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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第6章 井の中の蛙大海を知らず
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第39話 点と線



「──なぁ、ロブの旦那。宿から出てきた貴族様、ありゃぁ確かエルデン・フリージアの」


「チャック・モルデン伯爵様ですね。あの派手な衣装、流石にジェイクさんでも覚えていましたか」


 高級宿が建ち並ぶ大通りで、ジェイクがロブに話しかけると、おどけたように笑ってそんな返事を返す。そんな風に言われたジェイクは、口をへの字に曲げながら「なんだよ、まるで物覚えが悪いみたいな言い草だな」と言い返すが、それを聞いたアリシエールがジェイクを見ながら呆れたように話し出す。


「……その通りではないか。貴様はもうこの間の一件を、忘れたのであるか?」

「あ、あぁ、いや、アレはだなぁ。そもそも、前日に飲み過ぎが祟って──」


「まぁまぁ、肝心な事さえ忘れていなければ、問題ないですよ。……にしても、アリシエールは我等だけになると、途端に()調()()()()んですね」


 先程までの聖女達との話し方とは、全く違う口調に変わったアリシエールにロブが話しかけると、顔を赤らめて彼女は言い訳を始める。


「さ、流石に聖女様に拙者の言葉使いは不敬であろう! 故に共通語を使ったのだ」


「いやいや、共通語って」


 その言い方にジェイクが突っ込み、ロブが吹き出しそうになるのを必死に我慢する。そんな中、不意に先頭を歩いていたロレンスが足を止める。同時にジェイクやアリシエール達の目付きが鋭いものになる。


「──いつからだ?」

「恐らく、お前が伯爵を見咎めた瞬間からだな」

「……チッ、面倒くさいな。どうします?」

「放っておきましょう、彼は有名人です。我等が知っていても不思議ではない、唯の警戒でしょう」

「──そのようだな。しかしあの侍従、耳が良いのか? それともスキルでござるか」


 ジェイクがロレンスに聞き、ロブが無視しろと言って歩き始めると、アリシエールがそんな事を言いながら自分たちの宿に向かって行く。


 彼我の距離は既に、百メートル以上。その距離で気付いたどちらが果たして脅威なのか。今はまだ分からない。



「主様、あの連中は」

「捨て置けば良い、それより喉が渇いた。茶でも頂こう」

「……畏まりました」





*****************************




「エルデンは何時(いつ)、コチラに来るのだ?」

「さぁ、魔導車の製作には入ったと聞いていますが、何時来るとは聞いていません」


 ドナルドの質問にユングはそう応えると、キッシンジャーに目線を移す。


「それを踏まえて「巌窟王」はいつ?」

「既にこちらへ向かったと、聞いています」


 その言葉を聞いた途端、大きなため息が漏れる。


 ……確実に誰かがドワーフ国に情報を流している、エルデン・フリージアにいるドワーフの誰かが。でなければここまでタイミングよく、彼等ドワーフがこの国に首を突っ込んでくるはずがない。では誰が? いや、考えるまでもなくゲインだろう。エルデン・フリージア王国の王国車両整備長にして魔導車協会の役員。奴は確か、ドワーフの王族だったはず、それ故に人脈もかなり持っていたはずだ。──牽制のつもりか? それとも別の思惑が?


 ユングが一人黙考する中、ドナルドとキッシンジャーはそれぞれ目を合わせると、お互いも考えることが出来たのか、適当に挨拶をして部屋を出ていく。


「──どう考える?」

「布石は打てたでしょう。ただ、このまま帝国が何もしないとは思えません……。王国が密かに行っていた例の新型の「レシーバー改良型」も気にはなりますしね」


 部屋を出た所でそんな話をし始め、会館の廊下を歩いて行く。朝ほどの喧騒は無かったが、未だちらほらと朝の話に尾ひれを付けて噂をしている者達がいる。そんな連中を横目に見ながら、進んでいると、丁度階段を登ってきたジュードを見つける。


「おやジュード殿、お戻りになられてたのですか」


 キッシンジャーの言葉に苦い顔をして目線をこちらに寄越すと、その隣に立ったドナルドを見つけ、寄った眉間のシワが深さを増す。


「……えぇ、帝国の方々も長旅でお疲れのようでしたから、後日ゆっくりと言うこ──」

「取り繕わなくても顔に出ているぞ。ユングにも聞いているしな」


 ジュードの言い訳に、ドナルドが言葉を被せてくる。思わず片眉が跳ね、口汚い言葉が喉までせり上がってくるが、そこは何とか押し留め、隠した拳を握りしめて、鼻から一つ大きく吐き出す。


「──そうですか。確かに先様には少しご不快な思いをさせてしまった様ですが、検分が済めば変わる事でしょう」

「あぁ、その件だがな。少し時間がかかるやもしれんぞ」


「は?」


「王国からの魔導車が到着してからになったのと、その際検分者が一人増えた」


 朗々と話をしてくるジュードの言葉が耳を滑っていく。なんだ? コイツは何を言っている? 検分者が増える? そんな話今まで聞いたことがない。一体誰が? 何のために?


 疑問符だらけになったジュードの顔を見て、思わず吹き出しそうになるのを堪えながら、ゆっくりとドナルド・カードはジュードに伝える。



 ──ガデス・ドワーフの国王、ボルト・デ・ガデスが直々に加わるそうだ。




******************************




「……依頼?」


 あまりに唐突な事だった為に、思わず聞き返すと国王や宰相を押し退けて、近衛騎士団長であるキースが出てきて説明し始めた。


「そうです! お願いしたいのは我軍の精鋭の速やかな輸送! 確か新型魔導車を既に三台完成させていると、お聞きしています。それに空間拡張をお付け頂き、指揮官たりうる者達と精鋭を多少。……そして、ノート様の魔導車にこの者を同乗させて頂きたいのです」


「──お初にお目に掛かります、現在宮廷魔導師第二団、副長を拝命しております。ミネルバ・ノーザンライトと申します、以降お見知りおきを」


 そこには、見るからに仕事が出来そうな、且つスーパーモデルのような体型をして、出る所はきちんと張り出した超絶美人がニコリともせず、こちらに向かって会釈する。すると、後ろに流した綺麗な金髪が、サラリと音も立てずに前に落ちてくる。そうして顔を上げるとこちらをまっすぐ見つめ、初めて口角を少し上げた。


「ちょ、ちょっと待って。え~と、じゃぁ俺達でそのダリアって領に国の騎士団を連れて、向かえって事?」


「魔導車に関しては聞いた所、特殊な技術は必要ないとの事でしたから、運転手を用意致します! ただ、ノート様の乗車される物は特殊と伺っておりますので──」


「ノート! 儂らも行く! 新型の架装もすぐ出来るじゃろう?! それにカーライルの言った、「悪魔」のことも気になる。依頼であるなら、当然見返りも期待してよいのじゃろう?」


 そう言って、セリスが座っていた椅子から立ち上がり、国王たちの方を見やる。


「も、勿論ですとも! 報酬は勿論、必要ならば我が国の宝物を──」

「我が王!!」


 カーライルが思わずといった具合に余計な事を言い掛け、大きな声で宰相が被せてくる。別にそこまで欲しい物なんかないなぁ、と思っていると、シスが念話で話してきた。


《マスター、旗艦エルデンの機関部の見学を要求しては?》


「それだ!」





 結果、報酬は金銭と機関エルデンの重要部の見学となった。


「ノートよ、どういう人選で行くんじゃ?」


 依頼を受けることに決まり、書類やらなにやらを準備してもらう間に、俺達は一箇所に集まって相談することにした。今回の任務は斥候と、派遣だ。そこで運搬には俺の魔導車を四台使う。結局ゲインが持ってきた魔導車は、そのままハマナス商業連邦評議国へ向かわせ、検分させることになった。「コレでなんとか面目が立つ」と彼は部屋を出る時呟いていたが。


「……まず、俺は自分の六輪車に乗る。後三台は勿論セリス、シェリー、ミスリアに乗ってもらうから、今回はこの四人で行こう」

「……では、私達は留守番になるのか」


 セーリスがなんとも言えない、悔しそうな顔で話してくるが、コレばっかりは仕方ない。ここには、サラやマリーも連れて来ている。彼女たちにも警護が必要なのだ。キャロルは格闘ならば問題ないが、先のように魔術などを絡めてこられると不味い。


「──気持ちはわかるよ。でもサラやマリーを放っておけない。セーリス、君がいれば精霊の護りが使える。……それに現状、ヘイムスさんがどういう状況下にいるのか分からないんだ。安易に移動したくない。ここなら国自体の護りも有るからね。頼むセーリス」


「ノートさん、こちらの事はお任せ下さい。セーリス、あのギルマスが簡単に負けるなんてあり得ないわ。だから私たちには私達の出来ることを全力で! ね」



 俺の話を補足するように、キャロルがセーリスに言って聞かせる。セーリスの塞ぎ込んだ顔を見ていると、少しモヤッとした気持ちが湧き上がるが、今はそれを置いておく。






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