第41話 閑話
短いお話です
「失礼致します。こちらにカサンドラと言う冒険者が所在していると聞いたのですが」
「え、はい、居ますけど……そちらは?」
「申し遅れました。私、魔技師ギルドハマナス本部より来ました、スクーデリアと申します」
「は! ハマナス本部ぅ!?」
ドタバタとバックヤードを走り抜け、セシルはギルマスの部屋をドカドカ叩く。
「やかましい! 何だよ一体、氾濫でも起きたのか?!」
「は、は、はま……」
「はま?」
「ハマナス本部からお使者が来ました!」
「──は?」
◇ ◇ ◇
「いやぁ、済みませんね。まさか商業ギルドのお方とは。こっちはてっきり、冒険者ギルドの本部から来たのかと、思っちゃって」
「いえ、問題ありません。それで、カサンドラさんは?」
「あぁ、今呼びに行かせてますよ。近所の教会に居るんで、すぐに来ると思います」
──ったく、セシルのバカは。ギルドの使者っつうから焦ったじゃねぇか。大体あたしゃまだポカなんてしてねぇよ。……しかし、魔技師ギルドがなんでカサンドラを?
「……気になりますか?」
「へ?」
「何故、魔技師ギルド本部がカサンドラさんに会いに来たのか」
「うぇ……あ、あははは。まだギルマスに就任したばかりでねぇ、腹芸はまだ」
「フフフ、構いませんよ。隠し立てする様な事では無いですからね。義手です、彼女の使っている義手。その事でお話がございまして」
「あぁ! そう言えばかなり特殊な義手を、ハマナスで着けたって言ってたな」
「はい、その際、私達がお手伝いしたのです」
「成る程、しかしそれなら魔導通信で呼び出せばよかったんじゃないんです?」
「いえ、こちらの魔技師ギルドにも用が御座いましたので、人員の補充のついでにという形で、便乗させてもらったんです」
「はぁ、そんなものですか」
「はい。あの義手は特に特殊な機構を使っていますので、専任の技師でないと扱えないのです」
「それじゃ、貴女が?」
「いえ、私はあくまで助手です。技師は宿で休んでいます」
そんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「ギルマス、私に客って……スクーデリアさん!」
「お久しぶりです、カサンドラさん」
「……どうして、まだメンテは」
「いえ、それも有りますが、『お約束』していた物が完成しましたので、我が師と共に参りました」
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そこはエクスにある、貴族街に近い場所に有る高級宿の一軒。入り口は大通りに面した場所に、レストランを併設させた大きなガラス張りのドアが有る。入り口傍にはドアマンが立ち、近づけばすぐさま応対してくれる。そんな入口の前を素通りして、建物の角を曲がった場所には狭い路地が通っており、そこを進んだ先には従業員の入り口が別に造られている。
「──すみません。師匠がこの街に来ている事は公に出来ませんので」
「いえ、分かっています。それよりもこちらに来て頂けるなどとは、思ってもいませんでしたから」
冒険者ギルドを出たスクーデリアとカサンドラは、彼女の持参した認識阻害の外套を羽織り、人目を避けるようにしてここまで来た。入り口ドアを二度叩いてから、間を開け、三度ドアを叩くと、ドアのスリットが開き、覗き窓から鋭い眼光が見える。
「──印を」
スリットから覗く眼がそう聞くと、スクーデリアは懐からこの宿に渡された、カードを見せる。
”ガチャリ”
「お帰りなさいませ」
開いた扉の向こうには、凡そ執事には視えない大柄な男が出迎えてくれるが、スクーデリアはそれに笑顔で応え、持ったカードを手渡して、カサンドラを手招きしながら入って行く。
「行きましょう」
「……はい」
そのまま狭い通路を抜け、突き当りの扉を開けると、そこは宿のロビーとなっている。スクーデリアはそのまま受付に向かい、幾つか話をすると、戻ってきてカサンドラに告げる。
「丁度、我が師も部屋に戻っているそうですので、このまま向かいます」
「分かりました」
その言葉を聞いたカサンドラは、幾分緊張したのか、若干背筋を伸ばしてから、階段に向かったスクーデリアの後を追った。
今回のお話で、第6章は完結です。
次章準備や、諸事情の為、少しお休みします。
詳しくは活動報告にて。