第22話 zeroから始めるゲフンゲフン
「ぁは。あははははノートさん!」
大声で泣くタイミングを失ったサラは笑いながら俺に手拭いを渡してきた。…ええ子やぁ。でもこれ、さっきテーブル拭いてた雑巾じゃん。
「こいつは。…放っておきましょう、始祖様、彼女達を先に」
『ん? あ! あぁ。サラ、此方へ……ウム。そこで、跪いて祈りを捧げるのだ』
セレス様に呼ばれ、トテトテと歩み寄っていくサラ。言われた通りに目を閉じ、祈り始める。
──我セレス・フィリアの名の下にこの者に加護を──。
直後、彼女を優しく光が包み、風がその頬を撫でて行く。
『これで我の加護は成った。』
「「おおを! 有難うございます! 娘をこれからよろしくお願いします」」
彼女の両親はサラに駆け寄り、セレス様の方に向かって礼を言う。
『ウム。そなた等にも恩恵がある。ほれ、周りをよく見ろ』
言われて二人は見まわす。
「な! …こ、これは!!」
「光が!こんなに…」
『それが精霊だ。姿、形までは無理であろうが、存在は確認できるであろう』
そう。サラが正式にセレス・フィリアの加護を受けた為、同じ血を持つ彼らにも【恩恵】という形で精霊の存在が確認できるようになったのだ。
『他言は無用だ。要らぬ問題を自ら引込む必要もあるまい』
それを聞いた三人は頷き、周りをニコニコしながら話し合っていた。
『さて、シロとクロであったな。特にクロ。よくぞ、耐えて彼女を守ってくれて来た事、称賛しよう』
シロとクロ。サラの契約精霊達。この場に最初からずっと二人は黙って何も言わずに居た。サラの傍にずっと。
「クロちゃんが? どうして?」
その言葉に首を傾げながら、サラが聞く。
『ん? あぁ彼女は生命の精霊。お主と契約を結んでからずっとお主から供給されるマナを調整して、お主の命を守っておったのじゃよ。だからクロ自身はずっとマナが足りず、よく眠っていただろう?』
それを聞いた途端、零れんばかりに目を剥きクロを見るサラとシロ……って、シロ…。
『だがもう大丈夫だ。我の加護がある故、サラのマナ量は上がる。安心してよい』
《──…うん。ありがと、王様。これからクロはサラと一緒に頑張るの》
おをっ!かわいらしい声だ。……眠そうだが。
《ぬをををを! そんな! しょんな! しょんにゃぁぁ……。我は今まで何も気づけずに…。ぐはっ》
そう言いながら、大仰なリアクションで頽れるシロ。
『………あぁ、なんだ。お主もようやっておったぞ、うん。』
《……王様ぁぁぁ…》
うはぁ、セレス様メッチャメンド臭がってるぅ…。
『ンンッ! そしてノート。』
「うひぃっ!」
急に振られてビックリした。
「な、なんでしょう?」
『この宿に危険が迫っておる。解っておるな』
「ファ?」
呆れ顔のセレス様。え? どゆ事?
『セーリス。我は疲れた。このおバカへの説明は任せていいか?』
「──…はい」
《ノート、お前、もう忘れたのか》
──え? あ! そうだった! サラちゃん狙われてたんだった──。
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「で? どうだったんだ?」
「あぁ。確認は取れた。だが」
「なんだ? 問題か?」
「精霊使いが来やがった」
「冒険者ギルドのマスターか?」
「あぁ。それともう一人居た」
「誰だ?」
「判らない。初めて見る面だった」
路地裏の更に奥、今にも潰れそうな廃屋の一軒屋、その地下室に集まった数人の風体不明の者達。小さな光源が一つ置かれたテーブルを囲み囁き合うように話していた。
「しかしよ。本当にあの娘なのか?」
「どうゆうことだ?」
「いや、見てて思ったんだが、歩けばぶつかりコケる。喋ればアワアワ。流石に精霊憑きにゃあ見えなかったぜ」
その言葉に皆が黙る。
「そこは、大丈夫だろう。何しろ、目撃者が居るんだしな」
そう言って振り返ると部屋の隅で、襤褸雑巾の様になった塊が呻き声を上げた。
「それは?」
「こいつが持ってきた話なんだよ。最初は癒しだと思ったんだがな。話を聞いて確信した」
「なにを?」
「効果が全く違う。恐らくこいつは、ヒールを知らねぇから気にならなかったんだろう。何しろ、癒しを受けてすぐ立ったらしい」
「は? 立った?」
「あぁ。そのガキはこいつらのグループで前日に痛めつけたそうだ。歩けなくなるほどにな。だから、変わらずそこで、ぶっ倒れてたんだが、それを受けて何事もなかったように元気になったらしい」
「其処までなのか。精霊の奇跡ってのは…」
「だから、聖教会でもお偉いさんしか見られない」
「聖女様だけの使える奇跡の御業」
「あぁ、だからこそ。」
「何としても手に入れる」
誰かがそう言うと、皆が各々頷く。
「さて、それでは計画の練り直しを──」
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「そ、そうだった。……どうしよう」
「ハカセ、その者たちの居場所は?」
《路地裏の廃墟周辺までは追えた。しかしその後、気配を絶たれた》
「ふむ。」
セーリスさんとハカセで何やら話が進んでいく。
「あの、どうしてそんな事解るんです?」
『はぁ~…、ノートよ。こいつらは精霊とそれの契約者だぞ。精霊は何処にでも居るが、誰にでもは見えんだろう? そしてハカセは我の次に位のある精霊。そしてセーリスは我の庇護者。この街の精霊ならほぼ全てと話が出来る』
「あ! そっか。精霊に聞けばわかるんだ」
『基本的にはだがな』
「え? 基本的?」
そこで何故か渋面を作った、セーリスが割って入ってくる。
「魔道具、もしくは闇精霊が邪魔をする」
そう言うと、苦々しい顔で三人は俯く。
「闇せい…れい?」
『そうだ。そやつらも元はただの精霊、だが、瘴気に触れ自我を魔獣と同じ様に失くしてしまった。』
「それらとは魔道具による契約がし易い。主に奴隷契約がな。闇ギルドや裏の稼業のマジック・キャスターなどに稀に存在する」
《幸い、今回の件に闇精霊は関わっていなさそうだが》
「そんな事、分かるの?」
《俺は同じ、精霊だからな》
「恐らくだが、魔道具で存在を希薄化した後、認識阻害を使ったのであろう。面通しや、情報収集、それに魔道具まで使っているなら、間違いなく組織的なものが動いている」
「だから──。」
サラ達家族を傍に置き、話は深夜まで続いた。彼女本人に力を使ったかと聞くと、彼女が癒しを行使したのはこの間のユマが初めてだと分かった。
──…つまり、この二日で起こったことだった。
「何で、そんな短期間でこんな事に」
《さあな。だが事はもう動いている。》
「そりゃそうだけど」
◇ ◇ ◇
翌日、俺はハカセと連れ立って、街をぶらぶらしながら、彼女を探していた。……俺は初め、ユマを疑った。
でもそれは周りの精霊に即否定された。
”違うよ” ”あのいじめっ子たちだよ” ”そう! あの中の一人だ!”
”あいつが、あのへんな連中に”
”そうだ” ”あいつだ”
口々に精霊たちが言う。
「どう思う? ハカセ」
《フム。こいつらの言う事に偽りはないが、ちと抽象的だな》
だよなぁ。虐めっ子って誰だ? それに変な連中って。道々でいろんな話を聞きながら、ミニマップでユマの居場所を追っていた。
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「タイラー、ハックの奴戻ってこないよ」
スラムの子供たちのリーダー格、タイラーは苛ついていた。
クソが! ユマの様子を見に行かせただけなのに。戻るなり、金になるかもって言って飛び出していきやがって。…大体、あの連中はマズイ。あれは多分裏稼業の連中だ。関わるなって言ったのに。なのに、その話を聞いてわざわざ行くなんて!
──なぁ、ガキんちょ。ハックってのはこれの事か?
何時から其処に居たのか。フードを目深に被り、顔を見せない男が襤褸を引き摺り、其処に居た。
「な!? 誰だ!」
その男は誰何を無視して、答えの代わりにその襤褸をこちらに投げる。
”ドサッ” ”グムッゥ”
「なにしやが──? ハック? ハックか?」
「女のガキはいない…か。おい! ユマって女のガキは何処だ?」
──低い声でその男は聞いてきた。
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エクスの街の中心部には豪華な邸宅が建ち並ぶ一角が存在する。所謂、貴族街だ。ここには法衣貴族達が居留したり、また貴族の末子等、家督の継げない者や、所謂召抱えになった庶子の家族などが暮らしている。
当然、この街区は壁で区切られ、入り口には衛兵も立つ。
そんな街の一角にその屋敷は有った。大きさとしては中程度の屋敷。
──フィル・セスタ子爵邸。
その執務室に男たちは居た。
「フム。其の話。…どこまで信じられるのだ?」
大きな執務机の向こうにある、革張りの豪奢な椅子に、その肥え太った大きな体をねじ込むように座る男。フィル・セスタ子爵は聞く。
その机の対面に立つ服装は華美ではないが、高価な魔道具と魔紋の編み込まれた服を着込んだ奴隷商人マキャベリが答える。
「は。私めの子飼いの者が確認した模様。十中八九間違いないと思います」
「精霊の奇跡を使える平民の娘か。…ふふ面白い」
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