表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第6章 井の中の蛙大海を知らず
223/266

第38話 依頼




「一体何が起きたのだ?! そちらにはヘイムス殿が向かったと聞いているが」


『……はい、そのヘイムス殿が率いた部隊からの緊急通信です。現在、救援部隊を編成しておりますが、こちらもまだ詳しくは分かっておりません。出来ますれば、騎士団の要請をお願い致します! もし、彼が太刀打ち出来ない場合、こちらの戦力だけではどうにもなりません。モンスター大氾濫(スタンピード)なのか、人為的なものなのかも分かっておりません。何しろこちらも今、偵察部隊を出した所なのです』


 王城内に有る通信室は緊迫した空気の中、メスタ子爵の必死の懇願が響いていた。近衛隊長であるキース・ボードウィンは、その言葉を苦い顔で聞きながら、返信用のスイッチを押す。


「──状況は理解した。……かなり緊迫している事もな、現在騎士団には使いを()った。だから落ち着いてくれ、まずは情報が欲しい。偵察部隊はいつ頃戻れる?」


『……て、偵察部隊はまだ半刻以上は戻りません。救出部隊は現在、二個小隊を四台の魔導車にて待機させておりますが、これ以上の部隊編成を作るとなりますと……』


 切羽詰まったメスタ子爵の声を聞いて、キースは王国から送った兵士の数を推察する。元とは言えダリア領は領都を含めて、二つの街とそれを囲む衛星町が点在している。人員はそこまで多く送れていない。盗賊や人攫いなどが横行したせいで、町の衛兵達もかなり減っているはず……。ならば街の治安だけでも手一杯な人数か。くそ! それでなくともダリアまでは距離がありすぎる。今すぐ騎士団を送った所で、ヘイムス殿達をどうこうは出来ない。せめて足の速い魔導車でもあれば──! 迷い人!! 確か彼等は魔導車を持っていた! そこへ思い至った途端、その場を副団長であるエステバンに任せると、自分はその足で国王の居る執務室へと駆け出した。



◇  ◇  ◇



「──緊急魔導通信とは、一体何が起こったのだ?」

「詳細は今、キースが聞いております故、暫くすれば判明するでしょう」


 部屋の中で宰相であるブルミアと、カーライルがそんな事を話しながら、机に広げられた地図を見ていると、一人の侍従がドアをノックし入ってくる。


「何だ? なにか急用か?」

「今しがた、ゲイン殿がお越しになられました。新型魔導車が完成したと」

「……ほう、それは──」

「それは本当か!」


 宰相が言いかけた返答に被せる形で、突然入ってきたキースが怒鳴るように叫ぶ。その声に驚いて全員が固まっていると、キースは構わずに侍従の肩を掴んで、再度詰問するように話しかける。


「それで?! その魔導車はどこにある! ゲイン殿はいまどこだ?!」

「待て! キース! 一体何だ!? どうしたと言うのだ?」


 その声に初めて自分がいる場所に気がついたのか、「こ、これは申し訳ございません」と言って頭を下げ、魔導通信の内容と、現状の緊迫状態を国王達に伝えた。


「──なんと。……ヘイムスが緊急魔導通信を上げたのか」


 国王はそこで初めて緊急魔導通信を上げた人間を知った。──我が国に現存する個人の最高戦力であるオリハルコンランク。まさかその様な男が緊急事態に陥る等とは……。一体どの様な脅威がダリア領に。──もしや!『悪夢』とは悪魔の事だったのか?!




◇  ◇  ◇




「──何じゃ急に呼び出しおって」


 東屋に飛び込んできた侍従に話を聞いた後、イオーリア嬢達とお茶を飲んでいると、近衛たちに連れられて城の方に連れてこられた。そこには既にセリス達も呼ばれていた様子で、会議室のような長机の頂点に座って文句を垂れ続けている。部屋には国王と宰相、近衛騎士やオズモンドなど、主だった人間がテーブルに広げた地図を睨みながら、何やら喧々諤々(けんけんがくがく)と言い合いながら、話をしている。そうしてよく見ると、机にはもう一人「なんで俺がここに呼ばれたんだ?」と言った表情の髭だるま(ゲイン)が座っていた。


「あの、一体どうしたのですか?」


 俺が声をかけるとオズモンドが最初に気づき、皆に声を掛けてこちらを向かせる。宰相が何かを言おうと口を開きかけた途端、国王が止めて一歩前へと進んできた。


「突然に呼び立てて申し訳ない。……実は折り入ってお願いしたい事が有りまして」


 カーライル国王はそう言って申し訳無さそうに眉尻を下げ、下手な愛想笑いを浮かべて見せる。


「──あぁ、もしかして先程の緊急魔導通信の関係ですか?」


 まぁ、この人員を見てそれ以外は無いだろうと、半ば確信しながら聞いてみると、彼は歪めた笑顔のままに首肯する。そうして事の内容を話し始めた。


 

 ──元ダリア領。


 ダリア伯爵家が治めていたその領は、奴隷復権派の本拠地とされ、ほとんどの貴族やその利権に絡んだ者達が処罰、粛清された。その為残った賊の残党や、減った統治者のせいで領内の治安が悪化してしまった。そこで急遽、領を治める人間が必要になり人選を始めたのだが、王都に居るのは貴族派連中がほとんどだった。そんな折、偶々貴族院に出向いてきていたメスタ子爵を見つけた。彼は最近不手際を起こし、息子と妻を蟄居させている。派閥としても現状無派閥で、柵というものが殆どないと言える状況。そこで、彼に名誉挽回の機会と説き伏せ、ダリア領に潜伏する賊の残党狩りと、各街の代官任命のために現地へと向かわせた。順調にその業務は遂行されていたが、そこにヘイムス・コーネリアが「悪夢」を見たと言って領に入ったと言う。そうして、賊の残党狩りや拠点を潰して回っていた所、今朝その隊から緊急魔導通信が上がったという事だった。


「……メスタ子爵って、レストリアに居た?」

「はい。セリス様方にご面倒をおかけした彼です」


 俺の疑問に宰相が応えると、セリスがふんと鼻を鳴らした後、「ちゃんとやっておるようじゃの」と小声で話し、憮然(ぶぜん)とさせていた表情も、幾分か和らいでいた。反面、隣にいたセーリスは打って変わって、慌てた声で話し出す。


「では、その通信はギルマ──いや、ヘイムス殿が?!」

「のわっ、びっくりしたぁ。なんじゃセーリス、急に大声で」


 隣に座って居たセリスがびっくりして抗議するが、そんな事は聴こえていない様子で、彼女は国王達に詰め寄っていく。


「……まだ、そこははっきりと確認できておりません。ですが緊急魔導通信は、その隊の指揮車にしか搭載されていませんので、恐らくは……」


 そう言って最後の部分を濁すように話す宰相。周りの連中もそれに合わせるかの様に表情を曇らせ、皆黙って机に広げた地図を見つめる。セーリス自身もそれは解っているのだろう、地図の場所を見て顔色がどんどん悪くなっていくのが見て取れた。王都から東へ二つの伯爵領を挟んだ最東部。辺境領の一つ手前にあるダリア領、直線距離にして約八百キロも離れている場所だ。頭の中でざっと見積もっても東京からだと……中部地方辺り? くらいまで有る。舗装もされていない、且つ真っすぐも行けないとなれば、千キロくらいは走らないといけないだろう。そんなの、流石に俺の魔導車であっても一日じゃ厳しい。加えて応援部隊まで連れて行くとなれば……。


「──ノート殿、今回の件、冒険者として依頼という形で、受けてもらえませぬか?」

「………はい?」


 一人で地図を見ながら考えていた所に、急にそんな事を言ってきた、国王の言葉の意味が理解できなかった。……依頼? 何を? 今の今まで独りで黙考していた為に、肝心な部分を聞き逃していたようで、もう一度内容を教えてくれと聞き返す。



 ──ノート殿の魔導車を使って、先行偵察に向かって欲しい。「悪魔」がそこに居るかもしれない。





 


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ