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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第6章 井の中の蛙大海を知らず
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第36話 点と点②



 屋敷に入ったセール伯爵は、家令に案内されて廊下を、侍従と共に歩いて行く。広い廊下には所々に調度品が飾られ、台に置かれた花瓶にはその一つ一つに違った花が生けられている。また違った場所には全身鎧や、武具などが置かれており、その威圧は中に人でも入っているかの様。やがて客を持て成す応接間に通りかかるが、家令はそこに立ち止まることはなく、更に奥へと進んでいく。侍従はいつもの応接間で誰も止まらず進んでいくので、主の背を見つめるが、セールは気にした様子もなく唯、先導されるがままに歩いていた。



「──旦那様、セール伯爵様をお連れしました」

『……入ってもらえ』


 返事を聞いた家令は、その大きな装飾の施された扉をゆっくり開けると、その扉を背にしてセール伯爵を部屋に招く。


 

 ──そこはミダス卿の大きな執務室だった。部屋の脇には背の高い書棚があり、窓を背に大きな執務机が置かれている。ミダス卿はその机に向かい何かの書類を見つめており、こちらに顔を未だ向けては居なかった。


「……すまんが、余人は遠慮してくれ」


 ミダス卿はそう言うと書類を机に置き、初めて顔を上げてこちらを見つめた。その言葉を聞いた家令は「畏まりました」と返事をした後、セール伯爵と侍従を残して、扉を閉める。慌てて侍従も出ていこうとするが、セールが「貴様は良い」と言ってソファにそのまま腰掛けた。



「………さて、ミダス様。この時間に呼ばれたという事は、余人を介せぬ秘事でもお有りなのでしょうか?」


(……あ、主様は一体どうしたと言うのだ? ミダス様は寄り親の(はず)、それをまるで自分と同等か、それ以下のような振る舞いを……。昼にはあんなに怯えていらしたのに)


 ドアの傍で俯き加減のまま、立ち尽くすしか出来ない侍従は、セール伯爵の態度に違和感を覚え、一体どうなっているのかと考えていると、ふと昼に言っていた言葉を思い出す。


 ──彼は私の魅了下に居るのだ。主人に牙むく獣はおらん──。


 あの時は冒険者か、その他の者の事かと思い聞き流していたが、まさかミダス様の事なのかと思い直す。それは直後のミダスの行動で確信に変わった。


 執務机の椅子を立ったミダス財務大臣は、セール伯爵の横に来たかと思うと、徐に膝を折る。



 ──我が神エオスフェル様が直臣、ヴァンパイアの始祖たるセール伯爵様に、我が終生の忠義を。





***************************




「──宜しかったのですか?」


「構いませんよ。……それとジュード殿、軽々に我が帝国の話をされるのは、些か困ります。あの方は外国の上級貴族、しかもエルデン・フリージア王国なのですぞ。そなたは、何をお考えなのだ? 我が帝国と彼の国を揉めさせたいのですか」


「そ、そんな! 滅相もございません! 私はその様なつもりは──」


「であるなら、滅多なことは言わないことです。申し訳ないが、ここで失礼します、国元への連絡、明日にでもしたいと思いますので、通信室の手配を」


「……畏まりました。会館の方ですぐに手配しておきます」



 チャック・モルデン伯爵が部屋を出ていった後、マキアノもそう言って、部屋を早々に立ち去っていく。


 ジュードとしては気を使ったつもりであった。それでなくとも、本来引き合わせる予定だった、商業ギルドグランドマスターのユングは、会う事も無いままにギルドへ戻ってしまった。内容までは聞いていないが、どうやら彼を通して大きな商談をしたいと聞いていたにも関わらずだ。──だが結局は自分の勇み足で、余計なことを口走ってしまった。


「……くそっ。私とした事がとんだ失態だ」


 彼は閉じたドアを睨みながら、そう独り語ちると、自分も席を立とうと、重くなった腰を上げた。




◇  ◇  ◇



 マキアノが個室を出る数刻前、既に退席していたチャックモルデン伯爵とその侍従は、宿を出て少し離れた場所にある、カフェテリアで紅茶を頼んでいた。商談は決裂し、魔導車を手に入れる事は叶わなかったが、全く落胆した様子もなく、ただ通りを眺めながら二人は優雅に椅子に腰掛けていた。


「──アレで良かったのですか?」


「……ん? あぁ、問題ない。別にあの車が欲しかった訳ではないしな。帝国の『国堕とし』を見たかったのも有るし、牽制の一つにでもなればいいだけだ。本国ではセールが動き始めた。ならば、この『インキュバス』であるチャック・モルデンも動かねばなるまいて」


「……そうですか。ではこのままリットンに向かわれますか?」


「──そうだな。トリス様を失った今、我がその代役を果たさねば、ベイルズ殿だけでは心許ない」


「……そうですね。女人に対してあの方は相性が最悪ですから」


「フフフ、確かにな。女はマメで紳士な男に惹かれるものだ。あの様に怠惰なお方では……」


 チャックがそう言うと、対面に座った侍従が「まさに御名の通りで」と応える。それが余程可笑しかったのか、思わず持ち上げようとしたカップを戻し、袖口の大きなレースで口元を隠し、くつくつと押し殺すように笑っていた。





***************************




「……それで。帝国の魔導車とは、どの様な物か確認できたのか?」


 総合ギルド本部に戻ったユングに、すぐさま言い寄って来たのは、冒険者ギルドのグランドマスター、ドナルドだった。彼は魔技師ギルドのグランドマスターと共に、戻ったユングの部屋にいきなり現れると、最初の言葉がそれだった。


「──なんですか、いきなり。まぁ、見るには見ましたが、遠目でチラと確認しただけです。確かにあの様な形状は、今までの魔導車では見た事も聞いたこともない物でした」


「ほぉ。遠目……か、ではそれを持ってきた人物には会っていないのか」


「えぇ、会っていません。──何しろ今朝の通信が有りますから。王国の魔導車と揃えて確認しない事には、なんとも言えないでしょう」


「だから、嫌疑保留という訳か。流石は評議と言うところだな」


 ユングの言葉を聞いたドナルドはそう言って、口の端を歪める。そばで聞いていたキッシンジャーは、目を閉じただ頷いていた。二人の態度を横目に見ながら、ユングは内心見透かされた気持ちで、幾分気持ちにさざ波が立つが、ドナルドの言った通り自分は商業ギルドの長であり、かつこの国の評議会の一人でも有る。それ故一方の国に肩入れする等、とてもではないが、出来るはずがない。……万が一にでもその様な事が在れば、目の前に居る二人が黙ってなど居るはずが無いのだから。


「……それで、ご用件はなんですか? まさかそんな事を聞く為だけに、来た訳では無いでしょう」


 思う所が無きにしも(あら)ずだった為に、少し険のある物言いになってしまうユングだが、敢えて言い直すこともなくそのまま胡乱な目つきで二人を見やると、それまで後ろに控えていたキッシンジャーが口を開く。


「勿論です。ユング殿が出て行かれてから後、数刻後に魔導通信がガデス・ドワーフ国より届きました。『巌窟王』直々に」


「な!? 国王自ら?!」



 ──ガデス・ドワーフ国。


 その名の通り、ドワーフが治める国家であり、ここハマナス商業連邦評議共和国の東側に位置している。エルデン・フリージア王国とも南北で直接国境が繋がっており、独自に同盟関係を結んでいる。彼等は当然のように鉱石の扱いに長け、土の民(槌の民)とも言われ、鍛冶にも精通し、特に魔道具に関してはその正確無比な技術力によって、ヒュームのそれを優に上回っていた。その国の王は代々鍛冶スキルの最高位「鍛冶王」を所有し、能力の最も高いものが国王に就くといったほど、その技術探究には余念がない。それ故に頑固で偏屈な者も多く、揶揄も込めて『巌窟王』と呼ばれている。


 そんな国王だからか、商業ギルドとの相性は良くなく、しばしば厄介事になったりもしていた。


「な、何と言ってきたのだ?」


 恐る恐るユングが聞くと、キッシンジャーは敢えて無表情で応える。



 ──魔導車検分に立ち会わせろとの事です。






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