。その体長は三十メートルを超え、胴回りは軽く見ても直径で三メートルは下らない。特徴は何と言ってもその表皮の硬度。コイツらは標準サンドワームより深い場所で生息している。その為様々なレア鉱石を食しているのだ。恐らくはその巨体を保つためにも、そういった物の摂取が必要なのであろうとも推察できるが。



 砂船の船尾に備え付けられた魔導エンジンが、その威力を発揮せんと唸り声を上げ、砂上に軌跡を描きながら、最早滑るというより、飛んでいるのではないかという速度で、標的を目指す。上部甲板に居る兵は四人。それぞれが自分の持ち場を、揺れる船体を物ともせずに、ところ狭しと駆け巡っていく。船体中央部には巨大な砲が据え付けられており、左右の船縁には巨大な銛を持った兵士が虎視眈々とワームを見据えて陣取っていた。先程まで船首に居たゲットーは一人、砲の後ろの座席に着座すると、その砲身をゆっくり動かし、標的の大きく開いた口へと向ける。


 その(あぎと)は胴と同じほどに開き、すり鉢状に細かい牙がびっしりと並んでいる。彼等の口は基本閉じると言う構造になっていない。それは砂中に潜る際、土砂をそのまま口へと放り込み、余分なものを後方にある排泄口から噴射し、まるでドリルのように螺旋運動をとりながら進むからだ。胃や腸などの器官とは別になっており、口腔内で即選別されて、土砂は推進剤の代わりにもなっている。そのため奴らは砂漠地帯では神出鬼没、まるで砂の海を泳ぐように行動できるのであった。


「……クソデカ野郎、この新型魔導砲の威力、十二分に堪能させてやる!」



「ギャシャァァァァァァァ!」


 グレートワームは地中に生息する大型モンスター。その為、目は基本的に退化しており、殆ど見える事はない。だがその代わりに、全身にある表皮に生えた体毛が、振動を感知する器官に進化している。それを使う事によって自分の周りの状況を把握し、果ては生き物の鼓動までも感じ取れるのだ。彼は今、自分に向かって猛スピードで近づいてくる小さな物を、確実に捉えていた。



 魔導砲に魔石をセットしたゲットーは、その砲の照準を、グレートワームの口腔内中心部へと狙いを定める。彼我の距離はすでに数十メートルまで接近していた。


「喰らえ!」


 ゲットーがそう言い放ち、握り込んだグリップの先端についたボタンを押す。そのボタンから、魔導回路によって繋がれた回路に魔力光が奔り、砲身部へと伝達、砲身最後部にセットされた魔石にその光が届いた瞬間、魔石は一気にその内包魔力を放出した。属性は「火」その圧倒的な火力は砲身によって圧縮され、行き場を失った拡散力は唯一開かれた前方めがけて、飛び出していく。その場所に待ち構えるのは大きな弾頭。中には、小さな属性付与された魔石が詰まっており、対象物に激突した瞬間に破砕し、その魔石効果を発揮する様作られた魔導武器。


「ドンッ!」


 大きな発射音とともに、空気を振動させ、魔導砲から射出された弾頭は、彼奴の口へと向かい、一直線に飛翔する。ゲットーがボタンを押してから此処まで瞬きの間だ。当然着弾するのも一瞬。狙い違わず、口腔内へと飛び込んだそれは、直後に大きな爆発音を上げ破砕し、口腔内を蹂躙した。


「―――!! ―――! ……!?」


 口腔内で大爆発が起き、内臓部分が自身の口から飛び散っていく。……何かが飛んできたのは理解していた。が、そんな物は噛み砕けばいいと、一噛みした瞬間、自慢の歯はすり潰されて吹き飛び、体の内部が半分以上、かき混ぜられて、千切れ飛んだ。何が起きたかなど思う間もなく、その大きな体は砂上へ大きく投げ出される。そうして意識が薄れていく中、小さな者たちが傍まで近づいてきて口々になにか叫んでいるのがほとんど聞くことが出来ない耳朶に響く。


「やったぞ!」

「おお! コイツはでけぇ!」

「おい! この表皮、魔鋼鉄じゃねぇか?!」

「だけじゃねぇ! なんだ? 合金じゃねぇか?」


 そんな言葉を聞きながら、歳経たモンスターの命の火は静かに消える。


「貴様の命、このゲットーが頂いた。我等が神ノード様の御名の下、その身体、余すことなく使わせてもらう。地より生まれし者よ、地に還り給え」

「「還り給え」」


 ゲットーの言葉を聞いた兵たちが、彼の言葉に追従するようにそう言って、黙祷する。それは彼等にとっての儀式の一つ。彼らは魔道具を造る鍛冶師であるが、敬虔な信徒でもある。鉱物採取の時には地鎮を忘れず、生き物を狩った時には祈りを欠かさない。それは彼等が使うものに、生まれ変わらせるため。命を狩った責任を取る為。


「……よし。おい! 曳航するぞ、銛を打て」




****************************




「――ではカイト殿、王は既にハマナスに入ったと考えても?」

「であろうな。此処は最も最西部にあるオアシス。王はここに四日前まで逗留され、通信を受けて、ご出立成された」

「……ですか。その直後にあのグレートワームの出現。我等は不運としか、言いようがありませんな」

「なに、ご心配なさるな。今回の最新魔導砲を積んだ砂船で、ゲットーが必ずや仕留めましょう。……しかし、魔導通信ではダメだったのかね、ギーク殿?」


 物見櫓から、執務室に戻ったカイト。部屋のソファに座って、待っていた男に、そう言って少し疑念の目で語りかける。


「……そうですね。カイト殿になら、お話しても構わないでしょう。ですが、他言無用に願います」


 ギークはそう言って、カイトに身を寄せ、声を潜めて話し始める。


「城の最奥部に在った『開かずの門』。あの門の封印術式に魔素吸収再開の兆候が見られます」


 その言葉を聞いた途端、カイトはそれまでの顔を一変させ、渋面をつくり、腹の底から低い声で問いただす。


「――それは真か? 『監獄城』時代のあの門に、それが起こっていると言うことか?!」


 ガデス・ドワーフ洞窟帝国――それは、あの暗黒時代にアナディエル教国が建造した『監獄城』を、アナディエル亡き後、彼らが流用し、城を拠点として大きく広がった地下帝国。今や全てのオアシスに通じる地下道が整備され、更には鉱石発掘用の坑道までもが併設された、彼らにとって正に楽園のような巨大地下洞窟が形成されている。


 彼らはその城を接収した際、その技術力を持って、ありとあらゆる場所を調べたが、最奥にあったその門を開くことだけは、出来なかった。その理由は二つ。一つは門に施された古代呪文、その術式を解くことが、出来なかったから。そしてもう一つ、これが最も厄介だった。その門に近づけば魔素が吸われ、人命に被害が出たために、近づくことすら出来なかったのだ。故に門は「開かずの門」と呼ばれ、厳重に封印を施し、立入禁止と定めた。


「近づかなければ門の術式は発動しない」


 そう考えられ、実際この千年以上の間、変わらず封印はされたままだった。カイトはなぜ今この時に、突然そんな事が起きたのか、しかも王不在の今に限って……。疑念が膨れ、不安がふと頭をよぎる。



 ――まさかとは思うが……『迷い人』が関係しているのか?



 




最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ