第21話 セレスフィリアの顕現
──…やっぱ、目立つよなぁこの人…。
女将さんが運んできたエールを一気に煽る様に飲むと、それに呼応するように上半身が伸びあがる。そうなると当然胸部に備わったダイナマイツなバインバインも一緒に揺れるわけで……。
──…っと、いかんいかん。先ずは食事を終わらせないと。そう思って目の前の料理に集中しようと視線を移動した時、サラが一瞬目に留まった。
あららぁ…サラちゃん、幾らなんでも、キョドり過ぎだ。アワアワ、フラフラ、ドテドテと。歩けばテーブルにぶつかって、謝ろうと頭を下げれば、手に持った盆を取りこぼす。まぁ、確かに会いに行こうって言ってたギルマスがまさか、昨日の今日で自分の店に俺と居るんだもんなぁ。周りの連中もいきなりギルマスが現れたもんだから、ざわついてるし。
そんな喧騒の中、食堂から足早に出ていく二人が居た。先程からハカセの視線はその二人に釘付けだった。
◇ ◇ ◇
「おい!ありゃ、どう言うこった?!何でミスリルの精霊使いが来るんだよ!?」
「知るかよ。でもまぁ、落ち着け。昨日の今日だ、まだ何も決まったわけじゃねぇし、あの女だって飲みに来ただけじゃねぇか。…でも少し考えないとな。だが、見た感じじゃ、もう一人の方に用があったみたいだったし」
「そうだ! あの男ナニモンだ?」
「さぁ?初めて見る面だった。ギルドにも探りを入れなきゃいかんな」
「くそ! 何であんな寂れた宿に……」
「とにかく、娘の面は解ったんだ。今日はこれでいい。行くぞ」
そう言って二人は路地裏へ消えて行った。
《ふん。痴れ者共が》
二人が去る方向を睨みながら、ハカセは滲むように消えて行く。
◇ ◇ ◇
「え? 女将さんたちにも話すんですか?」
「あぁ、この際だ。両親にも知っておいてもらった方がいい」
「ん~、でもサラちゃんがなぁ……」
「何かが起こってからでは遅いのだ」
「なにかって?」
《人攫いが手っ取り早いな。奴隷落ちさせてしまえば闇ルートでどうとでも出来る》
「うひゃ! いきなりなんだよハカセ…て。なにその嫌な話」
「まさか! もう?」
ハカセの話に反応して、セーリスさんが声を上げる。
《あぁ。さっき出て行った二人組。…面通しと恐らく情報収集だろうな》
──エ? ナニソレ? ドユ事? さっきのふたり?
「そうか。…シルフ達が急げと言ったのはそれでか」
《ノート、恐らくだが彼女の力はもう善からぬ連中にバレて居る可能性が高い。それで顔や、この店の現状なんかを確認しに来ていたんだろう》
「──え? いやいや待って待って。何時よ? いつバレたっての?」
《何処かで彼女が術を発動させたのやも知れん。偶々それを善からぬ者が見たのかも》
「お前が報告に来た後、それとなく街に居る風の精霊に聞いたのだ。すると急げと言われてな」
──ナニその超展開!
「まじで?」
「ごちゃごちゃ言っても始まらん。それに精霊に嘘はつけん。」
マジかよ…結局、その後女将さんたちにも大事な話があると言って食堂の営業時間後、店に残って集まって貰った。
「大事な話って…一体どうしたんです?」
「…仕込みが残っているんだが」
何もわかっていない二人から当然の疑問が飛んでくる。
「ぁぅぅ…ぁぁわ、ひぅ」
そんな二人に挟まれて、緊張の極致状態のサラちゃん。
「あぁ~と、ゴメンね。ちょっと聞いて貰いたい事が有ってさ」
少しピリ着いた雰囲気を誤魔化したくて、苦笑交じりに話していると。
『よい。…我が話す』
──ファ? いきなり出たよセレス様。周りの皆も、雰囲気と口調の変わったセーリスに気づく。
───***@**
瞬間、彼女を中心に風が巻き起こり、それが広がっていくと、食堂内が結界に包まれる。
「な、なにが!?」
「おわっ?!」
「いひゃぁ!!」
当然のように驚く三人。そしてフワリと精霊たちがいつもの様にあふれ出す。
「ふわぁ」
喜色満面のサラと現状理解のできない両親たち。
『用心のために結界を張っただけだ。気にすることではない』
「「け、結界?」」
「沢山ですぅ!可愛いですぅ!」
『ふむ。やはり、視えるか』
サラの様子を見ながら呟くセレス様と意味が分からず、彼女を訝しげに見る両親。
「サラ? どうしたんだい?」
「サラ何か居るのか?」
両親に突然質問され、状況を思い出したサラはビクッと固まる。
「え? あ、あのそれは、うぅ」
──当の昔に彼女は皆に話す事を辞めたのだ。精霊の事は自分以外見えないし、誰にも信じてもらえない。それは今、この瞬間も。
──…現に二人には今、見えていないのだから……。
『今、この場には結界を維持させるために精霊を呼んでおる。サラにはその精霊たちが視えておるのだ』
三人の会話に割って入ったセレス様は、そう言って両親の前に立つ。
「「え?」」
─…ファ───!!
《おをっ! セレス・フィリア様!》
セーリスの身体から立ち上る人影。
背に三対の透明な羽を持ち、輝く金の髪を靡かせて、開いた眼も金眼。透けるような衣に蔓の絡んだ装飾類と、伸びた長い耳。
──絶世の美少女。精霊の王セレス・フィリアの顕現だった。
……この人がセレス・フィリア様…。
「正統派エルフ! 純エルフ! 真っ当な合法ロリ! オッパイがない! ぺったんこエルフ! だがそれが良い! それこそが真理! そう! 平面! 平面エルフ! イエア!!」
”バチィン!!”
「痛い!」
…なぜか、頬を叩かれた。あれ? セレス様何真っ赤な顔になってんだ?
《おまえ、しゃべってるの気づいてないんか?》
──…は? ハカセは一体何を言って…へ?
言われてそうっと周りを見ると。
「引くわ~」女将さん!?
「言ってはいかんだろ。あんな小さな女の子に、胸の事は」大将?
「…えっちですぅ」サラ!!
「おまえ、根性座ってるんか? それともただのバカか?」
皆の声とドン引きされた表情を見て理解が追い付く。まじか? 俺、声に出してたのか? うはぁ、超ヤベェじゃん! 俺死ななきゃいけないかも…て、あれ?
「セーリスさん?」
涙目でプルプルしとるセレス様の横で、椅子に腰掛けるセーリスさんが居た。
「なんだ?」
「え? もしかしてこの方って、本体?」
「…顕現なされた」
ファ────!?
すかさず俺はその場で飛び上がり、ジャンピング・ザッツ・ド・ゲ・ザ! を決める。
「ご、ごめんなさいですぅぅ!」
そこから約三十分程、俺は皆をガン無視で謝り続けたのだった。
◇ ◇ ◇
現在、俺は食堂内の堅い板張りの床に正座のまま、話が始まった。
『ンンッ、我は精霊を纏め、永き時を経た精霊の祖にして王を名乗る者、セレス・フィリアと申す』
皆、首を垂れるが、何故か雰囲気的に締まらない。なぜか、ほんわかした雰囲気。
『はぁ~~。もういい。こんなんじゃ威厳も何もない。そこのバカのせいでぜ~んぶ、ぶっ壊しだ。』
《セレス様…お労しや…ノート! 死ね! 今死んで詫びろ!》
「ハカセ~、そんな事言っちゃだめだよ。皆居るんだから」
《ムキャ──! くぁwせdrftgyふじこlp;@:!》
「「あ、あの」」
「ん? あぁ。すまんな、放っておいて悪い。ちゃんと話すから」
そこから、なぜセレス様が顕現したかの理由とサラのこれからの事についてざっと話をする。主にセーリスが…。
「ふぅ。まぁ、そうゆう理由で先ずはサラに加護を、そして貴方達両親には現状を正確に理解してほしかったと言う訳だ」
二人はそれを聞いて、黙ってサラを見つめる。
「あぅ。…あの、その、ごめ──」
彼女がその言葉を言いきる前に、母にぎゅうっと抱きしめられる。
「何を謝ろうとしてんだい?私たちが自分の娘を信じてない訳ないじゃないか!」
横で親父さんもうんうんと強く頷いていた。
「え? でも言ってもいつも笑ってた…だけで…」
「そりゃそうさ。だって私達には見えないんだもの。答えようがない。でもサラには見えていたんでしょ? だから、見守っていただけさ」
「うん、気を付けたくても見えねぇからなぁ」
「ぁあ。おとうさ……おかあさ…ん!」
「そっか。あんたは何も言わないアタシたちが信じなくて見放したと思っちゃったんだね。ゴメンね。私たちの方が謝らないといけなかったね」
「ぅぐ…えぐ……ぅわあぁぁああ!」
そっか…彼女の空回りだったんだ…良かった…よかっ……。
《おい、鼻水拭け…》
「ずびぃ! だって、いい話しじゃん。グズッ。俺ぁ、見た目20でも中身はオッサンなんだ涙腺は緩いんだよぅ!」
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