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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第6章 井の中の蛙大海を知らず
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第33話 報せ




 部屋を出たリゲルは、ゲールから預かった転移石と異界鞄(マジック・バッグ)を持つと、そのまま地上へと向かう。階段を登り切り、朽ちた駐屯所跡に出ると、徐に目を閉じ、虚空に向かって呼びかける。


「──来い」


 そう呟いて、村の出口に向かって歩き始めると、ややあってから、彼の後方で土煙が朦々と上がる。やがてそれが彼の側に近づくと、煙を上げる四足獣が現れた。


「グルルル……」


 体高は約二メートル、体長はその尾まで含めると、優に四メートルは超える。頭の大きさはリゲルの上半身ほど有り、その顎で一咬みすれば、人間など容易く噛み砕けるだろう。四肢は太く、一本で人ほどの大きさが有る。当然その膂力は凄まじく、その爪の付いた大きな手で払われれば、大木ですらなぎ倒すことが出来そうな程。大きな瞳は爛々と輝き、少し開いた大きな口からは獰猛な尖った牙が見えている。──サーベルタイガー。モンスターに分類される、凶暴なネコ科の狂獣である。


 それがリゲルの側に来て頭を下げ、服従の姿勢を見せたかと思うと、彼をその背に乗せる。


「──よし、東の餌場へ向かえ」


「グルルゥウ!」


リゲルを乗せたサーベルタイガーは一路、ゲールに言われた場所へ向かい、そのまま飛ぶような速さで駆け抜けていった。




◇  ◇  ◇




 元ダリア領、領都に置かれた総合ギルド会館に有る執務室で、今回の掃討作戦の書類を見ていたメスタ子爵は、強かに叩かれたノックに慌てて返事をする。


「何だ! どうかしたのか?」

「き、緊急魔導通信ですっ! ヘイムス殿率いる掃討部隊から、緊急魔導通信が上がりました!」


「何だと!? 場所は?」

「領都から(おおよ)そ十キロ西方、奴隷商人が盗賊連中と使っていたダミー村です!」


「な! 動かせる救援部隊は?!」

「現在、駐屯している兵で動かせるのは二個小隊。魔導車の手配は直ぐにできます!」

「良し! まずは先行して一台を分隊で向かわせろ! その後小隊を二班に再編成、魔導車四台にて待機」

「了解しました!」


「衛兵隊長を集めてくれ! 私は通信室に向かってから行く!」

「は!」


 ──一体何が起きたと言うんだ? 緊急魔導通信は余程の事が起きた場合のものだ。ヘイムス殿や衛兵本部隊長のレオン殿までが一緒になって向かった今作戦で、それほどの敵とは一体……。まさか?! 『悪夢』とはこの事を指していたのか!


 足早に通信室に向かいながら、メスタ子爵は逡巡する。ヘイムス・コーネリアはこの街に来て最初に確かに言ったのだ『悪夢を狩りに来た』と……。


「もし、今回の事がそうであるならば、早急に王国にお知らせしなければ。──オリハルコンランクが、敵わぬ相手とは一体……」





***************************




「──積もる話もありましょうが、今は先ずこれからの事を」


 オフィリアが懐かしそうにカタナを見詰めていると、ソファに座った男が口を挟んでくる。「そうですね」と彼女も応え、アリシエールと共にソファに座る。


「改めてロブ殿、今回の件、ご苦労様でした」


「いえ、勿体なきお言葉、恐悦の至。して今回は如何になされるのでしょう? エリーは既にノート殿と接触したと聞いておりますが」


「……はい。そちらの事は上手く運んだようです。ただ、エルデン・フリージアには私が思った以上に、邪神の異教徒が多数、国の中枢に入り込んでいた様子。アリシエールさん、シンデリスの方は現状どの様になっています?」


「はい。我が連邦には纏まった組織というのは現在見当たりませんが、氏族会議で聞いた所によりますと、アナディエル教時代に点在した教会は、八割方破壊されていますが、そこを(すまい)として再利用している氏族も存在していますので、なんとも言えないのが現状です。……ただ、どうしても破壊できない、又はその存在が地下に有るものに関しては手付かずの状態と聞いております」


「……やはり、そうなりますか。それでそちらの神子(みこ)様はなんと?」


「神子様は現在、氏族会の中心となり、精力的に教会の発見に奔走しておられますが、『監獄城』の発見には未だ至っておらず、暗中模索状態が続いております」



 そこまで聞いて、オフィリアは一度口を閉じて考える。シンデリスの神子様(自分と同じ様に精霊魔術を扱える者)が精霊術を使っても見つける事が出来ていない。であるならば相当な結界で隠蔽されているのだろう。場所すらわからないので有れば、大きな認識阻害がかかっているか、或いは……。





「──お前さんが聖女様の護衛騎士さん?」


 オフィリア達が入った部屋の前で、護衛として来たケルビンを、値踏みするような視線で見つめる偉丈夫。横に並んだもう一人は何も言わず、ただ壁に寄りかかっている。


「私はイリス聖教会所属、神殿騎士ケルビン・テイル。正式な任を受け聖女オフィリア様の護衛騎士を賜っている。その件になにか?」


 ケルビンはその偉丈夫の目に険を感じたのか、固い口調でつい言い返す様に話してしまう。すると相手は一瞬驚き、肩を竦めて言い直す。


「あぁ、済まないな。別に君を侮辱するつもりはないんだ。俺の名はジェイク、コイツはロレンス。中にいるお嬢と三人で冒険者をしている。だから、つい癖で為人(ひととなり)を見てしまった。不躾な視線だったこと、謝罪する」


「あ、いえ。こちらも険のある言い方をしてしまった。申し訳ない」


 ケルビンはそう言って自分の見識の浅さに、少し自己嫌悪する。考えてみれば、自分は今までそう言った人種と関わったことがない。最下級とは言え、騎士爵と言う貴族の家に生まれ、小さな頃から同じ境遇の人間としか関わってこなかった。故にそう言ったものの見方をする人間は、見下してくるか、信用できない人間ばかりだった。


「いや、俺は別に気にしない。──ところで少し聞きたいのだが、最近この本部は何か有ったのか?」


「え? 何かとは具体的にどういったことですか?」


「……ふむ。いや、これと言ってどうこうとは無いんだが、以前と雰囲気がかなり違っているのでな。枢機卿や人員が減ったせいも在るかもしれんが」


 ──雰囲気が違う? そう言われてふと考えてみるが、確かにここ最近、大司教以上の人間の出入りが激しい事は確かだ。枢機卿が行方不明ってのも聞いているし、カデクスに向かった人間が消えたという噂も聞いている……?! そうだ! 幾人もの重要人物が消えているのに、本部は何故捜索していない? オッペンハイマー枢機卿が何やら画策していたそうだが、ジェレミア大司教に同行をさせようとして、オフィリア様に阻止されていたし……。ん? 一体どう言うことなんだ?


「どうした? なにか思い当たる節でも有ったのか? 顔色がすぐれないぞ」


「え?! あ、いや。確かにここ最近大司教や枢機卿が行方不明になっているのだが……。誰も捜索のことを口にしていないなと……」


「ほう……。重要人物が消えているのに、何も変わっていないという事か?」


「あ、いや、それは──」

「そこまでにして頂けませんか、ジェイク様」


 そこまで話した途端、メアリが割って入ってくる。


「おお、メアリはなにか知っているのか」

「いいえ、そうではありません。……ですが、ケルビン様にこれ以上のご負担を強いるのは、止めて頂きたいだけです」


「俺はそんなつもりは──」

「そこまでにしろ。お嬢たちが出てくる」


 それまで我関せずといった姿勢で、壁に寄りかかっていたロレンスが、ジェイクにそう言いドアを見つめる。




「──どうかしたのですか?」


 扉を開き部屋を出てみると、部屋の前で対峙するような雰囲気で、四人が並んで立っていた。


「いえ、互いの自己紹介をしていただけでございます」


 オフィリアの質問に何もなかったと応えるメアリに、一抹の不安を覚えたケルビンが彼女を見やるが、その言葉に合わせるようにジェイクが口を開く。


「えぇ、護衛騎士の彼とは初めてだったものでね。……話は纏まりましたか?」


「……大筋は。暫くはこちらでゆっくりして下さい。私の方の準備が出来次第、動きますので」


「仰せのままに」


 そう言って慇懃に頭を下げるジェイクの表情はケルビンからは見えなかった。








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