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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第7章 世界
229/266

02



 エルデン・フリージア王国、王国騎士団副長であるオコーネル・パントは内心のイラつきを抑えながら、緊急魔導通信のあった現場で指揮を執っていた。ダミー村の入り口であったと思われる場所に簡易指揮所を設置させ、陣幕に入った所で、騎士団員からの報告を、千人長である、リズモンド・ベガスと共に聞いていた。


「――魔術による爆破ではないだと?」


「は! ミネルバ第四席次によりますと、あれだけの規模で起きた術式ならば、現場に魔術の残滓が残るそうですが、それが一切見当たらないと」


「……では、先程見つけたあの大きな爪痕、あの爪痕を残せる様な、魔物かモンスターが、あれを起こしたと言うのか?」


 団員の報告を聞いていたオコーネルは魔術ではないと聞き、その内心のイラつきが少し上がっていくのを感じながら、あくまで平静を装って、別の可能性を団員に問う。


「いえ、まだ確実にそうだという根拠が発見できておりません。故にミネルバ第四席次は、セリス様に見ていただきたいと――」


「おい! ここは王国領内だぞ、我等はその正式な騎士団の最精鋭! それを分かって言っているのか!」


 団員がセリスの名を出した途端、千人長であるリズモンドが、烈火の如く怒鳴りつける。隣で聞いていたオコーネルも憤懣やる方ないといった表情で、拳を握りしめ、置かれたテーブルを睨みつけていた。


 実際問題として、そもそもオコーネルは、セリスの事を全く信用などしていない。いやそれ以前に「迷い人」である彼等一行を見下してさえ居る。セリス自身の出自は知っているが、彼女はそもそもヒュームではない。選民思想の濃いオコーネルにとって、その点で既に人種的差別をしているのだ。まして、それ以外の者に至っては、ビーシアンとヒュームかどうかも判然としない、唯の平民達。我が騎士団長、ドレファス様が何故、こんな下賤な者たちと共に、緊急依頼の捜査に向かえと言ったのか、オコーネルはそこから疑問視していた。聞けば、奴らの持つ魔導車が最も早く移動できると言うことだとは聞いた。実際、乗車してその速さと快適さには驚いた。だがそれならば献上させれば良いだけの事。なのにドレファス騎士団長はそう言わず、奴らと共に現場へ行けなどと……。それにあの第二副団長もそうだ。宮廷魔導師第四席次などと言う、大げさな位を持って居るくせに、何故セリスなどに媚びへつらう必要があると言うのか。命令一つで済むことだろう。


「良い、落ち着けリズモンド。では、ミネルバ第四席次とスレイヤーズ一行を此処へ。そこで今一度話をする」



◇  ◇  ◇



 指揮所に着くと、セリスと俺だけが陣幕の中へ通される。シェリーは元々入る気が無かったのか、集められたなにかの残骸を、騎士たちとともに眺めていた。簡易とはいえその陣幕は結構な広さがあり、入って驚いたのは、立派な装飾の施された大きなテーブルと、執務椅子が置かれていることだった。既にそこにはオコーネル副団長と、千人長と言う肩書のリズモンドが座っており、対面側で俺達に礼をしているミネルバさんが何故か対照的に見えて、違和感を覚える。そんな部屋の隅に、直立不動の騎士が一人。


「――セリス様、ノート殿。わざわざお呼び立てして申し訳ございません」


 部屋に入ってすぐ、ミネルバさんがそう言って俺達に声を掛けてくる。奥に座った二人はこちらを見て目礼だけをして、テーブル上に置かれた資料を検分していた。


「構わん。それで、儂らに聞きたい事とは?」

「はい。セリス様もご覧になったと思いますが、中心部の爆発痕についてな――」

「ンンッ!」


 わざとらしい咳払いをこちらに寄越し、ミネルバさんの奇麗な片眉が少し跳ねる。彼女は咎めるわけではなく、氷のように冷えた視線でリズモンド千人長を見やり、一言「何か?」と尋ねると、彼は物言いたげに腰を浮かせるが、オコーネル副団長が制止する。


「……その話を今から皆でしようというのだ。まずは席に着かれよ」


 大きな椅子にもたれ掛かり、ぞんざいな態度で彼はそう言うと、これでもかと言うほど作りの違う椅子を、直立していた騎士が持ってくる。「済まんな急拵え故、椅子の数が足りなかった」と一言詫びらしきものを言ってくるが、態度は全く違っていた。……一体何がしたいんだと思いながら、俺達がその席につくと、リズモンド千人長が騎士を呼んで、状況の説明が始まった。




「……つまり、爆心地に魔素の残滓が、見当たらんと言うことじゃな」

「はい。……代わりに大型のモンスターと思われる物の爪痕や痕跡が多数、故にそのモンスターが、アレを起こしたと考えているのですが」


「ふむ。そちらはどう考える? オコーネル殿」


「ふん、我等騎士団は魔術や、魔素などについての十全な見識は、持ち合わせておらん。それ故にミネルバ第四席次に任せておる。だが先程、そのモンスターの足跡を発見したと報告があった。どうやら荷馬車か何かを引いて行った痕もある。ならばそれを追えば――」


「それは、無理ですね」


 セリスが尋ねたオコーネルが、朗々と自分の功績のように話していると、いつの間にかシェリーが幕内に入ってきて、彼の意見を処断する。


「何だ貴様! 突然話に入ってきて、何が無理だというのだ?」


「その話を表で聞きましたから、既にゴーレムを飛ばしました。ここから西に約一キロ行った場所、その荷馬車は転がっているわ。何人かの兵もそこに。ノート君、そこへ向かって遺体を引き上げたいのだけど、騎士様をお借り出来るか、聞いてもらえる?」


「え、でもそれじゃ、そのモンスターと遭遇するんじゃ」

「いえ、今そこでゴーレムを周回させているけれど、荷馬車の後方には足跡があるけど、それ以外は皆無。現在周回軌道で、見回りをさせているけれど、三百メートル四方には痕跡すら無いわ」


「お、おい! お前たちは一体何の話をしているんだ? ゴーレムだと? そんな物――」

「これじゃ」


 話の腰を折られるどころか、どんどん話が進んでいき、訳が解らなくなった所で、ゴーレムなどと言う、荒唐無稽な話が出てきた時点で、オコーネルは遂に、問いただすように聞いてしまう。そんな馬鹿な話があるかと。遺失(ロスト・)魔導具(アーティファクト)など、どこにあるんだと言おうとした瞬間、セリスが異界庫から球体のそれを取り出し、宙に浮かせる。





************************




 ――そこは鬱蒼とした、原始の森が広がっていた。


 イリステリア中央大陸北西部。ゼクスハイドン帝国領の最も北側に、その森を内包したリットン大公領が存在している。領主の名はミハイル・ド・リットン。ゼクスハイドン帝国皇帝の皇妃レイシア・ド・ハイドンの兄であり、この領がまだ『リットン王国』と呼ばれていた時代の王子である。この地がまだ少国家群だった時代、最もこの原始の森に近かったこの国は、南東の帝国、北の森からの魔獣との戦いのお陰で、武勇にとても秀でていた。周辺国家がどんどん帝国に呑み込まれて行く中、最も苛烈に戦い、最後の一人となっても、帝国には従わないと宣誓した国王の下、国民一丸となって徹底抗戦を行った。しかし、数の猛威には流石に抗えず、国王は民の安寧と自治を引き換えに、領地の割譲、王自身の首を以て屈した。帝国はその申し出を受ける際、追加として、まだ幼かった王女を皇子の婚約者として要求したのだ。……当時、レイシア王女は一歳。カルロス皇子十七歳の時である。



「――大渓谷に見つかった? それは真か?!」


 元王城であった、領主館。現リットン大公領、領主の大きな執務室で大きな声が響いた。声の主は当然、ミハイル・ド・リットン。彼はここ最近、原始の森近くからの魔獣や、モンスターの氾濫頻発の原因調査のため、領の私設騎士団の精鋭と冒険者たちを雇い、調査させていたのだ。そして今朝方、元宰相である、家令のエルボス・ド・キュレインが伝え鳥によって齎された情報を持って、執務室へと飛び込んできた。



 大渓谷。それは現在、ヒストリア教皇国との国境にもなっている、ゼクスハイドン帝国との間を分かつ、長大な渓谷。幅は最も大きい所では数十キロに及び、狭い場所でも数キロはある。深さは三百メートルを超え、底には魔獣やモンスターが溢れているとされている。憶測でしか無いのは、そこに降りて戻ったものは一人も居ないから。故にその場所は人跡未踏、秘境とされ、近づく者は誰も居なかったのである。


「はい。そこはどうやら、原始の森から洞窟で繋がっているらしく、魔獣の巣になっていたので、駆除に入った者たちがその先で坑道を発見。調査の末、大渓谷沿いに巨大な城が発見されたと……」



「糞! まさか、監獄城がそんな場所に、造られていたなんて」



 



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